SSブログ

【公募情報】第5回氷室冴子青春文学賞(短中編・7/2〆) [公募情報]

氷室冴子はコバルト四天王と呼ばれた小説家です。

〔主催者HP〕
https://estar.jp/official_contests/159712

デビューは1977年。そこから1995年まで活動しましたが、その後は体調を崩し、2008年にわずか51歳で亡くなりました。
18年間という作家としては短い活動期間に、突風のように現れ、突風ように去っていった印象があります。
『なんて素敵にジャパネスク』シリーズは聞いたことがあるひとが多いと思います。
主催者HPには過去受賞作と審査員評が公開されており、読むと傾向がわかるかもしれません。
制限枚数は50~150枚、応募締切は令和5年7月2日です!

<募集要項抜粋>
募集内容:短中編
テーマ :青春
大  賞:賞金20万+書籍化検討+岩見沢市にまつわる副賞
制限枚数:50~150枚(文字数の記載もありますが、枚数が無難かも)
応募締切:令和5年7月2日
応募方法:主催者HP
nice!(4)  コメント(5) 
共通テーマ:

【時代】齊藤想『赤穂浪士討ち入り前夜』 [自作ショートショート]

第18回小説でもどうぞに応募した作品その2です。
テーマは「噂」です。

―――――

『赤穂浪士討ち入り前夜』 齊藤 想

 吉良家の家老である林吉八郎は、邸内に不逞浪士がたむろする様子を見て、嘆くばかりだった。
 いくら大殿の護衛のためとはいえ、新たに雇い入れられたのは世間では極悪人と称されている犯罪者ばかりだ。
 山形悪衛門は元旗本だが、サイコロ賭博で負けた腹いせに胴元とその家族を惨殺して、公儀からのお尋ね者となっている。
 田畑吉右衛門は泥棒の常習犯で、大名屋敷も平気で入り込む。見つかると女子供もお構いなしに切り捨てることから、犯罪者仲間からも蛇蝎のごとく嫌われている。
 金沢多門に至っては幕府転覆の密計を企んだことが発覚し、町奉行が厳しい捜索を行っているところだ。
 吉良家は旗本として幕府内でも高位を占めている。
 いくら赤穂浪士が近々切り込んでくる噂があるとはいえ、不逞浪士に屋敷を守らせてどうするのか。用心棒なら高名な兵法家を呼べばよいではないか。
 悪人軍団のひとりである山形悪衛門が、はかまの裾を持ち上げて、はばかることなく吉良家自慢の池に放尿をした。
 吉八郎は山形に注意をする。
「これ、そのようなところで、いばりを飛ばすでない。お主も人間らしい行儀を覚えてももらわねば困る。雪隠は右手のすぐ裏側にあるのを知らぬのか」
「これはご家老。いまは見張り中で現場を離れられぬ。堪忍堪忍。おっと、こいつを忘れていたぜ」
 そう言いながら、悪衛門は飛騨から運んだ名石の裏側で尻をまくり上げた。
「これ何をする。時と場所をわきまえぬか」
 悪衛門はひげだらけの顔を、ゆっくりと吉八郎に向けた。
「悪いなあ、なにせ雇い主から見張りは厳重にと言われておるので、持ち場から離れられんのじゃ」
 石の裏側から大きな音がした。
 吉八郎は目を覆った。

 吉八郎は山内山杉家の元家老、竹俣右衛門を尋ねた。竹俣はすでに隠居して悠々自適の日々を送っている。
 山内上杉家の立場は微妙だった。上杉家を継いでいるのは吉良上野介の実子である。上杉家として、むざむざ主君の実父を討たせるわけにはいかない。
 かといって上杉家の家臣を吉良邸に送り込むと、浅野家と上杉家の私闘と見なされ、喧嘩両成敗で上杉家がお取りつぶしとなる可能性がる。
 苦渋の結果、隠居した元家老が個人的なツテという形で、浪士たちを吉良邸に引き入れることになったのだ。
 だが、その浪士たちがろくでもない人物ばかり。吉八郎は、その苦情を竹俣に告げにきたのだ。
 竹俣は飄々と答える。
「悪人どもは元気かえ。吉良が悪人を引き取ってくれたおかげで、江戸は平和になったともっぱらの噂じゃ。さすがは吉良どのと、町民どもはほめたたえておる」
 吉八郎は呆れかえった。
「町民の評判などどうでも良いです。問題は吉良家の体面でござる」
 吉八郎は、浪人たちの不埒な行動を言い立てた。特に目撃したばかりの山形悪衛門の行状は立て板に水とばかりにまくし立てた。
「もはや吉良家は悪人の巣窟と見られておる。屋敷周りを幕府の目明しがうろくつ。悪人を敵と憎む怪しい浪人が徘徊する。町人どもも吉良家を恐怖の目で見る。吉良家はこの視線に耐えられません」
 竹俣は火鉢に手をかざしながら、座りなおした。七輪であぶられた餅がふくらむ。
「では、吉八郎どのはこの難局をどのように乗り越えようというのかね」
「悪人どもには暇を出して、代わりに清水一角という著名な兵法家を呼びました。他にも数名、侍を雇い入れました」
 竹俣は驚いた表情をした。
「なんとバカなことを。ひとりふたりの勇士がいたところで、そんなものが役に立つか」
「剣技は十分に吟味しました。彼らは悪人どもとはちがい、本物の勇士です」
「私が言いたいのは、そのようなことではない。悪人どもがいるからこそ、幕府の目明しが目を光らせる。彼らに恨みを持つ不逞浪士が屋敷の周りを練り歩く。町人たちが警戒の目を光らせる。
 悪人たちの噂が呼び寄せる幾多の目が、赤穂浪士の行動を縛り、上野介どのを守る盾となっているのが分からぬのか」
 吉八郎は真っ青になった。
 赤穂浪士の討ち入り前夜のことである。

―――――

この作品を題材として、創作に役立つミニ知識をメルマガで公開しています。
無料ですので、ぜひとも登録を!

【サイトーマガジン】
https://www.arasuji.com/mailmagazine/saitomagazine/
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ: