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【書評】井上靖『楼蘭』 [書評]

西域小説8編に、国内4編の短編集です。


楼蘭 (新潮文庫)

楼蘭 (新潮文庫)

  • 作者: 靖, 井上
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/05/17
  • メディア: 文庫



有名なのは表題作の『楼蘭』ですが、主人公がなく教科書のような記述です。
西域の歴史から題材をとったのが『異境の人』(班超の伝記)、『宦者中行説』(中行説の伝記)、『褒娰の笑い』(美女である褒娰の笑いを見るために国を滅ぼしてしまう)です。
個人的に印象に残ったのは、日本国内の風習を題材にした『補陀楽渡海記』です。
徳を積んだ僧が海に繰り出して観音浄土を目指す(目指させられる)というものですが、同じような風習はかつて国内何か所かあったようです。
海に漕ぎ出した僧に待っているのは、もちろん死です。
主人公は渡海の決心がつかないまま、風習や慣例に従って、61歳になったときに渡海します。
たまたま助かるのですが、村人たちの手によって、ふたたび箱の中に封印されて、海へと送りだされます。
本音は嫌なのに、ベルトコンベアーのように海に押し出されてしまう人間社会の恐ろしさがあります。

井上靖の歴史短編を読みたいひとのために!
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