SSブログ

【書評】村上春樹『騎士団長殺し』 [書評]

村上春樹14作目の長編です。


騎士団長殺し(第1部~第2部)合本版(新潮文庫)

騎士団長殺し(第1部~第2部)合本版(新潮文庫)

  • 作者: 村上春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/12/18
  • メディア: Kindle版



ストーリーはある肖像画家の話です。
高名な画家が高齢のため施設に移ったため、主人公の同級生である息子の紹介でその家に住むことになります。
すると、屋根裏部屋で厳重に梱包された『騎士団長殺し』の絵が発見されます。
ここから様々な要素があれこれ出てきます。
夜中に鳴る謎の鈴、その鈴が安置されていた謎の石棺、絵の姿を借りて現れるイデアの騎士団長、謎多き近隣の住人、さらにその住人の娘かもしれない少女。
ざっくりいえば、少女が行方不明になり、その少女を救うために騎士団長を殺してメタファーの国を放浪したら石棺に飛び出てきて、そして少女は家に帰ります。
主人公は離婚予定だった妻とよりを戻します。
大きなくくりでいえば、行って帰る式の物語と言えると思います。
村上春樹の特徴である読みやすい文章と、ウィットに富んだ会話は健在です。ですが、絵の謎は自分的にはそれほど惹かれませんし、少女の行動も突飛すぎるような気がします。メタファーの国への旅立ちも唐突で、文学的には様々な意味付けがなされますが、純文学から縁の遠い人間には平坦に感じてしまうかもです。

村上春樹ファンのために!
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

【書評】村上春樹『1Q84』 [書評]

「毎日出版文化賞 文学・芸術部門」受賞作です。


1Q84(BOOK1~3)合本版(新潮文庫)

1Q84(BOOK1~3)合本版(新潮文庫)

  • 作者: 村上春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/12/18
  • メディア: Kindle版



ストーリーとしては、女性インストラクターであり、殺し屋でもある青豆が、首都高速から非常用階段で地上に降りるという些細なきっかけにより、1984年から1Q84年という異世界に入り込みます。
その世界で、彼女は、親しくするマダムから幼女を犯し続ける宗教団体のリーダーを殺害するよう依頼されます。
天悟は小説家志望のライターですが、新人賞の下読みでであった『空気さなぎ』に衝撃を受け、編集者からの依頼でリライトを担当します。
物語としては主にこの2人の視点が交互に入れ替わる形で進みます。
構造としては非常に単純で、「行って帰る」と「離れていた二人が再会する」の組み合わせです。
ですが、村上春樹の特徴である平易な文章と、適度な描写、さらにはときおり挟まれる文学的なウンチクで読者をぐいぐい読ませる力があります。
ファンタジー的な描写も、修辞的な技巧で避けるのではなく、きっちりと書ききるところがすごいです。
自分は村上春樹を「文章を読ませる作家」と思っていましたが、ストーリーを作る能力においても、一級品であることを示した作品でもあると思います。

じっくりと長編を読みたい人のために!
nice!(1)  コメント(2) 
共通テーマ:

【書評】織田正吉『ジョークとトリック』 [書評]

織田正吉(1931-2020)は演芸作家・放送作家のかたわら、ジョーク・ユーモア研究としても知られています。


ジョークとトリック (講談社現代新書)

ジョークとトリック (講談社現代新書)

  • 作者: 織田 正吉
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1983/09/19
  • メディア: 新書



本書はジョークの分類と分析をした本ですが、それより紹介しているジョークや豆知識が面白い。
「へちま」は元々「冬瓜(とうがん)」と呼ばれていたが、いろはうたで「と」が「へ」と「ち」の間にあるから「へちま」とか、「オギノ式」はもともと「受胎法」だったとか、エジプトのトトメスⅠ世がユーフラテス川上流に到達したとき、川が南に向かって流れているのをみて驚いたとか(当時のエジプト人はナイル川しか知らないので、川は北向きと思い込んでいた)そういった話がテンコ盛りです。
固定観念に捉われずに、自由な発想を持つことの重要性を教えてくれます。

ジョークの仕組みを知りたいひとのために!
nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

【書評】有馬哲夫『大本営参謀は戦後何と戦ったのか』 [書評]

知られざる戦後の陸軍将軍たちと米軍との協力関係についてです。


大本営参謀は戦後何と戦ったのか (新潮新書)

大本営参謀は戦後何と戦ったのか (新潮新書)

  • 作者: 有馬 哲夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/12/17
  • メディア: 単行本



本書のソースは推測ではなく、公開されたCIAファイルです。公的情報から彼らの戦後の戦いを浮き彫りにします。
第2章でててくるのは、インパール作戦を認可したことで悪名高い河辺虎四郎です。GHQは日本再軍備と台湾義勇軍派遣(根本中将が有名です)に向けて、彼を協力者とします。しかし、担当者だったウィロビーが米国帰国とともに力を失います。第3章で取り上げられる有末精三も同様の運命をたどります。
非常に面白いのは、第6章の辻政信です。
国内では無謀な精神論やノモンハン事件の大敗で悪名高いですが、太平洋戦争初頭のマレー半島作戦、バターン作戦では高評価を得ています。
辻政信は暫く身を隠していましたが、表に出てからは著書が大ヒットし、さらには政界にも打ってでトップ当選を果たすな独自路線を突き進みます。
アメリカとの協力関係により情報提供をしながらも、一匹狼だったためにアメリカの言いなりにもならず、最後は東南アジアで謎の失踪を遂げます。
CIAファイルにその後の辻政信の行方を示唆する手紙が残されており(真偽不明)、それによると中国雲南省で中国共産党に拘束されていたようです。
中国は辻政信を利用しようと考えていたようですが、開放交渉も進まず、その後の情報もないことからとん挫したようです。
知られざる戦後史の一面を読むことができました。

陸軍将軍たちのその後を知りたいひとのために!

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

【書評】有馬哲夫『日本人はなぜ自虐的になったのか』 [書評]

GHQによるWGIPについての本です。


日本人はなぜ自虐的になったのか:占領とWGIP (新潮新書)

日本人はなぜ自虐的になったのか:占領とWGIP (新潮新書)

  • 作者: 有馬 哲夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/07/17
  • メディア: 新書



WGIPとは「ウォー ギルト インフォメーション プログラム」の略です。
つまり、戦争による罪悪感を日本人に植え付けるプロパガンダです。
この手のプロパガンダは、特に頭の回路が柔らかい年少者に効きます。
一度、そのような思考回路ができてしまうと、修正するのは困難です。そのWGIPにより罪の意識を植えこませるプログラムと、その効果として現在の日本における奇妙な言論空間を論じていきます。
代表的なのは原爆投下でしょうか。
どう考えても民間人を対象とした大量虐殺であり、戦争犯罪であることは明白なのですが、なぜか日本のメディアは原爆投下を正当化する方向性……日本が悪かった論で報道します。
いわゆる慰安婦問題もそのひとつです。

戦後史を洗い流したいひとのために!
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

【書評】有馬哲夫『歴史とプロパガンダ』 [書評]

以前からの著者の主張がまとまっています。


歴史とプロパガンダ

歴史とプロパガンダ

  • 作者: 有馬 哲夫
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2015/07/22
  • メディア: 単行本



本書は『新潮45』『正論』『Voice』に寄稿した論文をまとめたものです。
第1章『偽りのリメンバー・パールハーバー』では、アメリカは日本が開戦に踏み切ることを知っていたが、真珠湾攻撃は予想外だったことを証明します。
第2章『スキャンダラスなヤルタ会談』では、ヤルタ会談でルーズベルトが他国の領土を勝手にソ連に与えるなど承認し、その挙句に議会で批准されずに反故になったことを示します。
第3章『原爆投下は必要なかった』では、戦争終結のために仕方がなかった論を否定し、国体保持の条件さえ提示すれば日本は降伏していたこと、さらにはそのことをアメリカも認識していたことを示します。
第5章『国家誕生と同時に始まった中国の侵略』では、朝鮮戦争に介入するとの同時並行で様々な国に侵略していた中国の実像を暴きます。
また、第4章では戦後GHQによるプロパガンダを、第6章では米中、日中の国交正常化交渉と曖昧にされた尖閣諸島について論じます。
他の書籍と被る内容も多いですが、とても読みやすくて分かりやすいと思います。

戦後の歴史を深く知りたいひとのために!
nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

【書評】相川司『新選組隊士録』 [書評]

新選組の隊士を全員取り上げる労作です。


新選組隊士録

新選組隊士録

  • 作者: 相川 司
  • 出版社/メーカー: 新紀元社
  • 発売日: 2011/12/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



収録されているのは520名です。
当時は変名を使ったり、改名したり、記録する側も同じ読みなら別の漢字を当てはめたりで読み解くのが大変です。
それらを分析し、同一人物と思われる隊士はその旨を記載するなどして、まさに新選組研究の全てをつぎ込んだという感じもします。
本書には、新選組を離れたあとの人生も盛り込まれています。ひとりひとりの人生が鮮やかに蘇ります。
その中でも異色なのが、佐久間銀次郎です。函館戦争の直前に入隊しているので新選組末期に当たります。
銀次郎は肥後・唐津藩出身で、第2次長州征伐、函館戦争に敗れた後、さらに肥後の乱にも参加して敗れています。
その後はフランスに渡り、なぜか第2代唐津町長になり、唐津鉄道設立に尽力して、昭和8年に没しました。
まさに波乱万丈です。

明治の志士たちの人生を振り返りたいひとのために!
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

【書評】相川司・菊地明『新選組実録』 [書評]

民間新選組研究家の集大成的な本です。


新選組実録 (ちくま新書)

新選組実録 (ちくま新書)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2022/04/05
  • メディア: 新書



著者は2名とも新選組関係の書籍を多数発表しています。
前半の京都時代を菊地氏が、後半の江戸時代を相川氏が担当しています。
共著だと言葉使いや見解がずれたりしますが、本書は著者がよく話しあったらしく、まったく違和感がありません。
いままで著者が研究してきた内容も適度に盛り込んでおり、かといって深追いすることもありません。
京都時代のように流れに乗っているときは強かったですが、江戸以降の落ち目になると、不協和音がでくるのは人間のサガとしてやむを得ないのかなと感じてしまいます。
そもそも新選組は同士の集まりでしたが、隊員の増減を繰り返していくうちに、近藤土方のように上下関係を重視するのか、それとも同士の絆を大切にするのかで、徐々に分解していく様子が寂しく思ったりします。
それにしても、これだけ資料が残っているのは、当時から新選組が注目を浴びていた証拠だと思います。
新選組の歴史を知るには、ほどよい分量だと思います。

新選組について知りたいひとのために!
nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

【書評】宝島社編集部『日米開戦1941 最後の裏面史』 [書評]

近代史の専門とする4者のインタビューが中心です。


日米開戦1941 最後の裏面史

日米開戦1941 最後の裏面史

  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2021/11/08
  • メディア: 単行本



日米開戦について、様々な観点から専門家が発言しています。
メインは情報戦で、第1章が日米開戦のインテリジェンス、第2章が日米戦のプロパダンダです。
真珠湾については様々な説がありますが「アメリカは日本の参戦を事前に把握していたが、真珠湾に攻撃をしかけてくるとは思わなかった」というのが真相に近いようです。
第3章が日米開戦を止めることができたのか、です。
もし止めることができたとしたら米側が参戦を内々で決定する前かなと思います。
牧野氏は難しい問題と断りながら「独ソ戦がターニングポイント」と語ります。ドイツが負けると予測できていたら踏みとどまったかもしれませんが、独ソ戦についてはヒトラーの戦術ミスもあり(スターリンのミスの方がひどいですが)、あの時点で正確に予測するのは困難だったと思います。
第5章が対米外交戦に負けた日本です。八幡氏は欧米を味方にするために価値観を合わせることが重要と説きます。
専門家によって同じ事象でも見方が異なるのが面白いです。

日米開戦にまつわる情報戦について考えたいひとのために!
nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

【書評】岩根圀和『物語 スペインの歴史~海洋帝国の黄金時代~』 [書評]

セバスチャン大活躍です。


物語 スペインの歴史―海洋帝国の黄金時代 (中公新書)

物語 スペインの歴史―海洋帝国の黄金時代 (中公新書)

  • 作者: 岩根 圀和
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2002/04/01
  • メディア: 新書



本書はイスラムがスペインを占領したころから始まります。
700年を超えるイスラムによる統治ですが、宗教的には寛容で、宗派が異なる人々たちがいさかいもなく生活していたようです。
1500年ころからはキリスト教の世界です。
1571年に有名なレパントの海戦が起きますが、このあたりはドン・キホーテの作者であるセバスチャンの視点で歴史が語られます。
海戦に参加したと思えば、捕虜として捕まり奴隷となり、しかも再就職用に王の手紙を持っていたことから高位な人物と勘違いされてしまうという、まさに本人そのものがエンターテイメントな人生を送ります。このあたりの描写が一番面白いです。
そして、スペイン無敵艦隊の敗北で、スペインは一気に落日へと向かいます。
最後に現代スペインが取り上げられています。執筆時はETAによるテロが頻発していたころで、ひしひしとテロに対する怒りが伝わってきます。

スペインの歴史を楽しく読みたいひとのために!
nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ: