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【映画】プライス/戦慄の報酬 [映画評]

ロードオブザリンクでホビットのフロド役を演じたいイライジャウッド主演のサスペンスです。


プライス 戦慄の報酬 [DVD]

プライス 戦慄の報酬 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ハーク
  • 発売日: 2020/06/24
  • メディア: DVD



2019年作です。
イライジャウッドが初めてフロド・バギンズを演じたのが2001年20歳のときで、本作は18年後なので38歳です。
いいおじさんになりました。
それはそうと、ストーリーです。
主人公はさえない音楽家です。首筋に「音命」というタトゥーが入っています。
主人公が父から手紙が来て会いに行くのですが、主人公は5歳のときに父と別れて、それっきりです。
戸惑いながらも息子を受け入れる父。しかし、口からでるのは悪態ばかり。
イライラがつのり、ついに父が息子を殺そうとナイフを振り上げたときに、父は心臓発作で死亡します。
検視を受けますが、なぜか「死体安置所に問題がある」という理由で防腐処理を施した上で死体は父の家に残されます(なぜ!)。
父の死体と過ごす息子(なぜ!)ですが、奇妙な音などの怪奇現象が続きます。
その音の正体は、実は地下室に閉じ込められていた本当の父でした。
死んだのは父の過去の仕事仲間で、父の仕事は「誘拐」でした。
奪った身代金を独り占めしたため、父は監禁されていたのでした。
身代金を独り占めしたのは、息子の生活費のためです。
息子は父を助けるために、父の過去の仲間を殺さざるをえなくなります。
腹を複数回刺されながら目的を達成した息子(強靭!)は、父の家に帰り、父に話しかけながら映画は終わります。

うーん、とってもB級感がただよいます。
「死体を家に残す」という警察が理解できませんし、自宅に帰らずに「死体と一緒に過ごす」という行動もかなりナゾです。
ですが、これは次の怪奇現象につなげるために、やむを得ないのでしょう。
死体の役目はそれで終わります。
テーマとしては父との和解になると思いますが、エピソードがテーマに向かって収束するわけでもありません。
ミッドポイントとしては、いままで受け身だった主人公が、自分の意思で男を追いかけ始める部分です。
ですが、これも成長というより住所を知られてしまったので、やむを得ない行動にすぎません。
少し不気味なのと、サスペンスの融合といった感じの映画です。

イライジャ・ウッドのファンのために!
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【書評】葉真中顕『そして、海の泡になる』 [書評]

バブル絶頂期に魔女と称された尾上縫をモデルにしたミステリ小説です。


そして、海の泡になる

そして、海の泡になる

  • 作者: 葉真中 顕
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2020/11/06
  • メディア: 単行本



モデルとなった尾上縫は料亭の女将でありながら、「北浜の天才相場師」との異名を取り、数千億の資金を動かしました。
バブルの崩壊とともに破綻しましたが、最終的に金融機関からの延べ借入額は2兆7千億、破産時の負債総額は4300億円と、個人としては史上最高額となりました。
バブル時代の異常さを象徴する事件だと思います。
本作は小説なのであくまで架空なのですが、大まかには尾上縫の人生を、刑務所で一緒だった女性が関係者に取材をしながら辿るという形で進んでいきます。
書簡体の一種で、有吉佐和子『悪女について』と同じような形式です。
主人公はうみうし様という謎の神様を信じており、神様に祈ることで相場で成功し、また不都合な人物も祈ることでなぜか不慮の死を遂げます。
そして、最後に、全ての真相が明らかにされます。 
形式は異なりますが、構造としては松本清張『告訴せず』に近いと感じました。
『告訴せず』は小豆相場にのめり込み財産を築く話ですが、この小豆相場の話がトコトン面白く、グイグイ読んでしまうために途中の伏線にまったく気が付きません。そして最後になって、いきなりのドンデン返しがあり、著者が巧妙に埋め込んできた伏線に気が付かされます。
本書は純粋なバブル物語としても面白く、かつミステリとしての遊び心も含まれています。
使われている叙述トリックは、こんな手法もあるのかと驚きました。
とても楽しめる小説だと思います。

バブル時代に吹いていた風を感じたいひとのために!
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