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【掌編】齊藤想『雪化粧』 [自作ショートショート]

これは「5分ごとにひらく恐怖のとびら 百物語」に応募した作品です。
テーマは5つから選ぶことができて(1憤怒・憎悪、2邪悪・悪意、3嘆き、4不吉、5畏怖・恐れ)、本作では本作では3嘆きを選択しています。

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『雪化粧』 齊藤 想

 長い眠りにつく前のサキが一番好きだったのは、純白の雪景色だった。だから、この季節に目覚めたのかもしれない。
 サキは、まっさらな雪に包まれた都市を、膝上まであるブーツで歩き続けた。潰された新雪たちが、リズムよく鳴声を上げる。

 サキは、人類初となるコールドスリープの実験体だった。コールドスリープとは、人体を冷凍食品のように凍らせて、老化させることなく仮死状態のまま保存する技術だ。
 大脳だけを冷凍保存する技術は前世紀の間に確立していたが、全身保存となると難易度は格段に上がる。
 クローン技術で生み出された少年少女たちが何体も犠牲となり、ようやくある程度の目途が立ったとき、いよいよ治験段階として選ばれた被験者が、サキだった。八歳になったばかりだった。
 サキが選ばれたのは、死亡率がほぼ百パーセントの難病にかかっていたからだった。ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群。老化が急激に進行する早老症のひとつで、現在になっても治療法は皆無である。
 未来になれば、彼女の命を救えるかもしれない。病気の影響で小柄だったことも、コールドスリープに好都合とされた。
 両親の願いを込めて、サキは深い眠りについた。
 保存施設には、何重もの防護策が取られている。
 地震などの天災があっても冷凍状態が維持されるように、装置だけでなく施設全体に断熱材がコーティングされ、電力は地上にある太陽光発電と蓄電池、さらにはいざというときのための宇宙探査機で使用される原子力電池も用意されている。
 目覚める条件はただひとつ。
 「希望のある時代がきたとき」
 ただ、それだけだった。
 気の遠くなるほど長い時間が過ぎた。数えきれないほど季節がめぐり、両親も兄弟もその子供や孫たちもこの世を去った。
 幼くして眠りについた少女のことを知るひとが地上からいなくなったころ、サキは目覚めた。
 
 サキは久しぶりの命を堪能した。
 空はどんよりとした雲に覆われ、いまが昼か夜かすら分からなかった。初めて見る豪雪は都市をまるごと包み込み、全てを純白に染めている。
「未来のお医者さんが、サキのことを治してくれるから」
 眠りにつくまえ、そう言ってママは腕をさすってくれた。だが、サキの目に映るのは、廃墟となった都市だけだ。医者どころか人間すら目にすることがない。
 サキはふらりと体をかたむかせると、ビルの壁に手をついた。こびりついた雪を払ってガラス窓の中を見る。
 内部は荒れ果てていて、見たことのない樹木と雑草がはびこっている。長らく使用されていないのは確実だった。
 サキは恐怖にかられて、次から次へとビルの中をのぞきこんだ。色あせた服たちが並べられているブティック。動かない時計が並べられている電気店。
 ビルの隙間に、いまにも倒壊しそうな小さな一軒家があった。ドアは壊れており、入口から部屋の奥まで素通しだった。
 門の隙間からのぞきこむと、玄関で耳を立てた犬のような獣が子育てをしていた。唸り声を上げられて、サキは慌ててその場から逃げ出した。
 ここは、人類が死滅した未来だ。どこに希望があるのというのか。
 さきほどの獣が、家から出てきて、遠巻きにサキのことをにらみつけてくる。その数は三匹。獣の姿は、狩人を思わせた。
 サキは、自分が目覚めた理由を理解した。
 希望のある時代になったから目覚めたのではない。この先いくら待っても希望がない、つまり今が最も希望のある時代だから、目覚めたのだ。
 獣が牙をむき出しにして、雪面を跳ねた。うなり声が耳元まで聞こえてくる。
 ああ、私は食べられるのだ。そう思ったとき、小さなつぶてが獣のほほを打ち、悲鳴とともに獣が逃げ去った。
 ビルの陰から、少年が姿をあらわした。
「また人間が湧いてきた。お前もおれと同じくコールドスリープの生き残りだろ? まあお互いに大変な時代に目覚めちまったもんだな。食いもんなら少しだけあるから、こっちにこいよ」
 サキは、氷のように冷たい、少年の手を取った。
 この最悪な時代にも希望が残っている。サキは、そう信じることにした。 

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最近の金融・投資【令和5年8月第3週】 [金融・投資]

〔先週の株式市場〕
自分の持株は3日プラス2日マイナスだが、トータルではけっこうなマイナス。
8月に入ってから自分の持株の下落傾向が続いている。
さすがに6、7月と上がりすぎたので、半分ぐらいは戻すイメージかなと。
購入を検討してきた株も、自分が考えている水準にまで下がったけど、全体的な傾向を見てもう少し様子見してもいいかもしれない。
そろそろ購入チャンスが回ってきたとは思っているのですが。

〔ゆうちょ銀行の株主優待の話〕
500株以上でオリジナルカタログから1品たのめる。
「ふるさと小包」からも選べるのがゆうちょっぽいです。
サイトからも申し込み可能だが、このサイトがちょっと操作しにくくて見にくい。
カタログより商品数も多いのだが、結局、カタログからチョイスしました。
日常では食べないものにしようと思って、名古屋のきしめんと味噌煮込みうどんのセットにする。
小学5年春~中1春まで名古屋在住だったので、なつかしく思いながら。
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第82期順位戦【前半戦】 [将棋]

概ね1/3が終了です。

〔A級〕
https://www.shogi.or.jp/match/junni/2023/82a/index.html
連勝は豊島九段と菅井八段のみ。菅井八段は永瀬王座を破った星が大きく、今期の好調ぶりを見ると、名人初挑戦に大きく前進です。最終戦がこの2人というのも興味深いです。
残留争いでは、苦しいとみられていた中村太地八段が連敗スタート。稲葉八段も連敗ですが、相手が渡辺九段、豊島九段ですからやむを得ないところ。
まだまだこれからです。

〔B級1組〕
https://www.shogi.or.jp/match/junni/2023/82b1/index.html
トップを走るのは4連勝の増田康宏七段です。それを3勝1敗の澤田真吾七段と羽生善治九段が追います。6戦目に増田・羽生の直接対決があるので、ここが前半の天王山になりそうです。
残留争いですが、横山泰明七段が0-4、木村一基九段が0-3と苦しんでいます。
ひとつでも白星がつくと、また変わってくるとは思うのですが。

〔B級2組〕
https://www.shogi.or.jp/match/junni/2023/82b2/index.html
3連勝は4人です。村山慈明八段、戸辺誠七段、谷川浩司十七世名人、藤井猛九段と中堅2名にベテラン2名です。藤井猛九段は久しぶりの好スタートで、次節村山八段戦、次次節の谷川浩司十七世名人戦の結果しだいでは単独トップの可能性もでてきます。
1期でのB級1組返り咲きを狙う久保利明九段も2勝1敗で好スタートです。

〔C級1組〕
 https://www.shogi.or.jp/match/junni/2023/82c1/index.html
3連勝が6人もいます。都成竜馬七段、先崎 学九段、西田拓也五段、斎藤明日斗五段、服部慎一郎六段、古賀悠聖五段ですが、若手に交じって先崎九段の名前が目を引きます。
なにしろ羽生世代なので、この年齢で昇級したら快挙です。
残留争いでは、降級点持ちの畠山成幸八段、日浦市郎八段が3連敗と苦しいスタートです。この先も強敵ばかりなので、見た目以上に厳しそうです。

〔C級2組〕
https://www.shogi.or.jp/match/junni/2023/82c2/index.html
3連勝が7人もいます。梶浦宏孝七段、山本博志五段、冨田誠也四段、高田明浩四段、岡部怜央四段、佐藤慎一五段、島朗九段と若手が鎬を削る中で、大ベテランの島九段の名前が目を引きます。降級点2つ持ちの佐藤慎一五段は、降級点をひとつ消すチャンスです。
毎年の昇級候補筆頭の佐々木大地七段ですが、すでに1敗を喫しています。ダブルタイトル戦を達成した今期こそは昇級だと思っているのですが。

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