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【映画】善き人のためのソナタ [映画評]

アカデミー賞外国語映画賞を初めてとして、受賞歴多数の隠れた名作です。


善き人のためのソナタ [Blu-ray]

善き人のためのソナタ [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ギャガ
  • 発売日: 2023/02/03
  • メディア: Blu-ray



舞台はベルリンの壁崩壊を間近に控えた1984年の東ドイツです。
東ドイツには悪名高い国家保安局があり、国民を厳しく監視していました。
主人公は敏腕局員のヴィースラー大尉です。
彼は反体制の疑いのある劇作家ドライマンと、恋人の女優クリスタの監視を命じられます。
ドライマンとクリスタは自由を求めています。
対するヴィースラーは国家に忠誠を誓いながらも、疑問と孤独を深めていきます。
ドライマンが恋人とセックスを楽しむのを聞いて、ヴィースラーはコールガールを呼びますが、当然ながら心の渇きは癒されません。
いつしかヴィースラーは報告書に手心を加えて、ドライマンをかばおうとします。
西ドイツで東ドイツの自殺者統計に関する記事が発表されます。
国家保安局は執筆者としてドライマンに疑いの目を向け、ヴィースラーは危機に陥ります。
国家保安局はドライマンの恋人を逮捕し、ヴィースラーに尋問させます。ヴィースラーは彼女から証拠となるタイプライターの隠し場所を吐かせます。
そして国家保安局はドライマンのアパートへと向かいます。
という感じの話です。
当時の東ドイツの雰囲気がよくでている作品だと思います。
東側諸国では優等生の東ドイツですが、その体制は抑圧的で、国民は自由を求めています。
主人公は国家に忠誠を誓いながらも、疑問を感じ、クールな表情とは裏腹に心情はゆれ続けます。
そして自由を求める彼らにあこがれの気持ちが芽生えます。
そうした気持ちの揺れがよくでている映画です。
前半はヴィースラーがドライマンをどう扱うかでドキドキして、後半は危機に陥ったドライマンをヴィースラーがどう救うかでドキドキします。
この分岐点は、ドライマンが上司に呼び出されたシーンで、ここがミッドポイントにあたると思います。
プロローグはベルリンの壁が崩壊したあとになります。
ドライマンが新作を出版し、ヴィースラーは購入するのですが、店員から「ギフト用ですか?」と聞かれて
「これは私のための本だ」
という返答がダブルミーイングで、決まっています。
製作費2百万ドルと低予算ですが、興行収入77百万ドルと38倍も稼ぎました。
主演のウルリッヒ・ミューエは東ドイツ出身ですが、映画公開の翌年に54歳で急逝しました。胃癌だそうです。ご冥福をお祈り申し上げます。

東ドイツを舞台にした名作映画を楽しみたいひとのために!
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【書評】槇幸『潜水艦気質よもやま物語』 [書評]

よもやま物語リリーズの第37巻です。


潜水艦気質よもやま物語 (〔正〕)

潜水艦気質よもやま物語 (〔正〕)

  • 作者: 槙 幸
  • 出版社/メーカー: 光人社
  • 発売日: 1985/12/01
  • メディア: 単行本



著者は伊25潜に聴音担当者として乗り込み、3回の出撃とも生還に成功します。
第1回が真珠湾攻撃に呼応し、ハワイ沖に進出してからオーストラリアまで転進し、搭載された飛行機で偵察任務をこなします。
第2回はアメリカ西海岸の奇襲砲撃、第3回は同じくアメリカ西海岸への奇襲空爆です。
奇襲砲撃や空爆は、アメリカが覇権を握ってから、テロを除いてアメリカ本土が攻撃された唯一の例です。
潜水艦の生活ですが、実際に勤務していただけに、具体的です。
ほとんどが日常の連続で、トビウオを捕まえたり、たまたまいた鳥を捕えて飼育したり、戦友とバカ話に興じたり、ほのぼのとしたものです。
潜水艦は沈むときは一蓮托生なので家族的雰囲気が強く、階級による上下意識が薄く、それをみんな楽しんでいるようです。
昼の潜航中は暇なのでみんな寝て、夜になると浮上して交代で見張りをする。
こうした日常も、ミッドウェーで大敗し、戦況が逼迫してくると、だんだんと危険な場面が目立ってきます。
一瞬の差が生死を分け、沈没する敵船に無常の思いを感じたり、日本が近づくと安堵したりと、人間らしい感情が淡々としたタッチの中で描かれていきます。
舞台となった伊25潜ですが、著者が退艦した次の出撃で沈没します。本当に運命は紙一重です。
このころの本は、著者の住所が書いてあります。
試しにYahoo地図で調べてみたら、いまは更地になっていました。時代の流れを感じます。

潜水艦乗りの気持ちを知りたいひとのために!
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