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【映画】マスター・アンド・コマンダー [映画評]

19世紀のイギリス軍艦を舞台にした、アカデミー賞10部門ノミネートの名作です。


マスター・アンド・コマンダー [Blu-ray]

マスター・アンド・コマンダー [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
  • 発売日: 2022/10/07
  • メディア: Blu-ray



舞台はナポレオン戦争中(1805年)のイギリス軍艦です。
主人公はフリゲート艦サプライズの艦長を務めるオーブリーです。
彼はフランス海軍の私掠船アケロン号の拿捕命令を受けていますが、アケロン号はサプライズ号より新しく、火力速力防御力ともに上回る強敵です。
オーブリーは2回も待ち伏せを食らい、手痛いダメージを受けますが、機智を発揮して辛うじて脱出します。
修理後、再びアケロン号に立ち向かう、というのが大まかな流れです。
ここにオーブリーの親友であり、軍医かつ博物学者であるマチュリンとの葛藤、片腕を失った少年兵の物語が絡みます。
とにかくリアルです。
当時の船は帆船で、多くの船員が帆を広げることで船を動かします。大砲も据え付け式ではなく、撃つと後ろに下がるためまた元にもどす必要があります。
そうした描写だけでなく、乗組員たちの疲労感、汚さが、当時の船員たちの過酷な環境を思い起こさせます。
もちろん幹部たちも着替えがあるわけではないので、立派な軍服ですがヨレヨレです。
人間関係もドロドロした部分があります。
冒頭で見張りを失敗した若い幹部は、船員たちから陰口をたたかれ「呪われている」と忌み嫌われ、自殺してしまいます。
船長は強い責任感で船内の絶対君主として君臨し、次々と指示を出していきます。
物語のメインとしては、強敵であるアケロン号をどう倒すかなのですが、映画の魅力としてはむしろ当時を再現した様々な描写なのかなと思います。
原作者のパトリック・オブライアンですが、19世紀初頭の生活、文化、海軍や帆船に対する知識が豊富で、現先にはかなりマニアックな用語が多用されるそうです。
原作にそれだけのバックボーンがあるから、映画でもこの描写になったのだと思います。
構成として主人公とマチュリンとの葛藤が中心になっています。
任務第一優先の主人公が、マチュリンの負傷を受けて休息を決意し、そこから和解、さらにはクライマックスへと流れていきます。
ラストには次回作に繋がりそうなどんでん返しも配置されています。
アカデミー賞10部門ノミネート2部門受賞ですが、収益的には製作費1億50百万ドルに対して2億12百万円と大苦戦。
おそらく赤字ではないかと思います。残念。

19世紀のリアルな海戦映画を楽しみたいひとのために!
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【書評】森田芳雄『ラサ島守備隊記』 [書評]

沖縄南部の孤島、ラサ島に配属された隊長の記録です。


ラサ島守備隊記

ラサ島守備隊記

  • 作者: 森田 芳雄
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2021/03/12
  • メディア: 単行本




ラサ島とは通称で、正式名称は沖大東島です。
沖縄本島から南東に伸びる大東諸島の南端の位置にあります。
著者がラサ島への配属命令を受けたのは、戦局の厳しさが増してきた昭和19年3月です。
新たな任務に就く希望と同時に、攻撃されたら玉砕するしかない絶望といった相反する感情を胸に抱きます。
しかし、人間とは面白いもので、目的を持つと絶望感が薄れ、とにかく目の前に課題に一生懸命になります。
僅か1個小隊の兵力ながら、民間人の協力を得て堅固な陣地を築き、いつしか自信を持つようになります。と同時に、米軍はラサ島に上陸することはないだろうという予測も頭にありました。
しかし、現実はきびしいです。
艦砲射撃には手も足も出ず、ついに死者が出て、戦場の現実に引き戻されます。艦載機からの機銃掃射にもやられっぱなしですが、反撃し、1機撃墜したと大喜びします。
そうしていつか米軍はラサ島を素通りし、守備隊は戦争から取り残され、そして終戦を迎えます。
実は米軍はラサ島を本格的に攻撃するつもりはなく、訓練として攻撃したそうです。

民間人との交流も盛んで、彼らの命を助けるために、著者は上層部と掛け合ってなんとかして退去してもらいます。
この本には1人の死に嘆き、命を大切にする普通の中隊長の姿が描かれています。
激戦地ではない戦場もたくさんあったと思います。
むしろ、こうした戦場の方が多かったのかもしれません。

貴重な記録を読みたいひとのために!
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