【SS】齊藤想『友達の種』 [自作ショートショート]
Yomebaの第18回ショートショートコンテストに応募した作品です。
ありがたいことに、優秀作に選ばれました。
テーマは「ともだち」です。
【該当ページ】
https://yomeba-web.jp/ss/ss-offer/
―――――
『友達の種』 齊藤 想
千絵は誰も信じられなかった。心美には恋心を抱いていた先輩を奪われるし、理恵子は親友のふりをながら裏で千絵の陰口を叩いている。
他の友達も、みんなダメ。千絵が悩んでいても、だれも助けてくれない。
だから高校の帰り道に、近所の園芸店で「ともだちの種」を購入した。大事に育てると友達が実るという。
園芸店の店主からは「育てるのが難しいですから、1つにしなさい」と言われたが、お小遣いをはたいて買えるだけ買った。
渡された種は七色に輝き、あんずの種ほどの大きさがあった。千絵は部屋に大型の植木鉢を並べると、さっそく種を植えた。
六畳間の窓際に、植木鉢が五個も並んだ様子は壮観だった。親から不思議そうな目で見られたが「綺麗な花が咲くの。最近はやっているんだから」とごまかした。
千絵は種の取り扱い説明書を読んだ。園芸店の店主が心配したように、とにかく手間がかかる。太陽光は必要だが、直射日光は避けるべき。乾燥は厳禁で、表土は常時適切な湿り気を与えなくてはならない。さらに温度は温かくでも寒くてもダメ。
なんと手間のかかる種なのか。千絵は植木鉢を藁で覆い、エアコンを常時オンにして、暇さえあれば霧吹きで湿り気を与えた。
高校で授業を受けている間に、母親にエアコンを切られたときは烈火のごとく怒った。
芽が出たのは一か月後だった。ほとほと疲れたので、芽が出ない四個は庭に捨てた。
芽が出てくると楽しくなる。
説明書には「愛情を注ぐほど成長する」と書いてある。千絵はひたすら芽に話しかけた。ときには一緒に音楽を楽しみ、ときには植木鉢を抱きしめながらネット映画を見たこともある。
千絵は芽に夢を託した。友達ができたら一緒にしたいこと、遊びに行きたい場所を語り続けた。理想的な友達関係や性格など、千絵の気持ちを全て注ぎ込んだ。
クラスメイトのことは無視した。たまに声をかけられても突っぱねた。いまさら何だというのよ。家に帰れば大切なともだちの芽がある。この芽さえあれば、偽物の友達は必要ない。
両親からずいぶんと心配された。部屋に引きこもって、独り言をつぶやいていると思われているらしい。
千絵は気にならなかった。もうすぐ本当の友達ができる。胸の高鳴りが、押さえきれない。
芽は順調に成長し、茎の先にほおずきのような赤い実がついた。その実がゆっくりと成長し、人形がすっぽり入るほどの大きさになった。
あともう少し。真の友達はいつ出てきてくれるのか。今日か明日か明後日か。
しかし、いつまでたっても友達がでてくることはなかった。実の色は赤を通り越して赤黒くなり、ドロドロになって崩れ落ちた。
千絵は泣いた。こんなに大事にしてきたのになぜ。
やり直そう。
千絵は庭にでて、捨てた種を探した。すると、ほおずきのような実が、四本並んで揺れていた。
千絵の愛情がないのに育っている。
庭で育ったともだちの実は、小柄だけど健康的で、千絵の目にはまぶしく映った。なにより、とても自然だった。
千絵は気が付いた。
栄養を与えすぎると、植物は根腐れを起こしてしまう。過剰な愛情は、ときに毒になるかもしれない。
同じ人を好きなるのは仕方がないじゃない。友人の悪口を言いたくなるときもあるよ。
それが普通の”ともだち”なのだから。
千絵は日常を取り戻す努力した。
学校でクラスメイトと話すようにして、笑顔を振りまいた。心美も理恵子も安心していた。心の病気だと思われていたらしい。
いままでのわだかまりが消えたわけではないけど、飲み込むことが大人になることなのかもしれない。
庭で実った四本のともだちは、仲よさそうに並んでいる。
本当はあと一本並ぶはずだった。
ゴメンね、と千絵は実たちに向かってつぶやいた。
ゆるい風が吹いた。
ともだちの芽が、千絵の言葉に頷くかのように、上下に揺れたように見えた。
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『友達の種』 齊藤 想
千絵は誰も信じられなかった。心美には恋心を抱いていた先輩を奪われるし、理恵子は親友のふりをながら裏で千絵の陰口を叩いている。
他の友達も、みんなダメ。千絵が悩んでいても、だれも助けてくれない。
だから高校の帰り道に、近所の園芸店で「ともだちの種」を購入した。大事に育てると友達が実るという。
園芸店の店主からは「育てるのが難しいですから、1つにしなさい」と言われたが、お小遣いをはたいて買えるだけ買った。
渡された種は七色に輝き、あんずの種ほどの大きさがあった。千絵は部屋に大型の植木鉢を並べると、さっそく種を植えた。
六畳間の窓際に、植木鉢が五個も並んだ様子は壮観だった。親から不思議そうな目で見られたが「綺麗な花が咲くの。最近はやっているんだから」とごまかした。
千絵は種の取り扱い説明書を読んだ。園芸店の店主が心配したように、とにかく手間がかかる。太陽光は必要だが、直射日光は避けるべき。乾燥は厳禁で、表土は常時適切な湿り気を与えなくてはならない。さらに温度は温かくでも寒くてもダメ。
なんと手間のかかる種なのか。千絵は植木鉢を藁で覆い、エアコンを常時オンにして、暇さえあれば霧吹きで湿り気を与えた。
高校で授業を受けている間に、母親にエアコンを切られたときは烈火のごとく怒った。
芽が出たのは一か月後だった。ほとほと疲れたので、芽が出ない四個は庭に捨てた。
芽が出てくると楽しくなる。
説明書には「愛情を注ぐほど成長する」と書いてある。千絵はひたすら芽に話しかけた。ときには一緒に音楽を楽しみ、ときには植木鉢を抱きしめながらネット映画を見たこともある。
千絵は芽に夢を託した。友達ができたら一緒にしたいこと、遊びに行きたい場所を語り続けた。理想的な友達関係や性格など、千絵の気持ちを全て注ぎ込んだ。
クラスメイトのことは無視した。たまに声をかけられても突っぱねた。いまさら何だというのよ。家に帰れば大切なともだちの芽がある。この芽さえあれば、偽物の友達は必要ない。
両親からずいぶんと心配された。部屋に引きこもって、独り言をつぶやいていると思われているらしい。
千絵は気にならなかった。もうすぐ本当の友達ができる。胸の高鳴りが、押さえきれない。
芽は順調に成長し、茎の先にほおずきのような赤い実がついた。その実がゆっくりと成長し、人形がすっぽり入るほどの大きさになった。
あともう少し。真の友達はいつ出てきてくれるのか。今日か明日か明後日か。
しかし、いつまでたっても友達がでてくることはなかった。実の色は赤を通り越して赤黒くなり、ドロドロになって崩れ落ちた。
千絵は泣いた。こんなに大事にしてきたのになぜ。
やり直そう。
千絵は庭にでて、捨てた種を探した。すると、ほおずきのような実が、四本並んで揺れていた。
千絵の愛情がないのに育っている。
庭で育ったともだちの実は、小柄だけど健康的で、千絵の目にはまぶしく映った。なにより、とても自然だった。
千絵は気が付いた。
栄養を与えすぎると、植物は根腐れを起こしてしまう。過剰な愛情は、ときに毒になるかもしれない。
同じ人を好きなるのは仕方がないじゃない。友人の悪口を言いたくなるときもあるよ。
それが普通の”ともだち”なのだから。
千絵は日常を取り戻す努力した。
学校でクラスメイトと話すようにして、笑顔を振りまいた。心美も理恵子も安心していた。心の病気だと思われていたらしい。
いままでのわだかまりが消えたわけではないけど、飲み込むことが大人になることなのかもしれない。
庭で実った四本のともだちは、仲よさそうに並んでいる。
本当はあと一本並ぶはずだった。
ゴメンね、と千絵は実たちに向かってつぶやいた。
ゆるい風が吹いた。
ともだちの芽が、千絵の言葉に頷くかのように、上下に揺れたように見えた。
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