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【書評】井上靖『敦煌』 [書評]

西田敏行の主演で映画化された井上靖の代表作のひとつです。


敦煌 (新潮文庫)

敦煌 (新潮文庫)

  • 作者: 靖, 井上
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/03/24
  • メディア: 文庫



井上靖には西域小説とよばれる作品群があります。
その中でも、敦煌は代表作とみなされており、それだけの価値のある作品だと思います。
敦煌の舞台は中国の北西部で11世紀から13世紀にかけて栄えた西夏です。
主人公は北宋で官僚になるべき科挙試験を受けますが、失敗します。その後、西夏文字に出会い、この文字を読みたいと発起して西夏へと渡ります。
そこで武骨な漢人の部隊長と出会い、彼に信頼されることで相談役のような立場になります。
主人公は西夏文字を学び、仏教に傾倒します。
漢人部隊長が西夏に反乱を起こすときも行動を共にしますが、戦火で経典が失われることを憂います。
主人公は行商人の助けを借りて、入口を封鎖した石窟のなかに隠します。
隠匿された文書は、九百年もの時を経て、敦煌文書として発見されます。
という感じのストーリーです。

あくまで自分の読み取り方ですが、主人公は承認欲求を強く持っていると感じます。
科挙に失敗したことで、存在意義を見失いますが、凛とした西夏の女性と、彼女から渡された西夏文字を見て、人生の目的を転換させます。
西夏の女性というのがひとつのキーワードになっています。
主人公は西夏に渡り、一兵卒として散々な目にあいますが、「死んでも仕方がない」という思いと、「自分の存在する意味」を重ね合せて戦場を駆け巡るうちに、漢人部隊長と深い友情で結ばれます。
自分を認めてくれる存在と出会います。
主人公はその気になれば北宗に戻れるのに、西夏にとどまることを決意します。
テーマは、人生の目的だと思います。
ラストは敦煌文書と結びつけるために仏教を登場させたりしますが、これはおまけだと思います。
西域を思わせる雄大な景色といい、毎日芸術賞を受賞しているのも納得です。

ちなみにですが、本作はあくまで小説です。
主人公や漢人部隊長も架空の人物ですし、敦煌文章も戦火から逃れたというより、とりあえず不要な文書を保存したという説が濃厚です。
その点にご注意を。

西域小説の代表作を読みたいひとのために!
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