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【掌編】齊藤想『海が休む場所』 [自作ショートショート]

第19回坊ちゃん文学賞に応募した作品その1です。

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『海が休む場所』 齊藤 想

 長年漁師を続けてきた祖父には、奇妙な妄想があった。言葉が悪ければ、信念と言い換えても良い。
 祖父は小学生だった私を何度も砂浜に連れ出すと、コンビナートや工場が立ち並ぶ岸壁に顔をしかめながら、こう語り掛けてきた。
「海が疲れておる。沖合までよどんでいる。見てごらん。海のため息が漂っておる」
 祖父はそう口にするが、私には違いが分からない。目の前にはいつもと同じ藍色の海が広がっている。海は機械のように波を送り出し、砂浜に白線を浮き上がらせ、静かに沖合へと帰っていく。
 そのころの私は、祖父の言葉を信じていた。元漁師だから、海のことは何でも知っている。祖父が「海が疲れている」と言うのなら、その通りなのだろう。
 私は、祖父に媚びるようにして話す。
「海さんはとっても疲れているね。どうすれば、元気になるのかな」
 祖父の喉ぼとけが大きく動く。うれしい時の癖だ。
「海を休ませればよい。海のお宿を増やし、ゆっくりと、寝かしてやるんだ」
「ふーん。家族で旅行にいくようなものかな」
「そうだな。省吾はよく分かっている」
 祖父はゴワゴワした手で、私の頭を撫でた。その手の向こう側で、巨大なタンカーが数珠繋ぎになって、岸壁のコンビナートへと吸い込まれていった。

 食卓でも、祖父は海の話を繰り返した。海が疲れている。休ませねばならない。工場とコンビナートのせいで、海が休めなくなった。祖父の話は、いつも同じだ。
 祖父が口を開くと、父は露骨に眉をひそめた。父は祖父が毛嫌いする工場で主任を務めている。工場で重要なポジションを任せられているらしい。
父は茶碗を食卓に置いた。
「お義父さん、その話はもう止めましょう。あの工場やコンビナートのおかげで、町は発展できた。道路や電車が整備され、大学病院だって誘致できた。お義父さんのご兄弟はみんな幼くして病気で亡くったとお聞きしましたが、もうそんな時代には戻りたくはないでしょ」
 母も困惑している。
「お父さんが海を愛する気持ちは分かるし、漁師の腕一本で私を育ててくれたことは感謝している。けど、あの工場やコンビナートだって、海を大切にしているのよ。一度工場見学にくるといいわ。私だって最初は半信半疑だったけど、パート務めをするようになって考えが変わった。お父さんの誤解が解けると思うから」
 二人から正論で返されると、祖父は言い返せない。顔を背け、不機嫌そうに離れに引き上げてしまう。
 数日たつと、祖父は私のことを呼び、また砂浜へと連れていく。岸壁に立ち並ぶ工場やコンビナートに顔をしかめ、ため息をつく。
 そして、私に同じ話をするのだ。
 まるで、車輪を回すしか芸のないモルモットのように。

 工場はますます盛んになり、町は発展の度合いを増していった。祖父は工場拡張の反対運動への参加を続けていた。だが、その声はごく一部にとどまり、世間的には無視された。
 祖父は食事も別にとるようになった。父は困り切っていた。
「昔なら公害問題とかいろいろあったが、いまや工場はクリーンになり、排水で海を汚すこともない。環境基準の遵守は当たり前で、外国との競争でコストカットに迫られながらも、基準以上の環境対策を進めている。そのことをお義父さんは知らないし、知ろうともしない。昔ながらの固定観念に凝り固まっているんだ」
 祖父が反対運動に参加していることで、父は職場で微妙な立場に置かれているようだった。上司からは「自分の義父を何とかしろ」と責められているらしい。
 私は両親も祖父も好きだった。だから、両親の話を聞かずに、一方的に閉じこもる祖父に反感を覚えつつあった。
 私は父を助けるために、へそを曲げた祖父を離れまで追いかけた。祖父は、部屋の隅でいまは使わない漁具の手入れをしていた。工場建設と引き換えに、漁協が漁業権を売り渡したのだ。
ここ数年でめっきり落ちくぼんだ眼が、さらに沈み込んでいる。
 私は祖父の正面に回り込んだ。祖父は少し腰を動かして、まるで私を避けるように、半身の態勢になる。祖父の耳が目の前にきた。耳の穴から白い毛がのぞいている。
 頑強だった祖父も、確実に年齢を重ねている。
「ねえ、おじいちゃん。もう少し、お父さんやお母さんの話を聞いてあげてよ」
 祖父は答えない。まるでイヤイヤをする赤ん坊のようだ。
「海が疲れていると思うのなら、おじいちゃんが海を休ませてあげればいいじゃない。久しぶりに海と遊ぶために釣りにいくのはどう? 友達が言っていたけど、工場の近くには魚がたくさん集まるらしいよ」
 工場の近くで大きな魚が釣れたら、祖父の考えも変わるかもしれない。そう願ったのだが、祖父は「ふん」と吐き捨てただけで聞く耳を持たなかった。「ねえねえ」と繰り返しても、祖父は背中を向けるだけだった。
「しょせんは工場の息子だな。海のことなど、何もわかっとらん」
 その瞬間、私の中で何かがはじけた。
「おじいちゃんだって、何も知らないくせに」
 祖父が振り返った。その顔には、悲しみとも驚きとも言えない表情が浮かんでいた。
「海が疲れている、なんて意味が分からない。おじいちゃんは、昔を懐かしんで、工場に文句を言いたいだけだ。ただの憂さ晴らしだ」
「違う。海は本当に疲れておる。そろそろ海の宿で休ませないといけない。だが、あんな醜い建物がある海岸に、海の宿は近寄ってこん」
「文句をいくら並べても、時代は変わるんだよ。そんなに海が大切なら、いまの時代に合わせた海のお宿を呼べばいいじゃないか。それに、海のお宿ってなんだよ。あるなら見せてくれよ」
「お前もすっかり親父に似てきたな。工場の息子には教えられぬ」
「それを言うなら、ぼくは漁師の孫だ。孫に海のことを教えられないなんて、漁師として失格だ」
 祖父の喉ぼとけが、少し動いた。
「省吾はずいぶんと面白いことを言うようになったな」
 そのとき、かすかに遠吠えのような声が聞こえてきた。犬とは違う。それは、海の底をかき乱すような声だった。
「アイツがやってきたようだ」
「アイツって?」
 祖父は時計を見た。日没までまだ時間がある。
「お前に海のお宿を見せてやる。漁師の孫としてな」

 小さな漁船はポンポンという貧相な音をたてながら、沖へと向かっていった。漁師を廃業しても長年愛用してきた漁船は捨てがたく、祖父は友人に託して維持してきた。その漁船を数年ぶりに引っ張り出したのだ。
 祖父の漁船はまるで木の葉のように頼りなく、波を越えるたびに船が逆立ちをしそうになる。私は海に投げ出されないように、芋虫のように甲板に這いつくばり、目の前にあるものに所かまわずしがみ付いた。
 祖父が私の様子を見て笑う。
「おい工場の息子、もうダウンか」
「全然大丈夫。だって、漁師の孫だから」
 口では強がって見せたが、もう限界だった。胃液が噴水のように湧きあがり、喉が焼けるように痛い。そもそも、漁船に乗るのは今日が初めてなのだ。
 私は父から聞いたことを思い出した。船酔いを我慢するには、遠くを見るのがよい。港を探してみたが、海岸線は遠くなり、祖父が忌み嫌う工場やコンビナートも見えない。緑に包まれているはずの山々も、海岸線の下に没している。
 空を見上げれば、綿菓子のような白い雲が浮かんでいる。青と白の単純な美しい世界。そう感慨にふけることができるのは一瞬で、すぐに吐き気が胸元までせり上がり、舷側から胃液を海に垂れ流した。
 最後の胃液を吐ききったころ、祖父が人差し指を大海原に向けた。祖父の指先で、まるでだれかが絵を描いたかのように、白い輪ができている。
「ほら、おいでなすったぞ。めったに見られないから、よく目を凝らしておけ」
 白い輪が徐々にせり上がり、突如として爆発したかのように海面が盛り上がった。
 津波のような波が漁船を襲い、祖父のボロ船がなんとか乗り越えたとき、目の前には巨大なクジラが浮かんでいた。まるタンカーのようだ。この世の生物とは思えない。図鑑で見たシロナガスクジラより、はるかに大きい。
 祖父が漁船を回し、ゆっくりとクジラに近づける。
「あれが海の宿だ。海はアイツに吸い込まれて、疲れを取り、戻っていく」
「どういうこと?」
 巨大クジラは大きな口をあけて海水を飲み込むと、スカイツリーのような長大な潮を噴き上げた。その潮は透明で、水しぶきとともに虹がきらめき、落ちてくる水滴が海面をやさしくなでる。
 海の主は、小さな漁船など眼中にない様子で、ゆうゆうと海を泳いでいる。
「アイツに嫌われないなんて、工場もなかなかやるじゃないか。おまえのオヤジが言っていたことは本当かもな」
 巨大クジラは何度も潮を吹き上げた。そして、この海を癒し切ったと言わんばかりに、ふたたび海へと潜っていった。白い泡が漁船を包み込み、そして消えた。
 海の宿は、小さな人間たちを一度も振り返らなかった。

 あいかわらず祖父は工場の反対運動を続けていた。
 工場はいつ悪いことをするのか分からないというのが理由らしいが、それより、こうして騒いでいればいままで通り海を大切にしてくれるだろうと信じているらしい。
 父も諦めた様子で、祖父のことを冷めた目で見ている。
 海の宿を見てから、十年ほどで祖父は死んだ。大学を卒業した私は地元に戻り、ホエールウォッチングの会社を立ち上げた。観光客は無邪気にクジラとの出会いを楽しんでいる。両親が定年まで勤めあげた工場は海外に移転し、後釜の企業もなく、いまや岸壁はぺんぺん草に覆われている。
 時代も人も海も、どんどん移り変わっていく。
 私は今日も観光客を乗せて、海に船を繰り出す。しかし、いまだに海の宿とは再会できないままだ。子供のころに体験したあの一瞬は、海の気まぐれだったのかもしれない。
 次に会えるのは、孫の時代かもしれない。
 藍色の海は、眠っているかのように静かだった。

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【映画】ザ・スーパーマリオブラザース・ムービー [映画評]

世界中で大ヒットして、任天堂コンテンツの強さを示した映画です。

https://www.nintendo.co.jp/smbmovie/index.html

主人公はマリオとルイージ。
たぶん、みんな忘れていると思いますが、二人はイタリア人の配管工という設定です。
ただ、舞台はアメリカのブリックリンです。
映画はダメダメ兄弟の配管修理から始まり、市街地の大きな水漏れを自主的に修理に向かったところ、地下の土管に吸い込まれてスーパーマリオブラザースの世界に飛ばされます。
マリオはキノコ王国に、ルイージはクッパ城へとバラバラになってしまいます。ルイージは囚われの身となります。
マリオはキノコ王国でキノピオやピーチ姫と合い、ピーチ姫はキノコ王国を守るため、マリオはルイージを助けるため、キノピオは勇敢さを示すために、クッパに立ち向かいます。
というのが、ざっくりとしたストーリーです。
映画は全編ユーモアテイストで、任天堂ネタがどんどんつぎ込まれています。
土管に入ったり、キノコやフラワーで変身するのは、スーパーマリオブラザース。ノコノコやクリボー、カロンなどおなじみキャラのが勢ぞろいです。
カートに乗り込み、レインボーロードを爆走するのはマリオカート。もちろんアイテムも登場です。
ドンキーコングとの対決(デイジーコングも登場)は、スマッシュブラザースでしょうか。
元ネタがわからないと、意味不明の映画になりそうですが、子供たちはおおむね分かっているのОKでしょう。
クッパは敵役ながら愛嬌があり、残虐表現がないのもファミリー向けとしてグットです。
映画の構成ですが、基本的に任天堂ネタを注ぎ込むことに注力されている感じです。
評論家の評価は低い一方で、興行成績が絶好調というのもわかる作品です。いまの勢いなら、歴代興行収入映画ランキングにランクインも間違いありません。

スーパーマリオブラザースシリーズで遊んだ子供たちのために!
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ABEMAトーナメント2023【予選Aブロック】 [将棋]

優勝候補がいきなりの登場です。

〔番組HP〕
https://abema.tv/video/title/288-37

個人的優勝候補はチーム永瀬です。リーダーの永瀬拓矢王座と増田康宏七段のフィッシャー適性の高い2枚看板は強力で、さらに本田奎五段と隙のないメンバーです。
ただチーム稲葉も協力で、稲葉陽八段は前回優勝者ですし、服部慎一郎五段、出口若武六段とメンバーを揃えています。
チーム豊島は木村一基九段のフィッシャー適性は抜群なのですが、リーダー豊島将之九段のフィッシャー戦績がいまいちなのが不安です。池永天使五段はフィッシャー経験豊富です。
それぞれの結果ですが

[チーム永瀬 ― チーム豊島]
 チーム豊島は木村一基九段が増田康宏七段を破るなどして2-1と奮闘しましたが、二転三転したリーダー対決を永瀬王座が制したのが大きく、永瀬王座は3連勝。
 5-2でチーム永瀬が勝利しました。

[チーム永瀬 ― チーム稲葉]   
 稲葉リーダーが第4局からの3連投でチーム永瀬の3人を全員吹きとばす3連勝。出口若武六段が駒を落として時間切れを悟って投了という珍事があったものの、初戦で増田康宏七段を破った星も大きく、2-5でチーム稲葉が勝利しました。

[チーム稲葉 ― チーム豊島]
  話題になったのは木村九段です。劣勢の将棋を持将棋に持ち込んで指し直し局での逆転勝利に続いて、鬼の連投指令にも笑顔で出撃、これも逆転に次ぐ逆転で稲葉リーダーに勝利という大奮闘です。
フィッシャーが苦手な豊島九段も2-1と結果を残しましたが、池永五段が痛恨の3連敗。
 5-4でチーム稲葉が勝利しました。

これで1位通過がチーム稲葉、2位通過がチーム永瀬となり、チーム豊島の予選敗退が決まりました。
来週からは予選Bリーグが始まります!
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【映画】ジュラシック・パーク3 [映画評]

新たな恐竜の登場が楽しめるシリーズ3作目です。


ジュラシック・パークIII [Blu-ray]

ジュラシック・パークIII [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル
  • 発売日: 2012/06/20
  • メディア: Blu-ray



いままで主役を張ってきたティラノサウルスに代わり、スピノサウルスが陸の王者として登場しますが、主人公たちを追い詰める恐竜はやっぱりラプトルです。
さてストーリーですが、サイトBの近くでパラグライダーを楽しむ大人と子供がいました。
ところがボートの事故でパラグライダーはサイトBに緊急着陸します。
その子供たちを助けるために、両親がグランド博士を偽って、強引にサイトBに着陸します。
しかしすぐに恐竜に襲われ、飛行機は壊され、次つから次へと恐竜が主人公たちに襲い掛かります。
この両親ですが、グラント博士の前では夫婦を装っていましたが、実は離婚した元夫婦です。
喧嘩ばかりで、母親はトラブルを巻き起こすし、父親は頼りになりません。
パラグライダーで着陸した大人と子供ですが、大人はパラグライダーが外れずに命を落としましたが、子供はかつての施設に残された物資で生き残っていました。
グラント博士と合流することに成功し、親子の再会を果たして脱出を目指しますが……というストーリーです。

テーマとしては、自然界のルールに入ったときの人間の小さ的な感じになるかと思いますが、そこに親子関係の再構築が入ってきます。
自分勝手な母親も自然界のルールを覚え、父親もラスト近くになると積極的に困難に向かって立ち向かいます。
同じことはグラント博士の助手であるビリーにも言えます。ラプトルの卵を盗むという失敗を犯してみんなを危険にさらしたビリーですが、終盤では命をかけて子供を救います。
最初の間違った選択から正しい選択を学ぶという成長した姿を見せてくれます。
前半の様々な伏線が最後に回収されるなど脚本上の工夫はされていますが、素直な感想はスパイスが足りないかなあと。結局のところ、最初から最後まで恐竜から逃げているだけなので。
ラストシーン近くの、翼竜が大空を舞うシーンはとても美しいです。
製作費9000万ドルと前作からさらにアップしましたが、興行収入は3億7000万円と前作の6割程度、第1作の3割程度とさらに落ち込んでしまいました。
これでシリーズは終わりを告げて、新シリーズのジュラシック・ワールドが始まります。

恐竜が好きなひとのために!
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第81期名人戦第2局(渡辺明名人VS藤井聡太竜王) [将棋]

藤井竜王の先勝で迎えた第2局です。

〔中継サイト〕
http://www.meijinsen.jp/

将棋界のビックタイトルといえば竜王戦と名人戦ですが、囲碁界では棋聖戦、名人戦、本因坊です。
特に本因坊は江戸初期から続く名跡で、現代囲碁界におけるもっとも古いタイトル戦です。
それが来季から大幅に縮小して、三大タイトルから転落するニュースに驚きました。
 賞金額2800万 → 850万
 二日制7番勝負 → 一日制5番勝負
 リーグ戦 → トーナメント戦
https://www.nihonkiin.or.jp/news/release/79.html
主催の毎日新聞社の経営難が背景にあることは、予想が付きます。協賛として大和証券グループがついていますが、将棋界と比べると協賛企業が少ないため、スポンサー集めに苦慮しているのかもしれません。
囲碁は始めると非常に面白いゲームなのですが、かなりの棋力がないとどちらが優勢か分からないという難しさがあります。入口のハードルが高いです。
「見る将」は成立しても「見る碁」を増やすのは厳しいのかな、というのが実感です。
若くて優秀な女流囲碁棋士がたくさんいるのですから、囲碁界は新しいファン層を増やすチャンスだと思います。
将棋界は佐藤康光会長が勇退します。
新しい会長は未定(羽生善治九段が最有力)ですが、いままでの流れを引き継ぎ、ぜひとも新しいスポンサー、新しいファン層を獲得する努力を続けてほしいと思います。
名人戦が一日制五番勝負のトーナメント戦になったら寂しいので。

〔棋譜〕※棋譜は徹底解説!将棋の定跡 様より
https://www.youtube.com/watch?v=jHQ8CJr3ljE

ということで、将棋です。
藤井竜王は先手だと角換わりを目指すので、後手渡辺名人の戦形選択に注目が集まりましたが、本局では角換わりを受けずに雁木模様で進めます。
対する藤井竜王は3手角です。通常の4手角より手得しています。
最終的に渡辺名人は高美濃になり、端攻めを見せたところで藤井竜王が本格的に開戦します。
まさにねじりあいという感じで、どちらにも勝機がある熱戦です。
藤井竜王の誤算は渡辺名人の3四金と力強い受けに角切りの猛攻に成算が持てなかったこと。
少し形勢が良くなった渡辺名人の誤算は次に飛車角両取りがかかり2四香車が先手にならなかったこと。
お互いに誤算がありつつも互角のまま迎えた終盤戦。71手目の藤井竜王の王手に、渡辺名人が3三玉と逃げたのが致命的な悪手で、ここで一気に悪くなったようです。
その前の手に44分考えており、いかにも先手の1筋が重い形なので、読みの本線だったと思います。
ただ、ここは同香車なら難しかったようです。
この直後の藤井竜王の手が素晴らしく、銀を取りながら成香を寄せる味の良い手や、2二角等といった王手を選ばずに、じっと2六歩で後手は痺れました。
これはも竜王を褒めるしかありません。
優勢になってからは藤井竜王が一気に決めました。87手まで藤井竜王が開幕2連勝を果たしました。
手数こそ87手ですが、名人戦に相応しい濃厚な将棋だったと思います。

名人戦第3局は、5月13日(土)、14日(日)に、大阪府高槻市「高槻城公園芸術文化劇場」で行われます!

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【書評】南原詠『特許破りの女王』 [書評]

第20回このミス大賞・受賞作で、弁理士が主人公という意欲作です。


特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来 (宝島社文庫)

特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来 (宝島社文庫)

  • 作者: 南原詠
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2023/02/07
  • メディア: Kindle版



弁理士とはなじみが薄いですが、特許の専門家です。
主人公は元々特許訴訟をチラつかせて大金をふんだくる仕事をしていましたが、いまは逆に特許侵害の訴えからクライアントを守る側にいるという設定です。
まず冒頭で軽い特許侵害トラブルが発生し、ほぼ解決させます。
ヒーロー物お約束の、冒頭の活躍でキャラ紹介という展開かと思います。
次の事件が本番で、人気Vtuberが使っている機材が、特許侵害のため使用差し止めの警告を受けるところから始まります。
徐々に警告者の目的が真の目的が判明し、特許権者と専用実施権者との関係性も見えてきます。
そして、意外な方法での解決へ、という流れです。
弁理士が主人公という設定が斬新だと思います。そこに専門的な知識がどんどんでてきて、経済小説のような味わいもあります。
サブストーリーがほとんどなく、本筋だけで突き進むという分かりやすさもあります。

個人的にはキャラの性格がいまひとつかなあ、という感じがします。
毒のあるキャリアウーマン系なのですが、元悪役の割には毒が薄く、設定が活かしきれていないような気がしました。
厳しいVtuber業界の争いも背景にあるのですが、その部分をサブストーリーとして独立させて欲しかったなあと思いました。
Vtuberたちの心情や生活を濃密に書き込んだ方が、ヒロイン役であるVtuberにもっと感情移入できたかも。

特許ネタで何作も書けるのかどうはか分かりませんが、新しい視点なので、次回作にも期待したいと思います。
少し変わった世界をのぞきたいひとのために!
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創作状況【4月下旬】 [ぼくの公募状況]

ここしばらくSO-NETブログの本カテゴリで1位をキープしています。ありがとうございます。これからも読まれるブログを目指して頑張ります。

【第187回のメュー】
◆こんな公募に応募しました(第19回坊ちゃん文学賞の巻)
◆小説でもどうぞ!に挑戦中(第18回)
◆おまけのもう1作
◆公募情報数点
 今回のテクニックは遠回しに伝える技です。
 次回発行は5月5日です。メルマガは無料なので、ドンドン登録してください!
https://www.arasuji.com/mailmagazine/saitomagazine/


【ショートショートガーデン】
今回も小説でもどうぞ「学校」のボツネタです。
〔キツネの学校〕
https://short-short.garden/S-uCTuLq


【小説でもどうぞ】
4月テーマ「学校」の2作目を推敲する。うーん、さすがに今回はダメそうです。奇妙な話ではあるけど、いい話にはなっていない。
最後まで推敲して、とりあえず自分の中のノルマとなっている2作応募しました。
W選考委員版は次回は「魔法」ですね。いろいろな魔法がありそうです。とりあえず1作目を書く。眉村卓のイメージだが、本家には遠く及ばず。ただ、自分の中ではよくできた作品だとは思う。公募には向かない系統なのですが。
次は通常版の5月テーマ「祭り」をひとつ書いて、魔法にもどるか。W選考委員版の締切まであまり時間がないんだよなあ。


【yomeba!】
結果と次の公募待ちです。
次回はもうちょっとじっくり考えます……。


【星新一賞】
第10回受賞作を順番に読んでいきます。
・旭化成ホームズ賞『春発つ日』青庭遠
親権争いに敗れた母親が、火星に移住する息子との最後の思い出に、サーカスを見に行く話です。
これ、文章が卓越して上手いです。星新一賞の中でも、歴代トップクラスではないかと思います。
火星とか遺伝子操作とかSF風の味付けはされていますが、基本的には純文学系統で、描写と心理描写で読ませる作品です。
例えばサーカスが始まるところの描写。まず中心のピエロに目線が行く、そこから少し間を持たせてからピエロの動きに合わせて、視線を動かしていく。視覚だけでなく聴覚の描写もあり、さらに適度に観客やキャラたちの心情を挟みこむ。
このバランスが絶妙です。
母親は息子の心の穴を埋めようとしますが、実は助けを求めていたのは母親だった。そのことに母親は気が付き、子供の成長を誇らしく思うとともに、母親も前を向こうと決意します。
こうした親子の成長を、サーカスの観劇というワンシーンで見事に表現しています。掌編として隙がありません。
SF要素が少ないため評価を落としたのだと思いますが、ジャンルにとらわれなければ、素晴らしい作品だと思います。


【坊っちゃん文学賞】
第19回の受賞作を順番に読んでいきます。
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/machizukuri/kotoba/bocchan.html#cms19thjushousakuhin
・佳作『メトロポリスの卵』石原三日月
設定がとても面白いです。
役目を終えた都市が、最後の力を振り絞って卵を産む。その卵が落ちた場所が、新しいメトロポリスとなる。そのメトロポリスは、少し時代が進んでいる。
巨大な都市を卵にしてしまう転換のアイデアですが、この組み合わせ、設定はなかなか思いつかないと思います。
ただ、ラストが強引かな、と思います。新しい都市に目的の装置があるのは必然ではありませんし、そもそも、その場所をどうしても移動したくない理由が弱いです。
冒頭で庭で朝食を食べるシーンがありますが、そこでの喜びを視覚だけでなく、触覚、嗅覚、味覚等をフル動員した描写になっていたら、すっと繋がったかもしれません。
もったいない、というのがぼくの素直な感想ですが、素晴らしい作品だと思います。


【NIIKEI文学賞】
締切は5月31日、制限文字数400~800字。
推敲もしているので、あとは投稿直前にもう1回見直すだけ。ただねえ、なかなかテーマ「にいがた」で、「にいがた」をアゲる作品になっていないので、正直失敗作。
うまいアイデアが浮かんだら、また考えますが……。
https://takeaction.blog.ss-blog.jp/2023-02-16-3


【ラストで君は「まさか!」と言う】
2作目を書きましたが、1200字もない。制限文字数4000字なので、さすがに短すぎるかも。まあいいや。あともう1作ぐらい書いて選びたい気分。
制限文字数4000字、締切は5月31日です。
https://takeaction.blog.ss-blog.jp/2023-03-11


【ひらづみ文学賞】
締切が7月31日。
創元SF短編で落選した作品を出す予定、ということで、忘れないためのメモ書きです。はい。
https://takeaction.blog.ss-blog.jp/2023-03-15-1


【超ショートショート】
2022受賞作はこちらから読めます。
https://www.ehime-np.co.jp/online/information/short_short/prize2022.html
・小学生低学年の部『キセキのシンブンシ』本多きほ<テーマ「新聞紙」>
 シンブンシが回文であることに着目し、回文である場所に瞬間移動できるというアイデアを組み合わせたのが素晴らしいです。いやあ、この発想は思いつきません。
 タイトルは『キセキのシンブンシ』ですが(キセキも回文)、この作品自体がキセキのようなものです。脱帽です。


【その他モロモロ】
・エコカレンダーの3句目を考えた。季節感はあるけど季語がない。5月26日締切です。
・おーいお茶新俳句はツバメ3句で応募しました。楽しかった。10月下旬発表。
・第9回朝礼川柳は落選しました。後日、TOP100の発表もあるそうです。
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【公募情報】令和5年度佐々木喜善賞(小説等・6/9〆) [公募情報]

論文、小説、エッセイ等の幅広い公募です。

〔主催者HP〕
https://www.tono-ecf.or.jp/archives/1661

主催者は遠野市教育文化財団です。
冠名の佐々木喜善は本人曰く、資料収集家(一般には学者として扱われている)で、民話や伝説を幅広く収集しています。
柳田國男の代表作『遠野物語』は、佐々木喜善が語った民話や伝説がベースになっているそうです。
本公募は佐々木喜善を顕彰して行われています。
制限枚数は論文50枚以下、それ以外は100枚以下。応募締切は令和5年6月9日です!

<募集要項抜粋>
募集内容:論文、小説、随筆等
テーマ :『遠野物語』あるいは遠野にゆかりのある内容
佐々木喜善賞:賞金10万円
制限枚数:論文400字×50枚以下、小説・随筆400字×100枚以下
応募締切:令和5年6月9日
応募方法:郵送、持参
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【書評】門田隆将『この命、義に捧ぐ』 [書評]

終戦後に台湾に渡り、台湾を救った根本中将の話です。


この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡 (角川文庫)

この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡 (角川文庫)

  • 作者: 門田 隆将
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/10/25
  • メディア: 文庫



台湾で元日本軍人が活躍した話は歴史に埋もれていました。
むしろ国民党にとっては不都合な歴史として隠されてきました。
戦後60年になって、その秘話を発掘したのが本書になります。
大戦中、根本中将に華々しい活躍はありません。しかし、終戦後、武装解除を断固拒否してソ連軍を戦い、駐留日本人が本国に帰る時間を稼いだことで多くの人々を救いました。
もし根本中将が武装解除していたら、シベリア抑留など悲惨な目にあっていたことは火を見るより明らかです。
その撤退時に恩義を受けた蒋介石を助けるために、根本中将は台湾に密航します。
根本中将とは既知の間柄であり、実力、人柄、能力も把握していた蒋介石は大歓迎します。
そして根本中将の指導のもと、国府軍は金門島に押し寄せた共産軍を壊滅させ、現代まで続く施政権範囲を事実上確定させます。
第19回山本七平賞も納得のノンフィクションだと思います。

埋もれつつある歴史を再発見したいひとのために!
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第34期女流王位戦第1局(里見香奈女流王位VS伊藤沙恵女流四段) [将棋]

伊藤女流四段が二度目のタイトル獲得を狙います。

〔主催者サイト〕
http://live.shogi.or.jp/joryu-oui/

伊藤女流四段はタイトル9回目の挑戦でようやく女流名人を獲得しましたが、その翌年の防衛に失敗し、1年で無冠に戻ってしまいました。
しかし将棋の内容は悪くなく、やや分の悪かった加藤女流三段に対しても最近は勝ち越しています。
そして早々に女流王位戦の挑戦者としてタイトル戦に戻ってきました。
基本的には居飛車党で、相手が振ってきたら相振り飛車にすることもあります。
昔はウソ矢倉が得意でしたが最近は封印しているのか、採用数は激減しています。
対する里見女流王位はほとんど中飛車一本です。ここまで極端なのも珍しいです。
伊藤女流四段は相振り飛車も得意なので、相振り飛車シリーズになる可能性が高いと思っていますが、研究ハメを狙うなら対抗系でしょうか。
ただ、里見女流王位の中飛車は多彩なので、絞り込むのは難しいかもしれません。
この辺りは番勝負を通じての作戦にるとは思います。
伊藤女流四段の戦型を選択に注目したいと思います!

〔棋譜〕
http://live.shogi.or.jp/joryu-oui/kifu/34/joryu-oui202304260101.html

ということで、将棋です。
後手里見女流王位の中飛車に、先手伊藤女流四段の居飛車という対抗形となりました。
後手高美濃、先手片銀冠穴熊まで自然に組み合ってから、里見女流王位が振り飛車らしく軽く仕掛けていきますが、駒がぶつかり始めた段階で評価値的にはすでに先手有利になっています。
中飛車という作戦が、何らかの工夫がないと、プロ間ではだんだん苦しくなっているのかもしれません。
しかし、そこから終盤力でひっくりかえすのが、里見女流王位のパターンです。
チャンスが訪れたのは、62手目でした。伊藤女流四段が角を上がったとたんに評価値が里見女流王位に振れます。
里見女流王位は7八金と金交換してからと金を捨てたのですが、この手がもったいなかったようで、また評価値が先手持ちになります。
以降も評価値がいったりきたりします。
里見女流王位にとって最後のチャンスが82手目だったようです。馬を攻防に利く位置に桂馬を取りながら移動した手が味よく見えましたが、ここは攻め合えば有望だったようです。
以降は伊藤女流四段が五手詰めを見逃すなどいろいろありましたが、133手までなんとか勝ちきりました。
両者とも不安の残る1局でしたが、お互いに実績のある女流棋士なので、次局は立て直してくると思います。

第2局は5月16日(火)に北海道札幌市「京王プラザホテル札幌」で行われます!
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