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【映画】ジュラシックワールド/新たなる支配者 [映画評]

ジュラシックパークから続くシリーズ総集編に相応しいオールキャスト大作です。


ジュラシック・ワールド/新たなる支配者 ブルーレイ+DVD [Blu-ray]

ジュラシック・ワールド/新たなる支配者 ブルーレイ+DVD [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
  • 発売日: 2022/12/07
  • メディア: Blu-ray



映画は複数の筋から始まります。
メインは主人公オーウェンと恋人クレア、娘メイジー(実はシャーロットのクローン)の3人の物語です。
3人は隠れて住んでいましたが、恐竜ハンターがやってきて、恐竜ブルーの子供といっしょメイジーが攫われてしまいます。
なぜ狙われたのかというと、貴重なDNAを保持しているからです。
攫われた先は、恐竜を育成しているバイオシン社です。
オーウェンとクレアはメイジを取り返すためにバイオシン社に向かいます。
もうひとつの軸は、ジュラシックパークシリーズで主演を務めたグラント博士とサトラー博士です。なんと21年ぶりの再演で、シリーズ第一作では36歳だったグラントサム・ニールももう74歳です。
DNAの改変で生まれた巨大イナゴが世界で農作物を食い荒らしていました。
しかし、彼らは特殊な種で育てられた農作物は襲いません。その農作物の種を販売しているのがバイオイン社。
このバイオシン社の野望を止めるため、バイオシン社に雇われているマルコム博士(ジュラシックパーク2の主演)と連絡を取り、グラント博士とサトラー博士は世界的名声を利用してバイオシン社に見学名目で潜入します。
こうして、この2つの軸が前半で結合し、以下はバイオシン社の野望を止めるために博士コンビがイナゴのDNAを採取して脱出、オーウェンペアはメイジーとブルーの子供を回収して共同で脱出します。
映画はとにかくオールキャストです。
ジュラシックワールドシリーズの歴代主演が勢ぞろいするのが、とにかく往年のファンにはたまりません。
スピルバーグらしい仕掛けが満載で、次々とメンバーが恐竜に襲われ、逃げたり戦ったりしながら観客をハラハラさせます。
ファン向けのくすぐりだと思いますが、インディージョーズシリーズのオマージュシーンが挟まれているのもむふふとなります(帽子を回収するシーン)。
あとジュラシックシリーズのロゴマークそのものシーンを作ったり、ラストで最強の肉食恐竜であるギガノトサウルスが倒されるのも、シリーズのお約束です。なくてもストーリーは繋がりますが、こうしたサービス精神満載なのが、スピルバーグだと思います。
テーマとしては共棲になります。
プロローグで恐竜が現世動物とともにすごす姿が描かれています。
このシーンは教訓臭いですが、全体的にエンタメに徹した楽しめる作品になっていると思います。
前2作には及ばないにしても、興行収入10億ドルのメガヒット作品で歴代興行収入映画ランキングにも入っています。

ジュラシックシリーズのファンのために!
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【書評】渡部悦和外『ロシア・ウクライナ戦争と日本の防衛』 [書評]

3人の対談ですが、全員が自衛隊元高官なので、プロ中のプロの話が聞けます。


ロシア・ウクライナ戦争と日本の防衛 (ワニブックスPLUS新書)

ロシア・ウクライナ戦争と日本の防衛 (ワニブックスPLUS新書)

  • 出版社/メーカー: ワニブックス
  • 発売日: 2022/07/11
  • メディア: Kindle版



ロシア軍のあまりの弱さについて、ざっくりと以下のように分析しています。

・兵力が少なすぎる。ウクライナ軍の5倍…95万は必要なのに投入したのは20万人。
・作戦計画がありえないほどずさん。初期目標が失敗したときの第2,第3の作戦が見られない。
・部隊同士の連携がとれていない。空爆の効果を確認してから陸上部隊を進出するのが鉄則なのに、空爆と同時に進軍している。
・大戦術大隊に編成しているが、歩兵が少なすぎるのと、指揮官が任務遂行型の訓練がなされていないため効果的に使用できていない。
・重要な軍事兵器を爆破せずに放置するなど、兵の練度が低い。

プロから見ても、ロシア軍の弱さは驚きだったようです。ロシアの独裁者であるプーチンの認知のゆがみが、この無計画な戦争を引き起こし、プーチンを恐れるがあまりだれも止めるものがいなかったというのが実情のようです。
後半はこれからの世界と日本の進む道についてです。
ウクライナ善戦の理由のひとつとして、市民の参戦があります。市民たちがロシア軍の動きを逐一報告しました。元国会議員の四十代女性も、いち兵士として戦っています。
著者たちは日本も全領域戦争への備えが必要だとときます。
軍事産業の内製化、偽情報への対処、無人兵器の導入。そして「最後まで戦う」という勇気を持つこと。
ゼレンスキー大統領のぶれない姿勢が、ウクライナ善戦の最大の力になっていると思います。

ロシア・ウクライナ戦争から日本のことを考えたいひとのために!
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創作状況【5月上旬】 [ぼくの公募状況]

今週から毎週月曜日はショートショートの公開日に固定してみたり。月4作ペースで頑張ります。

【第188回のメュー】
◆こんな公募に応募しました(第10回星新一賞の巻)
◆小説でもどうぞ!に挑戦中(第19回)
◆おまけのもう1作
◆さらにおまけのもう1作
◆公募情報9点
 今回のテクニックは、「視線の動きにあわせて描写する」です。
 次回発行は6月5日です。メルマガは無料なので、ドンドン登録してください!
https://www.arasuji.com/mailmagazine/saitomagazine/


【ショートショートガーデン】
プチコン「旅」のボツネタかな。ボツにした理由は思い出せませんが、たぶん、テーマ違いでボツにしたと思われる。
〔タンポポ〕
https://short-short.garden/S-uCTuMK


【小説でもどうぞ】
5/9締め切りのW選考委員版を優先する。テーマは「魔法」でいつものように2作書く。
ひとつはすっきりまとまったが、もうひとつで悪戦苦闘。増やしたり削ったりで、うーん、なんか軸が見えてこない。最初のアイデアと追加アイデアが融合しきれていないといいますか。
なんとかまとめて投稿しました。はい。
次は通常版の5月テーマ「祭り」ですね。ひとつは書いたが、もうひとつをどうするか。ベタにいくか、捻るのか。
おいおい考えますといいたいけど、次から次へと締め切りが迫ってくる(笑)


【yomeba!】
最近、yomeba!の更新頻度が落ちている。次回募集があるのか非常に心配……。


【星新一賞】
第10回受賞作を順番に読んでいきます。
・図書カード賞『おじいちゃんの樹』木口まこと
生物には共生菌がいます。植物の根には菌根菌がいて、それが宇宙から来た生物、というのがアイデアになります。
場所は青森のリンゴ園。そこにおじいちゃんの樹があり、1本だけ不耕起栽培しています。その理由は、根元に宇宙人が埋められているから、というのがざっくりストーリーです。
リンゴを育てる話が面白くて、てっきり本業の方かと思ってしまいました。
これ、ラストがやりすぎです(笑)


【坊っちゃん文学賞】
第19回の受賞作を順番に読んでいきます。
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/machizukuri/kotoba/bocchan.files/19th-06-yajiuma.pdf
・佳作『野次馬スター』中乃森豊
これも言葉遊び系です。野次馬に乗って野次馬が集まる……から、野次馬で実際にレースが行われる話です。
うーん、アイデアはピカ一ですが、設定にちょっと無理があるかなと。
野次馬はゴーグルをつけないと見えないのですが、それなのに野次馬が野次馬にまたがって事件現場に集まるという情景の想像がどうしてもできないのです。
レース後の弟子の行動と、冒頭との関連性も薄い。
ラストもかなり強引で、途中のストーリーが全部ふっとんでいます。薄味のだし汁にカレー粉を山盛り放り込んだ感じといいますか。
アイデアは良いのですが、活かしきれていない、という印象を持ちました。もったいない。


【NIIKEI文学賞】
締切は5月31日、制限文字数400~800字。
「にいがたアゲ」に改造するアイデアを思いついたので、さっそく実行。うーん、あんまりアゲになっていないかも。これが千葉県民の限界か。
制限文字数800字なのね。いままで500字と勘違いしていたことに、いまさら気が付くが、もういまさら。いいアイデアが浮かべば、伸ばします。はい。
https://takeaction.blog.ss-blog.jp/2023-02-16-3


【ラストで君は「まさか!」と言う】
制限文字数4000字、締切は5月31日です。
3作書くのが自分のスタイルですが、いまのところ2作。いろいろ重なっているので、あと1作は余裕とアイデアがあれば、という感じで。
https://takeaction.blog.ss-blog.jp/2023-03-11


【ひらづみ文学賞】
締切が7月31日。
創元SF短編で落選した作品を出す予定、ということで、忘れないためのメモ書きです。はい。
https://takeaction.blog.ss-blog.jp/2023-03-15-1


【超ショートショート】
2022受賞作はこちらから読めます。
https://www.ehime-np.co.jp/online/information/short_short/prize2022.html
・特別賞『交感』小石創樹<テーマ「老人ホーム」>
 入所者と職員の五感を入れ替える互換シミュレーターが実用化された話です。
 これ、アイデアが抜群に良いです。500文字という限られた中で、きっちりストーリーを書ききる筆力もあります。
 星新一賞に出してほしかったなあと思う作品です。とても感心しました。


【その他モロモロ】
・エコカレンダーの3句目を考えた。季節感はあるけど季語がない。5月26日締切です。
・おーいお茶新俳句はツバメ3句で応募しました。楽しかった。10月下旬発表。
・第9回朝礼川柳は落選しました。後日、TOP100の発表もあるそうです。
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【公募情報】第11回健康(セルメ)川柳(川柳・6/30〆) [公募情報]

主催者HPに川柳公募のコツが掲載されています。

〔主催者HP〕
http://www.jacds.gr.jp/senryu/index.html

HPを開くと、選者の尾藤先生が運営されているYoutubeチャンネルへのリンクや、川柳公募のコツを解説した動画へのリンクが貼られています。
このYoutubeが大変参考になり、川柳公募を続けるなら必聴だと思います。
前回の公募を見ると、コロナネタもありますが、時事ネタもの、時代にとらわれない作品など、非常にバランスの取れた公募という印象があります。
素直に良い作品を目指すのが、よい公募なのかもしれません。
応募締切は令和5年6月30日です!

<募集要項抜粋>
募集内容:川柳
テーマ :健康
大  賞:賞金20万円
応募締切:令和5年6月30日
応募方法:主催者HP、郵送
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【書評】松井章『環境考古学への招待~発掘からわかる食・トイレ・戦争~』 [書評]

小さなヒントから、昔の環境を浮き彫りにします。


環境考古学への招待―発掘からわかる食・トイレ・戦争 (岩波新書)

環境考古学への招待―発掘からわかる食・トイレ・戦争 (岩波新書)

  • 作者: 松井 章
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2005/01/20
  • メディア: 新書



考古学の進歩は目覚ましいです。
貝塚から発見された小さな骨から魚の種類を同定し、その大きさから漁獲方法の進化までたどることができます。
また平安時代のトイレの遺構では、発見された寄生虫の卵から寄生虫の種類を同定し、そこからウシかブタが食べられていたことを証明します。
驚いたのは、アメリカで行われた古戦場の発掘です。
1876年にインデアンとの戦いで騎兵隊が全滅した事件があったのですが、その古戦場から薬きょうを始めとする遺品を拾い、位置をおとし、さらには線状痕を分析することで銃器の数まで推定していきます。
その結果、インデアンの主要武器が弓ではなく銃器であったこと、さらには戦闘の推移までも明らかになります。
また、7400年前の墓地(ウィンドオーバー遺跡)で脳の化石が見つかった話も驚愕です。
2005年の本なので、学説は進化しているかもしれませんが、とても参考になりました。

考古学にまつわる新鮮な驚きを得たいひとのために!
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【公募情報】2023年度「井上円了が志したものとは」作品募集(作文・7/15) [公募情報]

井上円了は仏教哲学者であり、東洋大学の前身である哲学館を創設しました。

〔主催者HP〕
https://www.toyo.ac.jp/about/founder/iecp/edu/competition/

井上円了は江戸時代末期(1858年安政5年)にお寺で生まれました。
その後明治維新となり、東京大学に入学。卒業後は叙述活動に従事し、1887(明治20年)に哲学館を創設、1918年(大正7年)に61歳で亡くなりました。
著作は160冊を越え『おばけの正体』など妖怪に関する論述もあります。
公募のテーマは「井上円了の教育理念を探求し、それをいかに自らの生き方に活かしていくか」をまとめた作文になります。
参加者全員にネットギフト(図書カード500円分)がプレゼントされるのも嬉しいところです。
制限文字数は2000字、応募締切は令和5年7月15日です!

<募集要項抜粋>
募集内容:作文
テーマ :井上円了の教育理念を探求し、それをいかに自らの生き方に活かしていくか
東洋大学長賞:図書カード5万円
制限文字数:2000字
応募締切:令和5年7月15日
応募方法:主催者HP
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第64期王位戦挑戦者決定リーグ最終一斉対局 [将棋]

全局中継されるのは嬉しい限りです。

〔主催者HP〕
http://live.shogi.or.jp/oui/

[紅組]
 優勝はと豊島将之九段と羽生善治九段に絞られていますが、負けるとリーグ陥落もある大一番です。永瀬王座は前局で羽生九段相手に最後の最後で逆転した星が大きく、石井健太郎六段に勝てば残留の目が出てきます。
徳田拳士四段と服部慎一郎六段のリーグ陥落決定同士の一戦は消化試合に見せて、実は残留者決定に関わってきます。
徳田四段が勝利した場合、仮に3勝2敗で3人が並んだとしてもリーグの規定で前期成績が優先されて羽生九段の残留、永瀬王座の陥落が決まります。
 それぞれ影響のある対局結果は以下のようになりました。

●豊島将之九段(残留)  対 (優勝)羽生善治九段○ 
http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/64/oui202305080601.html

○石井健太郎六段(陥落) 対 (陥落)永瀬拓矢王座●
http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/64/oui202305080501.html

服部慎一郎六段(陥落) 対 (陥落)徳田拳士四段
http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/64/oui202305080401.html

一番の注目だった豊島―羽生戦は後手から先攻する角換わりとなり、中盤以降は攻めと守りが入り乱れる難解な局面となります。終盤になると評価値も激しく上下しますが、最後の最後で抜け出したのは羽生九段でした。歩頭角に歩頭桂の2発で豊島九段を打ち取り、これで見事紅組優勝です。恐るべし52歳です。
自身の残留があかる永瀬拓矢王座ですが、飛車を2枚重ねた8一飛車がすっぽ抜け気味で、以降は入玉こそ果たしたものの大駒4枚を取られて点数が足りずに無念の投了。2勝3敗で陥落が決定です。
服部六段と徳田四段は千日手指し直しとなり、ブログ記事を書いている時点ではまだ決着がついていません。


[白組]
 白組は佐々木大地七段が快走し、優勝は佐々木七段か3勝1敗の渡辺明名人に絞られています。佐々木七段は最終戦に勝利すると全勝で優勝決定です。渡辺名人は最終戦に勝ってキャンセル待ちです。
 リーグ残留もこの2名で決まっています。増田康宏七段と岡部怜央四段の対戦は、順位をめぐる争いです。
 さて優勝のかかる一番の結果は……

●池永天志五段(陥落) 対 (優勝)佐々木大地七段○
http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/64/oui202305080101.html

○渡辺 明名人(残留) 対 (陥落)冨田誠也四段●
http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/64/oui202305080301.html

○増田康宏七段(陥落) 対 (陥落)岡部怜央四段●
http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/64/oui202305080201.html

となり、白組優勝は全勝の佐々木七段となりました。相掛りの熱戦から評価値的には押されている場面もありましたが、タイムマネジメントもうまく中盤で逆転。見事な勝利でした。
渡辺名人は冨田四段の四間飛車にミレニアムで対抗して快勝。調子を上げてきましたが、全勝の佐々木七段には届かず残留という結果になりました。

これで王位戦挑戦者決定戦は、羽生善治九段と佐々木大地七段の対戦となりました。
5月18日の対局がいまから楽しみです!

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【児童文学】齊藤想『ししおどし』 [自作ショートショート]

これは「5分ごとにひらく恐怖のとびら 百物語」に応募した作品です。
テーマは5つから選ぶことができて(1憤怒・憎悪、2邪悪・悪意、34嘆き、不吉、5畏怖・恐れ)、本作では1憤怒・憎悪を選択しています。

―――――

『ししおどし』 齊藤 想

 とにかく郷田哲也は急いでいた。
 郷田は社会人一年目の新人サラリーマン。仕事は街の不動産屋。初めて大きな仕事をまかされて気持ちははずむが、相手との約束の日に寝ぼうする大失態をしてしまった。
 相手は、昔ながらの大邸宅に独りで住む渡辺権太という老人だ。渡辺老人は相続にそなえて自宅を売却し、老人ホームに入りたいという希望を持っている。
 郷田が渡辺老人の担当になったのは、とにかく渡辺老人の話が長いからだ。若いころは科学の教師をしていたらしく、ウンチクを語りだしたら止まらない。
 つまり、厄介者を押しつけられたのだ。
 そうしたおっくうさが、目覚まし時計のセットを忘れた原因かもしれない。
 このままでは約束の時間に遅れてしまう。 
 郷田が一分でスーツに着替えると、外に出て、自転車を全力でこいだ。
 郷田は近道をするために、いつもは通らないせまい道に自転車を向ける。道の中ほどによたよた歩く小太りのおばさんがいた。
 ギリギリ横を抜けるかな。そう思って、ペダルに力を込めたときだ。
 おばさんは貧血になったかのように、ふらついた。自転車のハンドルがおばさんのお腹にぶつかる。柔らかい中に、固い感触があった。
「だ、大丈夫ですか」
 郷田は自転車をおりて声をかけた。おばさんはお腹を押さえて苦しんでいる。ケガはなさそうだ。
「ごめんなさい。ぼく、急いでいるので、何かあったらここに連絡してください」
 郷田は名刺を渡すと、急いでその場を立ち去った。
 約束の時間にはギリギリ間にあった。
 渡辺老人の家の前で息をととのえ、汗をふき、何事もなかったのように門をくぐる。
「おお、よく来たな。いつも時間とおりで、たいしたものだ」
 渡辺老人は玄関で待っていた。
「今日も渡辺様のお話を聞きたくて」
 おせじも慣れたものだ。
 渡辺老人の家は整理が進んでいるようで、大きな家財道具は運び出され、渡辺老人自慢の骨とう品もきれいに無くなっている。
 部屋が広くなったせいか、庭にある”ししおどし”がよくひびく。
 ”ししおどし”とは、立派な庭によく置いてある装置で、竹の筒に水が流れこみ、重くなると竹の筒がお辞儀をして、戻るときにカラーンという音をだす仕組みになっている。
「このししおどしは、特別なしかけがしてあってな。テコの原理の応用なのだが……」
 郷田は、渡辺老人の話を聞いているうちに、自転車でぶつかったおばさんのことをすっかり忘れていた。おばさんに渡したのはイザというときのために作ってある偽名刺で、名前も電話番号もデタラメだ。
 その場さえしのげればいい。いままでもこうして上手く切り抜けてきた。
 渡辺老人は、急に郷田の手首をつかんできた。老人の手は氷のように冷たかった。
「つまり、テコの原理を理解すれば、弱い力でも強い力を押さえつけることができる。例えばこのように」
 老人の細腕が、軽く添えられているだけななのに、郷田は一歩も動けない。
「すごいですねえ」
 郷田は話の調子を合わせたつもりだが、急に渡辺老人の顔がけわしくなった。
「私の娘は長らく子供ができなくてなあ、ようやく妊娠したと思ったら、暴走してきた自転車にお腹をぶつけられた。おそらく流産するだろう。ぶつけられた相手は、山田太郎と書かれた名刺を残して立ちさった」
「そ、それはひどい話ですね」
 郷田の首筋から冷や汗がにじみでる。郷田がおばさんに渡した偽名刺と同じ名前だ。
「テコの原理はすごい。小さな力が何倍にもなる。人の恨みも同じだ。ひどいことをされれば、恨みは何倍にも大きくなる」
 老人の手が郷田の首に伸びる。このままでは殺される。郷田は慌てて家から飛びだすと、自転車にまたがり、全力で駆けだした。

 不動産屋の社長は、夫婦で社用車を運転していた。
「あなたも悪い人ねえ。渡辺老人が急死したことを郷田君に伝えないのだから」
「いやいや、ついうっかりな。けど、郷田君も渡辺老人の家がもぬけのからで驚いているころだろう。もしかして、渡辺老人の幽霊と長話をしているかも」
「やあねえ、そんなことがあるわけがないじゃない。この令和の時代に」
 そのとき、見通しの悪いせまい道から、自転車が飛びだしてきた。
 一瞬のあと、激しい衝突音。

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最近の日常【令和4年5月上旬】 [日常]

〔4月の株式状況〕
先月のSVB破綻に端を発した株価暴落から半分ぐらいもどす。
とはいえかなり自分の持ち株の値動きは激しく、ぐぃっと上がったと思えば、ぐぅっと下がる。
底値からはじわじわ上がっているけど、なんとなく、足元は弱い印象です。
チョコチョコあがって、どーんと下がる。またチョコチョコあがって、どーんと下がるの繰り返しといいますか。
下がったときは買うチャンスとも言えますが、かといって積極的に買いたいほど下がっているわけでもない。
中途半端な感じなので、もうしばらく様子見です。なんとなく、様子見が長くなりそうな気もしますが。

〔NTS総合弁護士法人からしつこく電話がくる話〕
複数の電話番号からかかってきて、出ると自動音声のメッセージが流れる。
まあ詐欺だろうと思って無視していると、やっぱりまた掛かってくる。おまけにショートメッセージまで送信してくる。だいたい、自動音声で連絡する弁護士など聞いたことがない。
弁護士会で検索すると、当該法人は実在しており、弁護士登録もされている。
ただネット上で見つけた体験談だと「以前の方の番号でした」とかで逃げるか、それかリアル債権回収か、といった感じのようです。
だいたい自分には未払いなどないので、何らかの書面がでてくるまでガン無視しようと思ったら、また自動音声の電話が掛かってきた。
しつこいので聞いてみたら、”こちらNTS総合弁護士法人です。(○○会社名)の債権の関係で連絡しました。○○様ですか”みたいな内容だった。
無関係の場合は0を押せというので0を押して待っていると、オペレーターと名乗る若い女性がでてきた。
「○○様ですか」というので「無関係ですし、まったく知りません」と答えると、ネット情報と同じように「以前の方の番号だったようですね」と逃げようとする。
おいおい、ちょっと待て。この電話番号はずっと変わっていない。最低でも18年以上使っている。たぶん20年は超える。少なくとも債権時効の期間よる遥かに長い。
そんなバカな話があるわけがない。
かなり強い口調で誰からどんな経緯でこの番号を知ったのか問い詰めたところ、「債権回収を請け負っているだけです。二度と連絡しません。失礼いたします」と、消え入りそうな声を残して電話を切られた。
こんな雑な弁護士の仕事はあるのだろうか? まともな弁護士法人なのだろうか?
あまりに腹が立ったので、北村晴男チャンネルに質問してみた。
採用されたらラッキーということで。
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【映画】ジュラシック・ワールド2/炎の王国 [映画評]

精密な恐竜のCGが楽しめる映画です。


ジュラシック・ワールド/炎の王国 [Blu-ray]

ジュラシック・ワールド/炎の王国 [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
  • 発売日: 2019/07/03
  • メディア: Blu-ray



ジェラシックパークから引き継いでシリーズ化されたジェラシックワールドの第2弾です。
前作で恐竜サファリ―パーク、ジェラシックワールドは壊滅し、恐竜たちはジェラシックパークがあった絶海の孤島で、自由に暮らしていました。
その孤島で火山が爆発し、オーウェン財団の傭兵たちと主人公たちで恐竜たちを助けに行きます。
ところがオーウェン財団の目的は、恐竜たちをオークションにかけて大儲けすること。
主人公たちを呼んだのは、主人公たちが飼いならしていたヴェロキラトプルのブルーを確保するためだった。
財団は前作で大暴れした人工恐竜、インドミナス・レックスとブルーのDNAを融合させることで、人間に従順な恐竜兵器を作ろうとしていた。
目的を知った主人公たちは、オーゥエン財団の野望を阻止するために立ち上がる……
というのが、ざっくりとしたストーリーです。とても分かりやすくて、すっと、物語に入っていけます。
前作に続いて、恐竜のCGが美しく、動きもこまやかです。本作で描かれている恐竜は、伝統的な姿です。
(最近は羽毛に覆われている説が強いですが)
ハリウッドらしく、主人公たちは次から次へとピンチを迎えます。
迫る溶岩からの逃走、凶悪な恐竜からの逃走、水中からの脱出、島に置き去りされそうになりながらのダッシュ、などなど。
途中でオーウェン財団の孫娘が登場します。
基本的にはオーゥエン財団の内部の悪事を観客に見せるためのキャラですが、実は祖母が娘を溺愛したばかりに、誕生させた娘のクローンという秘密を持っています。
この娘がいることで、ラストシーンとテーマにつながってきます。
「クローンでも命」
この選択が、世界に混乱を巻き起こす予兆をにおわして物語は終わります。結末は次作で、という感じです。
製作費1億7000万ドル、興行収入13億1000万ドルなので、大成功作品だと思います。
最凶の恐竜との戦いですが、展開が前作と似ており、そこが残念かも。

恐竜好きなひとのために!

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