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【SS】齊藤想『激論、最高の先生はだれだ!』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房第68回に応募した作品です。
テーマは「先生」です。

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『激論、最高の先生はだれだ!』 齊藤 想

 都内某所で、第1回先生会議が開かれた。先生会議とは、各界を代表する先生たちが集まり、どの先生が一番偉いのかを決める会議のだ。
 先生と呼ばれる各界の名士が円卓に並んで座っている。第1回ということもあり、会場には重々しい雰囲気が漂っていた。
 だれもが躊躇する中で、入口から一番奥側に座っている……つまり、円卓ではあるが上座に当たる席をあてがわれた恰幅の良い老紳士が、すっと立ち上がった。
「一番偉い先生は私に決まっておる」
 声の主は、当選8回を誇るベテラン国会議員だった。考える余地もないと言わんばかりの口調だった。
「国家を動かしているのは私たちである。国会議員より偉い先生が、どこにいるというのかね」
 あまりに自信満々な宣言に、さっそく円卓のあちこちから反発の声が上がる。
 最初に反撃の口火を切ったのは、細身で眼鏡をかけた中年の男性だった。
「私は大学病院で内科医として長年勤務しております。人間で一番大切なのは命です。その命を預かる医者こそ、一番偉い先生だと考えております。そういえば、代議士先生は昨年末に当病院で心臓の手術を受けられましたよね」
 ベテラン国会議員は首を横に向けた。痛いところを突かれたらしい。
「私たち医者がいなければ”先生”はこの世の人ではありませんでした。こうして胸を張って偉そうにしてられるのも、医者のおかげでございます」
 円卓から忍び笑いが聞こえてくる。
 ベテラン国会議員が不機嫌そうに黙りこむ。医者は勝負ありと円卓を見回した。
「ちょっと待ってください」
 今度は若い女性が手を上げた。
「人間は生きていればよいというものではありません。文化的な生活をして、人生を楽しんでこそ、命は意味をもつのです。本は多くの人々に感動を与え、人生に楽しみをもたらしています。作家こそ、一番の先生とはいえないでしょうか?」
「その意見は、あまりに一面的ではないかね」
 次は若い男性が立ち上がった。
「私は小学校の先生をしております。国会議員が国を動かせるのも、医者が命を救えるのも、作家が読者を感動させる小説を書けるのも、全ては基礎となる学問があるからです。この世の中で、最も素晴らし財産は人間です。その人間を育てる学校の先生こそ、一番ではないでしょか」
 代議士が不服そうに吐き捨てた。
「ワシは学校の先生に育てられとらん。親父の秘書となり、現場で鍛えられた」
 作家も不平を述べた。
「私も独学で小説を書いています。学校の勉強などものの役にも立ちません」
 医者は反論こそしなかったが”小学校の先生ごときが”という侮蔑の視線を、容赦なく教師に浴びせている。
 あまり賛同を得られない様子を見て、まるで助け舟を出すかのようにおかっぱの少女が立ち上がった。
「私にとって先生はあこがれのひとでした。
せんせい、せんせい――それはせんせい」
「森昌子か!」
 国会議員がつっこみを入れたが、世代が違いすぎてほかの先生たちは無反応だった。
 話題がひととおり過ぎたところで、いままで沈黙を保っていた老婆が、ようやくといった様子で重い腰を上げた。
「みなさんご立派になられて、私は嬉しゅうございます。申し遅れましたが、私は幼稚園の先生をしておりました。いまもみなさんの手紙を大切にとっております。これは私の宝物です」
 会場がざわついた。
「それではここで手紙をお読みしましょう。代議士先生からの手紙ですが、”ぼくは将来先生と結婚……”」
「や、やめてくれ!」
「いまはお医者さんになられたあの方も、幼稚園時代には女の子のスカートをめくって大問題になって……」
「そんな昔の話を!」
「そういえば作家さんは幼稚園時代の思い出をエッセイに書かないのかしら。あの頃はシモの失敗が多く、夏休み前に汚れた下着をロッカーに隠したもんだから夏休み明けはもう大変で……」
「だ、だれかあの人を止めなさい!」
「いまは小学生相手にふんぞり返っているあの先生も幼稚園時代は……」
「た、頼みますからあの話だけは……」

 こうした様々な議論の末に、最強の先生は幼稚園の先生であることが判明した。

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