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【掌編】齊藤想『愚者のカード』 [自作ショートショート]

第30回小説でもどうぞに応募した作品その2です。
テーマは「トリック」です。これはキャラの表現に工夫を凝らした作品です。
具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は5/5発行です。



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!

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 『愚者のカード』 齊藤 想

 これは、ぼくが中学時代の話だ。
 クラスに少し変わった同級生がいた。頭と手が妙に大きく、頭髪はまるでアフロヘア―かと思うほど、強烈な天然パーマだ。
 ある日のこと、ぼくの仲間がタロットカードを持ってきた。「これで彼を占う」というのは名目で、愚者のカードを出してからかおうというのだ。
 ぼくの仲間のうち、リーダー的存在の男が同級生の前に座った。
「タロットカードで占ってやる」
 彼の興味を引いたようだ。大きな頭をこくりと動かす。天然パーマがわさわさと揺れ、仲間たちは小さな笑い声をあげる。巨大な毛玉が揺れると、どうしても目に付く。
「いまからよーく切るかなら」
 そういって、リーダーはこれみよがしに、激しくシャッフルを始めた。
 トリックとしては単純だ。愚者のカードは一番上に置いておき、最初のシャッフルで一番下に持っていく。あとは最後のシャッフルで一番上に戻すだけけだ。
 リーダーはおごそかに一番上のカードをめくると、予定通り愚者のカードが出てきた。みんなが一斉に笑う。
「やっぱりお前は愚者だなあ」
 リーダーたちがはやし立てるが、彼は不思議そうに愚者のカードに触れると、いつものようにニコニコしている。
「面白いねえ。もう1回試してみてよ」
 何度繰り返しても、やっぱり愚者のカードがでてくる。トリックは全部同じ。そのたびに仲間たちは笑う。
 彼は感心した声を上げる。
「この占いは本物だ。すごいねえ。もしかして、ぼくにもできるかなあ」
「ああいいよ」
 リーダーはタロットカードを彼に渡した。その際に、愚者のカードを中央に差し込むことを忘れなかった。
 彼が占う相手として指名したのは、なぜかぼくだった。彼はごく普通にシャッフルしているように見えた。
「もういいかな。開くよ」
 そういって彼がめくると、出てきたのは愚者のカードだった。リーダーが笑う。
「すごい偶然だなあ。お前ら最高のペアになりそうだ」
「ちょっと待て。もう一回やってよ」
 ぼくは抗議の声を上げると、愚者のカードを慎重にタロットカードの束の中央に差し込んだ。彼が普通にシャッフルする。手を動かしながら首を振るので、天然パーマがワサワサと揺れる。視界が邪魔される。
 彼がカードをめくると、やはり出てきたのは愚者のカードだった。彼はニコニコとしている。
「占いって凄いなあ。何度やっても同じ結果になるんだね」
「そんなわけないだろ」
 ぼくが文句を言うと、彼は何度も占ってくれた。愚者のカードしか出てこない。最後にシャッフルを1回に制限してみた。カードの行方を目で追った。今度は下にあるはず。それでも、出てくるのは愚者のカードだった。
「こんに愚者のカードが続くわけがない。何か仕掛けがあるんだろ」
「別に何もしていないよ。それに、このカードは君たちのものじゃないか」
 彼の反論に、誰も言い返せない。
 あまりの気持ち悪さに、タロットカード遊びは自然解散となった。不吉なカードということで、タロットカードはぼくに押し付けられた。
 あまりの不思議さに、ぼくは卒業式の日に彼に聞いた。彼はあっさりと答えた。
「愚者のカードに触れた時に、爪で縁を少し削ったんだ」
 ぼくは驚いた。カードの縁を少し削ると、揃えた時にくぼみができる。そのくぼみを目印に、カードの操作をする。カードマジックの基本トリックだという。
 彼はにこにこしながら、付け加えた。
「愚者のカードって、トリックスターの意味があるじゃない。トリックのスター。つまり手品師だね。ぼくにピッタリ。占いは本当に当たるんだなあと思って」
 ぼくは家に帰ると、机の奥からタロットカードを取り出した。愚者のカードを何度も確かめた。縁に触った。しかし、傷ひとつない。彼は卒業するまで手品師だった。ネタは明かさない、ということらしい。
 この経験がきっかけとなり、ぼくは手品師への道を歩き始めた。なにせ、ぼくは彼に「トリックスター」のカードを出されてしまったのだからね。
 彼の手品のネタは分かったのかって?
 大きな手と天然パーマがヒントとだけ伝えておこう。ネタを明かさないのが、トリックスターのルールだから。

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