【ホラー】齊藤想『サードウェイブ』 [自作ショートショート]
5分ごとに開く恐怖のとびら百物語 原稿募集に応募した作品です。
テーマが何個かあり、本作は「不吉」を選んでいます。
―――――
『サードウェイブ』 齊藤想
君は、「サードウェイブ実験」を知っているだろうか。
いまから半世紀以上前にアメリカの高校で行われた実験で、たったの五日間で、学校中を全体主義に染めてしまったんだ。
全体主義が分からないって?
それは、いまからぼくのクラスで起こったことを聞いてくれれば、分かると思う。
最初はささいな提案だった。
週1回の自由学習の時間にクラスで何をしようかと話し合い、「エコポイント・レベルで競争しよう」と決まったんだ。
ルールは簡単。エコな行動をすると、シールをひとつ貰える。シールが溜まればたまるほどレベルアップする。
その成果を、次の自由学習の時間に発表することになったんだ。
地球環境のためだ。みんなが賛成したことは言うまでもない。
提案した学級委員長の女子は、さらにこうつけ加えた。
「みんなでエコポイントを貯められるように、エコでない行動をしたクラスメイトには注意してあげましょう」
あたり前の提案のように思えた。もちろんクラス全員が賛成した。先生も満足そうにうなずいていた。
翌日からエコポイント競争が始まった。
教室の電気を消したら1ポイント。給食を残さず食べたらポイント。しずくがたれている蛇口を止めても1ポイントだ。
最初はみんな楽しんでいたけど、途中からギスギスした雰囲気になってしまったんだ。
同級生が工作用具を入れるために、ビニール袋を持ってきた。すると、誰かが「こいつはエコじゃない!」と指をさしながら、注意をしたんだ。
このビニール袋が問題となり、彼のエコポイントははく奪されることがクラスで決まってしまった。彼には「ビニール男」なんてあだなまでつけられた。
同級生は泣いていたよ。たかがビニール袋ひとつなのに、って。
掃除のとき、バケツにたくさん水を汲んだ女子がいた。もちろん一所懸命掃除をするためだ。それなのに、彼女にも「エコじゃない」と心ない非難があびせられて、彼女のエコ・レベルもはく奪されてしまった。
もう完全ないじめだよ。
給食で苦手なピーマンに悪戦苦闘している男子は、クラスからの冷たい目に耐えきれないかのように、涙を流しながら無理矢理口の中に放りこんだ。
新しい綺麗な服を着てきた女子は、やっかみも入っていたと思うけど「まだ着られる服を捨てたんだろ」「自分さえ良ければいいと思っているんだわ」と陰口をたたかれて、新しい服はタンスのこやしになっている。
ある男子が科学の本を読み「これから太陽活動の低下によって、地球が寒冷化する可能性があるらしいぜ」とひけらかした。
もちろん可能性のひとつにすぎないし、地球温暖化を止めなくてはいけないのは同じなんだけど、男子が本のことを少し口にしただけで「みんなが頑張っているのに、なんてことをいうんだ」「ウソをまき散らすな」と非難され、彼のエコレベルもはく奪された。
ぼくは、やりすぎではないかと疑問をもったけど、とても言い出せる雰囲気ではなかった。こうした疑問を口にしただけで、非難の矢がぼくに刺さることが目に見えている。
恐怖がこのクラスを支配している。
つまり、これが「全体主義」だ。
異なる意見や提案は、正義の名のもとに全て排除され、社会から抹殺される。
見るに見かねた先生が止めに入った。クラスから「先生がエコに反対するな」「大人はずるい」などのさわぎになったけど、先生の力でエコレベル制度は廃止された。
クラスは平穏に戻った。何気ない日常が続いているように見える。
だけど、一度広まった正義と全体主義は止まらない。
エコレベルがない同級生は、いまだにクラスからバカにされ、さげすまされている。
エコレベルによってクラスは分断され、エコレベルで上位にいるメンバーが、下位のメンバーを攻撃する。
ぼくは、息をひそめるようにして、学校に通いつづけている。
マイバックを持ち歩き、バケツに水を入れる時は少しだけにして、給食は絶対に残さない。両親が新しい服を買ってきても、それを着て外にはでない。
そして、なにより大事なことは、余計なことを口にしないこと。
君は、こんなクラスに転校したいかい?
―――――
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『サードウェイブ』 齊藤想
君は、「サードウェイブ実験」を知っているだろうか。
いまから半世紀以上前にアメリカの高校で行われた実験で、たったの五日間で、学校中を全体主義に染めてしまったんだ。
全体主義が分からないって?
それは、いまからぼくのクラスで起こったことを聞いてくれれば、分かると思う。
最初はささいな提案だった。
週1回の自由学習の時間にクラスで何をしようかと話し合い、「エコポイント・レベルで競争しよう」と決まったんだ。
ルールは簡単。エコな行動をすると、シールをひとつ貰える。シールが溜まればたまるほどレベルアップする。
その成果を、次の自由学習の時間に発表することになったんだ。
地球環境のためだ。みんなが賛成したことは言うまでもない。
提案した学級委員長の女子は、さらにこうつけ加えた。
「みんなでエコポイントを貯められるように、エコでない行動をしたクラスメイトには注意してあげましょう」
あたり前の提案のように思えた。もちろんクラス全員が賛成した。先生も満足そうにうなずいていた。
翌日からエコポイント競争が始まった。
教室の電気を消したら1ポイント。給食を残さず食べたらポイント。しずくがたれている蛇口を止めても1ポイントだ。
最初はみんな楽しんでいたけど、途中からギスギスした雰囲気になってしまったんだ。
同級生が工作用具を入れるために、ビニール袋を持ってきた。すると、誰かが「こいつはエコじゃない!」と指をさしながら、注意をしたんだ。
このビニール袋が問題となり、彼のエコポイントははく奪されることがクラスで決まってしまった。彼には「ビニール男」なんてあだなまでつけられた。
同級生は泣いていたよ。たかがビニール袋ひとつなのに、って。
掃除のとき、バケツにたくさん水を汲んだ女子がいた。もちろん一所懸命掃除をするためだ。それなのに、彼女にも「エコじゃない」と心ない非難があびせられて、彼女のエコ・レベルもはく奪されてしまった。
もう完全ないじめだよ。
給食で苦手なピーマンに悪戦苦闘している男子は、クラスからの冷たい目に耐えきれないかのように、涙を流しながら無理矢理口の中に放りこんだ。
新しい綺麗な服を着てきた女子は、やっかみも入っていたと思うけど「まだ着られる服を捨てたんだろ」「自分さえ良ければいいと思っているんだわ」と陰口をたたかれて、新しい服はタンスのこやしになっている。
ある男子が科学の本を読み「これから太陽活動の低下によって、地球が寒冷化する可能性があるらしいぜ」とひけらかした。
もちろん可能性のひとつにすぎないし、地球温暖化を止めなくてはいけないのは同じなんだけど、男子が本のことを少し口にしただけで「みんなが頑張っているのに、なんてことをいうんだ」「ウソをまき散らすな」と非難され、彼のエコレベルもはく奪された。
ぼくは、やりすぎではないかと疑問をもったけど、とても言い出せる雰囲気ではなかった。こうした疑問を口にしただけで、非難の矢がぼくに刺さることが目に見えている。
恐怖がこのクラスを支配している。
つまり、これが「全体主義」だ。
異なる意見や提案は、正義の名のもとに全て排除され、社会から抹殺される。
見るに見かねた先生が止めに入った。クラスから「先生がエコに反対するな」「大人はずるい」などのさわぎになったけど、先生の力でエコレベル制度は廃止された。
クラスは平穏に戻った。何気ない日常が続いているように見える。
だけど、一度広まった正義と全体主義は止まらない。
エコレベルがない同級生は、いまだにクラスからバカにされ、さげすまされている。
エコレベルによってクラスは分断され、エコレベルで上位にいるメンバーが、下位のメンバーを攻撃する。
ぼくは、息をひそめるようにして、学校に通いつづけている。
マイバックを持ち歩き、バケツに水を入れる時は少しだけにして、給食は絶対に残さない。両親が新しい服を買ってきても、それを着て外にはでない。
そして、なにより大事なことは、余計なことを口にしないこと。
君は、こんなクラスに転校したいかい?
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第80期順位戦展望【B級2組・最終一斉対局】 [講座・セミナーの紹介]
ベテランがB級1組復帰です。
〔B級2組対戦表〕
https://www.shogi.or.jp/match/junni/2021/80b2/index.html
最終局を前にして、昇級枠2名は決まっています。
中村太地七段は王座経験者で将来の幹部候補と目されているので、B級1組でも活躍して欲しいです。
澤田真吾七段は王位戦リーグの常連であり、B級1組も納得です。
残り1枠を争うのは、2敗の丸山忠久九段と鈴木大介九段です。丸山九段は勝てば昇級で、鈴木九段はキャンセル待ちです。
両者の結果は
丸山忠久九段 ○ ― ● 中田宏樹八段
鈴木大介九段 ● ― ○ 中村太地七段
となり、丸山九段がB級1組に復帰です。これで3度目のB級1組です。
鈴木九段ですが、他力とはいえ昇級のかかった一番で最も早く終局してしまうのが、とても鈴木九段らしいです。
残留争いですが、窪田義行七段が降級点2つ目でC級1組に陥落です。
他には飯塚祐紀七段も陥落です。ちなみに飯塚七段は佐藤康光九段と同年齢なので、羽生世代のひとりです。
藤井猛九段は初めての降級点を喫し、深浦康市九段は寸でのところで逃れました。
来季も残留争いが激しくなりそうです。
昇級を決めた澤田真吾七段、中村太地七段、丸山忠久九段おめでとうございます!
〔B級2組対戦表〕
https://www.shogi.or.jp/match/junni/2021/80b2/index.html
最終局を前にして、昇級枠2名は決まっています。
中村太地七段は王座経験者で将来の幹部候補と目されているので、B級1組でも活躍して欲しいです。
澤田真吾七段は王位戦リーグの常連であり、B級1組も納得です。
残り1枠を争うのは、2敗の丸山忠久九段と鈴木大介九段です。丸山九段は勝てば昇級で、鈴木九段はキャンセル待ちです。
両者の結果は
丸山忠久九段 ○ ― ● 中田宏樹八段
鈴木大介九段 ● ― ○ 中村太地七段
となり、丸山九段がB級1組に復帰です。これで3度目のB級1組です。
鈴木九段ですが、他力とはいえ昇級のかかった一番で最も早く終局してしまうのが、とても鈴木九段らしいです。
残留争いですが、窪田義行七段が降級点2つ目でC級1組に陥落です。
他には飯塚祐紀七段も陥落です。ちなみに飯塚七段は佐藤康光九段と同年齢なので、羽生世代のひとりです。
藤井猛九段は初めての降級点を喫し、深浦康市九段は寸でのところで逃れました。
来季も残留争いが激しくなりそうです。
昇級を決めた澤田真吾七段、中村太地七段、丸山忠久九段おめでとうございます!