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【書評】葉真中顕『そして、海の泡になる』 [書評]

バブル絶頂期に魔女と称された尾上縫をモデルにしたミステリ小説です。


そして、海の泡になる

そして、海の泡になる

  • 作者: 葉真中 顕
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2020/11/06
  • メディア: 単行本



モデルとなった尾上縫は料亭の女将でありながら、「北浜の天才相場師」との異名を取り、数千億の資金を動かしました。
バブルの崩壊とともに破綻しましたが、最終的に金融機関からの延べ借入額は2兆7千億、破産時の負債総額は4300億円と、個人としては史上最高額となりました。
バブル時代の異常さを象徴する事件だと思います。
本作は小説なのであくまで架空なのですが、大まかには尾上縫の人生を、刑務所で一緒だった女性が関係者に取材をしながら辿るという形で進んでいきます。
書簡体の一種で、有吉佐和子『悪女について』と同じような形式です。
主人公はうみうし様という謎の神様を信じており、神様に祈ることで相場で成功し、また不都合な人物も祈ることでなぜか不慮の死を遂げます。
そして、最後に、全ての真相が明らかにされます。 
形式は異なりますが、構造としては松本清張『告訴せず』に近いと感じました。
『告訴せず』は小豆相場にのめり込み財産を築く話ですが、この小豆相場の話がトコトン面白く、グイグイ読んでしまうために途中の伏線にまったく気が付きません。そして最後になって、いきなりのドンデン返しがあり、著者が巧妙に埋め込んできた伏線に気が付かされます。
本書は純粋なバブル物語としても面白く、かつミステリとしての遊び心も含まれています。
使われている叙述トリックは、こんな手法もあるのかと驚きました。
とても楽しめる小説だと思います。

バブル時代に吹いていた風を感じたいひとのために!
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