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【SS】齊藤想『ボトルシップ』 [自作ショートショート]

第30回小説でもどうぞに応募した作品その1です。
テーマは「トリック」で、キャラをトリックから逆算して作っています。
具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は5/5発行です。



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!

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『ボトル・シップ』 齊藤 想

 娘の恋人であるこの青年が、私の書斎に入るのは初めてだだろう。青年は緊張した様子で本革のソファーに腰を沈めると、落ち着きのない視線が室内をさまよう。
 私が黙っていると、沈黙に耐えきれなかったのか、青年から口を開く。
「書棚の中に飾られているボトルシップは、実に見事です」
「ああこれかね」と、私は億劫そうに椅子から腰を上げるとボトルシップを手に取った。
「このボトルシップは私の唯一の趣味でね、この細い首から材料を入れ、専用のピンセットで組み立てる。集中力が必要でね」
「確かに、これは大変そうです」
 青年は平凡な回答をした。実につまらない男だ。青年は私からボトルシップを受け取ると、見え透いた演技を始める。
「この精密さ、とても内部で組み立てたとは思えません。特に甲板に使われている木材は、口より大きく見えます」
 私は、内心をおくびにも出さずに答える。
「ガラス越しでは分からないと思うが、材料は全て折りたためるようになっているのだよ。船も人間も、バラバラにして折りたたむと意外と小さくなるものでね」
 奇妙な話の展開に、青年が少し変な顔をした。そろそろ頃合いだろうか。私は青年に向き直った。
「さて、本題に移ろうか。君は私の娘と交際をしているそうだね」
 青年が「ええ」と言いかけたのを遮って、一方的に話を続ける。
「君の祖父は、日本を代表する企業のオーナーだ。娘の相手として相応しい。そう思っていたのだが、君は名うてのプレイボーイとの悪い噂も聞いてね」
「それは誤解です。だれよりも美沙さんのことを愛しています」
「君はその言葉をいままで何人の女に吐いたことやら。愛の言葉はブランドと同じで、多ければ多いほど価値が落ちる。いまや、君の愛の言葉は百円ほどの価値もない」
「そのような事はありません。美沙さんに聞いてくれれば分かります」
「それは無理だな。なにしろ、美沙は君の女性関係を苦にして自殺したのだから」
「えっ」と青年の体が固まった。目が所在なく泳ぎ続ける。
 私は、できるだけ冷静に先を続ける。
「私はこの復讐をどうすべきか考えた。君を社会的に抹殺するのは簡単だ。だが、それだけでは物足りない。君だけでなく、君の一族を破滅させなければ気が済まない。そこで、ひとつのトリックを思いついた」
「トリックですか?」
「そうだ。この書斎は入口に監視カメラがあり、そこ以外に出入口はない。ガラス窓は全て嵌め込み式で開けられない。つまり、この書斎は密室なのだ。そして、監視カメラには娘がこの部屋に入った映像を挿入してある」
「それで……」
「監視カメラ上では、この部屋には私と君と娘の三人がいることになっている。この状態で、部屋から娘の死体がでてきたらどうなるかね。君は殺人容疑で逮捕され、君の父と祖父もただでは済まない。企業のオーナーに留まることは不可能だろう」
 青年の顔が真っ青になっていく。
「まさか美沙さんはこの部屋で自殺を……」
「死んだのは自分の部屋だ。君への恨みつらみを書き連ねた遺書が残っていたよ」
 私は通気口のフィルターを取り外した。
「この穴は、人間をバラバラにして折りたためばちょうど入る大きさだ。あのボトルシップと同じでね」
 私が合図をすると、通気口から得体のしれない物体と、血のりのついた糸鋸が流れ込んできた。青年が悲鳴を上げる。
「さあ、君はどう言い訳をするつもりかね。百円の価値もない愛の言葉を、この状態でも吐くことができるかね」
 私は電話機を差し出した。
「それとも、祖父に助けを求めるかね」

 執事に書斎の後片づけをさせていると、ふいに娘が顔を出してきた。私は笑いながら、愛娘に語りかける。
「ヤツは豚の内臓に恐れをなして、泣きながら祖父に電話をしていたよ。これでお前も目が覚めただろう。所詮はあの程度の男だ」
「ふん」と娘がむくれる。
「それで、パパがヤツの会社の株を奪ったというわけね。これが目的で私のことをヤツに近づけさせたんでしょ。まあ、将来は私の会社になるからいいけども」
「適正な取引と言って欲しいところだな。それに、この程度のトリックを見破れないようなら、いずれ会社は取られていたさ。ビジネスは弱肉強食で、生きるか死ぬかの世界なのだから」

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最近の金融・投資【令和6年4月第1週】 [金融・投資]

〔先週の株式市場〕
自分の持ち株は3日マイナスで2日プラス。
日経平均も下がっているし、自分の持ち株もかなりのマイナス。
けどいままで上がり調子だったから、そろそろ調整ですかね。金利上昇の影響もあるし。
もう少し下がったら、また株を買い足そうかな。
それまでに配当金がどこまでたまるかですが。

〔3月に配当金が振り込まれた話〕
3月に6社から配当金が振り込まれた。
配当金振り込みは6月と12月が多いのだが、たまに決算月がちがう企業があって、ポツポツと振り込まれる。受渡日も微妙にずれていて、3/25、3/27、3/29と2社づつ。会社のシステムの違いとか、いろいろあるのかな。このあたりの仕組みはよくわかりませんが。
毎月振り込まれるようになると気分的に嬉しいけど、まあ、利回り重視なのであえて別々の月になるように株をそろえることはないかな。
とりあえずは、自然体で。
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