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【SS】齊藤想『ジョークゲーム』 [自作ショートショート]

第26回小説でもどうぞに応募した作品その1です。
テーマは「冗談」です。

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『ジョークゲーム』 齊藤 想

「これで遊ぼうよ」と言いながら、妹がアンティークなボードゲームを持ってきた。そのゲームは細密な装飾が施された木箱に収納されており、表面にはジョークゲームと書かれている。
 妹の話によると、祖母の家の倉で眠っていたものらしい。
「まあいいけど」
 そう言って木箱を開くと、それは双六のようなゲームだった。サイコロを振るたびに白いカードを引き、そこに書かれているジョークで相手を笑わせたらコマを進めることができるとある。
「細かいことはプレイしながら覚えるか」
 深く考えることもなく、ぼくはコマを選んでサイコロを振った。2だった。ルールに従って白いカードを引くと、そこには「イカいかが?」と書かれている。
 これを口にするのか。少し照れながら読み上げると、なぜか妹は爆笑した。
「それ、面白い!」
 本当かよ、と思ってコマを進めようとすると、なぜかコマが自動的に動きだす。
 ぼくは妹と目を合わせる。仕掛けはなにもにないはずなのに。
 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。応対に出た妹が戻ってくると、両手にイカが握られている。
「お隣さんが、イカのおすそ分けだって」
「まさに、イカいかが、か……」
 単なる偶然に違いない。ぼくはそう心の中で念じながら、妹がサイコロを振る様子を眺めた。3だった。妹がカードを引いて、力強く読み上げる。
「ふとんが、ふっとんだ!」
 下らない。頭ではそう思っていても、なぜか口元が緩んでしまう。
「あー、お兄ちゃんが笑った!」
 妹がはしゃぐと同時にコマが動き、突風が窓ガラスを叩いた。慌ててベランダを見ると、見事に布団が隣の庭まで吹っ飛んでいる。
「このゲーム面白いね」
 妹は無邪気に喜んでいる。ぼくは気味が悪くなった。そもそも、なぜ祖母がこんなゲームをもっていたのだろうか。
「今度はお兄ちゃんの番だからね」
「あ、うん」
 戸惑いながら、ぼくはサイコロを振る。今度は6だ。ゴールは遠い。
 カードをめくると、そこには「バスガス爆発」と書かれている。
 これは早口言葉だ。ジョークではない。
 そう思いながら口にしようとすると「バスカスパスはふ」とか「ガスバフハフハツ」とか妙な言葉ばかりでてくる。
 妹が大笑いすると、どこかで大きな爆発音がした。慌ててテレビを付けると、しばらくしてLNGバスの爆発事故が発生したとのテロップが流れ始めた。
 これは大変なことになった。勝手に動くコマを見ながら、ぼくはサイコロを持つ妹の手を止めた。
「このゲームを続けると、世の中はメチャクチャになる。冗談ではすまされない」
「ダメだよ、最後まで続けないと。お兄はいつもそう。すぐに投げだそうとする。ほら説明書を見て」
 そこには、ゲームを中断するのは禁止と書かれている。妹はぼくの手を振り払うと、サイコロを投げてカードをめくった。
「父さんの会社が倒産した」
 笑えない。まったく笑えないし、笑ってはいけない。それなのに、まるで呪われているかのように、自分の顔が笑い出す。
 玄関のドアがあく。なぜか父がいる。
「実は、大事な話があるんだ……」
 その先は言わなくても分かる。ぼくは妹に向き直った。
「早くゲームを終わらせよう。そうしないと世界が崩壊する」
 妹は素直にうなずいた。二人で必死にサイコロを振る。二人が笑うたびに、少しづつ世の中が崩れていく。
 幸いなことに、地球が崩壊する前にぼくのコマがゴールに到達した。
 ぼくと妹は、祖母に電話してジョークゲームの由来を聞いた。このゲームは先の大戦時に作られたという。
 笑顔がなくなった時代に、少しでも「子供たちに笑顔を」という願いを込めて、祖母の父、つまり曾祖父が作ったそうだ。
 笑いたかった子供たちの心が、ゲームの中に詰まってる。それが、不思議な力の源だったのかもしれない。笑顔はみんなを元気にする。そう祖母は言った。
 ぼくと妹の視線は、無職になって落ち込む父の元へと向かう。妹が父の手もとにゲームを置く。
「みんなで笑えばなんとかなるよ。たまには一緒にゲームでもどう?」

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最近の金融・投資【令和5年12月第1週】 [金融・投資]

〔先週の株式市場〕
先週の自分の持ち株は、4日プラス、1日マイナス。ですが、1日のマイナスが大きくてトータルマイナス。
まあ、こんなときもあります。
11月の月トータルはそこそこのプラス。
喜ぶべきなのか、よく分かりませんが。

〔さあ、株の時間です♪11の話し〕
量子電池による株式投機の続きです。
期待値による爆上げからナイアガラの滝と、期待先行銘柄なので激しい値動きに主人公はフラフラになります。
けど、この爆上げ株を手にしてしまったら、その会社が開発している商品が実用化には遠い代物でも、そりゃ夢中になりますよなあと思ったり。
素人が手を出すような株ではありませんが、他人がしている分には面白い。
あくまで観客席からの感想ですが。

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