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『老人選抜大運動会』 齊藤 想 [自作ショートショート]

『セラエノの小さな物語』に寄稿して下さった作家紹介の第5段ということで、自分で自分を紹介するのも変なのですが、ぼく自身の作品を紹介したいと思います。
 ぼくが掲載した作品は以下の5作品になります。

『謎のカードはここに』
『老人選抜大運動会』
『死体屋』
『穴評論家』
『響子』

 ぼくがあれこれ説明するより、SF作家の草上仁先生からいただいた感想を、ブログ掲載の許可をいただきましたので、ご紹介いたしたいと思います。


<草上仁先生から頂いた感想>

楽しく読ませて頂きました。「響子」までが齋藤さんの作品ですね。

おそらく、自信作は「謎のカード――」ではないかと推察しました。
リドルを題材にしてリドルで落とす、というのはストーリーテラーの心意気として見事だと思います。

しかし、個人的に気に入ったのは「老人大運動会」のほうです。
ドーピング、サイボーグ何でもありのスポーツ大会というネタをサブにしか使わない贅沢な構成に高齢化問題を絡ませたのはいい着想だと思いました。

息子夫婦の嫌な目つき、というのが利いています。ブラックであっても後味がそれほど嫌みにならない、というのは、得がたい
資質なのではないかと思います。一方で、思いっきり嫌みな話も読んでみたい気がします。あらら、矛盾してますね。

主人公の「捨蔵」という名前は意図的に使っておられるのでしょうか? 病魔や不運に見込まれないように、子供の名前にわざと「捨」の字を用いた一世紀も前の親心を思うと、結末がさらに皮肉に映えますね。(アイヌは「糞」の語を子供の名前に使うこともあったとか)

<感想終わり>

 ぼくのような素人の作品にもかかわらず、ご丁寧な感想を書いていただき、本当にありがとうございます。みなさん、ぜひとも草上先生の本を買ってください。
ちなみに捨蔵という名前は、このショートショートは姥捨て山から発想していますので、そこから連想して捨蔵と・・・・・・草上先生の期待から外れてしまい、小さくなってしまうことしきりです(汗)

ということで、上記5作品のうち、草上先生から特に評価していただいた『老人選抜運動会』を掲載したいと思います。
ぜひぜひ、お楽しみください。

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『老人選抜大運動会』  齊藤 想


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「さあ、今年も老人選抜大運動会の季節がやってきました。今回も人生の荒波を乗り越えてきた勇者たちがぞくぞくと集まっています。医療の発達とともに超高齢化社会を迎え、これからの課題はただの長寿ではなく、健康で長生き、となりました。生涯現役を目指して、さあ、張り切っていきましょう! 最初の種目は一〇〇メートル走です」
 老人たちはゆっくりとスタートラインについた。捨蔵は孫やひ孫たちがスタンドで観戦しているのを見つけると、大きく手を振った。ひ孫は無邪気に「ひいじぃがんばれー」と、応援してくれる。
「位置について、用意!」
 スタートの合図で、老人たちは全員一斉に飛び出した。捨蔵の隣の選手はロケットシューズを履いている。踵にあるボタンに触れると靴底が火を噴いた。だが、老人の力ではロケットシューズを制御できそうにない。哀れなことに、彼の靴だけが一着でゴールラインを飛び越え、靴の持ち主は腰を抜かしてうずくまっている。
 捨蔵は悲しそうな表情をしている老人を横目で見ながら、這うようにして一〇〇メートルを歩ききった。この運動会で大事なのは無事にゴールすることだ。見栄を張ることはない。最新鋭の技術を活用できれば、もちろん有利になる。だが、失敗したら取り返しがつかない。一番信用できるのは、今も昔も自分の肉体だ。
 ゴールできなかった何人かの老人が大会から排除された。残った老人は次のステージへと向かう。
「次の種目は走り幅跳びです。助走路の先にあります白線を越えればクリアーです。毎年、このステージでは多くの勇者たちがふるい落とされているので、注意してくださいね」
 捨蔵は、砂場に引かれているラインまでの距離を目視で確認した。前回の大会でも捨蔵はギリギリだった。あれから、4年も経過している。捨蔵は、目指す目標の遠さを実感した。
 競技は淡々と進んでいく。走り幅跳びは走力だけでなく踏み切り技術も必要だ。助走の加速と跳躍力を倍増させる超反発力シューズを着用している老人が多かったが、加速しすぎて踏み切り板を超えてしまったり、飛び上がる角度が合わなくて真上に跳躍する老人が続出した。なかには小型ロケットに乗り込む老人もいたが、あえなく着地に失敗して失格のコールが鳴り響いた。捨蔵が見たところ、ほぼ半分の老人が大会から消えている。
「ゼッケン七七九一番。弘瀬捨蔵殿」
 捨蔵は自分の名前が呼ばれると、孫から渡された自動注射器を太ももに二本打ち込んだ。
できるだけ文明の利器は使いたくない。失敗即退場のこの大会では、使いこなせない道具は諸刃の剣だ。しかし、この走り幅跳びだけは自信がない。
「いくでございます!」
 捨蔵は審査員に右手を上げると、いつものようにゆっくりと助走を開始した。ひ孫に教わったとおり、歩幅をあわせることだけに集中する。捨蔵の足に力がみなぎっていく。踏み切りラインが目に入ると、捨蔵は右足に力を込めた。踏み切り板よりかなり手前だ。砂場に引かれているラインが思ったより遠い。足を伸ばす。ラインを辛うじて超えたところで、捨蔵の足は砂場に突っ込んだ。バランスを崩して尻餅をつきそうになる。ここで後ろに倒れたら失格だ。捨蔵は上体に力を込めて、なんとか前向きに倒れることに成功した。
「ゼッケン七七九一番。弘瀬捨蔵選手、クリアーです」
 会場から歓声が上がった。
 捨蔵は冷や汗をぬぐった。もし、強力な筋肉興奮剤を使用していたら、制御不能となって背中から倒れていたことだろう。この大会は一息たりとも気を抜けない。過酷なサバイバルレースなのだ。
 休む間もなく、老人たちは次の競技へと駆り出される。砲丸投げに走り高跳び。さらには自転車競技も繰り広げられた。老人たちは各種最新機具を活用しながらゴールし、なかには機具に振り回されて失格となり、涙にくれる老人もいた。
 捨蔵はできるだけ自分の肉体だけで大会に臨んだ。だが、寄せてくる年波には勝てず、疲労回復剤と筋肉補助装置は使用せざるを得なかった。疲労回復剤は筋肉にたまる乳酸を速やかに排除する。しかし、使いすぎると筋肉へのダメージが蓄積される。捨蔵は競技中に筋が切れる幾多の老人を見てきた。身動きの取れなくなった老人たちは、若者が担ぐタンカで医務室ではないいずこかへと運ばれていく。
「次は最後の種目となります。もっとも過酷な一〇キロ走です」
 スタジアムから一斉に歓声が上がる。この競技さえクリアーできれば、英雄として晴れてこの会場から退場できるのだ。捨蔵はひ孫たちの様子を見た。観戦に疲れたのか、健やかな寝顔を家族に見せていた。息子夫婦はひ孫と捨蔵の顔を見比べて、複雑そうな表情を浮かべている。
 一〇キロ走は残っている老人が一斉にスタートする。この競技の先着順で合格証明書が与えられるのだ。
「今年の優先枠ですが、先着三〇〇人です!」
 前回と比較すると一桁少ない。競技の参加者が一斉に不平の声を上げる。
「最近の財政窮乏のおり、景品の数には限りがあります。さあ、始めましょう」
 スタートの合図が鳴らされ、老人たちはあわてて駆け出した。捨蔵も人波に飛び込んでいく。
この競技はただのスポーツ大会ではない。限られた景品を得るために、捨蔵は全力を尽くさなくてはならないのだ。
 前半はハイペースで進んだ。捨蔵はひ孫が事前に録音してくれたメトロノームの音にしたがって、両足を動かし続けた。捨蔵はひ孫のサポートを得られるだけ幸せだった。中にはサポートどろこか妨害を受ける老人もいる。家族の助けを受けられない老人たちは、競技を有利にする薬も道具も与えられず、絶望的な気持ちで大会に参加せざるを得ない。
 先頭集団が崩れてきた。捨蔵はいままで疲労回復剤の使用を抑えてきたお陰で、2、3キロごとに使用することができた。両足をサポートしてくれるロボット太ももの動きも滑らかだ。いままで無理をしてきた先頭グループが、徐々に崩れ始める。ここまで生き残ってきたのは猛者ばかりだ。捨蔵もひ孫のために負けるわけにはいかない。
 老人たちがスタジアムに戻ってきた。一〇キロを走りぬき、だれもが疲労困憊だ。捨蔵もなんとかゴールしたが、自分の順番を確認する余裕がなかった。
 捨蔵は芝生の上に大の字になった。捨蔵は幸せだった。齢一〇〇歳を超え、いま生きているだけも神に感謝せねばならない。それが、医療技術と老化阻止技術の進歩により、こうして歩き、飛び、そして走ることまでできるのだから。
 捨蔵の順位が発表された。その瞬間、捨蔵は天に向けて両拳を突き上げた。三百位以内に捨蔵の名前が入っていた。これで次の大会まで捨蔵は生きる権利を与えられた。老人が死ななくなり、生涯現役が義務付けられたこの社会では、体力が衰え役に立たない老人は処分されるしかないのだ。
 捨蔵は家族に向けてガッツポーズを見せた。だが、唯一喜んでくれるひ孫はすでに両親の腕の中で深い眠りに落ちており、次の大会まで扶養の義務を負った息子夫婦は、露骨に嫌な表情を捨蔵に向けていた。

(終わり)
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いかがだったでしょうか?
他の作品も読みたくなりましたら、ぜひとも『セラエノの小さな物語』をダウンロードして下さい。
よろしくです。

<『セラエノの小さな物語』の閲覧及びダウンロードはこちらから!>
http://p.booklog.jp/book/20147

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