【SS】齊藤想『新しい神輿』 [自作ショートショート]
第22回小説でもどうぞに応募した作品その1です。
テーマは「祭り」です。
―――――
『新しい神輿』 齊藤 想
「選挙は祭りですから、先生も楽しまないと損ですぞ。それにしても、”まつりごと”とは言いえて妙なものですなあ」
選挙参謀を務める地元商工会の会長が、赤い顔をしながら、高梨に向かって豪快な笑い声をあげた。
休耕地に設置されたプレハブの中には、奇妙な選挙グッズが並んでいる。必勝の鉢巻をしたティラノサウルと、高梨の名前が刻まれたアンモナイト。天井からは高梨の顔写真が貼られたプテラノドンがぶら下がっている。
高梨はいわるゆ落下傘候補だ。選挙区には縁もゆかりもない。これも地域の風習なのだろうと、珍妙な選挙グッズを受け入れるしかなかった。もちろん費用は高梨持ちだ。
地元を仕切る選挙参謀の笑い声に、高梨は自虐的に答えた。
「確かに選挙は祭りかもしれませんね。担ぐ神輿は軽い方がいいと言いますし」
選挙対策委員長は、酒臭い息を吐きながら高梨のことを叱りつける。
「先生がそんな気持ちでは困りますわ。神輿は神聖なものです。担ぎ手が胸を張れるような神輿でいてくれないと」
高梨はため息をついた。神輿が軽いことは否定しないらしい。
そもそも、高梨は国政選挙に出るつもりはなかった。
高梨が大学卒業後に入社した会社は、中央アジアやアフリカで採取された化石をマニアに横流しする違法業者だった。身の危険を感じて退社したときに、たまたたま国政選挙候補者の公募が目に付き、応募したらあれよあれよと候補者に祭り上げられた。
公認が決まり、党本部が作ったチラシを見て高梨は驚愕した。
「世界を股にかけて活躍した考古学者」
「国際経験豊かなビジネスマン」
「趣味は化石採取の庶民派」
ものは言いようとはいえ、ここまで脚色されるとは恐ろしい。考古学者と自称したことはないし、趣味が化石採取も初耳だ。化石採取が庶民派というのもよくわからない。
選挙対策委員長は、冷蔵庫からビールとつまみをだすと、豪快に飲み始めた。
「それにしても、こんなに立派な先生が立候補してくれるとは嬉しい限りですなあ。当選してくれたら、化石による町おこしは成功間違いなしですわ」
それで自分が候補者に選ばれたわけか。
運動員は、いつの間にかに配達された寿司とピザを食べ始めた。選挙費用だけでなく、公職選挙法違反の心配もでてきた。そもそも、休耕地に事務所を置くのは農地法違反にはならないのだろうか。
「さあ先生、そろそろ仕事ですわ」
高梨はげっぷが止まらない選挙対策委員長に背中を押されて、強引に軽トラックに載せられた。
「えーっ、こちらはタカナシ……うっぅぷ」
飲みすぎの選挙対策委員長の声はグタグタだった。ときおり車を止めては道端に吐物をまき散らす。
「こうすりゃウンがつくというもので」
それは大便のことではないか、と思ったが黙っていた。
三十分もしないうちに、選挙対策委員長は助手席で寝息を立て始めた。高梨はやけくそだった。マイクに向かって声をからし、道行くひとに手を振り続けた。
落選するまで、せめて祭りを楽しもうと。
こんなことが起こっていいものか。
ライバル候補者が選挙活動中に不倫が発覚し、しかもそれが地元有力者の妻であったことから急激に失速した。
その他のライバルは一部には熱狂的に支持されていても広がりを持たない候補だったこともあり、押し出されるようにして高梨が当選してしまったのだ。
「どうもありがとうございます」
高梨は支持者に頭を下げ、握手をして回った。だが、選挙対策委員長は浮かない顔をしていた。
「喜んでくださいよ。これも選挙対策委員長のおかげですから」
彼は、いやいやと、首を横に振った。
「祭りなんてものは、終わってしまえばつまらないものです。今日からは、次の祭りの準備ですわ」
「またどこかで選挙があるのですか?」
「ここにいるのは祭りが大好きな人間ばかりですわ。ですから、いつも仕掛けをしとるのです。なにはともあれ、次の祭りに向けて新しい神輿を用意しないといけませんなあ」
集まってきた記者たちが、高梨に公職選挙法違反や農地法違反の疑惑を聞いてくる。
困った高梨が選挙対策委員長を目線で探すと、電話をかけているところだった。
たぶん、新しい神輿を探すために。
―――――
この作品を題材として、創作に役立つミニ知識をメルマガで公開しています。
無料ですので、ぜひとも登録を!
【サイトーマガジン】
https://www.arasuji.com/mailmagazine/saitomagazine/
テーマは「祭り」です。
―――――
『新しい神輿』 齊藤 想
「選挙は祭りですから、先生も楽しまないと損ですぞ。それにしても、”まつりごと”とは言いえて妙なものですなあ」
選挙参謀を務める地元商工会の会長が、赤い顔をしながら、高梨に向かって豪快な笑い声をあげた。
休耕地に設置されたプレハブの中には、奇妙な選挙グッズが並んでいる。必勝の鉢巻をしたティラノサウルと、高梨の名前が刻まれたアンモナイト。天井からは高梨の顔写真が貼られたプテラノドンがぶら下がっている。
高梨はいわるゆ落下傘候補だ。選挙区には縁もゆかりもない。これも地域の風習なのだろうと、珍妙な選挙グッズを受け入れるしかなかった。もちろん費用は高梨持ちだ。
地元を仕切る選挙参謀の笑い声に、高梨は自虐的に答えた。
「確かに選挙は祭りかもしれませんね。担ぐ神輿は軽い方がいいと言いますし」
選挙対策委員長は、酒臭い息を吐きながら高梨のことを叱りつける。
「先生がそんな気持ちでは困りますわ。神輿は神聖なものです。担ぎ手が胸を張れるような神輿でいてくれないと」
高梨はため息をついた。神輿が軽いことは否定しないらしい。
そもそも、高梨は国政選挙に出るつもりはなかった。
高梨が大学卒業後に入社した会社は、中央アジアやアフリカで採取された化石をマニアに横流しする違法業者だった。身の危険を感じて退社したときに、たまたたま国政選挙候補者の公募が目に付き、応募したらあれよあれよと候補者に祭り上げられた。
公認が決まり、党本部が作ったチラシを見て高梨は驚愕した。
「世界を股にかけて活躍した考古学者」
「国際経験豊かなビジネスマン」
「趣味は化石採取の庶民派」
ものは言いようとはいえ、ここまで脚色されるとは恐ろしい。考古学者と自称したことはないし、趣味が化石採取も初耳だ。化石採取が庶民派というのもよくわからない。
選挙対策委員長は、冷蔵庫からビールとつまみをだすと、豪快に飲み始めた。
「それにしても、こんなに立派な先生が立候補してくれるとは嬉しい限りですなあ。当選してくれたら、化石による町おこしは成功間違いなしですわ」
それで自分が候補者に選ばれたわけか。
運動員は、いつの間にかに配達された寿司とピザを食べ始めた。選挙費用だけでなく、公職選挙法違反の心配もでてきた。そもそも、休耕地に事務所を置くのは農地法違反にはならないのだろうか。
「さあ先生、そろそろ仕事ですわ」
高梨はげっぷが止まらない選挙対策委員長に背中を押されて、強引に軽トラックに載せられた。
「えーっ、こちらはタカナシ……うっぅぷ」
飲みすぎの選挙対策委員長の声はグタグタだった。ときおり車を止めては道端に吐物をまき散らす。
「こうすりゃウンがつくというもので」
それは大便のことではないか、と思ったが黙っていた。
三十分もしないうちに、選挙対策委員長は助手席で寝息を立て始めた。高梨はやけくそだった。マイクに向かって声をからし、道行くひとに手を振り続けた。
落選するまで、せめて祭りを楽しもうと。
こんなことが起こっていいものか。
ライバル候補者が選挙活動中に不倫が発覚し、しかもそれが地元有力者の妻であったことから急激に失速した。
その他のライバルは一部には熱狂的に支持されていても広がりを持たない候補だったこともあり、押し出されるようにして高梨が当選してしまったのだ。
「どうもありがとうございます」
高梨は支持者に頭を下げ、握手をして回った。だが、選挙対策委員長は浮かない顔をしていた。
「喜んでくださいよ。これも選挙対策委員長のおかげですから」
彼は、いやいやと、首を横に振った。
「祭りなんてものは、終わってしまえばつまらないものです。今日からは、次の祭りの準備ですわ」
「またどこかで選挙があるのですか?」
「ここにいるのは祭りが大好きな人間ばかりですわ。ですから、いつも仕掛けをしとるのです。なにはともあれ、次の祭りに向けて新しい神輿を用意しないといけませんなあ」
集まってきた記者たちが、高梨に公職選挙法違反や農地法違反の疑惑を聞いてくる。
困った高梨が選挙対策委員長を目線で探すと、電話をかけているところだった。
たぶん、新しい神輿を探すために。
―――――
この作品を題材として、創作に役立つミニ知識をメルマガで公開しています。
無料ですので、ぜひとも登録を!
【サイトーマガジン】
https://www.arasuji.com/mailmagazine/saitomagazine/
最近の金融・投資【令和5年8月第1週】 [金融・投資]
〔先週の株式市場〕
自分の持株は2日上昇3日下落でトータルマイナス。
日経平均が急落したようですが、旅行中で状況を把握できず。
とはいえ、SVB破綻やCS合併のような大きな下落ではないので、すぐに下げ止まって週末にけっこう戻す。
ちょっとしたきっかけで、バウンドするのはよくあることですね。
〔アトムとカッパの株主優待の話〕
株主優待ポイントが6月27日付けで付与される。コロワイドグループの店舗で1p1円で利用できるので、けっこう大きい。配当金はないけど、株主優待だけで購入している銘柄です。最近、寿司の値段も上がってきたので、株主優待のおかげで財布を気にすることなく気軽に寿司を食べられるのはありがたいことです。
変な時期に購入したためずっと評価損でしたが、最近は持ち直して両者ともプラスに転じました。ほっとひといき。
また子供と寿司を食べようかな。
自分の持株は2日上昇3日下落でトータルマイナス。
日経平均が急落したようですが、旅行中で状況を把握できず。
とはいえ、SVB破綻やCS合併のような大きな下落ではないので、すぐに下げ止まって週末にけっこう戻す。
ちょっとしたきっかけで、バウンドするのはよくあることですね。
〔アトムとカッパの株主優待の話〕
株主優待ポイントが6月27日付けで付与される。コロワイドグループの店舗で1p1円で利用できるので、けっこう大きい。配当金はないけど、株主優待だけで購入している銘柄です。最近、寿司の値段も上がってきたので、株主優待のおかげで財布を気にすることなく気軽に寿司を食べられるのはありがたいことです。
変な時期に購入したためずっと評価損でしたが、最近は持ち直して両者ともプラスに転じました。ほっとひといき。
また子供と寿司を食べようかな。