【SS】齊藤想『幽霊メール』 [自作ショートショート]
TO-BE小説工房第65回に応募してた作品です。
テーマは「幽霊」です。
―――――
『幽霊メール』 齊藤想
最近、玲子のスマホの調子がおかしい。受信するメールがことごとく文字化けする。
玲子が姉に相談すると、この手の現象に詳しい友人という靖子を連れてきた。
靖子は眼鏡をしていて、いかにも理知的な表情をしている。安心したのもつかの間、その靖子がスマホの画面を見るなり、いきなりこう断言した。
「このメールには霊が取りついている」
「はい?」
玲子は怪訝そうな目で彼女を見た。だが、靖子は気にしない。
「世の中には様々な霊がいます。土地建物から離れられないのが地縛霊。現世をさまよっているのが浮遊霊。
そもそも文字化けという現象は、”化ける”という言葉が使われているように、幽霊とかお化けとか、そういう超自然現象との親和性が非常に高いのです」
「ちょっと待ってよ」
玲子は呆れかえった。
「そうやって、超自然現象という言葉で逃げるのは良くないと思う。だって、スマホは電子機器の塊なのよ? メール設定の不具合とか、そう考えるのが自然じゃない。私、こう見えても理系なんだから」
「そういう思い込みが、大きな間違いの元なのです。それに、私も離系です」
「離系?」
「そうです。この世ではない離界、つまりあの世を学ぶ学問です。私は離系の専門家を目指しています」
「離系って何よ!」
「それに、ここの文字列を見てください。76&A3Wと並んでいます」
「それが何よ」
「これぞまさに、南無阿弥陀仏。神の御心の証拠です」
「&とAが重なっている」
「離系においては、些細なことです」
怜子は開いた口がふさがらなかった。
これ以上話しても無駄だ。玲子は変人を連れてきた姉を胸元に引き寄せた。
「お姉ちゃんは何を考えてあの子を連れてきたのよ。あの靖子という人、頭がおかしいとしか思えない」
「黙ってみていなさい。靖子は本当に凄腕なんだから」
「絶対に騙されているって!」
二人が話している間に、靖子はハンドバックから最新式のスマホを取り出した。先週発売されたばかりの最高グレードの機種だ。
「では成仏を開始します」
「えっそれで?」
「私は離系の専門家として、除霊も離学的に行います。さあ、あなたのスマホを」
玲子は何がなんだか分からないうちに、スマホを靖子に渡していた。
二つのスマホが重なる。電波が飛び交う。何が起こったのかは分からないが、玲子のスマホが振るえた。
「霊は消え去りました。試しにメールを送ってみたので、確かめてみてくださお」
玲子はスマホを開いた。受信したメールからは、確かに文字化けが消えていた。
狐につままれた気分だった。本当につままれているのかもしれない。
「ありがとう……」
「でしょ、すごいでしょ」
靖子を紹介した姉も鼻高々だった。
これからもよろしくね、と姉が靖子に声をかけて、彼女は立ち去って行った。
確かに文字化けは消えた。それと同時にスパムメールも激減した。
そもそも、なぜ靖子は玲子にメールを送ることができたのだろうか。玲子は初対面の靖子にメアドを教えたことはない。
何かが怪しい。
「ちょっとお姉ちゃん!」
姉は風呂上がりだった。髪の毛をバスタオルでくるみながら、「なあに」と間の抜けた返事をする。
「あの靖子って子に私のメアド教えた?」
「え?」
姉はよくわからないという顔をした。
これで理解した。姉のスマホは靖子が送ったウィルスに汚染されているのだ。姉のスマホを通じて、玲子のメアドが流出したのだ。
「私、携帯買い替える。お姉ちゃんもすぐに機種変更して」
「なんでそんな必要があるのよ」
姉は不満たらたらだ。どう説明すれば姉は納得してもらえるだろうか。
「悪霊を退散させるためよ。私、こう見えても異師の資格を持っているの。もちちろん異世界の異師ね」
「玲子ってすごい!」
姉は目を輝かせた。この先、姉は苦労するだろう。玲子はため息をついた。
―――――
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テーマは「幽霊」です。
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『幽霊メール』 齊藤想
最近、玲子のスマホの調子がおかしい。受信するメールがことごとく文字化けする。
玲子が姉に相談すると、この手の現象に詳しい友人という靖子を連れてきた。
靖子は眼鏡をしていて、いかにも理知的な表情をしている。安心したのもつかの間、その靖子がスマホの画面を見るなり、いきなりこう断言した。
「このメールには霊が取りついている」
「はい?」
玲子は怪訝そうな目で彼女を見た。だが、靖子は気にしない。
「世の中には様々な霊がいます。土地建物から離れられないのが地縛霊。現世をさまよっているのが浮遊霊。
そもそも文字化けという現象は、”化ける”という言葉が使われているように、幽霊とかお化けとか、そういう超自然現象との親和性が非常に高いのです」
「ちょっと待ってよ」
玲子は呆れかえった。
「そうやって、超自然現象という言葉で逃げるのは良くないと思う。だって、スマホは電子機器の塊なのよ? メール設定の不具合とか、そう考えるのが自然じゃない。私、こう見えても理系なんだから」
「そういう思い込みが、大きな間違いの元なのです。それに、私も離系です」
「離系?」
「そうです。この世ではない離界、つまりあの世を学ぶ学問です。私は離系の専門家を目指しています」
「離系って何よ!」
「それに、ここの文字列を見てください。76&A3Wと並んでいます」
「それが何よ」
「これぞまさに、南無阿弥陀仏。神の御心の証拠です」
「&とAが重なっている」
「離系においては、些細なことです」
怜子は開いた口がふさがらなかった。
これ以上話しても無駄だ。玲子は変人を連れてきた姉を胸元に引き寄せた。
「お姉ちゃんは何を考えてあの子を連れてきたのよ。あの靖子という人、頭がおかしいとしか思えない」
「黙ってみていなさい。靖子は本当に凄腕なんだから」
「絶対に騙されているって!」
二人が話している間に、靖子はハンドバックから最新式のスマホを取り出した。先週発売されたばかりの最高グレードの機種だ。
「では成仏を開始します」
「えっそれで?」
「私は離系の専門家として、除霊も離学的に行います。さあ、あなたのスマホを」
玲子は何がなんだか分からないうちに、スマホを靖子に渡していた。
二つのスマホが重なる。電波が飛び交う。何が起こったのかは分からないが、玲子のスマホが振るえた。
「霊は消え去りました。試しにメールを送ってみたので、確かめてみてくださお」
玲子はスマホを開いた。受信したメールからは、確かに文字化けが消えていた。
狐につままれた気分だった。本当につままれているのかもしれない。
「ありがとう……」
「でしょ、すごいでしょ」
靖子を紹介した姉も鼻高々だった。
これからもよろしくね、と姉が靖子に声をかけて、彼女は立ち去って行った。
確かに文字化けは消えた。それと同時にスパムメールも激減した。
そもそも、なぜ靖子は玲子にメールを送ることができたのだろうか。玲子は初対面の靖子にメアドを教えたことはない。
何かが怪しい。
「ちょっとお姉ちゃん!」
姉は風呂上がりだった。髪の毛をバスタオルでくるみながら、「なあに」と間の抜けた返事をする。
「あの靖子って子に私のメアド教えた?」
「え?」
姉はよくわからないという顔をした。
これで理解した。姉のスマホは靖子が送ったウィルスに汚染されているのだ。姉のスマホを通じて、玲子のメアドが流出したのだ。
「私、携帯買い替える。お姉ちゃんもすぐに機種変更して」
「なんでそんな必要があるのよ」
姉は不満たらたらだ。どう説明すれば姉は納得してもらえるだろうか。
「悪霊を退散させるためよ。私、こう見えても異師の資格を持っているの。もちちろん異世界の異師ね」
「玲子ってすごい!」
姉は目を輝かせた。この先、姉は苦労するだろう。玲子はため息をついた。
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