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【ミステリ】齊藤想『告発』 [自作ショートショート]

第6回小説でもどうぞW選考委員版に応募した作品です。
テーマは「家族」です。

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『告発』 齊藤 想

山村警察署長 様

 いつもお世話になっております。
 この手紙を書くことに躊躇していましたが、市民の義務として告発します。
 私の母は殺人犯です。二十年前に発生した山村大学教授一家殺人事件の真犯人です。
 子供のときから、母には違和感を持っておりました。人前にでることを極端に嫌がり、名乗るときはいつ偽名でした。仕事を転々として、自宅周辺に警察の姿が見えるようになると、前触れもなく引越しです。友達を作る暇もありません。
 収入は限られているのに、生活保護は受けません。健康保険証もないので、病院にもいかせてくれません。絵にかいたような極貧生活でした。
 こうした奇妙な生活も、母のプライドだと信じていました。ひとから施しを受けたくないという気高い精神と思い込んでいました。
 違うということに気が付いたのは、押し入れから出てきた新聞の切り抜きの山です。その切り抜きは、山村大学教授一家殺人事件の記事で埋まっていました。
 新聞によると、殺人事件の犯人は逮捕されて死刑が確定しています。しかし、途中から容疑者は冤罪を訴え始め、死刑確定後も再審請求を繰り返しているそうです。
 犯人が冤罪を訴え始めた時期と、母が逃亡生活を始めた時期が一致します。
 それで、いままでの違和感が全て繋がりました。母は山村大学教授一家殺人事件の真犯人です。容疑者が冤罪を訴え始めたことで危機感を覚えて逃げ出したのです。
 私は母に幻滅しました。母は気高い精神の持ち主でもなんでもありません。他人に罪を擦りつけて逃げ続ける卑怯者です。
 とはいえ、子供だった私は母を失うのが怖く、いままで口を閉ざしていました。
 子供だった私も大人になり、母から独立して社会人になりました。
 事件当時は殺人罪に時効がありましたから、時効が成立しているかもしれません。しかし、市民の義務として、母の罪を告白します。そして、いままで母の罪を隠してきたことを謝罪いたします。
 被害者の遺族たちには、向ける顔もありません。私も卑怯者のひとりです。

 田中 様

 山村警察の元所長であり、当時事件を担当していた坂内です。いまは警察ОBとして警察官にアドバイスをする立場にあります。市民からの勇気ある告発に感謝いたします。
 個人情報保護法の制約はありますが、お母様のためにも真実を伝えた方がいいと思いまして、手紙を差し上げることにします。
 山村大学教授一家殺人事件はすでに完結しております。お母様が罪に問われることはありません。
 現場からすると、実に簡単な事件でした。
 犯人は大学生でした。動機は単位を落として内定が取り消しになった逆恨みという情状酌量の余地もないものです。  
 状況からして単独犯ですし、そのことは逮捕された犯人も認めていました。
 ところが、裁判が進んで死刑判決が確定しそうになると、ある女性から「共犯である」旨の通報があったのです。犯行を共謀したかのような手紙や、それらしい証拠も添えられていました。
 その女性こそ、貴方のお母様です。同じ時期に、犯人も冤罪を訴え始めます。
 改めて事件が洗い直され、念のために警察が動き始めると、お母様は幼い娘を連れてどこかに消えました。
 警察の動きが鈍くなると、また警察に手紙を送りつけてきます。
 なぜお母様は、このような奇妙な行動を取ったのでしょうか。
 ここからは私の推測です。
 お母様は、犯人の恋人だったのではないでしょうか。死刑判決が確定しても、共犯者の裁判が終わるまで死刑執行はされない実態があります。死刑囚の証言が、共犯者の判決に影響を与える可能性があるためです。
 だからお母様は、恋人の死刑執行をさせないように、自ら共犯者と名乗り、死刑執行をの妨害をしたのだと思います。
 警察の立場からすると困ったことですし、容認できることではありません。けど、個人的な心情としては、お母様の気持ちも理解できる気がします。 
 田中様は、お母様からお父様の話は聞いたことがありますか?
 私も同じですが、年を取ると昔話がしたくなるものです。ぜひとも、昔話に耳を傾けてあげてください。
 お母様のご健康と長寿を祈りまして。

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最近の金融・投資【令和5年12月第3週】 [金融・投資]

〔先週の株式市場〕
自分の持株は2日プラス3日マイナスですが、マイナスの日の値動きが大きくて、激しくマイナスです。
相変わらず日経平均と連動しない自分の持株ですが、やはり業界が偏っているのだろう。
配当重視だと金融系と不動産系に偏ると言いますか。
なので、年明けのNISA枠では金融系と不動産系以外から物色することにする。
といいつつ、金融系を買い増ししてしまいそうですが。

〔三菱商事のカレンダーが届いた話〕
三菱商事は2代目社長岩崎彌太郎が収集した美術品を中心とする、清嘉堂文庫美術館を運営しています。
その質、量はさすがは天下の三菱です。
その美術館の逸物がプリントされた卓上カレンダーが毎年届きます。
これがまた使いやすくて、職場のテーブルのシートの下に挟んでいます。美術品の説明も楽しみです。
カレンダーが届くと年末だなあと思う、このごろです。
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