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【掌編】齊藤想『閻魔とキツネ』 [自作ショートショート]

Yomeba!第19回ショートショート募集に応募した作品です。
テーマは「ゲーム」でした。

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『閻魔とキツネ』 齊藤想

 京子のクラスでは、「閻魔とキツネ」という奇妙なゲームが流行っていた。
 簡単に説明すると騙し合いで、キツネ役がウソをつき、閻魔役がそのウソを暴く。
 高校生のうわさに尾ひれがつくことはよくある。あることないこと言いふらされる。特に京子が通っている高校は女子高なので、よけいにうわさが広がりやすい。
 その尾ひれの部分をゲームにして、楽しんでしまおうというのだ。
「ちょっと遅いよ」
 五限目が終わって放課後。グループの中心で、いつも念入りなメイクをしている朋奈が教室の出入口に向かって声をかけた。京子が振り返ると、黒髪ロングの芳美が、両手を振りながら慌てて教室に入ってきた。
「ちょっとトイレ行っててさ」
「なに、手ぐらいちゃんと拭いてよ」
「洗面台にハンカチを落としてさあ」
 芳美がベタベタのハンカチを見せてきた。
「やだやだ、これだから女子高は。注意力とデリカシーがないんだから」
 いつものように他愛のない会話が続く。その間に、京子は机を丸く並べた。
 セッティングが終わると、手が濡れたままの芳美が椅子に腰を落とした。黒髪の毛先をかるく整える。少し落ち着いたところで、カバンから怪しげな道具を取り出した。
「ねえ、ちょっと今日は刺激的にしない?」
 芳美が手にしているのはスタンガンだ。芳美がボタンを押すと、金属の針からバチッという音がした。
「いつもの罰ゲームはデコピンだけど、今日はこれを持ってきちゃった」
 朋奈が驚く。
「なんで、そんなものが家にあるのよ」
「お母さんが護身用に買ったのよ。もう襲われる年齢でもないのにね。これ、強度を自由に調整できて、弱くすればちょっとビリっとする程度だから」
「本当に」
 朋奈が疑わし気な視線を芳美に向ける。
「家で試してきたから大丈夫。気絶なんて絶対にしないから。さあ。始めよう」
 閻魔役は交代で回ってくる。最初は他愛のない噂話からだ。どこのお店で何を買ったとか、何を食べたとか、そういう日常系の話に本当とウソが混じる。
 問い詰められてウソがバレると、閻魔様から罰を与えられる。今日はその罰がスタンガンということもあり、いつもより盛り上がった。
 京子がキツネ、芳美が閻魔の順番になった。すると、そのときを待ちかねていたかのように、芳美の様子が一変した。ぐいっと、体を前にだしてくる。
「さあ、キツネに聞くわよ。あなた川原高校の山田先輩と交際しているでしょ」
 京子は焦った。ウソをつくか本当のことを言うか、決めなくてはならない。
「そんなことないわよ。山田先輩って、そもそもだれ、という感じだし」
「ある情報筋によると、先週の土曜日にイオンモールで山田先輩と手をつないでと歩いていたらしいじゃない」
「イオンでデートだって」
 朋奈が嬉しそうにはしゃぐ。手を叩くたびに、ネイルが光る。高校生の王道の話題と言えば、なにより恋愛だ。時期が来ればちゃんと言おうと思っていたのに、こんなゲームでバラされては否定するしかない。
「絶対に人違いだって! 芳美も信じないよね、こんな話」
「閻魔様を甘く見ないでちょーだい。まだまだ情報はあるわよ。先月のことだけど、テニス部の練習試合で川原高校までいったでしょ。あそこ男女共学じゃない。山田先輩は女子テニス部の試合の応援に来ていて、そこで京子を見初めたとか」
「やだ、もうバレバレじゃない。これはウソ確定ね。抵抗せずに、ごめんなさいして罰を受ける準備をしたらどうかしら」
「だから違うから。だいたい誰から聞いたのよ。そんな根も葉もないこと」
「知りたい?」
 芳美は一拍置いた。
「山田先輩本人から。実は私と山田先輩は家が近所で、幼馴染なんだ」
 京子は唖然とした。山田先輩と芳美が繋がっていたなんて。朋奈は大笑いをしている。
「はーい、京子の負け。抜け駆けするおなごはとっちめてやらないと。スタンガンを強めにしなさい」
「ちょっと、止めてよ」
 朋奈は立ち上がると京子の背後に回り、楽しそうに京子の体を抑えつけた。早く彼氏の写真を見せなさい、と京子を冷やかす。
「これで決まりね」
 芳美はスタンガンを使う前に、なぜかハンカチで手をぬぐった。あのぐしょぐしょのハンカチだ。そして、朋奈は京子の左の二の腕をつかんだ。いままでは手首の少し上ぐらいだったのに。
 芳美が京子の耳元でつぶやく。
 「私ね、昔から山田先輩が好きだったんだ。けど、気持ちを言い出せなくて、そのうちに京子にとられちゃって。けど、自分が悪いのよね。ウジウジしていたから」
 芳美はあくまで笑顔だった。だが、眼は笑っていない。とても綺麗な横顔だった。
「ねえ、知っている? 肌って乾燥していると電気に対して抵抗力があるんだけど、濡れると抵抗が無くなっちゃうの」
「え、それってどうこと?」
「この位置からだと、心臓まで直撃ね。早くこうしちゃえば良かったのよ」
 京子の腕に金属の針が押し付けられた。バギギッ、という奇妙な音がした。

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