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【書評】森田芳雄『ラサ島守備隊記』 [書評]

沖縄南部の孤島、ラサ島に配属された隊長の記録です。


ラサ島守備隊記

ラサ島守備隊記

  • 作者: 森田 芳雄
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2021/03/12
  • メディア: 単行本




ラサ島とは通称で、正式名称は沖大東島です。
沖縄本島から南東に伸びる大東諸島の南端の位置にあります。
著者がラサ島への配属命令を受けたのは、戦局の厳しさが増してきた昭和19年3月です。
新たな任務に就く希望と同時に、攻撃されたら玉砕するしかない絶望といった相反する感情を胸に抱きます。
しかし、人間とは面白いもので、目的を持つと絶望感が薄れ、とにかく目の前に課題に一生懸命になります。
僅か1個小隊の兵力ながら、民間人の協力を得て堅固な陣地を築き、いつしか自信を持つようになります。と同時に、米軍はラサ島に上陸することはないだろうという予測も頭にありました。
しかし、現実はきびしいです。
艦砲射撃には手も足も出ず、ついに死者が出て、戦場の現実に引き戻されます。艦載機からの機銃掃射にもやられっぱなしですが、反撃し、1機撃墜したと大喜びします。
そうしていつか米軍はラサ島を素通りし、守備隊は戦争から取り残され、そして終戦を迎えます。
実は米軍はラサ島を本格的に攻撃するつもりはなく、訓練として攻撃したそうです。

民間人との交流も盛んで、彼らの命を助けるために、著者は上層部と掛け合ってなんとかして退去してもらいます。
この本には1人の死に嘆き、命を大切にする普通の中隊長の姿が描かれています。
激戦地ではない戦場もたくさんあったと思います。
むしろ、こうした戦場の方が多かったのかもしれません。

貴重な記録を読みたいひとのために!
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【書評】大西喬『艦隊ぐらしよもやま物語』 [書評]

太平洋戦争時の兵隊暮らしを描くよもやま物語の11番目です。


艦隊ぐらしよもやま物語

艦隊ぐらしよもやま物語

  • 作者: 大西 喬
  • 出版社/メーカー: 光人社
  • 発売日: 1983/05/01
  • メディア: ハードカバー



著者は大正6年生れで、昭和11年に入営します。
まだまだ平和な時代で、若手時代には後には伝統となる鉄拳制裁を受けるときもありましたが、それは限られたときだけで、乗艦した巡洋艦「古鷹」ではほとんど行われなかったそうです。
戦時中になると鉄拳制裁が頻繁に行われたそうですから、余裕のなさが、人間を暴力に向かわせるのかもしれません。
平和な時代は失敗談などの愉快なエピソードが続きます。
戦争に突入してからも、優勢な時は1名の戦死者に皆が涙を流し、丁重に扱うのですが、戦争が苛烈になるにつれて戦死者はただの数になっていきます。
著者は水雷屋として駆逐艦に乗艦し、幾多の戦場に駆り出されます。最初の乗艦「夏潮」は撃沈され、次の乗艦があの好運艦「雪風」だったことから戦争末期まで生き残り、上陸してからは海軍航空学校の教員となり、最期は本土決戦の準備をしているところで終戦となります。
著者は乗艦時代は暗号解読も担当していたことから、だいたいの戦況を把握しており、戦果発表に疑問を持ち続けます。
本土への帰還や休暇を喜び、味方の戦果や損害に一喜一憂し、あるときは覚悟を決め、次々と危険な任務を押し付けてくる上層部に反感を覚えたり、といった人間らしい姿が自然体で描かれています。
ラストで自分の軍歴が書かれた考課表を燃やすのですが、「いま、私の海軍での青春が、煙となって消えていくのを見つめるばかりであった」との文章が胸に響きます。

太平洋戦争における普通の軍人たち様子を知りたいひとのために!
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【書評】ポール・フレンチ『真夜中の北京』 [書評]

1937年1月、北京で発生して迷宮入りしたパメラ・ワーナー殺人事件の真犯人を追います。


真夜中の北京

真夜中の北京

  • 作者: ポール フレンチ
  • 出版社/メーカー: エンジンルーム
  • 発売日: 2015/08/11
  • メディア: 単行本



パメラ・ワーナーの養父は元英国領事で、北京が気に入って永住の地としていました。
当時の警察が捜査しましたが、英国領事からの妨害などで、容疑者は何人か上がったものの調査が行き届かず、迷宮入りします。
納得できなかったワーナーは自ら探偵を雇い、得た証拠を領事等にたびたび郵送して再捜査を依頼しますが、ワーナーの手紙が省みられることはありませんでした。
著者は当時の新聞記事、捜査記録、ワーナーの手紙を丁寧に通読し、ノンフィクションとしてまとめたのが本書です。
驚くことに、ワーナーは真犯人にたどり着いており、それは当時の警察がマークした容疑者のひとりでした。
約80年前の事件なので、当然ことながら、事件の関係者は全員故人となっています。
それでもここまで迫れることに、ライターの力を感じます。
非常に興味深いノンフィクションだと思いました。

実録事件物が好きな人のために!
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【書評】名川光美『海軍機関学校よもやま物語』 [書評]

戦争末期に海軍機関学校に入校した生徒の回顧録です。


海軍機関学校よまやま物語 (イラスト・エッセイシリーズ)

海軍機関学校よまやま物語 (イラスト・エッセイシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 光人社
  • 発売日: 1988/07/01
  • メディア: 単行本



海軍機関学校とは、機関科の士官を養成する学校です。
1日6時間の課業があり、戦時中も週6時間の英語教育がほどこされるなど充実したものですが、記憶に残るのは運動系と鉄拳制裁だったようです。
著者が入校したのは昭和18年11月と日本の敗色が濃くなる時期でした。
カッター漕ぎや水泳といった海軍に直結する運動もありましたが、ラグビーやスキーといったスポーツ、さらには相撲や棒倒しもありました。
実務ではシュミレーターやグライダーでの飛行訓練、潜水服による潜水、モールス信号や手旗信号など多種多彩です。
軍隊お約束の鉄拳制裁は頻繁で、ちょとした事で一号生徒(3年生)から三号生徒(1年生)への制裁がありました。
現代では考えられませんが、時代というのもあるのか、著者も暫くすると暴力に慣れてしまい、思い出のひとつになっています。
あの時代に、これだけ多様な教育をほどこしてくれる学校は少なかったと思います。それだけに、著者としても「青春時代の楽しい思いで」といった感じが強くでています。
幸か不幸か、著者は学業の途中で終戦となりました。
人間の運命は分かりません。

海軍機関学校の日々を知りたいひとのために!
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【書評】大西喬『海軍下士官、兵よもやま物語』 [書評]

旧日本軍の日常を描くよもやま物語シリーズの53巻目です。


海軍下士官、兵よもやま物語 (イラスト・エッセイシリーズ)

海軍下士官、兵よもやま物語 (イラスト・エッセイシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 光人社
  • 発売日: 1988/05/01
  • メディア: 単行本



この本が書かれたのは昭和63年です。
太平洋戦争時に下士官として活躍した30歳前後の兵士が七十代になったころで、回想録として残すには最後の時期だったのかもしれません。
著者はこのシリーズ2回目の登場ということもあり、書かれているのは断片的な思い出です。
食物、異性、病気に関する話が多く、やはり男性社会のためか下系の話が多いです。
火気厳禁のところでギンバイしてきた牛肉ですき焼きをしたり、荷役中のクーリーに煙草を渡して砂糖を横流ししてもらったり、軍隊生活あるある的な話が続きます。
戦争も後半になってくると物資不足が顕著になってきて、干魚を作ったり、軍隊用の物資をひそかに持ち帰ったりと、いろいろと緩んできます。
著者は終戦間際は陸上勤務ですが、焼夷弾に防火は無意味だと素直に書いています。おそらく多くのひとが同じ思いを抱きながら、何もしないよりましだという思いで、取り組んでいたのかなと想像しました。

海軍下士官の日常を知りたいひとのために!
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【書評】坂田治吉『海軍短現士官よもやま物語』 [書評]

旧日本軍の軍隊生活を描くよもやま物語シリーズ57です。


海軍短現士官よもやま物語 (イラスト・エッセイシリーズ)

海軍短現士官よもやま物語 (イラスト・エッセイシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 光人社
  • 発売日: 1988/09/01
  • メディア: 単行本



旧海軍に、短期現役士官という制度がありました。
これは大学出身者を対象に、2年間に限って主計中尉(経理担当者)として採用するというものです。
著者は昭和15年に採用され、そのまま太平洋戦争に突入したため終戦まで海軍勤務となりました。
巡洋艦、駆逐艦、砲艦を経て、水上機母艦神川丸で本土とショートランドとの輸送任務に就き、潜水艦に撃沈されるまで往復します。
戦況が悪化するまでは、ほのぼのとした日々が続きます。
軍人といっても当然ながら人間なわけで、ズルしたり、おっちょこちょいがいたり、いろいろな失敗をしたりと、現代の人々と変わらない姿があります。
爆発しない機雷の話や、オンボロ艦隊の話、先輩と賭けをして海に飛び込んだらその海には鱶がいて要港部から信号で注意された話などはユーモアたっぷりです。
戦況が悪化してからは、次々と危機が迫ります。
神川丸は16ノットの速力があり、即座に出航できるディーゼル機関であったため、単艦ならほどんと潜水艦の脅威を受けなかったようです。
それが護衛に低速の駆逐艇が付くことになり、その駆逐艇の速度に合わせるために速力を落とし、さらに護衛側の都合で危険地帯を航行したために撃沈されます。
旧日本軍のダメなところを集約したような悲劇で、暗澹たる思いがします。

旧海軍の日常をしりたいひとのために!
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【書評】槇幸『潜水艦気質よもやま物語』 [書評]

よもやま物語リリーズの第37巻です。


潜水艦気質よもやま物語 (〔正〕)

潜水艦気質よもやま物語 (〔正〕)

  • 作者: 槙 幸
  • 出版社/メーカー: 光人社
  • 発売日: 1985/12/01
  • メディア: 単行本



著者は伊25潜に聴音担当者として乗り込み、3回の出撃とも生還に成功します。
第1回が真珠湾攻撃に呼応し、ハワイ沖に進出してからオーストラリアまで転進し、搭載された飛行機で偵察任務をこなします。
第2回はアメリカ西海岸の奇襲砲撃、第3回は同じくアメリカ西海岸への奇襲空爆です。
奇襲砲撃や空爆は、アメリカが覇権を握ってから、テロを除いてアメリカ本土が攻撃された唯一の例です。
潜水艦の生活ですが、実際に勤務していただけに、具体的です。
ほとんどが日常の連続で、トビウオを捕まえたり、たまたまいた鳥を捕えて飼育したり、戦友とバカ話に興じたり、ほのぼのとしたものです。
潜水艦は沈むときは一蓮托生なので家族的雰囲気が強く、階級による上下意識が薄く、それをみんな楽しんでいるようです。
昼の潜航中は暇なのでみんな寝て、夜になると浮上して交代で見張りをする。
こうした日常も、ミッドウェーで大敗し、戦況が逼迫してくると、だんだんと危険な場面が目立ってきます。
一瞬の差が生死を分け、沈没する敵船に無常の思いを感じたり、日本が近づくと安堵したりと、人間らしい感情が淡々としたタッチの中で描かれていきます。
舞台となった伊25潜ですが、著者が退艦した次の出撃で沈没します。本当に運命は紙一重です。
このころの本は、著者の住所が書いてあります。
試しにYahoo地図で調べてみたら、いまは更地になっていました。時代の流れを感じます。

潜水艦乗りの気持ちを知りたいひとのために!
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【書評】内沼晋太郎『これからの本屋読本』 [書評]

下北沢で書店を経営している著者が、これからの本屋を語ります。


これからの本屋読本

これからの本屋読本

  • 作者: 内沼 晋太郎
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2018/05/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



前半はかなり哲学的です。
「本は定義できない」とか、本屋についても、小売業としての書店にとどまらないことを語ります。
中盤からは具体論になります。
昔、書店は固い事業だったそうです。それが本が売れなくなり、書店で生計を立てるのが厳しい時代になっています。
著者が提案するのは、本という集客力のあるコンテンツを利用しての掛け算です。
また、「ビジネスではなく商売として行う」ことも話しています。
稼ごうとするのではなく、本が好きだから事業を続ける、まで条件を下げれば一気に間口が広がります。
中段に「小売業としての本屋」「本屋をダウンサイジングする」という章があります。
漠然と書店を経営するだけではだめで、なかなか難しいなあと思わされます。

これから本屋を始めたいひとのために!
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【書評】井上靖『風濤』 [書評]

元寇を高麗の視点から描きます。


風濤 (新潮文庫)

風濤 (新潮文庫)

  • 作者: 靖, 井上
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/02/14
  • メディア: 文庫



井上靖の歴史小説のうち、西域物と言われる一連の作品群のひとつです。
主人公は元寇のときの高麗王である忠烈王です。
当時の朝鮮半島はモンゴル帝国に蹂躙され、属国として辛うじて命脈を保っている状態でした。
モンゴル人からの苛烈な要求に、王と重臣は右往左往しながらも、なんとかして国を保とうと努力します。
自らモンゴルの風俗に染まり、フビライにはおべっかを使います。元から派遣された高官には従うしかなく、フビライの温情にすがる姿はとくにかく悲しいです。
著者は資料を深く読んでいるためか、原文で使われている語句が小説でもそのまま使われています。
そのため巻末の注釈を読まないと分かりにくく、とっつきにくいかもしれません。
世代の近い海音寺潮五郎(M34生・井上康の6つ上)の歴史小説と比べると、その文体の差ははっきりします。
なお、井上靖は高麗の元寇参加を、フビライから強要されてのこととして描いていますが、これについては異なる説や資料があるようなので要注意です。

重厚な歴史小説を読みたいひとのために!
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【書評】緑川聖司『伝染する怪談 みんなの本』 [書評]

『本の怪談』シリーズの16作目になります。


(077-23)伝染する怪談 みんなの本 (ポプラポケット文庫)

(077-23)伝染する怪談 みんなの本 (ポプラポケット文庫)

  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2019/12/10
  • メディア: 単行本



主人公は女性の児童文学作家です。
出版社が小学生限定の怪談を集めて出版しようと提案し、様々な怪談が集まります。
ところが途中で企画が中止となったのですが、なぜか怪談集の見本だけ配られます。
その見本を読んだ児童たちが次々と霊感が目覚めてしまい……
というストーリーです。
作中作といったらいいのか分かりませんが、メインストーリーとは別に、小学生から寄せられた怪談や、「実はこんな話もある……」という形で挿入される怪談が散りばめられています。
その作中作の怪談はありていいえばよくある話で、幽霊系が多いです。
そうした中で、目立っていたのが『モウモウサマ』です。
これはリドルストーリーの一種で、「語られない怪談」なのですが、これが物語のキーとなっていきます。
シリーズものらしく、手堅い作りだと感じました。

ホラーが好きな児童たちのために!
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