【SS】齊藤想『試されるとき』 [自作ショートショート]
第26回小説でもどうぞに応募した作品その2です。
テーマは「冗談」です。
―――――
『試されるとき』 齊藤 想
全ては誰かが新課長に「田中は冗談が得意だ」と吹き込んだのが原因だ。余計な一言さえなければ、試されることなどなかったのに。
話はこうだ。
四月恒例の歓迎会当日、終業直前にお得意様から電話が入り、自分と着任したばかりの頭髪が少し寂しい新課長だけ、少し遅れて参加することになった。
「これ、会場の地図だから」
幹事からメールされたのは、居酒屋が入っているビルに丸がしてある地図だけ。
自分も地元ではない。必然的に、スマホを片手に課長と駅前をさまようことになる。
課長はフレンドリーさを演出したいのか、歩きながら妙に話しかけてくる。
「ところ、で君は冗談が得意で、同僚たちを笑わせるのが好きだと聞いたぞ」
課長がこれみよがしに、まばらになった前髪を、まるでイケメン俳優のように何度もかきあげる。まるで、いますぐ弄ってくれと言わんばかりに。
「いやいや、そんなことありませんよ」
嫌な予感がして、ぼくは自分の前髪のようにサラっと流そうとした。だが、新課長はしつこく追求してくる。
「前任者から聞いたが、君が口を開けばだれもが爆笑。このたぐいまれなるユーモアセンスで、顧客からの評判も上々だとか」
またもや薄い頭髪をかきあげる。課長の頭頂部がネオンライトを反射する。
ぼくは課長の頭から目をそらしながら、なんとか目的地に到着した。
だが、これこそ罠だったのだ。
ビルのテナントを何度探しても、目指す居酒屋の名前がない。それどころか、ここは「増毛」の宣伝をしている某企業の入口だ。
「おう、ここかあ。けど、飲み屋の雰囲気はないなあ、不思議だなあ」
新課長はニコニコしながら、地肌が丸見えの頭頂部を叩きながら、話し続ける。
「ここでいいんだよなあ。地図通りだもんなあ、おかしいなあ」
素なのかボケているのか判断がつかない。
「ねえ君い。ここに来たからには、何かいうことがあるだろ」
新課長の頭部がキラリと光る。
もしかして、これは試されているのだろうか。何か冗談を言わなければらないのか。しかも、課長の頭髪をネタにして。
明らかに課長は期待している。どこまで赦されるのか。どこまでセーフなのか。事前情報は何もない。一発勝負。なんという最悪な追い込まれ方だ。
自分は恐るおそる、思いついた冗談を口にした。
「ここじゃあ、勧誘されちゃいますよ」
新課長は奇妙な顔をした。けど、少しして笑顔になった。
「余計なことを言わなくとも、行きたいのなら付き合うぞ」
自分はフサフサしている。意味が分からないままに、乾いた笑いでごまかす。課長はため息をついた。
「それなら、いいのだが。それに、ここはビルの裏手だ。早く表口に回ろう」
気が付いていたなら、早く言ってくれればいいのに。そう思いながら、ぼくは課長と踵を返した。
最近の若者は度胸がない、と新課長は嘆いていた。
たまたま少し遅れて若手の係長と一緒に歓迎会への会場へと向かったのだが、彼はなぜかビルの裏手へと回り始める。
何かあるのだろう。そう思ってついていくと、係長はビルの入口でドギマギしている。
なんのことはない。誘われたビルの裏手の看板を見ると、水商売の店が並んでいる。迷ったふりをして、ここに誘いたかったのだ。
「おう、ここかあ。けど、居酒屋の雰囲気はないなあ、不思議だなあ」
とりあえず係長に話を合わせてみたが、彼はモジモジしている。これが最近の若者か。しかたがない。もう少し背中を押すか。
「ねえ君い。ここに来たからには、何かいうことがあるだろ」
ここまで誘い水をかけたのに、係長は顔を真っ赤にしながら、妙なことを口走った。
「ここじゃあ、勧誘されちゃいますよ」
お世辞にも冗談にもならない。私が女の子から誘われるのは、財布が目当てだ。
「余計なことを言わなくとも、行きたいのなら付き合うぞ」
係長は乾いた笑いで返した。最近の若者はここまで話が通じないとは。もうため息しかでない。
「それなら、いいのだが。ここはビルの裏手だ。早く表口に回ろう」
係長は自分のあとをついてくる。こういうときこそ、冗談を言って欲しいものだが。
―――――
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テーマは「冗談」です。
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『試されるとき』 齊藤 想
全ては誰かが新課長に「田中は冗談が得意だ」と吹き込んだのが原因だ。余計な一言さえなければ、試されることなどなかったのに。
話はこうだ。
四月恒例の歓迎会当日、終業直前にお得意様から電話が入り、自分と着任したばかりの頭髪が少し寂しい新課長だけ、少し遅れて参加することになった。
「これ、会場の地図だから」
幹事からメールされたのは、居酒屋が入っているビルに丸がしてある地図だけ。
自分も地元ではない。必然的に、スマホを片手に課長と駅前をさまようことになる。
課長はフレンドリーさを演出したいのか、歩きながら妙に話しかけてくる。
「ところ、で君は冗談が得意で、同僚たちを笑わせるのが好きだと聞いたぞ」
課長がこれみよがしに、まばらになった前髪を、まるでイケメン俳優のように何度もかきあげる。まるで、いますぐ弄ってくれと言わんばかりに。
「いやいや、そんなことありませんよ」
嫌な予感がして、ぼくは自分の前髪のようにサラっと流そうとした。だが、新課長はしつこく追求してくる。
「前任者から聞いたが、君が口を開けばだれもが爆笑。このたぐいまれなるユーモアセンスで、顧客からの評判も上々だとか」
またもや薄い頭髪をかきあげる。課長の頭頂部がネオンライトを反射する。
ぼくは課長の頭から目をそらしながら、なんとか目的地に到着した。
だが、これこそ罠だったのだ。
ビルのテナントを何度探しても、目指す居酒屋の名前がない。それどころか、ここは「増毛」の宣伝をしている某企業の入口だ。
「おう、ここかあ。けど、飲み屋の雰囲気はないなあ、不思議だなあ」
新課長はニコニコしながら、地肌が丸見えの頭頂部を叩きながら、話し続ける。
「ここでいいんだよなあ。地図通りだもんなあ、おかしいなあ」
素なのかボケているのか判断がつかない。
「ねえ君い。ここに来たからには、何かいうことがあるだろ」
新課長の頭部がキラリと光る。
もしかして、これは試されているのだろうか。何か冗談を言わなければらないのか。しかも、課長の頭髪をネタにして。
明らかに課長は期待している。どこまで赦されるのか。どこまでセーフなのか。事前情報は何もない。一発勝負。なんという最悪な追い込まれ方だ。
自分は恐るおそる、思いついた冗談を口にした。
「ここじゃあ、勧誘されちゃいますよ」
新課長は奇妙な顔をした。けど、少しして笑顔になった。
「余計なことを言わなくとも、行きたいのなら付き合うぞ」
自分はフサフサしている。意味が分からないままに、乾いた笑いでごまかす。課長はため息をついた。
「それなら、いいのだが。それに、ここはビルの裏手だ。早く表口に回ろう」
気が付いていたなら、早く言ってくれればいいのに。そう思いながら、ぼくは課長と踵を返した。
最近の若者は度胸がない、と新課長は嘆いていた。
たまたま少し遅れて若手の係長と一緒に歓迎会への会場へと向かったのだが、彼はなぜかビルの裏手へと回り始める。
何かあるのだろう。そう思ってついていくと、係長はビルの入口でドギマギしている。
なんのことはない。誘われたビルの裏手の看板を見ると、水商売の店が並んでいる。迷ったふりをして、ここに誘いたかったのだ。
「おう、ここかあ。けど、居酒屋の雰囲気はないなあ、不思議だなあ」
とりあえず係長に話を合わせてみたが、彼はモジモジしている。これが最近の若者か。しかたがない。もう少し背中を押すか。
「ねえ君い。ここに来たからには、何かいうことがあるだろ」
ここまで誘い水をかけたのに、係長は顔を真っ赤にしながら、妙なことを口走った。
「ここじゃあ、勧誘されちゃいますよ」
お世辞にも冗談にもならない。私が女の子から誘われるのは、財布が目当てだ。
「余計なことを言わなくとも、行きたいのなら付き合うぞ」
係長は乾いた笑いで返した。最近の若者はここまで話が通じないとは。もうため息しかでない。
「それなら、いいのだが。ここはビルの裏手だ。早く表口に回ろう」
係長は自分のあとをついてくる。こういうときこそ、冗談を言って欲しいものだが。
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最近の金融・投資【令和5年12月第2週】 [金融・投資]
〔先週の株式市場〕
自分の持株は4日マイナス1日プラス。ということで、かなりのマイナス。
日経平均も乱高下だが、自分の持株はドーン、ドーンと下がっている感じです。
ただ、自分が購入しようと思っている株もおかげで配当利回りが上昇した感じなので、あとは年明けまでこの水準より上がらなければいいなあとか思っていたり。
NISAの枠をもらったら、いろいろ買増しを検討中。
〔配当金データを更新した話〕
配当金データを5月に更新したが、12月に再び更新する。5月と比べると自分の持ち株全体で3~4%ほど上昇している。昨年ほどではないが、やはり配当金が増える傾向は変わっていない。ありがたいことです。
ただ、なんとなく来年がピークかな、という感じがしないでもない。あくまでなんとなくの感覚ですが。
自分の持株は4日マイナス1日プラス。ということで、かなりのマイナス。
日経平均も乱高下だが、自分の持株はドーン、ドーンと下がっている感じです。
ただ、自分が購入しようと思っている株もおかげで配当利回りが上昇した感じなので、あとは年明けまでこの水準より上がらなければいいなあとか思っていたり。
NISAの枠をもらったら、いろいろ買増しを検討中。
〔配当金データを更新した話〕
配当金データを5月に更新したが、12月に再び更新する。5月と比べると自分の持ち株全体で3~4%ほど上昇している。昨年ほどではないが、やはり配当金が増える傾向は変わっていない。ありがたいことです。
ただ、なんとなく来年がピークかな、という感じがしないでもない。あくまでなんとなくの感覚ですが。