齊藤想『マイ・ホーム(童話)』 [自作ショートショート]
記録を見ると、H17.7に書いたようです。ですから、8年以上前ですね。
何の公募か忘れましたが、「ビワコオオナマズを主人公にした童話」の募集がありまして、ビワコオオナマズの習性をネットで調べて、ちょこちょこと作ってみました。
たしか、住処である岩の隙間を取り合うとか、なんたらかんたらネットに書いてあった気がします。
8年以上前なので、ほとんど忘れてしまいましたが。
ここに掲載するということは、もちろん落選作ということで(汗)
――――
齊藤想 『マイ・ホーム』
太陽がかくれてるとナマズの世界が始まります。ナマズは夜になると元気になるのです。
「あー、今晩もおなかいっぱいになったぞ」
ビワコオオナマズのノロ太は食いしん坊です。今夜もおいしい小魚を好きなだけ食べて、自分の家であるナマズ岩にむかいました。ナマズ岩は十mほどもある大きな岩で、ふくざつなさけめがはしっています。ナマズ岩はノロ太にとってすみごごちのいい家でした。
ノロ太が自分の家に入ろうとすると、みしらぬ目がノロ太をにらみつけました。
「だれだ! おまえは」
ぬっと顔をだしてきたのはイワトコナマズのおイワでした。イワトコナマズはビワコオオナマズより少しこぶりで、白くてこまかいはんてんもようがとくちょうです。おイワは口ひげをゆらゆらさせながら言いました。
「きょうからここは私のいえだよ。おっと、どろぼうなんていわないでおくれ。おまえさんが家をるすにしたのが悪いのだからね」
「なんだと!」
ノロ太が下あごで体あたりをしようとしたら、おイワはおくにかくれてしまいました。そうなると、もう手も足もだせません。
「おぼえていろよ!」
ノロ太ははきすてました。今日はのじゅくをするしかなさそうです。
つぎの日の夜、ノロ太はみずうみのそこにおなかをつけながら、しんちょうにナマズ岩に近づいていきました。そして正面にまわると、上向きについている目でじぶんの家をのぞきこみました。どうやらおイワは外出しているようで、家の中はからでした。近くにいるようすもありません。
「とられたらとりかえしてやる。あいつがくやしがるすがたが目にうかぶぜ」
ノロ太はしっぽをくねらすと、一気に家にすべりこみました。ひさしぶりのマイホームです。けど、どうもおしりのあたりがくすぐったくてしかたありません。ノロ太がのぞきこむと、こまかいつぶがまいあがりました。
「なんだなんだ?」
おイワのこどもでした。白くて小さな体をくねらしながら、あわててにげだします。ノロ太がきゅうにはいってきたので、おどろいてしまったようです。おしあうようにして出口をめざしましたが、外にでたところできゅうにれつがみだれました。
ノロ太が外をのぞくと、目のまえにブラックバスがまちかまえていました。ブラックバスはどうもうな魚で、おイワのこどもなど一口で食べてしまいます。こどもたちはちいさなひれをうごかして必死ににげますが、みるみるうちにブラックバスがせまってきます。
「ドカッ!」
ノロ太はかたい下あごでブラックバスにとっしんしました。いくらマイホームを盗んだやつらとはいえ、目の前でおなじナマズのなかまが食べられていくのを助けないわけにはいきません。ノロ太のほうがブラックバスより二回りも大きいので、ケンカなら負けません。ブラックバスはノロ太のタックルを正面からうけてしまい、ほうほうのていでにげていきました。ノロ太は見事にブラックバスをげきたいしたのです。
しばらくして、おイワが帰ってきました。ノロ太とこどもたちが出むかえると、びっくりしてエラをぱたぱたさせながら頭を下げました。
「家を盗んでしまってごめんなさい。ああ、あしたからまたのじゅく生活になるのね。これからどこへいけばいいのかしら」
「るすにしたらだめじゃないか」
おイワはおどろいたようにせびれをふるわせました。ノロ太は長いあごひげをのばして、おイワの頭をなでました。
「もうすぐでこどもたちがブラックバスに食べられるところだったよ。これからはこどもたちを残して外にでたらだめだよ」
「けど、ひとりでは目がとどかいないし」
ノロ太はあごひげでじぶんをさしました。
今夜もお腹一杯になってノロ太はナマズ岩にもどってきました。しかし、なにかきゅうくつです。
「ノロ太はでかいからじゃまだよ」
「もっとはじっこによれ」
「なんだと!」
ノロ太とおイワのこどもとのケンカがはじまりました。あの日からナマズ岩はみんなのいえになったのです。ノロ太がいるのでおイワも安心してでかけられるし、ノロ太も家が盗まれる心配がありません。
「おいノロ太。お母さんがでかけるからおまえはるすばんだ」
「お母さんの家が盗まれないように、ちゃんとみはっとけよ」
「かんちがいするな。ここはおれの家だ!」
毎日のようにケンカをしながら、ノロ太とおイワとこどもたちは、きょうも楽しそうにナマズ岩のまわりをおよいでいるそうです。
何の公募か忘れましたが、「ビワコオオナマズを主人公にした童話」の募集がありまして、ビワコオオナマズの習性をネットで調べて、ちょこちょこと作ってみました。
たしか、住処である岩の隙間を取り合うとか、なんたらかんたらネットに書いてあった気がします。
8年以上前なので、ほとんど忘れてしまいましたが。
ここに掲載するということは、もちろん落選作ということで(汗)
――――
齊藤想 『マイ・ホーム』
太陽がかくれてるとナマズの世界が始まります。ナマズは夜になると元気になるのです。
「あー、今晩もおなかいっぱいになったぞ」
ビワコオオナマズのノロ太は食いしん坊です。今夜もおいしい小魚を好きなだけ食べて、自分の家であるナマズ岩にむかいました。ナマズ岩は十mほどもある大きな岩で、ふくざつなさけめがはしっています。ナマズ岩はノロ太にとってすみごごちのいい家でした。
ノロ太が自分の家に入ろうとすると、みしらぬ目がノロ太をにらみつけました。
「だれだ! おまえは」
ぬっと顔をだしてきたのはイワトコナマズのおイワでした。イワトコナマズはビワコオオナマズより少しこぶりで、白くてこまかいはんてんもようがとくちょうです。おイワは口ひげをゆらゆらさせながら言いました。
「きょうからここは私のいえだよ。おっと、どろぼうなんていわないでおくれ。おまえさんが家をるすにしたのが悪いのだからね」
「なんだと!」
ノロ太が下あごで体あたりをしようとしたら、おイワはおくにかくれてしまいました。そうなると、もう手も足もだせません。
「おぼえていろよ!」
ノロ太ははきすてました。今日はのじゅくをするしかなさそうです。
つぎの日の夜、ノロ太はみずうみのそこにおなかをつけながら、しんちょうにナマズ岩に近づいていきました。そして正面にまわると、上向きについている目でじぶんの家をのぞきこみました。どうやらおイワは外出しているようで、家の中はからでした。近くにいるようすもありません。
「とられたらとりかえしてやる。あいつがくやしがるすがたが目にうかぶぜ」
ノロ太はしっぽをくねらすと、一気に家にすべりこみました。ひさしぶりのマイホームです。けど、どうもおしりのあたりがくすぐったくてしかたありません。ノロ太がのぞきこむと、こまかいつぶがまいあがりました。
「なんだなんだ?」
おイワのこどもでした。白くて小さな体をくねらしながら、あわててにげだします。ノロ太がきゅうにはいってきたので、おどろいてしまったようです。おしあうようにして出口をめざしましたが、外にでたところできゅうにれつがみだれました。
ノロ太が外をのぞくと、目のまえにブラックバスがまちかまえていました。ブラックバスはどうもうな魚で、おイワのこどもなど一口で食べてしまいます。こどもたちはちいさなひれをうごかして必死ににげますが、みるみるうちにブラックバスがせまってきます。
「ドカッ!」
ノロ太はかたい下あごでブラックバスにとっしんしました。いくらマイホームを盗んだやつらとはいえ、目の前でおなじナマズのなかまが食べられていくのを助けないわけにはいきません。ノロ太のほうがブラックバスより二回りも大きいので、ケンカなら負けません。ブラックバスはノロ太のタックルを正面からうけてしまい、ほうほうのていでにげていきました。ノロ太は見事にブラックバスをげきたいしたのです。
しばらくして、おイワが帰ってきました。ノロ太とこどもたちが出むかえると、びっくりしてエラをぱたぱたさせながら頭を下げました。
「家を盗んでしまってごめんなさい。ああ、あしたからまたのじゅく生活になるのね。これからどこへいけばいいのかしら」
「るすにしたらだめじゃないか」
おイワはおどろいたようにせびれをふるわせました。ノロ太は長いあごひげをのばして、おイワの頭をなでました。
「もうすぐでこどもたちがブラックバスに食べられるところだったよ。これからはこどもたちを残して外にでたらだめだよ」
「けど、ひとりでは目がとどかいないし」
ノロ太はあごひげでじぶんをさしました。
今夜もお腹一杯になってノロ太はナマズ岩にもどってきました。しかし、なにかきゅうくつです。
「ノロ太はでかいからじゃまだよ」
「もっとはじっこによれ」
「なんだと!」
ノロ太とおイワのこどもとのケンカがはじまりました。あの日からナマズ岩はみんなのいえになったのです。ノロ太がいるのでおイワも安心してでかけられるし、ノロ太も家が盗まれる心配がありません。
「おいノロ太。お母さんがでかけるからおまえはるすばんだ」
「お母さんの家が盗まれないように、ちゃんとみはっとけよ」
「かんちがいするな。ここはおれの家だ!」
毎日のようにケンカをしながら、ノロ太とおイワとこどもたちは、きょうも楽しそうにナマズ岩のまわりをおよいでいるそうです。
ナマズの習性をきちんと調べて書かれたんですね。
家を取られたら野宿っていうのが、なんとも可笑しいですね。
最後はみんなで仲良く、ドタバタで楽しい話ですね。
by リンさん (2013-12-28 15:06)
>リンさん
ナマズの習性は……たしか、調べたといっても1冊か2冊程度です。
あとは琵琶湖の本をちょこっと。いやあ、お恥ずかしい(汗)
by サイトー (2013-12-30 07:07)