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【掌編】齊藤想『南国の空の下で』 [自作ショートショート]

第21回小説でもどうぞに応募した作品その2です。
テーマは「学校」です。

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『南国の空の下で』 齊藤 想

 南国の学校の上空では、双発の敵軍機が執拗に旋回していた。不気味なうなり声が、バラック建て校舎の屋根を揺らす。
 先生はいつも通りに授業を続ける。敵軍機の来襲など、日常茶飯事だ。気にする生徒はだれもない。
 今日の授業は、キャッサバの育成法だ。
「キャッサバは重要だぞ」
 先生はキャッサバの特性を熱弁する。サツマイモと同じで育てるのは簡単だ。しかし、皮や芯には毒がある。
 先生は窓の外を見た。まだ敵軍機は旋回している。
「そろそろ帰るころかな。帰ったら、農園で毒抜きの実習をするぞ」
「はーい」と生徒たちが返事をする。
 時計の針が三時を指したとき、敵軍機は南東へと飛び去った。機影が完全に見えなくなると、先生と生徒たちはイキイキとした表情で、農場へと飛び出した。

 翌日の授業は地下壕で行われた。飛び交う敵軍の電波を分析した結果、久しぶりに雨の予報が出たのだ。
 貧弱な電灯のなかで過ごす地下壕はつまらない。新聞班が今週のニュースを印刷してた。そのため、本日は活版印刷の基本を学ぶことになった。
 日本語は文字が多い。活字を並べて原版を作るのだが、活字の数は限られる。足りないときは元記事を修文し、残っている活字で組めるように工夫する。
 試しにと青年が組み始めたとき、爆音とともに地下壕が揺れた。
 雨が振り始めたようだ。
「あいつらも暇だなあ」
 先生が言う。青年はこの島で生まれ育っているので、雨にも慣れている。
「ちょっと見に行きませんか?」
 青年に連れられて、先生も地上にでる。水平線の彼方で、小さな光が連続して発光している。
「豪勢な練習だなあ」
 青年は呆れている。この島が戦艦の練習台にされるのは悔しいが、こちらからは手も足もでないから仕方がない。
「雨に巻き込まれたら大変だぞ」
 先生と青年は、ふたたび地下壕へと潜っていった。

 翌日の授業は、武器弾薬の製造だった。工場は地下にあるが、材料を収集するためには地上にでる必要がある。
 からりと晴れた日に、生徒たちは地上を歩き、不発弾を探し出す。先生の指導の元で不発弾を解体し、爆薬を工場まで持ち帰る。
 あとは空缶や空薬莢に詰めるだけ。
 もう十年以上も続けている作業なので、慣れたものだ。自家製なので威力は弱いが、ないよりはマシだ。
 ときおり気休め程度に敵軍機に向けて発砲するが、もちろん届かない。ゴッコ遊びのようなものだ。

 この島から戦場の匂いが過ぎ去って、十年以上になる。敵軍は飛び石作戦を採用し、この南の島を放置して、どんどん本土に向けて攻め込んでいる。
 しかし、意外にわが国の抵抗が強くて手こずっているうちに、敵国民の戦意が落ち、大統領が選挙で負け、大きな戦闘がないままダラダラと戦争だけは続けている。
 敵軍もときおり戦争中であることを思い出すのか、たまに哨戒機を飛ばし、戦艦の練習台として砲弾を打ち込んでくる。
 ある日、本国から潜水艦がやってきた。潜水艦から下りてきた参謀は口ひげを生やしていた。胸をそらし、威厳のある口吻で最終決戦が目前に迫ったことを告げてきた。だからこの島の軍隊も決起せよというのだ。
 ようするに島から出撃して、敵軍の邪魔をせよというのだ。
 この島の司令官は温和な人物だった。興奮する参謀をなだめながら、この島に数万人の軍人がいること自体に意味がある、出撃して全滅したら元も子もないと説得した。
 潜水艦は、毒抜きしたキャッサバを大量に積み込むと出港した。
 戦争は遠ざかっていく。何事もなかったように授業も続く。最初に派遣されたときは若者だった兵士たちも中年となり、地元の女性と結婚して完全に現地住民化している。いまや二世の兵士も混じっている。
 本国からの情報も途絶え、戦争がどうなっているのかだれも知らない。興味もない。
 明日から夏休みだ。戦場の学校にも夏休みはある。
 中年の生徒たちは何をして遊ぼうかと、ヤシの木の下に集まった。

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最近の金融・投資【令和5年7月第2週】 [金融・投資]

〔先週の株式市場〕
先週の自分の持株は、上昇3日、下落2日。トータルでちょいプラス。
ダウの下落とともに自分の株も一気に下がるが、それでも週単位だとプラス。
正直、なぜこんなに上がるのかよく分からない。6月に入金された配当金を再投資しようと思ったのだが、この状況で買いに走るか様子を見るかでずっと悩んでいます。
いつも我慢できずに手を出して失敗するパターンなので、今度こそは我慢、我慢と思うのですが……。 

〔第四北越ファイナンスグループの株主優待が届いた話〕
頼んだのは、新潟の高級イチゴ品種「越後姫」を使用したジェラートとシャーベットのセットです。
子供たちの評判はいまひとつですが、おそらく大人の味で、甘さ抑えめでイチゴの風味を引き立てている一品なのかなと想像する。
自分もひとつ食べようと思ったときには無くなっていたので、あくまで想像ですが。
来年は違うのを頼もうかな。同じでもいいんですけど、せっかくなのでいろいろと試そうかなと。

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