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【書評】倉知淳『とむらい自動車』 [書評]

著者の代表作である「猫丸先輩シリーズ」の5作目です。


とむらい自動車 (猫丸先輩の空論) (創元推理文庫)

とむらい自動車 (猫丸先輩の空論) (創元推理文庫)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/07/20
  • メディア: 文庫



収録されているのは6作。
いずれも猫丸先輩は話を聞いて推理するだけなので、安楽椅子探偵ものです。
『水とそとの何か』……ベランダにだけかが水を入れたペットボトルをおいてきます。だれもが思う普通の結論なのですが、その前に猫丸先輩が鮮やかなこじつけを披露します。
『とむらい自動車』……事故現場に次々とタクシーが呼び出されます。猫丸先輩の余計なひとことで、現場は余計に混乱します。さりげない伏線が光ります。
『子ねこを救え』……子猫が虐待されていると勘違いした少女の奮闘記。さすがに思い込みすぎだと感じましたが、そこがまたほっこり。
『な、なつのこ』……スイカ割り大会用に用意したスイカが次々と割られる被害が発生します。丸いので勘違いしたという話ですが、さすがに強引かなと。
『魚か肉か食い物』……大食いチャレンジャーの少女が、豪快な肉を前にして突如として敵前逃亡してしまいます。いや、さすがに挑戦前に気が付くだろうと思いつつ、この逃亡のしかたはちょっと。
『夜の猫丸』……真夜中のオフィスに電話が鳴り響きます。そのコールが徐々に近づいてきます。猫丸先輩がいつもの「冗談」で空論をぶちますが、それがまた恐怖を誘います。

自分の感想だと『夜の猫丸』がピカ1です。
猫丸先輩シリーズを楽しみたいひとのために!
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【書評】倉知淳『月下美人を待つ庭で~猫丸先輩の妄言~』 [書評]

猫丸先輩シリーズの第5作です。


月下美人を待つ庭で (猫丸先輩の妄言)

月下美人を待つ庭で (猫丸先輩の妄言)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/12/21
  • メディア: 単行本



神出鬼没の三十路アルバイター猫丸先輩シリーズです。
収録されているのは5作ですが、いずれも日常の謎系です。

『ねこちゃんパズル』……パスワードのようなアルファベットが書かれた紙がだれも気が付かないような場所に貼ってあり、しかもその紙を謎の外国人が回収します。その謎が気になって仕方がない主人公に、猫丸先輩が不思議なパズルの話をふっかけます。さすがに無理があるかな、というのが第一感。
『恐怖の一枚』……心霊現象を扱う編集部に、へんてつのない写真が送られてきます。その写真を見た猫丸先輩が、撮影されたシチュエーションを解き明かし、隠された恐怖をあぶりだします。
まあ、普通はこんな写真を出版社に送ることはないとは思いますが。
『ついているきみへ』……変人で有名な同級生が、「For luck man」のメッセージカードともとにペットボトルの蓋をプレゼントしてきます。
いかにも重要そうな小道具を出しながら、実は無意味でいたずらというのは、ややアンフェアなような気も。
『海の勇者へ』……台風が接近する荒海にむかうひとすじの足跡が残されている。この足跡の正体は、という話ですが、バカミスに近いかも。
『月下美人を待つ庭で』……変哲もない庭に、次から次へと不審者がやってきます。この不審者の正体は、という話だが、もうちょっと設定をうまく作れるような気が。

この猫丸先輩のキャラが面白くて、とても読みやすい短編ミステリだと思います。
猫丸シリーズファンのために!
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【書評】倉知淳『過ぎ行く風はみどり色』 [書評]

猫丸先輩シリーズの初長編です。


過ぎ行く風はみどり色【新版】 (創元推理文庫)

過ぎ行く風はみどり色【新版】 (創元推理文庫)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/03/20
  • メディア: 文庫



ストーリーはというと、金持ちで勇退した不動産会社の元経営者が離れで撲殺されます。
その犯人が分からないまま交霊会が行われ、今度は交霊会の最中に怪しげな霊媒師が殺害されます。
家族と霊媒師を否定する科学者たちがいるなかでの事件です。
そこから科学者が事件の真相を暴いている途中で、さらに科学者が毒殺されます。
さて、著書はあとがきで「これが最期の本になるかもしれないと思って、アイデアを全てつぎ込んだ」とあるように、アイデアのてんこ盛りです。
密室殺人、心霊現象、叙述トリック、手品に推理合戦と、サービス精神満点です。
かといって複雑なトリックがあるわけではなく、サブストーリーがこんがらがっているわけでもなく、物語は直線的で読みやすいです。
そうした直線的なストーリーラインに散りばめられた伏線が、ラストで一気につながり、解決する。
この開放感が本書の魅力です。
複雑なトリックを使わずに、プロットと構成でミステリを成立させる。
登場人物のさわやかさと言い、なかなかの傑作だと思います。

猫丸先輩シリーズファンのために!
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【書評】倉知淳『夜届く~猫丸先輩の推測~』 [書評]

神出鬼没のアルバイター、猫丸先輩シリーズの1冊です。


夜届く (猫丸先輩の推測) (創元推理文庫)

夜届く (猫丸先輩の推測) (創元推理文庫)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/01/22
  • メディア: 文庫



収録されているのは6編で、いずれも日常の謎を取り扱っています。
『夜届く』は真夜中に謎の電報が届く謎を猫丸先輩が解き明かします。アガサクリスティ的な感じ(超個人的な分類ですが)。
『桜の森の七分咲きの下』は花見の場所取りを命令された新入社員に、次から次へとその場所を狙うなぞの人物が現れます。これは”場所”の目的の転換です。
『失踪当時の肉球は』は、妙にハードボイルドな時代遅れの探偵が、家出した猫の捜索を依頼されますが、依頼主が突如として”見つかった”として取り下げます。これはオチを活かすためにキャラを工夫した作品です。
『わたしと真夏のスパイ』は商店街の夏祭りで妙ないたずらが頻発します。ライバル店の嫌がらせかと思わせといて、最後に微妙な奇妙なさを収斂させる技術が見事です。
『カラスの動物園』は動物園で置き引きが発生しますが、盗まれた金が見つかりません。そして捕まった犯人は開き直ります。見えているのに心理的に見えない扉がキーです。
『クリスマスの猫丸』は次から次へと一方向へ走っていくサンタの謎です。これも心理的に見えているのに見えていないがキーで、これにコスチュームの特性を生かしています。
基本的にパズルを楽しむ作品なので、細かいところをつっこんではいけません。

猫丸先輩シリーズを楽しみたいひとのために!
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【書評】大平武洋『ネット将棋攻略! 早指しの極意』 [書評]

早指し対策に絞った珍しい戦術書です。


ネット将棋攻略!早指しの極意 (マイナビ将棋BOOKS)

ネット将棋攻略!早指しの極意 (マイナビ将棋BOOKS)

  • 作者: 大平 武洋
  • 出版社/メーカー: マイナビ
  • 発売日: 2015/04/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



早指しの場合、いかに読む手を絞るかが重要です。
その手を絞るコツが、本書には書かれています。
自分が有効だと思ったのはこのあたり。
 ・安い駒から考える。
 ・終盤は少し早く多めに受ける。
 ・一番怖い手を受ける。
 ・桂馬の利き筋の歩を捨てる。
 ・銀冠は7一か8一を狙う。
 ・駒がぶつかったら取る手を考える。
例題には読みが必要な問題もありますが、何から考えるのか指針があれば、非常に有効だと思います。

早指しに強くなりたいひとのために!
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【書評】倉知淳『幻獣遁走曲~猫丸先輩のアルバイト探偵ノート~』 [書評]

神出鬼没のアルバイター、猫丸先輩シリーズの一冊です。


幻獣遁走曲【新版】 (創元推理文庫)

幻獣遁走曲【新版】 (創元推理文庫)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/05/31
  • メディア: 文庫



収録されているのは5編です。
『猫の日の事件』
 ……猫コンテストで宝石が盗まれます。叙述トリックの一種です。
『寝ていてください』
 ……新薬の臨床治験のアルバイトをしますが、そこで怪しげな動きをする看護婦を見て被験者はヤバイのではないかと動揺します。これも叙述トリックの一種かな。
『幻獣遁走曲』
 ……幻の珍獣を探す”軍曹”がアルバイト軍団を引き連れて大騒ぎをしますが、珍獣がいることの証拠である大切な手紙な何者かによって燃やされてします。
『たたかえ、よりきり仮面』
 ……「よりきり仮面」というB級ヒーローがスーパーでヒーローショーを繰り広げます。
そこで、ヒーロースーツの中にいたずらでガムが入れられてしまいます。そのガムを入れた理由と言うのが、ほっこりします。
『トレジャーハント・トラップ・トリック』
 ……まつたけ狩りに来たツアー客が大漁に大盛り上がりとなりますが、目を離したすきにマツタケが無くなっています。マツタケをとった犯人とその理由が……

というのが各話の概略です。
倉知淳の短編は、動機の作り方が独特でうまいです。特別なトリックが使われているわけではありませんが、動機が奇想天外であるため、結果として意外な結末に導かれます。
特に『たたかえ、よりきり仮面』は絶品だと思います。

猫丸先輩シリーズのファンのために!
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【書評】倉知淳『こめぐら』 [書評]

『なぎなた』と同時出版された倉知淳短編集です。


こめぐら 倉知淳ミステリ・ワールド (創元推理文庫)

こめぐら 倉知淳ミステリ・ワールド (創元推理文庫)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/02/09
  • メディア: Kindle版



収録されている作品は6つ。
『Aカップの男たち』はブラジャーを愛好する紳士たちの話で、鍵付き鋼鉄製のブラジャー鍵が紛失し、ブラが取れなくなります。そのカギの行方を探します。
『「真犯人を探せ」(仮題)』はラジオミステリのシナリオを審査する話。あまりに反則技の回答編に、プロデューサーは呆れかえります。
『さむらい探偵血風禄 風雲立志編』はテレビドラマの時代劇で、犯人が忽然と消え去ります。この犯人はどこに隠れているのかというと……。
『偏在』は著者には珍しいSF。
『どうぶつの森殺人事件』はアリバイ崩しと思わせておいて、というミステリ。
『毒と饗宴の殺人』は猫丸先輩シリーズで、誰が飲むのか分からないグラスに毒が盛られます。
このなかであまりにインパクトがあったのが、『さむらい探偵血風禄 風雲立志編』です。
自分がいままで読んできたバカミスのうち、3本の指に入るのではないかと思います。
とんでもなくバカバカしいですが、この発想がでてくることがすごいです。

倉知淳とバカミスファンのために!
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【書評】倉知淳『なぎなた』 [書評]

『こめぐら』と同時出版された倉知淳の短編集です。


なぎなた (倉知淳作品集)

なぎなた (倉知淳作品集)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/09/29
  • メディア: 単行本



いままで収録されなかった短編をまとめて採録されているため、内容はバラエティに富んでいます。
『運命の銀輪』は本格的な倒叙式ミステリ。
『見られていたもの』は叙述トリック。
『ナイフの三』『猫と死の街』は姉妹作みたいな感じ。
『闇に笑う』は日常系。
『幻の銃弾』は翻訳風で、トリックも古典的です。
いかにも倉知淳だなと思ったのは、『眠り猫、眠れ』です。音信不通だった実父の死体が、神社で自らしめ縄を巻いた状態で発見されます。
その奇妙な理由が最後に明かされますが、そこにオカルトを突っ込めるのが倉知淳の特徴だと勝手に思っています。ほんのりくる人情話でもあります。

倉知淳のいろいろな話を読みたいひとのために!
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【書評】井上靖『孔子』 [書評]

井上靖最後の長編で、野間文芸賞受賞作です。


孔子(新潮文庫)

孔子(新潮文庫)

  • 作者: 井上 靖
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/02/07
  • メディア: Kindle版



小説の主人公は架空の弟子、エンキョウです。
孔子の死後三十年ほどたち、孔子の言葉を残し、まとめようとする会議が開かれます。その会議に孔子の直弟子の生き残りであるエンキョウが招かれ、ときに孔子の生涯を語り、ときに孔子に関する質問を受け付けます。
あくまで小説でなので架空ではありますが、孔子の言葉の解釈を求められ、エンキョウの口を借りて、著者の考えが前面に出てきます。
孔子は諸国遊説を続け、楚の昭王と会談する機会を待ち続けますが、為されぬまま昭王が死去します。
夢破れた孔子は「帰えらんか、帰えらんか」との言葉を発して、故郷に戻り、後進の育成に励むことになります。
物語の最後で、旅を通じて、エンキョウは孔子が昭王に訴えたかったことを悟ります。
小説の主題は「天命」だと感じました。
天命には逆らえない。もし天命が納得いかないのなら、天命とケンカして、討ち死にするしかない。
エンキョウの悟りが井上靖の到達点かもしれないと感じました。

井上文学の集大成を堪能したいひとのために!
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【書評】倉知淳『星降り山荘の殺人』 [書評]

本格ミステリーの王道です。


新装版 星降り山荘の殺人 (講談社文庫)

新装版 星降り山荘の殺人 (講談社文庫)

  • 作者: 倉知淳
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/07/14
  • メディア: Kindle版



舞台は雪に閉ざされたコテージです。
そこの宣伝のために呼ばれた文化人たちが豪雪で閉じ込められるのですが、そこで第1、第2の殺人が行われます。
昔の本格推理小説は現場の図がよく挿入されていましたが、本作でも管理棟の部屋割り、コテージの配置、殺人現場の様子など、ポイントポイントで図が挿入されます。
本格推理のルールにのっとり、解答編の前にヒントは全て提示されています。
この手の本格推理は、パズル的な要素が強くなり、物語性が喪失されていることがあります。
本作はそうした本格とは一線を画し、パズル的要素もありながら、キャラクター造形もしっかりしており、ストーリー性を失っていません。
読みやすくてとてもよい推理小説だと思います。
最後の回答編ですが、自分が犯人ならこまごまと余計な細工はせずに現場を離れるという気もしますし、ミステリーサークルの種明かしは時間も手間もかかるのでちょっと無理があると思いますが、それは本格推理ということで。

楽しい本格を読みたいひとのために!
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