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【掌編】齊藤想『アリスと帽子屋と三月ウサギ』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房第66回に応募してた作品です。
テーマは「帽子」です。

―――――

 その帽子屋は、三月ウサギの庭園で催されるお茶会のたびに、奇妙ななぞなぞを出してくる。
 アリスと三月ウサギを前にして、帽子屋はこう言った。
「カラスと書き物机が似ているのはなぜだ」
 帽子屋がケタケタと耳障りな笑い声をあげるた。アリスはむくれた。どうせ答えなどないのだ。
 三月ウサギがニンジンをポリポリ齧りながら、いいかげんな返事をする。
「それは、鉄砲とナポレオンが同じ平面で動いていることと、深い関係があるね」
「さすがは三月ウサギ殿だ。問題をよく理解しておられる。それに対してアリス君はまだ答えを見つけられないようだ。それでは、いつまでたってもお茶会を終わらすことはできないよ」
「私はいつ終わってもいいわ」
「世の中というものは、子供の理屈では動かないものなんだ」
「終わらせるつもりもないくせに」
「まあまあ、お茶でも飲んで」
 三月ウサギが、紅茶の入ったカップをアリスに差し出した。アリスがカップに手を伸ばすと、三月ウサギがその手を引っ込めた。
 アリスの手が空を切ったのを見て、三月ウサギが笑う。
「アリス君はどうして紅茶を飲まないんだい?」
「貴方が紅茶を私にくれないから」
「あれ、いつ私がそんな意地悪なことをしたかなあ」
 三月ウサギと帽子屋がけたたましく笑う。
「ところで、なぞなぞの答えはどうなったのかね。もっと頭を使わないと」
「このなぞなぞに答えはあるの?」
「答えはアンサーだね。アンサーは答えということだ」
「それ、循環論法」
「地球は丸いのだ。だが、丸いものがすべて地球とは限らない」
「それは、三角関数が信じる宗教と深い関係があるね」
「まさにその通り!」
 帽子屋と三月ウサギがけたたましく笑う。
 まったく話が通じない。しかし、ここでイライラしたら負けなのだ。
「なぞなぞの答えが分かったわ。貴方たちは私のリリックを心して聞きなさい」
「ブラボー」
「フィーバー」
 アリスは帽子屋と三月ウサギの前で、大きく息をのんだ。
「カラスは黒い。書き物机も黒い」
「机が黒いなんて、だれが言った?」
「カラスは賢い。書き物机を使うのひとは賢い。ゆえに賢いは黒い」
「おれも書き物机を使うぞ」
「帽子屋は書き物机に使われている。つまり帽子屋は机の奴隷」
「なんだと!」
 帽子屋が憤慨した。
「カラスは淹れたての紅茶を飲む。帽子屋は冷え切った紅茶を飲む」
「書き物机はどこにいった?」
「帽子屋と三月ウサギは書き物机の上でダンスをする。その様子を、カラスは紅茶を飲みながら批評する。三月ウサギはステップが甘い。帽子屋はリズムがズレている」
 アリスの回答に、帽子屋と三月ウサギが相談を始めた。そのすきに、アリスは紅茶の入ったポットを奪い、自らのカップに注ぐ。
 淹れてみると、真っ黒な紅茶だった。少し口をつけてみると、お祖母ちゃんに飲まされた風邪薬ぐらい苦かった。
「カラスは黒い。黒いは紅茶。紅茶は木の葉。木の葉は手紙。手紙は机。机は書き物机」
「おい、まださきほどのアンサーに対して、正解とも不正解ともいってないよ」
「書き物机といえばインクとペン。インクとペンで描けるのはカラス」
「どんどんペースが上がってきたな」
「どれも的外れだけどね」
「的外れでもいいの。だって、このなぞなぞには正解がないんだから。つまり、このなぞなぞの答えを考え続けること。それが正解なの。なぜなら、このなぞなぞの答えが見つからない限り、お茶会は終わらないし、帽子屋さんも三月ウサギさんもお茶会を終わらせたくないんだから」
「大正解!」
 帽子屋と三月ウサギは同時に叫んだ。
 アリスはどういたしまして、と少しスカートを広げてお辞儀をした。
「今度は私からなぞなぞを出そうかしら。もちろん正解するまで、お茶会は続くのよ」
 帽子屋と三月ウサギはお互いを見あってから、アリスに答えた。
「もちろん、喜んで」
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