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【SS】齊藤想『影武者』 [自作ショートショート]

第29回小説でもどうぞに応募した作品その1です。
テーマは「癖」です。
これは3のリズムを意識した作品です。
具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は4/5発行です。



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典付き!

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『影武者』 齊藤 想

 「総統の影武者になれ」と秘密国家警察局長から命じられたのは、演説会のわずか3日前だった。
 選ばれた理由というのが、立ち姿と顔が総統に似ていること、声帯模写の達人であること、そしてなにより私が身寄りのない売れない芸人であり、急にいなくなってもだれも怪しまないことだという。
 怪しげな笑みを浮かべる局長に、私は親しみよりも恐怖を感じた。
「まさか、私が総統の身代わり、ということはありませんよね」
 私は、総統に暗殺予告がでているのではないかと疑った。その私の問いに、局長は沈黙で返した。無言で演説原稿と映像フィルムを手渡してくる。
「いまから三日間で総統になりきってくれたまえ。声帯模写だけでなく、身振りや手振りも全てだ。総統は全身全霊を使って演説をされるのだからな」
 私は人里離れた山荘に連れていかれて、そのまま監禁された。この任務は極秘らしく、仕上がり具合をチェックするのは局長のみ。
 三日間の猛練習の結果、私は声や仕草だけでなく、小指と親指で口ひげを挟むという総統の細かいクセまでコピーすることに成功した。局長は「そこまで真似せんでもよい」と苦笑しつつも、満足の様子だった。
 私は演説会の演壇に立ち、だれにも気が付かれないまま演説を終え、聴衆全員からの拍手喝さいを浴びた。
 最高の一日だった。周りから注目を浴びることが、これほどまでに気持ちがいいとは思わなかった。
 局長から命じられた次の任務は、外国首脳を招いての晩餐会だった。
「君なら大丈夫。だが、例のクセだけは注意するように。君のような庶民には分からないかもしれないが、口ひげに触れることは、貴人たちに対しては失礼に当たるのだ」
 私は局長の忠告に従い、口ひげに触れることなく総統の役割を完全に演じた。
 ひと月も経つと、私にも事情が呑み込めてきた。最初は総統の安全確保上の措置かと思っていたのだが、どうやら総統は重病で表に出られないらしい。
 総統不在による国内の混乱を恐れて、局長は影武者を立てることにしたようだ。おかげで、毎日は何事もなく過ぎていき、国内は平和そのものだった。
 影武者生活が慣れるとともに、私は一日の大半を総統として過ごすようになった。私は本物の総統になった気分で、局長を総統室に呼び出した。
 局長は憮然とした表情をしながらも、周囲に衛兵がいるのをみて、表面上は総統に対する礼を取った。
「何かお呼びでしょうか」
「君が秘密国家警察局長に任じられてから3年だったかな。君の忠節は我が国民の鏡であり、いつも感謝しておる」
「有りがたき幸せ」
 局長は、不思議そうな顔をしながら、頭を下げる。
「そこでだ。いままでの感謝を込めて、君に休暇を与えよう。それも永い休暇だ」
 私は口ひげを親指と小指で挟んだ。総統の例のクセだ。それを見た局長は真っ青になった。衛兵がさっと局長の両脇を固める。
「国内を騒擾させる良からぬ噂を消すのが君の仕事なのに、総統が二人いるという噂を自ら流すとは残念だ」
「そ、それは……」
「いいから連れていけ!」
 局長の言い訳を私は無視した。しばらくして、窓の外からのどかな銃声が響く。
 私は気が付いていた。様々な映像と資料を突き合せた結果、総統の例のクセが秘密の暗殺命令であることを。このクセを初めて局長に見せたときの反応、さらには晩餐会での局長からの注意で、推測は確信に変わった。
 私は局長が残した書類の全てを焼却することを命じた。もう本物の総統の生死はどちらでもよい。いまは私が総統であり、それを疑う者はだれもいない。
 私は地図を広げると、勲章を数えきれないほどぶら下げた将軍たちを呼び寄せた。少し前まで遥か高みにいた将軍たちが、いまではこの私に頭を下げている。
 この高揚感。だれにも止められない興奮。全てが手のうちにある万能感。私の命令ひとつで、数百万の人間が一斉に動き出す。
 私は地図の一点を指さして、シンプルな命令を下した。将軍たちが慌ただしく部屋を出る。官僚たちが命令文を起案する。次々を上がってくる書類に、私は目を通すこともなく機械的にサインをする。
 私は幸福な気分だった。
 戦争の行く末など、知ったことではない。

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最近の金融・投資【令和6年3月第1週】 [金融・投資]

〔先週の株式市場〕
先週はー++++でトータルも大幅増となった。
ありがたいことです。
日経平均も4万前後の攻防だし、そろそろ一服かなとは思っているのですが。
6月まで様子見ターンです。安い株なら買うかもしれませんが。


〔タマホームの株主優待が届いた話〕
タマホームの株主優待はクオカードだけど、毎回デザインが違う。
今回はタマホームのCМに出演している千賀投手です。
いまやバリバリのメジャーリーガーなので、もしかしたらプレミアがつくかもとかちょっと思ったり。
まあ、そのうちさらりと使ってしまうとは思いますが。
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