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【書評】広瀬正『T型フォード殺人事件』 [書評]

本作は、広瀬正のデビュー作と、遺作の両方が収録されています。
表題作が遺作で、二番目に収録されている『殺したかった』がデビュー作になります。



T型フォード殺人事件 広瀬正・小説全集・5 (広瀬正・小説全集) (集英社文庫)

T型フォード殺人事件 広瀬正・小説全集・5 (広瀬正・小説全集) (集英社文庫)

  • 作者: 広瀬 正
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2008/11/20
  • メディア: 文庫




広瀬正は、長編SF作家として認識されている。
代表作が『マイナス・ゼロ』であり、本作が著者の代表作というだけでなく、日本におけるタイムマシン物の傑作として認識されているのも事実である。
ただ、このデビュー作が短編ミステリで、しかも完成度の高い作品であったために、広瀬正はこの短い人生で回り道をしてしまったのではないかと。
そのようなことを、本作を読み、感じました。
広瀬正は1924年生まれ。1961年にデビュー作『殺したかった』を発表したのに続いて短編を世に問うたが、高い評価を得られず失意のまま休筆期間に入る。
その後、関係者の熱烈な後押しもあり1970年に長編SF『マイナス・ゼロ』が刊行され、続けて『ツィス』『エロス』と立て続けに長編SFを発表。いずれも直木賞に推されるが受賞には届かず、1971年に心臓発作で47年の短い生涯を閉じた。

仮に広瀬正のデビュー作が『マイナス・ゼロ』だったら、と思うことがある。彼は当初から長編作家として歩むことができ、その短い生涯において休筆期間を取らなくても良かったかもしれない。
それはそれで、本作のような傑作短編集が読めなくなるのも残念だ。

広瀬正はタイムマシン物を多く発表し、その精緻な作風から「時に取り憑かれた作家」と称されている。
だから、このような想像を、きっとあの世で喜んで聞いてくれるに違いない。
本作を読みながら、そのようなことを想像しました。
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