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【掌編】齊藤想『しゃぼんの本』 [自作ショートショート]

2022年超ショートショートに応募した作品です。
テーマは選択制ですが、「本」を選びました。
本作はブレインストーミングの技法を活用して作成しています。
具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は5/5発行です。



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!

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『しゃぼんの本』 齊藤 想

 言葉が浮かんでは、すぐに消える。まるで会話のようだ、と少女は思った。
 きっかけは近所の雑貨屋で購入した石鹸だ。その石鹸の包み紙には「しゃぼんの本」とプリントされていた。雑貨屋の主人に勧められ、お小遣いでも買える値段だったので、少女は買うことにしたのだ。
 少女がさっそく風呂場で泡立ててみると、不思議なことに、次から次へと泡に言葉が浮かび上がった。その言葉を並べるとある日は詩となり、ある日は学術書となり、ある日には恋愛小説にもなった。その石鹸で体を洗うと、全身に言葉が貼りつき、まるで耳なし芳一のようになる。
 少女は泡の本を心から楽しんでいた。せっかく生まれた言葉たち。少女は何度も泡の言葉を書き留めようとしたのだが、不思議なことに泡を流すと綺麗さっぱりに忘れてしまう。まるで、このうえなく心地よい夢のように。
 泡だから消えるのは仕方がないのかもしれない。
 少女はそう思いながら、今日も「しゃぼんの本」で泡を立てる。新しい言葉たちと出会い、至福の時間を過ごすために。

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