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かよ湖さん『放射線計測』 [ショートショートの紹介!]

今日はかよ湖さんの『放射線計測』を紹介いたします。
先日行われた【侵略!ストーリートーナメント】で惜しくも準決勝で敗れてしまいましたが、マスコミに対する皮肉がこめられていて、考えさせられるなかなかの作品だと思います。
まずはご一読を!

【かよ湖さんのHP:かよ湖の気が向いたら日記】
http://kayoco.blog.so-net.ne.jp/

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『放射線計測』   かよ湖さん

(初出:かよ湖さんのHP
  →http://kayoco.blog.so-net.ne.jp/2011-11-16-2 
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「ねぇねぇ、見て!スゴいの借りてきちゃった。」
「わぁ、大きい。年季も入ってて高そうね。きっと精度もいいんでしょうね。この線量計。さすが、トモくんママ!」
私達は、子どもが同じ幼稚園に通う仲良し3人組のママ。天気のいい日は、子ども達が幼稚園に行っている間にお散歩を兼ねて、街のあちこちを線量計で計測する事を趣味としている。
「ねえ、ここ計ってみない?」
「せーの!」
私達は3人同時に、線量計の先端を公園の植え込みの一部に向けた。
「この前よりも上がってない?」
「うん、ずいぶん上がってる。」
「基準値ギリギリじゃない?」
「昨日の雨のせいかしら?」
「別の場所も計ってみましょう?」
私達は3人同時に、線量計の先端をベンチの下に向けた。砂場に向けた。すべり台の降り口に向けた。水飲み場に向けた。
「どこもスゴい数値よ。」
「役所に連絡しましょう。」

次の日。
役所の担当の人、専門家、そして、私達3人は、昨日の公園に集まった。どこで聞き付けたのか地元のケーブルテレビのカメラもそこにはいた。お昼のニュースで生中継するらしい。前もって教えてくれれば、メイクもちゃんとしてきたのに。
「ここなんです。せーの!」
カメラ・専門家・役所の人が見守る中、私達は3人同時に、昨日と同じ場所に線量計の先端を向けた。線量計の針が高い値を指す。私達は、ちょっとホッとした。カメラの前で、値が低いのはマズい。
次に専門家の人が同じ場所に線量計を向けた。針は・・・ほとんど動かない!
「どうして?」
「これはですね・・・」と言い、専門家の人は、私の持っていた線量計に彼の線量計の先端を向けた。
ピーピーピー。今まで聞いた事のない高音が、私の耳に鳴り響いた。
「この線量計、どこで手に入れましたか?」
「ネットで・・・レンタルですけど・・・。」
「ああ、やっぱり。年季も入ってるし、過去に相当線量の高い場所で活躍されたのでしょう?この線量計自体がたくさん浴びちゃってるんですよ。」
「・・・・・。」

次の日から散歩には行かなくなった。行く相手がいなくなった。智樹も幼稚園から帰ってくると1人で家で遊ぶようになった。
「私がちょっと放射線を多めに浴びた線量計を持っていたからって、・・・何よ!たいした事ないじゃない!みんな、過敏すぎるのよ!マスコミに侵略されすぎだわ!・・・あなた、どう思う?」
「きみだって一緒だろ。ヒロくんのママがそれを持ってたら、今頃、仲間はずれにしてるんだろ?」
「え?・・・・・。」
「みんな流されすぎなんだよ。マスコミが言う事は全部正しいと思いすぎなんだよ。普段からもっと自分で考える事をしなくちゃいけないんだよ。」
「あなた、テレビ局の人間でしょ!」
「そうだよ。だから言ってるんだよ。街頭インタビューなんて賛成意見がいっぱいあっても、反対意見しかオンエアーしないんだぜ。その方が面白いからさ。」
「面白い?案外ヒドいのね。」
「多くの主婦の希望に沿ってるだけだよ。俺たちは視聴率を取らないといけないからさ。」
「視聴率?そんなものに侵略されて真実を伝えられないなんて最低ね。」


わたしたちは、気付かないうちに多くのものや考え方に侵略されているのだろう。そして、その侵略によって現在の自分自身が形成されているのかもしれない。。。

(終わり)
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いかがだったでしょうか?
個人的な思いを少し書くと、マスコミは記事を書くプロですが、残念なことに(当然ながら)あらゆる分野におけるプロではありません。
福島事故以降、放射能についての記事が増えましたが、残念ながら専門家から見れば首をかしげる報道(つまり間違い)もあるようです。
この話は放射能に限ったことではなく、大人になり、社会人になるとそれぞれ専門分野を持つようになります。
具体例を書くといろいろ差しさわりがあるので書きませんが、養われた専門家としての目から新聞・TVに限らずマスコミ報道に接すると、首をかしげるというより、明らかな間違いや現実を無視した無茶苦茶な指摘チラホラ見つかります。

この作品にもありますように、安易に報道を信じるのではなく、ひとりひとりが知識を増やす努力を続けるしかないのでしょうね。

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コメント 2

かよ湖

私の作品をわざわざ紹介してくださり、ありがとうございます。
また、私の1番伝えたかった事「安易に報道を信じるのではなく、ひとりひとりが知識を増やす努力を続ける」(文中の言葉をお借りしました)事に触れていただき、とても嬉しく思います。
出来る限り「正確な報道」・出来る限り「正確な受け取り方」のできる社会になるとイイなぁ、と思っています。
by かよ湖 (2011-11-30 23:42) 

サイトー

>かよ湖さん
こちらこそ、紹介することに承諾をいただきありがとうございます。
正確な報道、正確な受け取り方……を実現するには、やはり教育の力が必要ではないかと思っています。
教育の目的とは、大人になって役に立つとか、就職に有利とかではなくて、民主主義ですから、各自が正確な判断を下せるようになることが最大の目的ではないかと個人的には思っています。
by サイトー (2011-12-02 18:42) 

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