SSブログ

【掌編】齊藤想『お見舞い』 [自作ショートショート]

第23回小説でもどうぞに応募した作品その1です。
テーマは「趣味」です。

―――――

『お見舞い』 齊藤想

 ぼくが頻繁に悠聖のお見舞いに行くのは、彼と仲が良かったわけでも、彼のことが好きだったわけでもない。悠聖の洋室が、この世で唯一優越感に浸れる場所だったからだ。
 悠聖の病気はプロジェリア症候群。いわゆる早老症のひとつ。悠聖はぼくと同じ小学五年生なのに幼稚園児ほどの身長しかなく、皮膚は老人のようにしわだらけだ。
 悠聖は限られた人生を、病院ではなく自宅で過ごすことを選んだ。だから、こうして気軽に顔を出すことができる。
 もう悠聖の母親とも顔なじみだ。母親はぼくの好意を微塵も疑わない。冗談めかしてお見舞いが趣味と伝えている。
 ぼくが部屋に入ると、悠聖は膝の上のパソコンを閉じて、嬉しそうに手を振った。
「やあ、渚。よく来たね。お見舞いが趣味だなんて、渚も変なヤツだなあ」
「今日はちょっと遅くなってさ」
「ははは。渚のことだから、また学校で居残りでもさせられたんだろ」
「まあ、そんなところかな」
 ぼくは軽くはぐらかした。悠聖も深くは聞いてこない。ぼくは悠聖の膝に目をやる。
「新しいパソコンを買ってもらったんだ。無趣味のお前が珍しい」
「ああこれね」彼はパソコンを開いた。
「おれも死ぬ前に趣味を持とうと思って、いろいろなひとメールをしてるんだ。いわるゆメル友というやつ」
「へえ。病気のサイトかなにかかい?」
「やだね、そんなお通夜みたいなサイトは。普通の交流サイトだよ」
 彼は、首から下を棺桶に突っ込んだような顔で笑いながら、画面をぼくに向けた。
「インターネット上では、ぼくは普通の小学五年生。ただ、ちょっと引きこもりという設定だね。病気をカミングアウトしていないだけで、ウソではないよね」
 ぼくも彼につられて笑った。
「もう、体のアチコチが痛くて動けないからさ。それで、いまひとつ困っていることがあって、聞いてくれるかな」
「ああ、なんだい」
 ぼくはベッドの脇に腰を掛けた。悠聖がいくらカッコいいことを言おうが、彼には未来がない。歩くことすらままならない。
 この部屋でしか得られない優越感。
 悠聖はパソコンの画面上で指を這わせると、ひとつのメールの上で指を止めた。
「この子と会って欲しいんだ。名前は咲良。ぼくや君と同じ小学五年生。とはいえ、自称だから分からないけど」
 そのメールには、チャーミングな女の子の写真が添付されていた。
「おいおい勘弁してくれよ。どこの誰とも知らない女子と突然会うなんて」
「この子が積極的でさあ、引きこもりをなんとか外に出したいんだと」
「なんだよそれ。引きこもり設定なら断ればいいだろ」
「大丈夫、うちの親も一緒だから。もちろん相手の親もね」
「お互いの親が理解ありすぎだろ」
 頼む、と彼は両手を合わせた。
 その姿を見ていると、とても自分の親に相談するとは言えなかった。

 当日は奇妙なことになった。
 咲良と悠聖の母親がひたすらしゃべり、ぼくと咲良はファミレスのドリンクバーのジュースを手にしながら、黙り続けている。
 そもそもぼくは陰キャなのだ。おまけに学校ではいじめられっ子。赤の他人と話せるわけがない。
 お互いに自己紹介をして、好きなことや興味のあることを話すと、会話が途切れる。
 沈黙が続き、気まずくなってきたころ、咲良は意を決したように口を開いた。
「実はね、私も悠聖君と同じ早老症なの」
 えっ、とぼくは思った。咲良はぼくが身代わりであることを知っていた。
「ただ、私はウェルナー症候群。発症は最近だから、悠聖君よりは長生きできる。悠聖君が教えてくれたけど、渚君は病気のことを良く知っているから頼りになるよって。だから、ぜひとも君に紹介したいと」
 ぼくは恥ずかしくなった。ぼくはそんな気持ちで彼に接していない。
「これは、悠聖君から渚君に伝えて欲しいと言われたことだけど」
 咲良は手紙を開いた。
「今まで言えなかったけど、渚と話すことがぼくの大切な趣味。いままで趣味につきあってくれてありがとう。この趣味は咲良に引き継いでおくからヨロシクな」
 悠聖は全て知っていた。他人との会話を求めていたのは、このぼくであることを。その上で、咲良を紹介してくれる優しさ。
 ぼくは、涙を隠しきれなくなった。

―――――

この作品を題材として、創作に役立つミニ知識をメルマガで公開しています。
無料ですので、ぜひとも登録を!

【サイトーマガジン】
https://www.arasuji.com/mailmagazine/saitomagazine/
nice!(5)  コメント(2) 
共通テーマ:

最近の金融・投資【令和5年8月第5週】 [金融・投資]

〔先週の株式市場〕
8月はずっとマイナスでしたが、最終週にプラスが続き、トータルでちょいプラスでフィニッシュ。
中国経済の悪化が明瞭になる中で、健闘といった感じです。ちなみに9月1日もプラスだったので、5日間上がりっぱなしという珍しい一週間になりました。
月末に配当金が少し振り込まれる。ただ、新規株を購入できるレベルではないので、とりあえず待機中といった感じです。

〔百十四銀行の株主優待が届いた話その1〕
頼んだ素麺セットが届いた。茹で時間は2分です。
素麺というとすぐに伸びるイメージがあったが、食べてみると思いのほか腰があってしっかりしている。
なかなか美味しいです。
小豆島は香川県なので、うどん県の一部ですね。
この腰は香川県の特徴なのかなとか思ったり。
来年は別の素麺セットを頼むかも。いろいろ選べるのが、楽しいところなので。
nice!(3)  コメント(1) 
共通テーマ: