【SS】齊藤想『リモ婚』 [自作ショートショート]
TO-BE小説工房第69回に応募した作品です。
テーマは「リモコン」です。
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『リモ婚』 齊藤 想
最近、リモコンが見つからない。置く場所は机の上と決めているのに、なぜか椅子の下や、雑誌の隙間から発見される。足が生えているわけでもないのに。
そのような悩みを大学内のカフェで同級生に相談したら、同級生は「リモ婚をしないからだよ」とさも当然のように言った。
「リモコンがリモコン?」
意味が分からず問い返すと、同級生はいやいや説明不足だった、と首を横に振った。
「リモ婚のコンは婚活のコンだ。合コンのリモコン版みたいなものだよ。リモコンはけっこう寂しがり屋で、一台にすると仲間を求めてさまよう。だから、気が付いたら思わぬとことから出てくるのさ」
オレはうさんくさそうな目で、同級生のことを見た。
「いや、自分だってリモコンが夜なよなナンパに出かけるのには悩んださ。リモコン同士がケンカしたときは最悪だ。カバーが外れて電池が飛び出し、その電池がテレビ台の下に転がったりして取るのが大変だった。このままではヤバイとリモ婚を繰り返して、お似合いのリモコンを探し出し、ようやく逃げ出さなくなったというわけさ」
「家の中にあるリモコンを並べておけば良いのか?」
「うーん」と同級生は難しい顔をした。
「家の中にあるリモコンは家族同然だから、できれば他家から嫁か婿を迎え入れるのが良いだろうな。ちなみに、うちのリモコンはダメだぞ。いまさら新しい仲間を混ぜて、家庭内リモコン不和を起こされても困る」
「家庭内リモコン不和がおきるとどうなるのか?」
「リモコンが言うことをきかなくなる。お前も経験があると思うが、ときおりリモコンの反応が悪いときがあるだろ? それはリコモンが拗ねているんだ」
確かにうちのリモコンは反応が悪い。機嫌を損ねていると言われてみると、いろいろと思い当たる節がある。
「リモ婚かあ……」とつぶやきながら、おれは二人分のコーヒー代を支払った。
それにしても、どうすればお似合いのリモコンを探せるのか。同級生は「リモコンも人間と同じで、付き合ってみないと相性なんて分からない」とうそぶいた。
まずは試しにと部屋中のリモコンをかきあつめた。貧乏学生の一人暮らしの部屋にあるリモコンなど限られている。テレビにブルーレイにエアコンぐらいだ。
このリモコンを並べて置き、タオルをかけて一晩放置したところ、次の日には3つともバラバラになっていた。
どうもわが家のリモコンの相性は最悪らしい。言うことを聞かないわけだ。
新しいリモコンを導入しようにも、万年金欠症のオレには余裕がない。お見合いとばかりにリモコンを電気屋に連れて行ったが、まったく反応を示さない。
「リモコンは、ああ見えて恥ずかしがり屋だから」
同級生の声が頭の中でこだまする。人前ではベタベタしないものらしい。かといって相性も分からず買う勇気はない。バラバラ事件の悲劇が頭を過る。
オレはそっと、自宅のリモコンを売り場のリモコンに近づけた。密着すれば何か反応を示すと期待したのだ。
「あの……お客さん、何をされているのですか?」
「あっ、いえ、なにも」
店員からすればどうみても不審者だ。万引きと勘違いされたらしい。オレは慌てて電気店を後にした。
買うのは諦めて、最後の手段に出ることにした。同級生と再び大学内のカフェで待ち合わせをした。
「お前の部屋のリモコンを貸してくれ」
オレは同級生に頼み込んだ。もしカップルになっていないリコモンがあれば、それをもらおうと思ったのだ。
「うちだって、リモコンが無くなると困るんだ。使っていないリモコンはないし」
そりゃそうだ、とおれは反省した。
「それに、相性は付き合ってみないと分からない。それなら、試しに、二人のリモコンを一か所に集めてみるのはどうかな?」
「お前が困るじゃないか。いや、オレか」
「お互いが困らないように、同じ部屋に住めばいいじゃない。シェアハウスというやつ。家賃も折半できるし」
「それはちょっと……」
「何がだよ」
同級生は、黒髪を掻き揚げながら意味ありげな視線をオレに送ってきた。初めて見る視線に、オレの心は飛び跳ねる。
「人間もリモコンと一緒。付き合ってみないと分からないと思わない?」
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『リモ婚』 齊藤 想
最近、リモコンが見つからない。置く場所は机の上と決めているのに、なぜか椅子の下や、雑誌の隙間から発見される。足が生えているわけでもないのに。
そのような悩みを大学内のカフェで同級生に相談したら、同級生は「リモ婚をしないからだよ」とさも当然のように言った。
「リモコンがリモコン?」
意味が分からず問い返すと、同級生はいやいや説明不足だった、と首を横に振った。
「リモ婚のコンは婚活のコンだ。合コンのリモコン版みたいなものだよ。リモコンはけっこう寂しがり屋で、一台にすると仲間を求めてさまよう。だから、気が付いたら思わぬとことから出てくるのさ」
オレはうさんくさそうな目で、同級生のことを見た。
「いや、自分だってリモコンが夜なよなナンパに出かけるのには悩んださ。リモコン同士がケンカしたときは最悪だ。カバーが外れて電池が飛び出し、その電池がテレビ台の下に転がったりして取るのが大変だった。このままではヤバイとリモ婚を繰り返して、お似合いのリモコンを探し出し、ようやく逃げ出さなくなったというわけさ」
「家の中にあるリモコンを並べておけば良いのか?」
「うーん」と同級生は難しい顔をした。
「家の中にあるリモコンは家族同然だから、できれば他家から嫁か婿を迎え入れるのが良いだろうな。ちなみに、うちのリモコンはダメだぞ。いまさら新しい仲間を混ぜて、家庭内リモコン不和を起こされても困る」
「家庭内リモコン不和がおきるとどうなるのか?」
「リモコンが言うことをきかなくなる。お前も経験があると思うが、ときおりリモコンの反応が悪いときがあるだろ? それはリコモンが拗ねているんだ」
確かにうちのリモコンは反応が悪い。機嫌を損ねていると言われてみると、いろいろと思い当たる節がある。
「リモ婚かあ……」とつぶやきながら、おれは二人分のコーヒー代を支払った。
それにしても、どうすればお似合いのリモコンを探せるのか。同級生は「リモコンも人間と同じで、付き合ってみないと相性なんて分からない」とうそぶいた。
まずは試しにと部屋中のリモコンをかきあつめた。貧乏学生の一人暮らしの部屋にあるリモコンなど限られている。テレビにブルーレイにエアコンぐらいだ。
このリモコンを並べて置き、タオルをかけて一晩放置したところ、次の日には3つともバラバラになっていた。
どうもわが家のリモコンの相性は最悪らしい。言うことを聞かないわけだ。
新しいリモコンを導入しようにも、万年金欠症のオレには余裕がない。お見合いとばかりにリモコンを電気屋に連れて行ったが、まったく反応を示さない。
「リモコンは、ああ見えて恥ずかしがり屋だから」
同級生の声が頭の中でこだまする。人前ではベタベタしないものらしい。かといって相性も分からず買う勇気はない。バラバラ事件の悲劇が頭を過る。
オレはそっと、自宅のリモコンを売り場のリモコンに近づけた。密着すれば何か反応を示すと期待したのだ。
「あの……お客さん、何をされているのですか?」
「あっ、いえ、なにも」
店員からすればどうみても不審者だ。万引きと勘違いされたらしい。オレは慌てて電気店を後にした。
買うのは諦めて、最後の手段に出ることにした。同級生と再び大学内のカフェで待ち合わせをした。
「お前の部屋のリモコンを貸してくれ」
オレは同級生に頼み込んだ。もしカップルになっていないリコモンがあれば、それをもらおうと思ったのだ。
「うちだって、リモコンが無くなると困るんだ。使っていないリモコンはないし」
そりゃそうだ、とおれは反省した。
「それに、相性は付き合ってみないと分からない。それなら、試しに、二人のリモコンを一か所に集めてみるのはどうかな?」
「お前が困るじゃないか。いや、オレか」
「お互いが困らないように、同じ部屋に住めばいいじゃない。シェアハウスというやつ。家賃も折半できるし」
「それはちょっと……」
「何がだよ」
同級生は、黒髪を掻き揚げながら意味ありげな視線をオレに送ってきた。初めて見る視線に、オレの心は飛び跳ねる。
「人間もリモコンと一緒。付き合ってみないと分からないと思わない?」
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