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【SS】齊藤想『同姓同名』 [自作ショートショート]

第24回小説でもどうぞに応募した作品その2です。
テーマは「偶然」です。

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『同姓同名』 齊藤 想
 ぼくの名前は「佐藤ひろみ」だ。「佐藤」は日本で一番多い姓だし、「ひろみ」も珍しくはない。
 だから、初めての彼女が「佐藤」だったときも驚かなかったし、名前が「ひろみ」と聞いても偶然だろうと思っていた。
 だが、結婚を前提に彼女の実家に挨拶に行ったときほど、驚いたことはない。
 居間で待っていると、彼女の母親は大型な牡丹をあしらった高級そうな和服を着て現れた。母親は丁寧なお辞儀をすると、自己紹介を始めた。
「母の佐藤ひろみです」
「えっ、お母さんもひろみさんなのですか」
「そうです。ひろみの母のひろみです」
 偶然とはいえ、恐ろしい。佐藤ひろみが三人も揃うとは。
 しばらくして、いかつい顔をしたスーツ姿の男性が現れた。彼は床の間を背中にして、威厳のある様子で腰を落とす。
 未来の父は、風格のある声で挨拶をした。
「ひろみの父の、佐藤ひろみです」
「なんと、お父さんまで……」
 ひろみの父のひろみは、大きな目玉をギョロリと動かした。
「何かご不満でも」
「いえ、そういうわけでは……いやあ、佐藤ひろみが四人もそろうなんて、珍しいこともあるものだと」
 動揺を抑える間もなく、すっと、音もなく襖が開いた。今度は上品そうな老婦人が現れた。嫌な予感がする。
 老婦人は名乗った。
「ひろみの祖母のひろみです」
 またもや、ひろみだ。
「あの……苗字は」
「もちろん佐藤です。これから家族になるのですから、私の主人も紹介しますわ」
 貴婦人の後ろにいた、坊主頭の老人がチョコンと頭を下げる。
「ひろみの祖父のひろみです」
 これは現実なのか、夢なのか。ぼくが戸惑いながら頭を下げると、祖母の佐藤ひろみが口を押えながら笑った。
「ホホホ、初体面とは思えませんね。なんだか、昔からの知り合いのようで」
「ええ、私もそうに感じます。なにせ、佐藤ひろみばかりで……」
「これには理由があるのです」
 祖母の佐藤ひろみが語るには、これは名跡のようなものだという。
 数代前の「佐藤ひろみ」が佐藤商会を起こし、いまの発展の基礎を作った。それ以来、佐藤家では代々「ひろみ」と名づけることに決まったのだという。
 ぼくは疑問を口にする。
「けど、市川團十郎に本名があるように、名跡と本名は別なのでは」
「いえいえ、佐藤家では本名をひろみとすることが家法なのです。その理由はこれです」
 祖母のひろみは、盆の上に山盛りになったお菓子を差し出してきた。
「これは佐藤商会の看板商品”砂糖ひろみ”です。ひろみである以上、店主は佐藤ひろみではなくてはならないのです」
 なんと迷惑な先祖を持ったものか。
「佐藤商会の看板商品は”砂糖ひろみ”だけではありません。もうひとつの看板商品が、こちらです」
 祖母の佐藤ひろみは、柑橘系の香りのする平べったいせんべいを出してきた。
「愛媛県佐島に伝わる幻のせんべい、佐島ひろみせんべいです」
「それは”さしま”と読むのでは」
「商品名に何かご不満でも」
「いやいや、なにもありません」
 祖母の剣幕に、ぼくは後退するしかなかった。なにしろ、今日は結婚の挨拶なのだ。
「ふと思ったのですが、法律的に同じ名前を子供に付けるのは可能なのですか?」
「漢字を変えれば良いのです。戸籍にふりがなは不要ですから」
 あっ、とぼくは思った。法律上、子供に同じ名前を付けることはできないが、漢字を変えれば別名として認められる。
 ぼくが彼女に選ばれた理由も……。
「決心してくれた?」
 彼女がぼくに寄り添い、手を握ってくる。
 ここまで来たら、逃げられそうにない。開き直るしかなかった。
「里芋を練り込んだ平パスタを作りましょう。名付けて”さとひろパスタ”です」
「おお!」
 佐藤ひろみが一斉に感嘆の声を上げる。
「さすがは、佐藤ひろみ」
「君こそ真の佐藤ひろみだ」
「佐藤ひろみ万歳!」
 佐藤ひろみたちの歓声が続く中、ぼくは息子の名前を「佐藤博己(ひろみ・ひろし)」にしようと、心に誓った。

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最近の金融・投資【令和5年10月第1週】 [金融・投資]

〔先週の株式市場〕
3日プラスで2日マイナス。トータルはそれなりのマイナス。
1日で100万以上下がって、次の日に100万以上もどすというジェットコースターのような1週間。
ただ、感覚的に、しばらく弱含みで進みそう。
中国経済悪化の影響が、どこまで広がるのが読みにくいです。
ということで、年明けのNISA枠まで待ちの姿勢が自分の基本線です。
途中で気が変わる可能性も大ですが。

〔ゆうちょ銀行の株主優待が届いた話〕
ゆうちょ銀行の株主優待はふるさと便です。
ということで、名古屋の味噌煮込みうどんと、きしめんのセットを頼む。
小学校5年~中1まで名古屋在住だったので懐かしいです。
名古屋のきしめんは有名ですが、味噌煮込みうどんも名物です。
それぞれ7人前とボリュームもある。
で、食べてみましたが、ちょっとイメージと違う。半生タイプなので仕方がないかな。
味噌煮込みうどんの味噌は、名古屋らしく赤味噌ベースなので、これは良かったです。はい。
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