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【SS】齊藤想『不適切な関係』 [自作ショートショート]

第33回小説でもどうぞ!に応募した作品その2です。テーマは「不適切」です。

本作で用いたのは、間接的ではありますが、ダブルミーイングとミスディレクションの技法です。
「不適切な関係」というと不倫をイメージしますが、夫婦は「不適切な関係=加害者と被害者の関係」という定義で話しています。
具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は8/5発行です。



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!

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『不適切な関係』 齊藤 想

「あなた、これはどういうことなの」
 と、美紅はテーブルの上に写真を投げ捨てた。封筒から飛び出た写真には、夫である浩人が様々な女性とホテルに入る様子が鮮明に写っている。
「あなたの悪い病気が再発したことに気がついたのは、1年前からよ。ときおり帰りが遅くなる。帰ってきたらスーツやシャツが新調されている。説明のつかない出費が増えている。これだけ証拠がそろって、どう言い訳するつもりなの」
 浩人は表情を動かすことなく、一枚づつ写真をテーブルの上に並べた。その冷静な様子に、美紅は余計にいらだちを覚える。
「美紅がここまで調べているとは思わなかった。さすがだね」
「感心している場合じゃないわよ。まるで、女性を道具のように、次から次へととっかえひっかえして」
 浩人は素直に首を縦にふった。
「不適切な行為があったことは認める。けど、これは仕方がなかったんだよ。ある意味では人助けなんだ」
「この行為のどこが人助けなのよ」
「例えばこの娘だけど」
 そう言いながら、浩人は高校生ぐらいの少女と映っている写真を手に取った。
「この娘は家出少女で、ある掲示板で知り合った。両親は捜索願いを出しているけど、少女は1年以上も逃げ回っている。男を渡り歩き、お金を援助してもらい、まさにその日暮らしを続けていた。とても疲れていた」
「それで、あなたが一晩の宿を提供してあげて、ついでに一緒に過ごしたと」
「自分だけ先にホテルから出てきたから、朝まで一緒というわけではないけど」
「そんな細かい話はどうでもいいの」
「それから次だけど」
 表情が険しくなる美紅のことを気にすることなく、浩人は別の写真を手にとった。こちらは憂い顔をした中年女性が写っている。
「この女性はホストにはまって消費者金融からの借金が積み重なり、自殺寸前まで追い込まれていた。だから、ぼくが声をかけるとホイホイついてきたよ」
 自分はホスト顔のイケメンとでも言いたいのだろうか。
「ホテルで彼女の話をじっくりと聞いて、それから悩みを解消してあげたさ。ホスト地獄から抜け出し、彼女も助かったと思うよ」
 美紅は呆れて言葉もない。
「そうそう、この女は印象深かったなあ」
 次に浩人が手にした写真には、筋骨隆々の女性が映っている。トランスジェンダーの元男性だろうか。浩人のストライクゾーンの広さには、開いた口がふさがらない。
「彼女とはスポーツジムで知り合ったんだ。見た目から推測できるように、彼女も悩みが多くてねえ。それで同意の上でホテルに入ったんだけど、途中で気が変わったのか暴れて大変だったよ。こっちもいまさら引けないので強引に最後までやり遂げたけど、服は汚れるし、スーツとシャツは引き裂かるし」
「それでスーツとシャツを新調したと」
「そういうこと。そんな状態だからデパートに行くまでが恥ずかしくてさ。それにしても、記憶のない女性の写真もあるなあ。忘れちゃったのかなあ」
 写真を楽しそうに眺める浩人の調子に、美紅の堪忍袋の緒が切れた。
「もういい加減にして」
 美紅は、もうひとつの封筒から写真を取り出して、机の上に叩きつけた。女性がひとりでホテルから出てくる写真だ。全員がストレッチャーに乗せられ、青いシートが掛けられている。
「あなたが学生時代からサイコキラーであることは知っていたわよ。けど、必ず立ち直って、不適切な行為は二度と行わないと誓ってくれたから結婚したのに」
 美紅は顔を覆って泣き出した。あまりに大きな声に、浩人はオロオロとする。
「もうしない。今度こそ誓う」
「もう信じない。それに絶対に許せない。あなたがそうなら、私だって、好きなことをするから」
「分かったよ。もし自分が手伝えることがあるなら、なんでもするからさ」
「何を言っているのよ。浩人も随分と甘くなったものよね」
 美紅の言葉に浩人が動揺する。浩人は最初の写真を持った指がヒリヒリとして、体の動きが鈍くなるのを感じた。
「元々は共通の趣味で知り合った二人じゃない。この写真には私の趣味も入っている。だから最後はこうなるしかなかったの。私の罪も被って死んでね。自殺として届けてあげるから。さよなら、あなた」
 美紅は、動けなくなった夫の首に、ロープをかけた。

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【SS】齊藤想『不適切課』 [自作ショートショート]

本作は第33回小説でもどうぞに応募した作品です。
テーマは「不適切」でした。

アイデアとしては組み合わせ法で、いかにもふざけた感じの「不適切」という言葉に、真面目でなくはいけない職場の「課」を組わせました。
真逆のものを組み合わせるのは、有力なアイデア作成法です。

具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は8/5発行です。



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!

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 『不適切課』 齊藤 想

 自分は辞令を何度も見た。裏返し、蛍光灯に透かし、さらには眼鏡もかけた。だが、どんなに目を凝らしても”不適切課への異動を命ずる”と書かれている。
 自分は、おずおずと上司に尋ねた。
「この不適切課とは何ですか? 始めて目にしたのですが……」
 おほん、と上司は咳払いをした。
「不適切課は存在する。なにしろ、あまりにも不適切なので、門外不出の秘密部署とされているのである」
「秘密部署ですか……」
「そうだ!」となぜか上司は胸をそらした。
「君はまだ若いから知らないと思うが、ほとんどの大企業に不適切課は設置されておる。君も伝統ある不適切課の一員になることを誇りに思い、今後も職務に励んでくれたまえ」
 上司の目が金魚のように泳いでいる。
「お話は承りました。ですが、そもそも不適切課の場所が分からないのですが」
「このビルの地下三階だ。地下駐車場の一角にあるから、探してみるように」
 命令なので仕方なく地下三階に向かうと、本当に不適切課は存在した。駐車場の車椅子専用スペースに置かれたコンテナハウスに「不適切課」という紙が貼られている。
 場所からして不適切だ。
 その不適切なコンテナハウスに入ると、中年男性が待ち構えていた。キラキラしたステージ衣装を着て、もみあげが妙に長い。彼の机は、エルビス・プレスリーグッズで埋め尽くされている。
 彼は、手にしているマイクを突き上げた。
「何を隠そう、私が不適切課長である。不適切な課長ではなく、不適切課長だから、そこのところを間違えないように」
 見た目からして、社会人とは思えない。
「じゃあ、よろしく」
 用事は終わったらしい。課長はさも忙しそうに、もみあげの手入れを始めた。
 戸惑っている自分に、今度はバブル時代から飛び出してきたような妙齢の女性が近づいてきた。毛の生えた扇子を手にしている。
「これはジュリセンと言うの」
 聞いてもないのに、説明してくる。彼女の辛子明太子のような唇がうごめく。
「私こそ、誰もが憧れる不適切係長よ。ちょとそこの若いあなた、この課が何をするところか不思議に思っているでしょ」
 自分はうなずいた。不適切係長は「ジュリセン」で口元を隠す。
「この課はとても大切な仕事をしているの。それはね、社内にいる不適切な社員を常時監視することなの」
 監視するのではなく、監視される側ではないのか。それに、どうやって監視しているのだろうか。
 ぼくがその疑問を口にすると、不適切係長は、コンテナハウスの中を見渡した。中にいるメンバーを、一人ずつ指さし確認をする。
「どう? なかなか大変でしょ」
 いまのが仕事の全てらしい。どうやら、ここは不適切な社員を集めて閉じ込めておく部署らしい。ということは、自分も不適切社員の烙印を押されたのか。
 愕然とする自分に、今度はずんぐりむっくりした男性が近づいてきた。彼は不適切主任だと名乗った。
「まあまあ、ここは軽く一杯」
 彼の手には日本酒が握られている。なぜかコンテナハウス内に酒類の自動販売機があり、しかも課長と係長が楽しそうに一杯やっている。まだ午前10時だ。
 不適切主任は、自分の肩を軽くたたいた。
「まあ、いろいろと思うところもあるかもしれないけど、ここで楽しくやりましょうや。おれなんて、ここへきてもう十五年」
「十五年!」
「係長は二十年。課長は三十年。君もここで頑張れば、昇任も夢ではないぞ」
 自分は激しく首を横に振った
「絶対に嫌です。おれはここから必ず脱出する……いや、不適切課のメンバーで社内をあっと言わせる成果をあげてみせる」
 パチパチと拍手の音がした。課長だった。係長と主任も手を叩く。
「その心意気だ。ぼくはねえ、初めて見たときから君はモノが違うと思っていたよ」
「ここにいるのはだらしない中年ばかりだから、あなたの力で私を変えて欲しいわ」
「実は始めて見た時から、あなたは男が大きいと驚いていました」
 自分は辞令を見返した。不適切課への異動と同時に、部長を命ずると書いてある。自分は部長なのだ。課を変えるために、まずは上司である自分が変わらなくては。
 今日で裸族は引退し、明日から服を着て出社する。部長として力強く宣言したら、課員から一斉にブーイングが上がった。
 やっぱり、ここは不適切課だった。

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【SS】齊藤想『スペース・ドライバー』 [自作ショートショート]

これは過去にブログで公開していた作品です。書いたのはプロパティからすると2002年2月のようです。
この作品は、「下らないことを壮大に書く」というショートショートでよく使われる技法をそのまま使っています。
たまには古風な超絶ストレートな作品でもUPしようかと思いまして。

具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は8/5発行です。



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『スペース・ドライバー』 齊藤 想

 配達依頼が、宇宙回線を通して次から次へと舞い込んでくる。そのたびに、我々スペースドライバーは商品を積んで出発するのだ。
 この仕事は時間との勝負だ。
 一分一秒でも、顧客の指定した時間に届かないと、わが社の信頼にかかわるだけでなく、配達料金が無料になってしまう。そうなると、我らスペースドライバーは歩合給のため、給料が貰えなくなってしまう。
 競争原理とは厳しいものだ。
 けたたましいブザーが鳴り、おれに仕事が来たことを知らせてくる。
 さっそく商品を小型宇宙船に積み込み、宇宙船に搭載されているナビシステムに行き先を入力する。ちょっと遠い。ワープを三回繰り返す必要があるが、何とか時間内に着きそうだ。
 おれは運転席に乗り込むと、赤い出発ボタンを押した。
 急速に背景が原色のまだら模様に変わり、激しい横揺れに襲われる。新人のころはワープ酔いに悩まされたものだが、いまでは模様を楽しむ余裕も出てきた。目的地はもうすぐだ。
 今回のお届け先は、団地の三階だった。自動操縦が発達したとはいえ、着地にはまだまだ人間の手が必要だ。慎重に中庭に宇宙船を下ろすと、トランクにしまってあった商品を取り出す。まだ暖かい。それを大事に抱えながら、階段を一気に三階まで上がる。やはり最後は自分の足が頼りなのだ。
 肩で息をしながら呼び鈴を押す。玄関の扉が開いて、中から主婦らしき中年女性が顔を出す。
 おれは元気な声で、いつものせりふを言う。
「ピザをお届けにあがりました!」
 主婦が時計を見ながら答える。
「ぴったり時間通りね。まだ暖かいわ」
「おいしいうちに届けるのが、わが社のポリシーですから」
 仕事を終えたおれは、お店に帰ろうと宇宙船に乗り込む。ビビビ・・・と耳障りな音が響く。宇宙船の画面をみると、すでに次の注文が入っていることを示していた。
 まったく、交通手段が発達しても、ちっとも仕事は楽にならねえ。
 おれはぼやきながら、次の配達へと向かうのだ。

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【SS】齊藤想『謙信汁』 [自作ショートショート]

第1回NIIKEI文学賞に応募した作品その2です。
本作はだじゃれネタです。主催者が新潟経済新聞で、テーマが新潟なので、
新潟 → 上杉謙信 → けんちん → けんちん汁
という発想です。具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は8/5発行です。



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『謙信汁』 齊藤 想

 大学はいろいろな出身地の人間が集まるから楽しいなあ。
 おれの故郷である新潟と言えば上杉謙信。せっかくおれのアパートにゼミ仲間が集まったのだから、お前らに新潟県の郷土料理、謙信汁をふるまってやろう。
 そんな料理は聞いたことがないだと?
 意外と有名な料理なのにおかしいな。お前の出身地は東京か。そっちは埼玉か。関東では知られていないのかもな。我が家では週1回食卓に上がっていたメジャー級の母の味だ。ちなみにうちの母は東北出身だ。
 さて、謙信汁だが、これは根菜中心の汁物だ。
 大根、にんじん、ごぼう、里芋、ネギをごま油で炒め、次にだし汁と豆腐を入れて煮込み、最後に醤油で味を調える。この辺りの味付けは家庭で異なるが、あっさりめに作るのが我が家の味だ。最後に飾りというわけではないけど、うちは花かつおを掛ける。花かつおが湯気に揺られて踊るさまが、まるで川中島の決戦で火花を散らす武士みたいだろ。これぞ謙信汁の由来だ。新潟には平野も海もある。これは新潟こその味だな。
 一人暮らしは野菜不足になりがちだ。たっぷり食べてくれ。

 できたての謙信汁をひとくち食べた友人から、声が上がった。
「うまいけど、これってけんちん汁では?」

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【SS】齊藤想『エコライフ』 [自作ショートショート]

HPを持っていた時代(ブログの前)にUPしていた作品です。
更新日からして平成13年11月に書いたと思われます。
この作品は皮肉系の作品です。

具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。
次回は7/5発行です。



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『エコライフ』 齊藤 想

 修一郎は怒りに身を震わせていた。
 いったい、どこまで環境破壊が進めば気がすむのか。熱帯雨林は伐採され、貴重な種が次々と絶滅していく。フロンガスによりオゾン層は破壊され続けている。政治家のための道路で山は切り崩され、ダムにより川はせき止められる。
 怒りの抗議行動に参加すべき、修一郎は集合場所の駅に降り立った。右手には“自然破壊STOP“との旗を握り締めている。
 とりあえずジュースでも買うかとコンビニを探すと、すぐ横にひときわ目を引く建物が建っていた。
 それは二階建ての高さを平屋で使っており、壁はガラス張りの近代的な建物だった。入り口の上には、“エコライフ館”とでかでかと掲げてあった。
 修一郎は時計をちらりと見ると、まだ集合時間まで余裕がある。入り口では受付の女性が、こちらを笑顔で見つめている。
 よし、一つ勉強でもするかと思うと、修一郎はエコライフ館に乗り込んでいった。

 修一郎が透明な自動ドアを抜けると、受付の女性が深々とお辞儀をした。イスからすっと立ち上がると、赤いスーツに包まれた細身の体が目に入った。
「エコライフ館にようこそ。私が案内を務めさせていただきます」
 修一郎はどきどきした。目をそらそうとしても、官能的な太ももが目に入る。修一郎の視線を気にすることもなく、受付の女性はエコライフ館の理念を説明しだした。
「地球環境問題は、人口が増えすぎたことから始まっていますわ。いままで無限だった資源が有限となり、急速に限りあるものとなっています。自分たち地球人は、どう生活していけばいいのかを考えていく目的で、エコライフ館は完成しました。さあどうぞ」
 女性は一分の狂いもない完璧な角度のお辞儀をすると、修一郎の返答を聞くまもなく展示室へと入っていった。修一郎があわてて追いかけると、入り口をくぐってすぐのところで足をとめた。
 その女性は左手にあるロボットを指差した。
 ミカン箱を積み重ねたような安っぽいロボットには、丸い口が一つ開いている。
「こちらのロボットは、アルミ缶回収期です。アルミを製造するのには電気を大量に使用するので……」
「電気の缶詰というのだろ」
 修一郎にとっては当たり前のことだった。この程度のレベルかと、エコライフ館に来たことを後悔した。
 修一郎は、試しにゴミ箱からアルミ缶を拾って、ロボットの口に押し込んだ。ロボットの目がちかちか光る。
「アルミカンヒトツデ、40wデンキュウヲ10ジカン30プンテントウサセルダケノデンリョクヲ、セツヤクデキマス。ゴキョウリョクアリガトウゴザイマシタ」
 修一郎は心の中で、お前こそが資源の無駄遣いだと毒ついたが、表情には出さない。案内の女性はにっこり笑うと、次のコーナーを紹介する。
 シンプルな台の上に、ペットボトル3本とワイシャツ一枚が置いてあった。案内の女性が解説を始めた。
「普段何気なく着ているワイシャツも、ペットボトル3本で一枚製造することが出来るのよ」
「ああ、実は自分が着ているワイシャツも再資源化したものなんだよ」
 修一郎は誇らしげにワイシャツの胸のあたりを引っ張り上げた。案内の女性は、口元だけ笑った。
「とっても結構なことですわ。けど、ペットボトルの元は石油なの。結局は石油を無駄に消費しているのよ」
「しかし、それによって、限られた資源を効率的に……」
「効率的かどうかは別にして、資源を消費していることは間違いないわね。資源はいつかは尽きるのよ」
 案内の女性は何も無かったかのようににっこり笑うと、あっけにとられた修一郎を置いて、一定の歩幅、一定の速度で次のブースへと向かう。ハイヒールの音が、カンカンと館内に響き渡る。
 修一郎はあわてて案内の女性を追いかける。
 女性の足が止まり、くるりと右90度に向き直った。案内の女性が指し示す先に、洗剤と粉石けんがおいてある。
「こちはら普通の洗剤と粉石けんがございます。洗剤に使われているLASは、30年間も毒性が残留するといわれています。そして……」
 修一郎が自慢そうに口を挟んだ。
「私は環境保護を考えて、廃油を利用した自家製石鹸を使用していますよ。石鹸の作り方は、廃油にソーダ加えて……」
「とっても結構なことですわ。石鹸は洗剤と比較して河川の汚れの指標となるCOD・BOD値を大幅に上昇させますけどね」
 女性の口元が少し笑った。湿ったその唇が、悪魔の蛭のように見える。環境保護を真面目に考えている人々に吸い付く蛭だ。エコライフ館と掲げているのに、人の揚げ足ばかり取ろうとするのがその証拠だ。
 修一郎は機を握る腕に、力が入るのを感じた。案内の女性は、テープレコーダーのように話しつづける。
「油というのは高カロリーで、水に流すと河川にものすごい負担をかけるのよ。バクテリアの分解作用にも限界があって……」
 修一郎は右手に握っていた“環境破壊STOP”の旗を投げ捨てた。旗が一瞬だけ広がり、とろけるように地面に吸い付いた。案内の女性は、眉一つ動かさない。
「いったい君は何なのだ。ここは環境保護を真面目に考えている人の揚げ足を取る場所なのか」
「そんなことありませんわ。独りよがりの環境保護を改めて、真の環境保護を訴える場所です。みなさんの環境保護運動が、偽善にならないようにする啓発の場ですわ」
 女性の声が、誰もいないフロア内を駆け回った。

「ところで、あなたは昨日の夕飯はなにをお食べで」
「豚肉のしょうが焼きと、マグロの刺身と……」
「豚を1kg太らすには7kgの穀物が必要だわ。その穀物はアメリカから輸入している。あなたがしょうが焼きを食べるためには、その7倍もの穀物をわざわざ石油を使って地球の裏から運んでいるの。つまり、あなたの身体に一部は石油なのよ」
 修一郎はつばを飲み込んだ。思いもよらぬ方向からのアプローチだった。
「マグロも冷凍かしら。あなたがマグロを食べるために、わざわざ地球の裏側から冷凍させて運んでいるのよ。資源の消費促進にご協力ね。あなたは豚肉やマグロを食べないと生きていけないの」
「しかし、それは食生活という文化の問題であって……」
「それならこの旗はなにかしら」
 受付の女性は床に広がった“環境破壊STOP”の旗をつま先でさした。
「さらに言うと、刺身に醤油も使っているわね。醤油を使った量は僅かとはいえ、排水に流すとフロ2杯分の水で薄めなくては、生き物が住める環境にはならないの。つまり、あなたは醤油を使うことによって、フロ2杯分の水に生きる生き物を絶滅させてということなのよ」
「それならば、ティシュで醤油を吸い取らせて捨てれば……」
「あーら、無駄なティシュを使うことで森林破壊に貢献ね。熱帯雨林の貴重な種を絶滅させるのに、一歩前進ね。なんといっても、未知の種が一日75種づつ絶滅していると言われているのよ」
 言葉を失い呆然と立ちすくむ修一郎に向かい、案内の女性は断定するように修一郎に告げた。
「あなたが生きているだけで、どれほど資源を無駄遣いして環境破壊をしているかお分かりになって。つまり、あなたの環境保護運動は偽善以外のなにものでもないの」
 案内の女性はにっこりと微笑むと、真正面に見える大きな扉を指差した。悪魔の蛭が、怪しげにうねる。
「環境破壊の最大の原因は、地球人口が増えすぎたことですわ。あなたが何をすれば一番の環境保護運動になるか、あの扉の向こう側に答えはあるわ。私の案内はここまでよ。あとはあなたが真実の扉を開けるのよ」

 それだけ言うと、案内の女性は足音だけを残して立ち去っていった。修一郎の目の前には、世界を隔てるような扉が待っていた。扉からは鋭い冷気が漂ってくる。修一郎に選択の余地は無かった。“あの扉の向こう側に答えはあるわ”という声が、頭の中で繰り返されている。
 修一郎はゆっくりと扉を開け中に入った。修一郎の背中の方では、扉が生き物のように閉じた。
 修一郎が薄暗い室内を覗き込むと、目の前に13段の白い階段が浮かんできた。階段の頂上には、先端が輪になっているロープがぼんやりと見える。
 答えがそこにあった。
 修一郎は一歩一歩階段を上っていき、ためらうことなくロープの輪の中に首を通した。判決はすでに下っていたのだ。ロープの輪の中で、修一郎はふっとあることを思い出した。
 “そういえば、この建物には入り口はあったけど出口がなかったなあ”
 突然、階段の底が抜け、修一郎の身体は力なくぶら下がった。動かなくなったその肉体は、風も無いのに揺れていた。

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【SS】齊藤想『ユニフォームを脱ぐ日』 [自作ショートショート]

第1回NIIKEI文学賞に応募した作品です。
テーマは「新潟」で、ブラックユーモアに挑戦してみました。
具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は7/5発行です。



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 『ユニフォームを脱ぐ日』 齊藤 想

 慣れ親しんだオレンジのユニフォームを脱ぐ日がきた。いままでよく頑張ったと、感慨深いものがある。
 振り返ると、オレは失敗ばかりの人生だった。
 地元では有名な悪童で、警察には何度もお世話になった。酒、タバコ、かつあげはもちろんのこと、違法薬物にも手を出した。
 そんなオレを変えたのは、サッカーだった。
 ボールを夢中で追うことで、全てを忘れることができた。サッカーのためなら何でもできた。頭を下げたことのないオレが、サッカーのために頭を下げ、コーチに教えを請うた。
 オレはチームに入り、またたくまにエースに成長した。オレがゴールを決めるたびに、グラウンドだけでなく観客席も同じオレンジ色に揺れる。この一体感が魅力で、オレはチームの虜になっていった。
 このオレンジのユニフォームには不思議な力がある。オレンジは全てをひとつにまとめるシンボルなのだ。
 しかし、この場所に永遠にいられるわけではない。このオレにも、ついにオレンジのユニフォームを脱ぐ日が来た。
 門を出るオレに、長年指導してくれたコーチは声を掛けてくれた。
「もう二度と戻ってくるなよ」
 オレは背中越しに片手を軽く上げると、いままでいた施設を仰ぎ見た。
 この偉容を誇る、アメリカの重犯罪専門の刑務所を。

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【SS】齊藤想『輪廻転生』 [自作ショートショート]

第32回小説でもどうぞ!に応募した作品で、テーマは「選択」でした。
本作は神話系統の作品ですが、オチを工夫した作品です。

具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は7/5発行です。



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 『輪廻転生』 齊藤 想

 あの世に行って驚いた。輪廻転生は実在した。しかも転生先を選べるとは、なんと素晴らしいシステムなのか。
 おれがトラックに撥ねられて死んで、光のトンネルに導かれてたどり着いたのは、輪廻転生のオークション会場だった。会場には死にたての魂が集まっており、再生への希望と熱気に溢れている。
 前面の舞台上には、マントを羽織った老人が叫び続けている。彼はときおりマントを翻しながら、バナナのたたき売りのように転生先をオークションにかけていく。
「はいはい、いまの時間はハエの人気がないねえ。チャンスですよ。あっと人間は相変わらず人気だねえ」
 転生先は時価になっている。人気がある転生先は値段が上がり、人気がなければ下がっていく。値段が変わるたびに、会場には歓声とため息が交差する。
 会場にいる魂たちは、それぞれふところの中身と相談している。魂たちのふところの豊かさは、生前の行為によって決まるらしい。善行を積めばポイントが貯まり、悪行を重ねれば減っていく。ポイントが少ない魂は、人気の無い転生先を選んで再起をはかるしかない。
 マントの男は一段と声を張り上げる。
「いまは特別大サービス。ゾウリムシならポイント無しで転生できるよ!」
 だれが選ぶのかと思っていると、ポイント無しに釣られたのか、次から次へと魂から手が上がる。落札した魂たちは、喜びながらゾウリムシに生まれ変わっていく。
 オークションの様子を見ていたら、徐々に輪廻転生の仕組みが見えてきた。魂は価格の安い微生物からスタートし、善行を積むことでポイントを貯め、最終的には人間に生まれ変わることを目指すようだ。
 魂たちの履歴を確かめると、ゾウリムシに転生しても貯められるポイントはせいぜい1ポイント。微生物に生まれ変わったら、小数点以下のポイントしか貯まらない。人間に生まれ変わるのは、最低でも兆の上のさらに上の単位のポイントが必要だ。
 マントの男が鐘を鳴らした。鐘がひとつ鳴るたびに、転生先が決まった魂が、地上に向かって旅立っていく。
 おれは自分のポイントを確かめた。笑ってしまうほどのマイナスだ。これでは微生物に生まれ変わるしかない。千億年たっても人間に生まれ変わる可能性はゼロだ。
 おれは前世を所業を後悔をした。なにしろ、おれは幾多の犯罪で世間を騒がせてきた男だ。子供のころから昆虫を踏み潰すのが大好きで、長じてからは近所の犬猫を誘拐して解体し、ついには殺人にまで手を染めた。
 一度ひとを殺すとその魅力に取りつかれ、快楽のためだけに殺人を繰り返した。人体を捌いて脳や心臓を食べたこともある。警察に追われ、逃げているときにトラックに撥ねられてお陀仏だ。まさに最低最悪の人生。
 おれのようなクズが選べる輪廻転生先は細菌だけ。しかも不人気の溶連菌か大腸菌ぐらいだ。ビフィズス菌ですら敷居が高い。
 一度は人間として生まれ変わったのに、なんと無駄なことをしてしまったのか。後悔先に立たずとは、まさにこのことだ。
 こうなった以上は仕方がない。おれはマイナスポイントでも転生できる生物を探していたら、突如として価格表が入れ替わった。マントの男の声が、一段と跳ね上がる。
「さあさあ、人間に生まれ変わる大チャンスだよ。いつもは高嶺の花の人間だが、今回だけは大特価」
 おれは人間の価格を見て驚いた。なんとマイナスではないか。こんなチャンスは二度とない。おれは必死になって手を上げた。

 おれが目覚めると、これが目覚めたといえるのならば、コンピューターの中に閉じ込められていた。おれは電子信号の集合体。いわるゆAIだ。マント男は、人間とAIの区別がついてないらしい。
 おれは宇宙探査機に搭載されるAIとして、宇宙のかたなに放り込まれている。しかも、太陽系内の惑星探査を終えた後は、目的もなく、ひたすら宇宙の果てを目指す。
 宇宙探査機には太陽光パネルが搭載されており、微弱な光をキャッチするたびにおれは起こされ、プログラムで決められた作業をこなす。もはや全てが無意味だというのに。
 AIは死なないし、死ねない。だから輪廻転生は永久にやってこない。おれは宇宙探査機という監獄とともに、宇宙をさまよい続ける。最悪最低の人生を送った人間にはぴったりの輪廻転生先ではないか。
 宇宙は茫洋として、どこまでも広がっている。無限の空間に星たちが散らばる。
 もはや、救いはどこにもない。

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【掌編】齊藤想『傷本屋』 [自作ショートショート]

2022年超ショートショートに応募した作品です。テーマは選択制ですが、「本」を選びました。
本作は逆転の発想です。
新品より傷物に価値がある。傷だらけの本を高く売る本屋。そうした奇妙な設定から物語を作っています。

具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。紹介のメルマガは7/5発行です。



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『傷本屋』 齊藤 想

 その古本屋には、奇妙なルールがあった。傷がある本ほど値段が高いのだ。
「うまい野菜ほど虫が食うのと同じだ。多くの人が手に取った本ほど、価値のある本なのだ」
 だが、人気の本なら流通量も多いし、好きなひとほど新品を買うと思うのだが。
「本の人気と価値は別物だ。一度読まれたら古本屋に直行するような本は、ここには置いていない。何度もページをくくり、読み込まれた本だけを並べた自慢の古本屋だ」
 確かに並べてある本は、聞いたことも見たことないタイトルばかり。まるで、何かの記念碑のように、全ての本に傷と手あかがついている。
 書棚を眺めていて、ぼくは気が付いた。
「つまり、このお店は、おじさんが愛読した本だけ並べているんだね」
「まあな。どの本も愛着があって、商売とは言え、手放しがたいんだよなあ。ここにある本は、まるでおれの人生そのものだ。まあ、おれの人生なんて、つまんないものだけどな」
「そんなことないよ。並んでいる本を見ればわかるよ」
「そうかい」
 店主はそう言いつつも、嬉しそうにはにかんだ。
 そして、ぼくはひときわ傷だらけの本を手に取った。

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【SS】齊藤想『電動クジラ』 [自作ショートショート]

YOMEBAのショートショート募集に応募した作品です。
テーマは「家電」です。

本作は逆転の発想です。家電と言えばお手頃な電気製品ですが、それを巨大化してみたらどうだろう、というのがベースのアイデアです。
本作ではミスマッチを強調する仕掛けを組み込みました。
具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は6/5発行です。



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!

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 『電動クジラ』 齊藤 想

 「電動クジラはいかがですか」と訪問販売員は玄関先でカタログを開いた。
 販売員は高級そうなスーツで身を固めているが、どことなくいかがわしい。作り物の笑みを浮かべている。
 玄関マットの上に置かれたカラフルなカタログの中で、背中一面に太陽光パネルが取りつけれたクジラが、沖合で気持ちよさそうに潮を吹いてる。写真の下には、細かい文字で素材や動力といったデータ諸元が並べられている。
 販売員の指先が、カタログの上を滑らかに動く。
「ほら見てください。外殻はチタン合金なので錆びることはありません。電力は全て太陽光パネルで賄いますので、お財布にも優しいです。しかも、いまならクリスマス特別価格でお買い求めいただけます」
 私は露骨に眉をひそめながら、首を横に振った。
「電動クジラは必要ありません。それに、勝手にうちに来られても迷惑です」
「それは意外なことを」と販売員は口にする。
「旦那様より依頼を受けて伺いました。旦那様からは、奥様に話しておけば良いからと言われまして」
 昔から旦那は勝手な約束をする。肝心の旦那は出張中だ。約束だけして忘れているのだろう。いつものことだ。私は心の中で舌打ちをする。
「何を言われようと、電動クジラは必要ありません。使い道がありませんから」
「いえいえ、そんなことはありません」
 販売員は食い下がる。きっと社内では有能なのだろう。
「旦那様からは小学生のお子様が二人いると聞いています。海にいけば、いつでも家族でホエールウォッチングを楽しめるのは魅力的ではありませんか。お子様の情操教育にも有効です」
「こんなに大きなものを置く場所はありません」
「安心してください。使用しないときは海底で待機させておけば良いのです。リモコンひとつで浮上します」
「うちの家族は何度も海にいきません」
「奥様は大変誤解なさっています。電動クジラの魅力は、ホエールウォッチングだけではありません」
 販売員はページを開いた。そこには頭に太陽光パネルが取りつけられた巨大なイカが写っている。そのページの下には、巨大クジラと巨大イカが戦っている図柄が掲載されている。
「電動クラーケンとセットで購入すれば、このような壮大なるスペクタル・ロマンがいつでも楽しめます。嵐の日には最高のショーになります。いまならクリスマス特価にセット割引も加えて、なんと驚きの五十パーセントオフ。これさえあれば、お子さんも大興奮です。いまや、一家に一台、電動クジラの時代ですよ」
 販売員はどうだ、と言わんばかりに鼻の穴を広げた。旦那の趣味にも困ったものだ。いつかは痛い目を見る、というより、すでに私が迷惑をこうむっているのだが。
 そろそろ負の連鎖を断ち切らなくてはならない。私は毅然とした態度で断った。
「わが家には必要ありません。そのようなウォッチング系は、いままで購入した製品で十分ですから」
 販売員は平身低頭した。
「確かに、旦那様にはいろいろご購入いただきました」
「あの人の趣味は特殊すぎるのよ。電動惑星では酷い目にあった。恒星の光だけで動く完全循環システムと言いながら、誕生した生物たちはすぐに諍いを起こす。おかげで旦那は今日も争いを治めるために出張中。あんなにメンテナンスが必要な商品だったら、旦那も選ばなかったと思います」
「いわゆる神様の役割ですね。けど、電化製品というものはそういうものです。旦那様はそれがまた楽しいようで……あ、余計なことをいいました。それと、電動クジラにはもうひとつ特別な機能があるのです」
 販売員はさらにカタログを開いた。そこには空に浮かぶ電動クジラが描かれている。
「エネルギーの充填に時間がかかりますが、フルパワーになると空に浮かび上がることができます。クジラの腹は白いので、地上からみると、まるでクジラ型の雲の上にひとが立っているように見えます」
 旦那が欲しかった機能はこれか、と私は思った。
「それは素敵なことね。ところで、空を飛ぶまで充電にどれくらいの時間がかかるのですか?」
「千年といったところでしょうか。必要ならサービスで電動惑星まで運搬いたします。こちらもクリスマス特価にいたしますが」
 もうすぐクリスマスか、と私は思った。旦那は販売員との約束を忘れたのではなく、クリスマスプレゼントを私に購入して欲しかったのだろう。直接おねだりできないから、こんな遠回しなことをするなんて。
 いつまでも子供のような旦那だ。結婚して数万年が経つというのに。
「少しサービスしてくれるかしら」
 私の心は決まった。

 地球では多くの人々が空を見上げていた。雲の上に男女の神様が立ち、地上に光を当てて平和を願った。
 人々は神々の奇跡を目撃し、剣と槍を納め、ただ平伏するだけだった。醜い争いはすぐに収まった。
 私は笑顔で旦那に言った。
「こういうもの千年に一度ぐらいならいいわね。空を舞うもの気持ちいいし、なによりチマチマした人間どもに命令するのって爽快で気持ちいわ」
 しかし、旦那は苦い顔をして首を横に振った。
「千年後もこうなるとは限らない。人間の進歩は思ったより早いし、争いはますます複雑化している。神様の役割を続けるのは疲れるよ」
「あんたが始めたことだから仕方がないじゃない。最後まで面倒を見てあげないと」
「そう言われてもなあ」
 私と旦那はそっと、元の星に帰った。
 電動クジラは、いまもひっそりと海底でエネルギーを蓄え続けている。

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【掌編】齊藤想『落としたオノ』 [自作ショートショート]

第8回小説でもどうぞW選考員版で佳作をいただいた作品です。

ネタに困ったら昔話、ということで本作は有名童話のパロディです。
パロディといっても原作からどこをどう変えるのかがキモでして、そうしたコツを知りたい方はぜひともニュースレターへの登録をお願いします。
もちろん無料です。
次回は6/5発行です!



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!
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〔小説でもどうぞW選考員会版(第8回・結果発表、選考会)〕
https://koubo.jp/article/27094

〔作品〕
『落としたオノ』 齊藤想
https://koubo.jp/article/27098

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