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【SS】齊藤想『宇宙からのメッセージ』 [自作ショートショート]

第19回坊ちゃん文学賞に応募した作品その2です。

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『宇宙からのメッセージ』 齊藤 想

 その電波は、プロキシマ・ケンタウリの方向からやってきた。
 プロキシマ・ケンタウリは、地球から4.22光年と最も近い恒星である。近年になりプロキシマ・ケンタウリには惑星があることが分かり、しかもその惑星は水が液体で存在する可能性がある……つまり、生物が存在し、独自の進化を遂げていてもおかしくない惑星であることが判明している。
 その惑星からの電波だけに、知的生命体からのメッセージであることが期待された。
 微弱な電波を捕えるために世界中の電波望遠鏡が向けられた。各国の科学者や天文学者が集まり、地球に届いた信号を分析したところ、おぼろげながら映像が浮かび上がってきた。
 その映像は、どうやら演説会のようだった。2体の宇宙人が並んで立っており、交代で何事かを喋っている。
 宇宙人は猛禽類のような鋭いくちばしと険しい目を持ち、胴体はトカゲのようなうろこに覆われていた。裸体だと思われるが、もしかしたら、うろこのような服を着ているだけかもしれない。
 荒い映像だけでは、判別がつかない。
 どうやら右側の大柄な宇宙人がリーダーのようで、位を表すような冠をかぶり、しかも波型の棒のような武器を持っている。
 左側にいる小柄な宇宙人は奴隷のようで、たびたび大柄な宇宙人に殴られている。左側の宇宙人はへつらい、媚びるが、許してもらえない。何事かを喋るたびに、頭部や臀部を棒で叩かれる。
 あまりにショッキングな映像に、科学者たちは声を失った。
 映像を分析しているうちに、ある人類学者がひとつの説を出した。
「この電波の指向性を確認すると、地球に向けて送られているのは間違いない。虐げられている側は地球で、大柄な宇宙人は彼らを表しているのではないか。つまり、これは地球を侵略するというメッセージだと読み取れる」
 世界中が騒然とした。
 確かにその説は一考の価値があった。大柄な宇宙人が棒を振るうたびに、会場の聴衆は盛り上がった。
 彼らは暴力的である。そして、その暴力の対象を求めていることは確実だった。
 さらに映像の分析は続けられた。
 宇宙人たちの言語は解読できないが、動作で概ねの予想はついた。右側が左側に無理な要求をしているようだ。左側は何とか答えようとするが、その回答が気に入らないのか、何か話すたびに右側の宇宙人に棒で殴られる。
 ひたすらこれの繰り返しだ。
 地球人がショックを受けるなか、二人が同時に頭を下げて演説会から退場した。映像は次の二人組へと進んだが、こちらは言葉の暴力のようだった。右側が激しく何かをまくしたて、左側がひたすら謝っている。
 もちろん会場は大盛り上がりだ。
ときには三人組も登壇したが、流れは全て同じだった。 暴力が振るわれれば振るわれるほど、どやしつければどやしつけるほど、会場は盛り上がり続けた。
 地球は暗澹たる空気に包まれた。
「おれたちの言うことを聞かないと、このような目にあうぞ」
 彼らは映像を通じて、地球に伝えようとしている。そうとしか考えられなかった。
 全世界は大慌てで宇宙人の言語の分析を進めた。なにしろ、プロキシマ・ケンタウリは地球から僅か4.22光年。仮に彼らが光速の半分の速度で運航する宇宙船を開発していたら、10年も経たずに侵略軍が襲ってくる。
 その前に、彼らの言語を解読し、何らかの返信をしなければならない。喫緊の課題ではあったが、初めて接する言語体系であり、地球人とは発声器官も異なるため、解読は遅々として進まなかった。
 全世界が頭を抱えるなか、ある日本出身の科学者がこうつぶやいた。
「この映像だが、なんとなく漫才に似ていないか?」
 そのひとことをきっかけに、プロキシマ・ケンタウリ語はまたたくまに解読され、地球からは返礼の新作漫才が送信された。

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