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第10期リコー杯女流王座戦第2局(西山女流王座VS里見香奈女流四冠) [将棋]

西山女流王座の先勝で迎えた第2局です。

〔中継サイト〕
http://live.shogi.or.jp/joryu_ouza/

里見女流四冠は、雑誌のインタビューで「尊敬する棋士は渡辺明」とはっきり答えています。
師匠とか、同郷とか、そうした繋がりがないのにここまで明言するのは珍しいと思います。
それだけ、心酔しているのだと思います。
「形勢判断が明確で、判断する能力がすごい」「感動しすぎて嬉しくなり、逆に笑えてくる」とまさにベタ褒めです。
里見女流四冠は攻めっ気が強く、ときおり前のめりすぎることがあります。
そうした反省点も踏まえての、尊敬なのかもしれません。

〔棋譜〕
http://live.shogi.or.jp/joryu_ouza/kifu/10/joryu_ouza202011100101.html

ということで、将棋です。
振り飛車党の里見女流四冠ですが、久しぶりに居飛車を採用しました。
三間飛車に構えた先手西山女流王座に対し七筋から急戦を仕掛けて、あっという間に後手が良くなります。
研究不足かうっかりかは分かりませんが、50手目には後手指しやすいです。
里見女流四冠も優勢を意識しているのか、8一歩など渋い手を繰り出して、優勢を維持しながらゴールを目指します。
先に寄せに入ったのは西山女流王座です。
一手間違えたら許さないという鋭い攻めを見せますが、里見女流四冠は冷静に受けます。
そして攻めに回ったと思ったら、飛車切りから一気に西山玉を寄せ切りました。
まさに出雲のイナズマ炸裂です。

これで1勝1敗の五分となりました。
第3局は年12月1日(火)、神奈川の元湯陣屋で行われます!

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【書評】島田たく『アリとくらすむし』 [書評]

アリと周辺の昆虫にフォーカスです。


アリとくらすむし (ふしぎいっぱい写真絵本)

アリとくらすむし (ふしぎいっぱい写真絵本)

  • 作者: 島田 たく
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2015/04/03
  • メディア: ハードカバー



アリは様々な虫と暮らしています。
有名なのはクロシジミです。アリはクロシジミの幼虫を巣に持ち帰り、世話をする代わりに甘い蜜をもらいます。
アブラムシは巣に持ち帰ることはしませんが、甘い蜜をもらう代わりに天敵から身を守ったりします。
こうした共生関係だけでなく、アリの幼虫を食べるアリにとっての害虫もいます。
そうした昆虫たちを、大小さまざまな写真で紹介します。

アリの生活に興味の有る児童のために!
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第33期竜王戦第3局(豊島将之竜王VS羽生善治九段) [将棋]

豊島竜王の1勝1敗で迎えた第3局です。

〔中継サイト〕
http://live.shogi.or.jp/ryuou/

豊島竜王は対人の研究会を行わないことで有名でした。
電王戦出場が契機となり、より強い相手との練習を選んだ結果だと記憶しています。
ところが今期前半に不調となり、原因不明のままもがき続け、ようやく復調の道筋がみえたころに、対人の研究会を復活させる意向を示しています。
研究会は仲の良さもありますが、お互いにメリットがある相手を選ぶことが多いそうです。
ベテランは若手から最新の研究を勉強し、若手はベテランの勝負術を学ぶなど、いろいろなパターンがあると思います。
永瀬拓矢二冠と藤井聡太二冠のように、純粋に強い相手を選ぶ場合もあると思います。
豊島竜王がだれを研究相手に選ぶのか、興味があるところです。
さあ第3局は豊島竜王の新研究の成果が見られるでしょうか!

〔棋譜〕
http://live.shogi.or.jp/ryuou/kifu/33/ryuou202011070101.html

ということで、将棋です。
第3局は相掛かりとなりました。
先手の羽生九段は飛車を激しく動かして2歩得を果たしますが、それだけ駒組が遅れているので成否は微妙です。
時間の使い方からして、予定の手順ではなかったように思います。
さらに羽生九段は7七桂馬から端角というリスクをはらんだ手順に進みます。
羽生九段らしいといえばらしいです。
当然のように豊島竜王は反発し、形勢自体はよい勝負でしたが、角をぶつけたあたりで先手が形勢を損ねたようです。
苦戦の羽生九段ですが、綾を残しながら局面を複雑化し、豊島竜王が判断を誤った部分もあって逆転に成功します。
ですが、非常に細い逆転で、時間のないなか豊島竜王の攻めをしのがなくてはなりません。
そして、運命が分かれたのは163手目でした。
ここで9四角なら勝ち、それ以外なら負けという局面でしたが、この9四角は見えないです。
この手を逃した羽生九段は時間に追われ、負けの手順に踏み込まざるを得なくなります。
九死に一生を得た豊島竜王が勝ち、これで2勝1敗とリードしました。

竜王戦第4局は、11月12日(木)13日(金)に福島・穴原温泉 吉川屋で行われます!

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【公募情報】第17回愛するあなたへの悪口コンテスト [公募情報]

悪口が縁を深めることがあります。

〔主催者HP〕
http://www.machi-shima.com/aiwaru/aiwaru_bosyu17.html

東海道島田宿には、悪口稲荷と呼ばれるお稲荷様があったそうです。
そのお稲荷様にちなんだのが、この悪口コンテストです。
あくまで「愛するあなたへ」がポイントです。
ただの罵詈雑言とは異なりますので、要注意。
締切は令和2年11月30日です!

<募集要項抜粋>
募集内容:短文
テーマ :愛するあたなへの悪口
大  賞:3万円
制限文字数:50文字以内
応募締切:令和2年11月30日
応募方法:郵送、ハガキ、メール、FAX

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【書評】せべまさゆき『さがしてみようおさるが100ぴき』 [書評]

ウオーリーを探せ系の絵本です。


さがしてみよう おさるが100ぴき

さがしてみよう おさるが100ぴき

  • 作者: せべ まさゆき
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2013/01/08
  • メディア: 単行本



100ぴきのさるが食べ物を探しにいく話ですが、見開きページごとに100ぴきのさるが出来ます。
その中から帽子を探したり、鳥を探したりと、いろいろな課題が出されます。
さらには「泣いているさるが1ぴきいるよ」とかそうした言葉がそこら中に書かれていて、探してみようという気にさせられます。
とにかく仕掛けがたくさんです。
親子で遊ぶといいかもしれません。

遊べる絵本を探しているひとのために!
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第28期大山名人杯倉敷藤花戦挑戦第1局(里見香奈倉敷藤花VS中井広恵女流六段) [将棋]

中井女流六段は、最年長タイトル挑戦です。

〔中継サイト〕
http://live.shogi.or.jp/kurashikitouka/

中井女流六段は51歳4か月での挑戦となり、女流タイトル戦最年長挑戦記録を更新しました。
いままでの記録は同じく6年前の倉敷藤花戦で、山田久美女流四段が47歳8か月で甲斐智美倉敷藤花に挑戦しました。中井女流六段は、山田女流四段の記録を3年6か月更新です。
山田女流四段は1勝2敗で敗れて、惜しくも最年長タイトル獲得の記録更新はなりませんでしたが、中井女流六段は弟弟子である木村前王位が前年度に最年長初タイトル獲得記録を更新しているだけに、より期待が高まります。
中井女流六段と里見倉敷藤花との対戦成績は6勝6敗の五分ですが、最後の対戦が5年前になるので、二人とも初対戦のような新鮮な気持ちになるかと思います。
番勝負で二人が相まみえるのは初めてです。
さあ、5年ぶりの対戦の結果はどうなるでしょうか?

〔棋譜〕
http://live.shogi.or.jp/kurashikitouka/kifu/28/kurashikitouka202011050101.html

ということで、将棋です。
先手の里見倉敷藤花は、いつも通りにゴキゲン中飛車に構えます。
中井女流六段も予想していたと思いますが、いま流行りの玉をじっくり固める対策を採用します。
先に仕掛けたのは中井女流六段です。7筋しから歩をぶつけ、そのまま飛車交換になります。
打ち込みの隙が多いのは後手陣ですが、6六歩の突き捨てからの捌きが見事でした。
苦戦にみえた里見倉敷藤花ですが、長考から金を取られてもかまわないというギリギリの受けを見せます。
さらに金を取られたら詰むという形に追い込まれますが、金を玉の反対側に逃げて飛車を生け捕りにするという盲点の妙手を放ちます。
中井女流六段といえども、飛車をただで取られては苦しいです。
勝負勝負と迫りますが、戦力差は否めず、丁寧に受けた里見倉敷藤花が見切ってまずは115手まで先勝しました。
3番勝負の頭を取るのは大きいです。

第2局は11月21日(土)に例年通り倉敷市芸文館で行われます!
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【将棋ウォーズ】10月の対局結果 [将棋日誌(目標二段)]

22局遊んで、13勝9敗の勝率0.590でした。

〔将棋ウォーズ〕
https://shogiwars.heroz.jp/

将棋ウォーズは仕事帰りに時間があるときにマックによって遊んでいるので、1日1局がせいぜいです。
連続接続が1時間という制限があるし、平日に毎日マックに寄れるわけでもない。
しかも1時間の間にメールのチェックやら、ブログの閲覧もしているから、ますます時間がない。
けどまあ1月30局を目指したいなあ、という気持ちはあります。
毎月、ぴよ将棋相手にひとつの作戦を繰り返し対戦して習熟する練習は続けています。
先月は石田流の3三角対策です。
ネットにはいろいろな対抗策がありますが、石田流本組には棒金と決めているので、そこから移行できる作戦となるとネットに出ていない。
いまのところ急戦調がベストという結論ですが、まあ、あとは実戦で。
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最近の日常【令和2年11月中旬】 [日常]

〔お布施をした話〕
自分は特定の宗教に帰依していませんが、宗教の教義を知ることは好きです。
いつもお世話になっているお寺さんに(住職が同年齢)振り込みでお布施をしたところ、丁寧な手紙が帰ってきた。
冒頭にコロナの話がでていて、もはや時候の挨拶とかしているかも。
檀家の減少で経営が厳しいお寺さんもあるとは聞いていますが、昔ながらの真面目な住職さんにはぜひとも頑張って欲しいものです。
霞を食べて生きていくわけにはいきませんから。

〔隠れトランプ支持者〕
アメリカ大統領選挙の直前ですが、隠れトランプ支持者が選挙結果を左右すると言われています。
なぜ「隠れ」ているのかとうと、朝日新聞の記事によれば
「厳しい社会的制裁に遭う恐れがあります。特に国際的な企業や学術界は人種差別問題には注意深いですから、下手をすれば解雇されてしまうかもしれません。」
とまあ、恐ろしいことになっています。

[朝日新聞記事]
https://www.asahi.com/articles/ASNB94JXQNB6UHBI00S.html

さらに別の記事では、トランプ支持者には強迫まで行われているという。

[マネー現代]
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76422

普通に考えれば人権侵害であり、言論の自由に反していると思われます。
ですが、これらの行為に疑問を持つような記事は少数のように感じます。
多種多様な意見を自由に表明できることが、自由民主主義の基本だと思っています。
ポリコレが行き過ぎて、特定の主義主張に同調しない者に対してはレッテルを貼り、社会的に排除していく風潮は危険だと思います。
本来は警鐘を鳴らすべきメディアが沈黙を保っているのも、非常に危ういと感じます。
民主主義はとても弱い制度だと思っています。
だからこそ、政治的主張は度外視しても、みんなで協力して守っていく必要があると思うのですが。

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【掌編】齊藤想『告白草』 [自作ショートショート]

Yomeba第11回ショートショート募集に応募した作品です。
テーマは「告白」です。

―――――

『告白草』 齊藤想

 営業のために渡り鳥のように会社訪問を続けている途中で、見慣れぬ野菜が育っている畑を見つけた。形も大きさもバラバラで、葉の色も統一感がない。
 不思議な野菜もあるものだと思って通り過ぎようとしたら、道路の脇に立てられている古ぼけた看板が目についた。
”告白草いりませんか?”
 初めて聞く名前だ。地方の特産物かなと少し考えていたら、畑の中から仙人のような老人が顔を上げた。
「ほれほれ、そこのお兄さん。告白草を食べていかんかね」
「いや、仕事中なので」
 老人は自分の言葉を無視して、満面の笑みで近づいてくる。腰にぶら下がっている白いタオルが目についた。
「この畑は極上の告白草が取れるのじゃ。脳がとろけるほど美味しいぞ」
「脳がとろけるって……」
「そう、この野菜は脳に効くのだ。わしが見たところ、お前さんは人生に疲れておる。そういう大人こそ、この野菜が必要なのだ」
 老人が、ほれほれ、という感じで告白草を差し出してくる。確かに肉厚で、香りもよい。葉の表面には朝露が付いており、新鮮で、歯ごたえも良さそうだ。
「お金はかかるのか?」
「そんなもん、いらん。無料でええ」
 告白草への興味と、タダという言葉にまけて、自分は試しにこの野菜を口にした。
 前歯が葉肉をかみ切った瞬間、ふっと、ブルーベリーのような甘酸っぱい香りが鼻腔に広がった。
 場面が急転する。目の前に広がるのは、ホテルの一室だ。一糸まとわぬ妙齢の女性が、腹の突き出た中高年に寄り添っている。
 中年男性はベットの上で、弛緩しきった、満足そうな笑みを浮かべている。
「ねえ、社長さん」
 そう女性が声をかけた。そのとき、ホテルの扉が開け放たれた。スーツを着たいかつい男たちがなだれ込んでくる。真っ青になる中年男性。
 妙齢の女性が、意味ありげにほほ笑む。
「いまだから告白してあげる。私ねえ、実はこの筋のひとの愛人なの。いままで隠してきてごめんね」
 中年男性の顔が真っ青になる……。
 ここで現実に戻った。
「どうだい、驚いただろう」
 畑の老人は、ケケケ、と笑った。
「告白草は、だれかの告白を栄養にして育っている。都会は告白の集積地だ。たくさんの人が泣き、そして笑う。
 他人の不幸は蜜の味ってな。おまえも誰かの告白を知りたいだろう。ほら、これなんてどうかね」
 老人はひときわ鮮やかな告白草を指した。葉の先端はとがっており、都会らしいシャープさを感じる。
「二回目からは、金を取るという商売か」
「わしがそんなケチくさい男にみえるか。わしの楽しみはもっと別にある。金などいらん。好きだけ食え」
 自分は老人に言われるがまま、再び告白草を口に入れた。
 今度はミントの香りだ。爽快な空気が鼻腔を駆け抜ける。それと同時に、不思議な光景が頭を過った。
 どうやら告白の主は高校生のようだ。クラスのアイドルだった同級生に、思い切って告白をした。だが、あえなく振られた。
 まあ、そんなもんだよなと告白の主が軽く笑っていたら、その様子を遠くから幼馴染の女子が見つめていることに気が付いた。
 そのとき、彼は自分の愚かさに頭を殴りつけたい気持ちになった。本当に必要としているのは、キラキラしている女子ではなく、いつもそばにいてくれるひとだ。
 幼馴染は、いつもそばにいてくれた。大事なひとはすぐ隣にいた。
 彼は幼馴染に駆け寄った。風が吹き、セーラー服のスカートがふわりと膨らむ。
 彼は意味もなく、制服の裾を払った。
「バカなことしてごめん。おれ、実は……」
 彼がそう言いかけたとき、幼馴染が彼の言葉を制した。
「いまだから告白するけど、私ね、もう付き合っているひとがいるの。ケン君の気持ちがずっと分からなくて……」
 幼馴染が告げた交際相手の名前は、なんと幼稚園時代からの彼の親友だった。しかも、クラスのアイドルに告白するようけしかけた張本人だ。
 すべては親友の策略だった。彼は、絶望の淵に叩きとされた。
 老人の顔が、ぬぅっと近づく。
「どうだい楽しいだろう」
 自分は頷かざるを得なかった。他人の不幸が、なぜこんなにも楽しいのだろうか。
「もう一本食べても良いか」
「どうぞ、どうぞ。告白草の味を知ってくれたのなら、なによりだ。もちろん金はとらんから、安心してくれ。わしはなあ、他人の不幸を喜ぶ人間の顔を見るのが、なによりも大好きなのだ」
 老人は実に愉快そうだ。
 自分が選んだのは、地面に這いつくばるようにして生えている苔のような告白草だ。土ごとむんずと毟り取る。
「なかなかオツなものを選んだねえ。地面に近ければ近いほど、重苦しい告白を吸い上げてくれるからな」
 老人はケケケと笑った。
 おれは奇怪な笑いを無視して、告白草を口にした。ドブネズミのような陰湿な匂いが広がる。
 画面が切り替わった。男が取調室で刑事と対面している。
 みすぼらしい男が警察に訴える。
 全ては社会が悪い、食い詰めた上での犯行だ、生きるためにやむを得なかった、親も貧乏で成功するチャンスがなかった、人を殺めてしまったのは抵抗されたからで、あれは悲しい事故だ。
 男の勝手な言い草を聞いていた刑事が、祈るような形で両手を組んだ。
「どんな理由を付けようと、お前は間違いなく人殺しだ。人を殺すことが楽しくてたまらない殺人鬼だ」
 男は必死に言い訳をする。
 おれは悪くない、すべては不公平な世の中が、社会の目が……と言い続ける男に、刑事が迫る。
「早く楽になれよ。全てを認めちゃいなよ。お前は人を殺したいから、殺したんだ。ただ、それだけだ。それだけの男だ」
 そんなことはないと否定する男に、刑事は口元に笑みを浮かべた。そして、男の耳元で彼にだけ聞こえる小さな声でささやく。
「仲間だと思って告白するけどさ、人殺しは最高だよな」
 ここで現実に戻された。
「世の中には最低な人間がいるものだな」
「ええ、だれもが最低なのです。この私も貴方も、そして、この地球に住む人類全体も」
 そう言い終わると老人は消えた。畑もただの空地に戻り、その中央になぜか破壊されたお地蔵様が転がっていた。
 すべては夢だったのかもしれない。そう思うにはあまりに生々しく、重すぎた。
 告白草が吸い取っていたのは、他人の不幸を願う汚い心だ。あの告白草は、自分自身の心の反映だ。
 そろそろ自首する頃合いかもしれない。元刑事である自分は、ふと思った。

―――――

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【掌編】齊藤想『戻ってきた場所』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房第67回に応募した作品です。
テーマは「忘れ物」です。

―――――

 『戻ってきた場所』 齊藤想

 夏の甲子園の決勝戦には、幾重もの物語が詰まっている。
 高校二年生の門脇啓太は、その舞台に自分がいることが信じられなかった。
 門脇が通う緑光学園は平凡な公立高校で、甲子園など夢のまた夢だった。それが啓太のひとつ上の世代にDDコンビと呼ばれる中村大輔、山田大地という名門校が羨むエースとスラッガーが同時入学したことで、一気に甲子園までの階段を駆け上がったのだ。
 啓太も、DDコンビにあこがれて入部したひとりだった。
 DDコンビは、あらゆる面において卓越していた。
 野球の技術だけでなく練習法、心構え、さらにはリーダーシップもずば抜けていた。
 緑光学園野球部は、DDコンビに引っ張られる形で、部員たちの猛練習が始まった。
 高校も、野球部を全面的にバックアップしてくれた。練習場や選手集め、さらには実績のあるコーチ陣まで招聘された。
 県内の注目を浴び続けた緑光高校だが、DDコンビが高校三年の夏を迎えるとき、ついに甲子園の優勝候補の一角と言われるまで成長していた。
 そして、ついにたどり着いた大舞台。夏の甲子園の決勝戦。
 一点リードで迎えた九回裏。相手チームの最後の攻撃。ツーアウトランナーなし。深紅の優勝旗は目前だった。
 最後の打者が平凡なライトフライを打ち上げた。これで試合は終わるはずだった。
 ところが太陽の光が目に入り、啓太は打球をグローブに収めながらも落球した。
 マウンドに立つDDコンビの中村大輔が笑いなが手を振る。同じくコンビでキャッチャーをする山田大地がホームベース上から全員に声をかける。
 まだ余裕がある。相手チームは下位打線。あと1人で勝利という状況は変わらない。
 次の打者に、エースの大輔が渾身の直球を投げ込む。ところが、力が入りすぎたのか、吸い込まれるようにど真ん中に入る。それを相手打者はこれ以上ないドンピシャのタイミングで打ち返す。
 打った相手が一番びっくりの当たりだった。
 逆転のツーランホームラン。
 啓太は頭の中が真っ白になった。自分がエラーしなければ優勝していた。みんなの努力を一瞬で無にしてしまった。
 試合後、啓太は球場からどうやって宿舎に戻ったのか思い出せなかった。とにかく泣いて、詫びて、あとは言葉にならなかった。
 こうして、啓太は甲子園に取り返しのつかない忘れ物をしてしまった。

 DDコンビが卒業したと同時に、野球部は弱小高校に戻った。
 啓太はどうしても甲子園に戻りたかった。忘れ物を取りに行きたかった。自分のエラーが原因で優勝を逃したという痛恨の記憶を乗り越えたかった。
 幸いなことに、コーチ陣は全員残留してくれた。甲子園出場で入学希望者が増えたこともあり、高校からの支援が継続されることが決まったのだ。
 啓太は必死になって練習した。自ら嫌われ役となり、後輩に叱咤激励を繰り返した。
 県大会は、一回戦から苦戦の連続だった。
 相手にリードを許すたびに、啓太は甲子園の忘れ物を思い出した。忘れ物を取り戻したいという思いが、チームを苦境から引っ張り上げた。
 そうして、奇跡といえるような快進撃で、緑光学園は二期連続の甲子園出場を決めたのだ。
 あこがれに舞台に戻ってきたものの、さすがに甲子園は甘くはなかった。一回戦で優勝候補の強豪校と当たり、県大会ならコールド負けになるような惨敗を喫した。
 だが、啓太は野球をやりきったというすがすがしい気持ちに包まれた。涙は一滴も流れなかった。
 甲子園ともお別れだ。そして青春をつぎ込んできた野球とも。啓太が感謝の気持ちで深々とグラウンドに頭を下げたとき、後輩に声をかけらた。
「今度は忘れ物をしないでくださいね」
 啓太は笑いながら答える。
「ここに戻ってくれたのも、去年の忘れ物のおかげかな。いままで辛い思いをさせて悪かったな」
「そんなことないです。いままでありがとうございます。今度はぼくたちが忘れ物をして、後輩たちを甲子園に連れていきます」
 啓太は後輩とがっちりと抱き合った。
 今度は忘れ物をしない。
 啓太は白い袋を取り出すと、球場に漂う埃とともに、球児の宝物である甲子園の土を詰め込んだ。

―――――

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