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【書評】井上靖『天平の甍』 [書評]

昭和32年発表の、芸術選奨文部大臣賞です。


天平の甍(新潮文庫)

天平の甍(新潮文庫)

  • 作者: 井上 靖
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/02/07
  • メディア: Kindle版



第10回遣唐使で派遣された4人の若い留学僧たちが、鑑真を日本に招きいれるまでを描いた歴小説です。
小説なので、実在の人物と架空の人物が混じっています。実在の人物についても、その人物の行跡はほとんど知られていないので、ストーリーのほとんどが作者の想像です。
主人公は普照です。彼が4人の中間地点に位置します。
鑑真招聘にもっとも力を入れるのが栄叡。
留学僧という立場を放棄し、唐土を放浪して世の中をもっと知る道を選ぶのが戒融。
唐人と結婚し、家庭を築いたのが玄朗。
この4人以外に、架空の人物ですが、過去の遣唐使船で来唐し、貴重な経典を日本に持ち帰るためにひたすら写経に没頭する業行が登場します。
歴史小説ではありますが、歴史的な事実より、日本を遠く離れた土地で暮らす4人の若者たちの生きざまを、長い時間軸で写し取って行くことに主眼がおかれています。

これはあくま自分の捉え方ですが、著者は業行に普通の人々が健気に生き続ける姿を投影し、シンパシーを送っているように感じます。
業行はひたすら写経をするだけで、仏教における真理を理解することも、教義の深淵を除くこともできませんでした。
そして、自らが写し取った写経とともに帰国の途につき、難破し、自らの命とともに生涯をかけてなしえた仕事の成果を失います。
残ったのは、偶然にも南方に置き去りされた2箱分の写経のみです。
普照は帰国後に、この業行の姿を思い浮かべます。
これが著者なりの人生観なのかなと感じました。

井上靖の歴史小説を読みたいひとのために!
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