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第2回感想大会第5弾・東雲凛さん『イヴの秘密』 [企画]

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   「第2回 掌編がみるみる上手くなる感想大会」

   ★最終の第5弾作品の登場です★

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今日は第5弾作品の登場です。これで大会参加作品が全て出揃ったことにあんります。
感想の書き方や、大会の注意事項については以下の記事を参照してください。
URL→http://takeaction.blog.so-net.ne.jp/2011-12-19 

コメントの投稿期限は1月11日までです。
多数の参加をお待ちしておりますので、よろしくお願いします!


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『イヴの秘密』 東雲凜
 *第14回 超短編小説 応募作(結果はまだ出ていません)


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 世の中が赤と緑と派手な飾りが光る中、私はひとりでぼんやりそれを眺めていた。
12月はとても忙しい時期だと彼は言っていた。あちこちに配達に行かないと間に合わなくなるというので、今年のイヴもたぶん彼は残業で、会うことは出来ない。
 それを分かって付き合っているのだから、しかたがないよね。
 最近は不景気で競争が激しくなり、正月には業績が一気に下がるので、来年のこの時期に向けての計画も立てなければならないという。彼は会社ではまだまだ若輩者のようで、よく失敗するらしい。この時期の業界は大忙しだから、配達場所を間違えたり、同じところに二個届けてしまったりで叱られているみたい。
 でも、そんな彼の会社も夏は意外と暇みたいで、夏休みを利用して一緒に海外旅行に行ったこともあるの。
 海外出張も多いから、英語なんてぺらぺらよ。夏なんて、オーストラリアにバカンスだって行ったのよ。でも、この冬はどこにも連れて行ってくれない。せっかくのデートも遅刻ばかり。
 今日はイヴ前日。イヴに会えない代わりだといっていたけど、やっぱり、彼は遅刻してきた。
「遅い」
「ごめん」
「また、仕事の企画でもしてたんでしょ」
「ごめんな、正月はどうしても業績が下ってしまうから、今のうちに注文を取らないと駄目なんだよ」
 席につくなりため息をつく彼。今日はせっかくのデートなのにため息をつくなんて、最低よね。気持ちが滅入るわ。
「今年はどこの町で配るの?」
「聞いてくれよ、今夜の仕事が終われば海外なんだ、本社に行けるんだ」
「転勤?」
「うん……まぁそうなるかな」
 とうとう遠距離恋愛になるのかな。彼は東京支部に勤めている。入社3年目にして本社へ行けるというのだから、一応は将来有望株なのだろう。彼は今の仕事を気に入っているし、辞めるつもりもない。彼からのプロポーズを期待しているけど、さっぱりその気もないみたい。彼は本社へ行けることが余程嬉しいのかな。会話の内容も本社のここがすごいとか、配達システムがいいとか、私にとってはつまらない話ばかり。
 私は彼に自宅まで送ってもらい、そこで別れた。忙しそうに、足早に立ち去る彼氏。
 普通のカップルなら、楽しくプレゼントの交換をしたり、貰ったり、様々なイベントがあるはずなのに、彼の仕事はこの時期が一番忙しいので、イヴの夜を一緒に過ごすのは叶わぬ夢のまま。私だって女なんだから、彼氏とイヴを過ごしたい。でも、この時期だけは駄目。
 ひとりで部屋に戻ると、部屋の電気とTVをつけて、ソファにどっと体を預ける。携帯を握り締めながら時刻をみれば、あと一時間ぐらいでクリスマスイブがスタートする。
 明日から彼氏は大忙しだろうな。そう思って寝転んだ視線の先、カーテンの隙間から見えるのは白いもの。「あ」と思ってカーテンを開くと、静かな住宅街に立ち並ぶ街灯に照らされた雪だった。窓を開けると、部屋の外へと逃げていく息が白く染まる。
 じゃんじゃんじゃん……
 なんだろう。鈴のような音が聞こえる。空耳かなと思って空を仰いだら、トナカイに引かれたソリがゆっくりと降りてきた。御者席をのぞきこむと、さきほどまで一緒に食事をしていた彼が座っている。サンクロースのような赤い服に赤い帽子。サンタクロースとの違いは、髭がないことぐらい。一瞬、頭が真っ白になった私に、
「僕はサンタクロースなんだ。だからイヴの夜は小さな子供達の夢を叶える為にプレゼントを配るのが本当の仕事なんだ。ごめん。せっかくのイヴに何も出来なくて」
「うそ、サンタ? そんな赤い服きて、ちゃんとソリに乗って。でもまだイヴじゃないわ」
「え?」
「時間見てよ!まだ23日の23時30分よ!」
「あ……」
 思わず静まる私と彼の空間。肝心の時間を間違えるサンタも間抜けだわ。これでよく本社に栄転ものね。この業界は、相当に人手不足なのかしら。
 彼はソリから落ちそうになりながら、ベランダに下りた。せっかくサンタなんだから、もっとかっこいい登場の仕方はなかったのかしら。
「君にどうしても渡したいものがあるんだ」
 そう言ってからプレゼントを探し始めたけど、なかなか出てこない。ポケットに手をいれたり、すその中を覗いたりして、しきりに体中をチェックし始めた。5分経過。薄着でベランダに立っている私の身にもなってほしい。寒いから。
 再びサンタのソリに乗ってプレンゼントが沢山入っている袋の間を探し始めた。一体何を探しているのか見当もつかないが、ようやく何かを発見したのか、表情がほころんでいた。それから、また落ちそうになりながらも、私の前に立ち私の右手に小さな箱を握らせる。その蓋を開けると、雪の結晶のような形の、ダイヤモンドではない、なにか不思議な指輪。
「どうか僕と結婚してほしい。僕と一緒に本社のあるフィンランドにまで来てほしい」
 夢を運ぶサンタクロースの奥さんか……それもいいわね。
「私も一緒にサンタのお仕事をしてもいい?」
「もちろんだよ。年配のサンタは夫婦で仕事をしている人が沢山いるんだ」
 手を差し伸べられて、私は手を握り締めた。ここで窮屈な生活をするよりも、子供たちに夢のプレゼントをしたほうが、ずっと素敵じゃない? まだプレゼントを配るには一日早いが、私は彼とともにソリを走らせて、空中散歩。
 念願だった彼とのデートもできて、0時を過ぎてイヴが始まる。
 これが本当にクリスマスプレゼントだわ。


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雪ん子

現実と空想(妄想か)が渾然一体としていて、それなりに違和感がないのは、主人公がどこかトボケキャラのせいでしょうか。。
実際は、気が強くタカビーな主人公ですが、クールで覚めているんですね。「イブの夜を一緒に過ごすのが夢」と、かわいいことを言っているわりには。中年女性の設定だからでしょうか。
結婚したがっている男性の仕事(会社)を単に「配達業」で本社が外国、位しか把握していない。では、条件(現実)はどうでも良く彼氏の人柄にほれ込んでいるのかと言うとそうでもなさそう。
彼の正業が”サンタクロース”とオトシタイために最初に伏せているのだと思うのですが、それだと彼との結婚を強く望む女性のリアリティが薄くなります。細部にこだわりがあれば、ぐっと入っていけます(自分の場合)
~鈴のような音が聞こえて、ソリに乗った彼が降りてきた~~ さりげなく空想にいざなうのは、主人公の存在感自体が弱いから丁度いいのかと思いました。か、作者のウデなのでしょう。
彼氏の描写が主人公とはぴったりの相性なのが微笑みを誘います。
現実の中にファンタジィを取り込んだ面白い作品だと思いました。


by 雪ん子 (2011-12-28 00:48) 

里子

『イヴの秘密』を読んで 里子

 サンタのたまごの話.新しい感じで面白かった。若いときのサンタさんは、こんな感じなんだ、『あわてん坊のサンタクロウス』の歌からヒントを得たのですか。サンタのたまごの彼女の視点で書かれていて面白いけど気持ちなんかを、もうちょっとすっきりさせて書いた方が良い。私もそうなんだけど。サンタが出たら、喜ぶ子供が出てくるのが定番がけど『秘密』だから裏話なので良いのかな。。
by 里子 (2011-12-28 13:10) 

平渡敏

彼がサンタであることがすぐに分かってしまうので、もう少しうまく煙幕を張った方がよかったように思います。
その点をのぞくと、軽妙にうまく書けていると思います。

by 平渡敏 (2011-12-28 17:00) 

みこ

サンタクロースが彼氏だというお話は夢があって、好きな設定です。薄着で寒いと言っているのに空中散歩をするところは不思議な感じです。愛があれば寒さなんてへっちゃら! ということなのでしょうか。読みやすいし、楽しめました。
by みこ (2011-12-28 21:12) 

平 正直

『イヴの秘密』東雲凜 を読んで、平 正直

いやあ。素晴らしいです。バラされるまで、サンタだとは気が付きませんでした。バラした後の、小洒落たセリフ回しも軽妙で、楽しいです。

それに、描写もうまいですね。
「ひとりで部屋に戻ると、部屋の電気とTVをつけて、ソファにどっと体を預ける。携帯を握り締めながら時刻をみれば、あと一時間ぐらいでクリスマスイブがスタートする」
なんて、何でもないシーンでも、過不足なく完全に絵が浮かびます。女性のちょっとしたイラツキ顔もおまけに。

私には、この作品で充分な気がしますが、プロの方が見れば、まだ不足の部分があるんでしょうか??

私もあえて、考えて見ました。「会社」関係のエピソードを増やして見ては、どうでしょう。
例えば、伝説の創業者の「社訓」とか。優秀なライバルのエピソードとか。
あとで考えると、「ああ、そうかあ!線、引かれてたわ!」って奴です。

気が利いた落とし話には、直ぐに気が付く部分と、ちょっと読み返すと、なるほど、と言う部分があって、そこに気が付くと、私は、妙に関心してしまいます。そんな部分を、もう少し大胆に、散りばめても良いかな、と思いました。
多少のネタばれは、恐れずに!


by 平 正直 (2011-12-30 23:09) 

田磨香

いいですね、恋人はサンタクロ~ス♪
クリスマスを仕事で一緒に過ごせない「彼」に対して、
理解しつつも残念な気持ちを覚えずにはいられない「私」にとても好感が持てます。

反面、「彼」のキャラクターと二人の関係については、
もっと書き込まれても良かったのではないかと思います。
「彼」はこういう人物で、「私」は「彼」のこんなところが好き、ですとか、
「私」と「彼」の馴れ初めやこれまでのエピソード、普段の二人の距離感など。
平正直さんとは真逆になりますが、私は「彼」の仕事関連の記述は最小限に留め、
主人公二人とその関係に焦点を絞るとより良くなるのでは、と思いました。

また、「彼」がサンタクロースであることが判明するところについても、
最大の見せ場なわけですから、もっと勿体ぶった描写にしても良かったのでは、と。
例えば本文「御者席をのぞきこむと~」の一文で「彼」であることを明かすのではなく、
「そこにはサンタクロースがいて~」などとした後、最後の最後に
「~そしてその顔は。先ほど別れたばかりの――彼、だった……!」という具合です。

それと、重箱の隅つつきになるかもしれませんが、
物語の時間軸は23~24日の変わり目ではなく、24日の夜とすべきなのではないでしょうか?
子供たちの靴下にプレゼントが入っているのは25日の朝。
従ってサンタがプレゼントを配るのは24日の夜なわけで、「彼」の仕事は一日早いような……?
些細なことだとわかってはいるのですが、ごめんなさい、読んでいて、どうにも気になってしまいました。
by 田磨香 (2012-01-04 00:52) 

せきた

都会的なクリスマスと、ファンタジーなクリスマスとのバランスが凄く良いと思いました。
ドジで抜けている彼氏に、彼女は母性をくすぐられてしまう感じがリアルでした。
彼女からサンタの彼氏に愛の「台詞」があると、更にレベルアップすると思いました。


by せきた (2012-01-04 23:57) 

かよ湖

発想としては、とても楽しく読ませていただきました。
が、1つひっかかる点が・・・。「夏なんて、オーストラリアにバカンスに行ったのよ。」つまり、日本が夏の時はオーストラリアは夏ではなくバカンスを楽しむ季節ではないと思うのです。
また、田磨香さんご指摘のように「24日夜」の時間設定の方がすんなり入れる気がします。
そして、雪ん子さんは「中年女性」と読み取ったようですが、「20代女性」と読み取った私の個人的な趣味では、プロポーズの場面で「年配のサンタは夫婦で仕事をしている人が沢山いるんだ」と言われた時点で、指輪を返し部屋に戻ると思います。・・・あくまで私個人の行動なのであまり考えないでくださいね。(笑)
by かよ湖 (2012-01-07 17:27) 

リンさん

可愛らしいお話ですね。
ただ、冒頭から彼がサンタクロースだとわかってしまいました。
ちょっと残念な気もしましたが、それでも充分楽しめました。
ちょっと間抜けなサンタさん。
なんだか愛しく感じます。
彼なりの、ちょっとずれたプロポーズも、雪の結晶みたいな指輪も微笑ましく読みました。
by リンさん (2012-01-09 07:48) 

夏目みい子

冒頭から落ちが読めましたので
そうですね、ここはべたに「ユーミンの曲が好き」ではじめ
彼が「でも恋人がサンタクロースっていうとロマンチックだけど
夫にすると面倒だよ」と語り出し
彼女が反論すると
「トナカイの世話からプレゼントの仕分け準備まで
超肉体労働、農家の嫁どころの騒ぎじゃない」
てな夢も希望もないことを言い(笑)
「それでも、嫁さんになってくれる?」
な流れも面白いかなーと(ギャグすぎますか・たは)
少し苦さも込めた大人のラブストーリーになれる可能性も秘めた、佳作だと思いますです
by 夏目みい子 (2012-01-09 20:41) 

野本竹馬

ヒロインの語り口が生き生きしていて、性格が感じられて素晴らしいと思います。日にちを間違えたり、指輪をあたふた探す恋人の所作でも性格が伝わってきて、非常に人物を描くのがうまいと感じました。
 気になるのは、恋人がサンタクロースというオチがバレやすい事です。タイトルでイヴに注目させてしまうと、配達、12月は忙しい、あたりでもう「彼氏はサンタかな?」と予想する人が出てしまうのではないかと。タイトルにクリスマス関連の単語を使わない方がオチを隠せると思います。加えて恋人の会社の記述をもう少し減らして、恋人とのエピソードを増やすのはどうでしょうか。多少減らしても伏線が少ないと文句は言われないと思いますし、2人がさらに魅力的になるのではないでしょうか。
by 野本竹馬 (2012-01-11 23:55) 

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