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【SS】齊藤想『受験生の霊』 [自作ショートショート]

第25回小説でもどうぞに応募した作品その2です。
テーマは「霊」です。

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『受験生の霊』 齊藤 想

 近所に合格祈願で有名な神社ある。数千円出して絵馬を購入して奉納すると、ご霊験あらたかという評判だ。けど、お小遣いをケチって丑三つ時に進入し、他人の絵馬に自分の名前を書いてお祈りをしていたら、突如として賽銭箱の前に受験生の霊が現れた。
 霊は無断侵入を怒る気はないらしい。それどころか、おれに懇願してきた。
「なあ、君。ぼくに合格の嬉しさを味合わせてくないか」
 受験生の霊は、いかにもガリ勉でひ弱そうな顔をしている。彼は泣き始めた。
「ぼくは寝る間も惜しんで勉強したのに、大学受験に失敗した不運な浪人生だ。君の力で成仏させて欲しい」
 目の前にいるのは幽霊だ。だが、妙な現実感があって、恐怖心は微塵も湧かない。
 おれは軽く右手をふった。
「そんなこと言われても、おれは僧侶じゃないからムリだ。お坊さんに頼みな」
 彼は首を横に振った。
「僧侶のお経で成仏できなかったから、ここにいるわけで」
 あ、そうか、と納得するおれがいる。
「それに、受験生であるぼくが君に取り憑けば、いくらでも教えられるじゃないか」
 おれの心は激しく揺さぶられた。
「いちおう聞いておくが、生前の志望大学はどこだ」
 幽霊は胸を張った。
「もちろん、東大か京大だ」
 こいつは当たりだ。おれは迷うことなく、幽霊と堅い握手を交わした。
 しかし、翌日にはこの契約が失敗だったと気づかされた。この受験生は、限りなく頭が悪い。
 鎌倉幕府の成立年を聞くと「鳴くようぐいす鎌倉幕府」と答えてくる。理系かというと、四則計算すら怪しい。「すいへいリーベ……」で有名な元素周期表も覚えていない。
 歴史もダメ、数学もダメ、化学もダメ。もちろん英語も物理も古文もダメ。何が得意なのかまったく分からない。
「本当に東大、京大を目指していたのか?」
 おれが聞くと、幽霊は立腹したようだ。
「高い目標を掲げてこそ、実りある有意義な人生を送れるのではないかね」
 受験に失敗して、自殺した受験生のセリフではない。
「少しは幅を広げて、東大と京大以外も受験しておけば良かったのに」
「まあ、滑り止めという意味では、多少は」
「それはどこだ」
 おれが身を乗り出すと、幽霊は名前も聞いたこともない三流大学の名前を挙げた。おれは腰を抜かしそうになった。
「もしかして、全部落ちたのか?」
「そうだ。夢破れて、潔く自殺した。ちなみに、東大か京大に合格しないと、成仏できないからヨロシク」
 それだけ言うと、幽霊は寝転んでグラビア雑誌を開き始めた。これこそ、こいつが受験に失敗した理由だ。
 おれは参考書を床に叩きつけた。
「いい加減にしろ。本気で合格したいなら、お前も勉強しておれに協力しろ。人任せにもほどがあるだろ」
 ところが、幽霊は反撃してくる。
「生意気なことを言うな。お前だって、おれに頼ろうとした同類じゃないか」
 ぐうの音も出ない。絵馬代の数千円をケチったばかりに、とんでもない疫病神を背負わされてしまった。
「ま、いっしょに頑張ろうや。おっ、こいつは便利だな」
 幽霊は勝手にスマホをいじり始めた。おれはため息しかでなかった。

 春になった。猛勉強の甲斐があって、東大文学部に合格した。まさに奇跡だ。
「これが合格かあ。いいものだなあ」
 幽霊は赤門の前で無邪気に喜んでいる。
「合格も何も、お前はスマホで遊んでいただけじゃないか」
「何を言うのさ。このぼくがいたから、君は頑張れたのさ。やっぱり、人間は高い目標を掲げるべきだね。いやあ、いい仕事をしたなあ」
 この幽霊はひとをイラつかせる天才だ。おれは時計を何度も見た。
「そろそろ成仏できそうか」
「そうだなあ」と言いながら、彼はなかなか成仏しない。彼は構内を散歩し、安田講堂を見上げると、しみじみとつぶやいた。
「おれさあ、本当は医者になりたかったんだよなあ。人生を有意義に過ごすためには、達成した目標を捨て去って、さらに高い目標を目指すべきだと思わないかい?」
 こうして、二度目の受験勉強が始まった。

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最近の金融・投資【令和5年11月第3週】 [金融・投資]

〔先週の株式市場〕
先週の自分の持ち株状況は、3日マイナス、2日プラス。
先々週に1日にどーんと上がった日があったのだが、先週はそれとほぼ同額が1日でどーんと下がってもとに戻る。
株なんてそんなもの。とはいえ、月単位ではとりあえずプラスをキープしているみたいな。
金融株はちょっとしたことで敏感に反応するので、波が激しいです。
もうちょっと持ち株のバランスを考えないとと思いつつ。

〔ヒューリックの株主優待でシブーストが届いた話〕
今年から2点もらえるようになったので、シブーストを頼んでいたのだが、忘れたころに届きました。
一度、発送時期が遅れる旨のハガキが届き、ずいぶんと対応がマメだなあと思っていました。
シブーストは1840年頃、パリのサントノレ通りに菓子店を開いていた菓子職人シブースト、あるいはその弟子のオーギュスト・ジュリアンが考案したそうです。
こうしたデザートを知ることができるのも、株主優待の楽しみだったり。

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