『古女房』 平渡敏さん [ショートショートの紹介!]
『セラエノの小さな物語』はもうお読みになりましたか?
<『セラエノの小さな物語』の閲覧及びダウンロードはこちらから!>
http://p.booklog.jp/book/20147
今日は『セラエノの小さな物語』にも収録されております平渡敏さんの『古女房』をご紹介します。
平渡敏さんの本職は弁護士で、小説現代ショートショートコンテストに4回掲載の実力者です。作風は最後のオチで切れ味を発揮されるという、ショートショートの王道をひた走ります。
もちろん王道系も素晴らしいのですが、今日紹介する『古女房』は人情物で、平渡敏さんの別の面を読むことができます。
【平渡敏さんのブログ】
平渡敏のブログ:http://hiratobin.blog109.fc2.com/
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『古女房』 平渡敏さん
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日曜日の午後。妻はいそいそと韓流スターのコンサートに出かけてしまった。40代も半ばを過ぎたというのに精の出るこった、まったく。なんて事を考えながら、一人、和室で横になってテレビを眺めていると、外からうるさい声が聞こえてきた。
「毎度お騒がせしております。古紙回収車でございます……」
最近あまり見かけないと思ったが、今でもやっているんだな。俺はテレビのボリュームをあげようと思い、リモコンに手を伸ばしかけた。
「ご家庭でご不要になりました古新聞、古雑誌、古女房などがございましたらお出し下さい」
「えーっ! ふっ、古女房?」俺は思わず起きあがって窓の所に行った。外を見てみるとごく普通の古紙回収車だ。
なんだ、注意を引きつけるためのギャグだったのか。古紙回収の業界も大変なんだな。でも暇だから少し冷やかしてやるか。俺は愉快な気分になったので、外に出て、古紙回収のおやじに話しかけた。
「何だって、古女房をちり紙と替えてくれるのかい?」
「いいえ、新しくして差し上げます」おやじは当たり前のように言った。
「別人に?」
「いいえ、奥様の性格やお気持ちなどは基本的にそのままで、見た目が若くきれいになります。
もちろん外見というのはアイデンティティーにかかわりますから、以前の奥様と全く同じというわけには参りませんが」話し方に超然とした雰囲気があって、なんだか引き込まれてしまいそうだ。
「そりゃあよさそうだ。でも、その代わりに魂を取られたりするんじゃないだろうな」
「いいえ、最初はサービスです。ただ、元に戻したりする場合には……」おやじの目がキラリと光ったような気がして、俺は背筋が寒くなった。
「元に戻すって何だよ。女房は新しくなるんだろう」
「ええ、5歳ほど若返って、美しさも20パーセントアップです」
「結構な話じゃないか。あんまりきれいになりすぎて俺と釣り合わなくても困るからな。そのくらいがちょうどいい」
「周りの方の認識もそれに伴って変えておきますから、整形疑惑を持たれたりもしません」
「でも、若くてきれいになったからって、俺から離れて他の男とくっついたりしないだろうな」
「心配性ですね。もちろんそんな事にはならないようになっています」
「至れり尽くせりだな」最初は冗談のつもりだったが、話をしている内に本当にそうなりそうな気がしてきた。
「それでは奥さんをお出しになりますか?」
「うーん……」
俺は先ほどの寒気が気になって、1日だけ考えさせてもらうことにした。
家に入ろうとした時、隣の夫婦が仲良く手をつないで出かけようとしているのが目に入った。
旦那はパッとしないのに奥さんが美人で、いつもうらやましく思っていた。俺たちもあんな風になれるのだろうか。なかなかいい話かもしれないな。
部屋に戻って色々と考えていたら、妻が帰ってきた。頬を上気させて興奮している。
「ねえ、あなた聞いてちょうだい。ピョン様ってホント素敵なんだから……」
妻の話は尽きなかった。歌声が甘くてとろけそうだったとか、2回ほど目が合ってこっちに笑いかけてくれたとか……。俺は相づちを打ちながら話を聞いた。こんな時は興味がなくてもちゃんと聞いてやるのが夫婦円満のコツなのだ。
ひとしきり韓流スターの話を聞いた後、ふと思いついて妻に尋ねてみた。
「俺とピョン様で選ぶとしたらどっちにする?」
「いやーね、ピョン様に決まってるじゃない」
妻は目尻にしわを寄せて笑った。
「気持ちがいいほどの即答だな」俺もつられて笑ってしまった。
「当たり前の事聞くからよ」
「そうか……」
そうだよな、これが俺たち夫婦だもんな。なまじっか考えて「うーん、そうねぇ……」とか言われるよりずっといい。
俺はなんだか妻がいとおしい気持ちになった。やっぱり交換に出すのはやめにしよう。
大きく伸びをして寝転がると、何年も取り替えていないすり減った古畳の感触が心地よかった。
(終わり)
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古女房までも回収してしまう廃品回収者といういかにもSFらしい設定から、最後は着慣れた服がいいとばかりに、何も変わらない日常を選択します。
最後の一行がいい味を出していると思います。
『セラエノの小さな物語』には本作以外にも平渡さんの作品が4作収録されています。
ネタバレにならない程度に、簡単にご紹介いたします。
『掌症候群』
このアンソロジーのタイトル案のひとつに『掌症候群』がありました。
この企画のために、新たに書き下ろしてくださった1品です。
『ウサギとカメ』
カメが血の滲むような努力をしてウサギを凌駕する走力を手に入れます。
そして、かつてのウサギを再現しようと昼寝をしてウサギを待ちますが……最後のオチが楽しい1篇です。
『犬の散歩』
因果応報というショートショートの王道ですね。ラストシーンを想像すると、笑みがこぼれてきます。
『革命』
小説現代ショートショートコンテストで最終選考に残った作品です。共産党宣言のパロディーですが、知らなくても楽しめる作品に仕上がっています。
本当にいい作品ばかりですので、ぜひとも直接読んでお楽しみください!
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今日は『セラエノの小さな物語』にも収録されております平渡敏さんの『古女房』をご紹介します。
平渡敏さんの本職は弁護士で、小説現代ショートショートコンテストに4回掲載の実力者です。作風は最後のオチで切れ味を発揮されるという、ショートショートの王道をひた走ります。
もちろん王道系も素晴らしいのですが、今日紹介する『古女房』は人情物で、平渡敏さんの別の面を読むことができます。
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『古女房』 平渡敏さん
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日曜日の午後。妻はいそいそと韓流スターのコンサートに出かけてしまった。40代も半ばを過ぎたというのに精の出るこった、まったく。なんて事を考えながら、一人、和室で横になってテレビを眺めていると、外からうるさい声が聞こえてきた。
「毎度お騒がせしております。古紙回収車でございます……」
最近あまり見かけないと思ったが、今でもやっているんだな。俺はテレビのボリュームをあげようと思い、リモコンに手を伸ばしかけた。
「ご家庭でご不要になりました古新聞、古雑誌、古女房などがございましたらお出し下さい」
「えーっ! ふっ、古女房?」俺は思わず起きあがって窓の所に行った。外を見てみるとごく普通の古紙回収車だ。
なんだ、注意を引きつけるためのギャグだったのか。古紙回収の業界も大変なんだな。でも暇だから少し冷やかしてやるか。俺は愉快な気分になったので、外に出て、古紙回収のおやじに話しかけた。
「何だって、古女房をちり紙と替えてくれるのかい?」
「いいえ、新しくして差し上げます」おやじは当たり前のように言った。
「別人に?」
「いいえ、奥様の性格やお気持ちなどは基本的にそのままで、見た目が若くきれいになります。
もちろん外見というのはアイデンティティーにかかわりますから、以前の奥様と全く同じというわけには参りませんが」話し方に超然とした雰囲気があって、なんだか引き込まれてしまいそうだ。
「そりゃあよさそうだ。でも、その代わりに魂を取られたりするんじゃないだろうな」
「いいえ、最初はサービスです。ただ、元に戻したりする場合には……」おやじの目がキラリと光ったような気がして、俺は背筋が寒くなった。
「元に戻すって何だよ。女房は新しくなるんだろう」
「ええ、5歳ほど若返って、美しさも20パーセントアップです」
「結構な話じゃないか。あんまりきれいになりすぎて俺と釣り合わなくても困るからな。そのくらいがちょうどいい」
「周りの方の認識もそれに伴って変えておきますから、整形疑惑を持たれたりもしません」
「でも、若くてきれいになったからって、俺から離れて他の男とくっついたりしないだろうな」
「心配性ですね。もちろんそんな事にはならないようになっています」
「至れり尽くせりだな」最初は冗談のつもりだったが、話をしている内に本当にそうなりそうな気がしてきた。
「それでは奥さんをお出しになりますか?」
「うーん……」
俺は先ほどの寒気が気になって、1日だけ考えさせてもらうことにした。
家に入ろうとした時、隣の夫婦が仲良く手をつないで出かけようとしているのが目に入った。
旦那はパッとしないのに奥さんが美人で、いつもうらやましく思っていた。俺たちもあんな風になれるのだろうか。なかなかいい話かもしれないな。
部屋に戻って色々と考えていたら、妻が帰ってきた。頬を上気させて興奮している。
「ねえ、あなた聞いてちょうだい。ピョン様ってホント素敵なんだから……」
妻の話は尽きなかった。歌声が甘くてとろけそうだったとか、2回ほど目が合ってこっちに笑いかけてくれたとか……。俺は相づちを打ちながら話を聞いた。こんな時は興味がなくてもちゃんと聞いてやるのが夫婦円満のコツなのだ。
ひとしきり韓流スターの話を聞いた後、ふと思いついて妻に尋ねてみた。
「俺とピョン様で選ぶとしたらどっちにする?」
「いやーね、ピョン様に決まってるじゃない」
妻は目尻にしわを寄せて笑った。
「気持ちがいいほどの即答だな」俺もつられて笑ってしまった。
「当たり前の事聞くからよ」
「そうか……」
そうだよな、これが俺たち夫婦だもんな。なまじっか考えて「うーん、そうねぇ……」とか言われるよりずっといい。
俺はなんだか妻がいとおしい気持ちになった。やっぱり交換に出すのはやめにしよう。
大きく伸びをして寝転がると、何年も取り替えていないすり減った古畳の感触が心地よかった。
(終わり)
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古女房までも回収してしまう廃品回収者といういかにもSFらしい設定から、最後は着慣れた服がいいとばかりに、何も変わらない日常を選択します。
最後の一行がいい味を出していると思います。
『セラエノの小さな物語』には本作以外にも平渡さんの作品が4作収録されています。
ネタバレにならない程度に、簡単にご紹介いたします。
『掌症候群』
このアンソロジーのタイトル案のひとつに『掌症候群』がありました。
この企画のために、新たに書き下ろしてくださった1品です。
『ウサギとカメ』
カメが血の滲むような努力をしてウサギを凌駕する走力を手に入れます。
そして、かつてのウサギを再現しようと昼寝をしてウサギを待ちますが……最後のオチが楽しい1篇です。
『犬の散歩』
因果応報というショートショートの王道ですね。ラストシーンを想像すると、笑みがこぼれてきます。
『革命』
小説現代ショートショートコンテストで最終選考に残った作品です。共産党宣言のパロディーですが、知らなくても楽しめる作品に仕上がっています。
本当にいい作品ばかりですので、ぜひとも直接読んでお楽しみください!
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