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齊藤想『ゴリゴリ、ゴリゴリ』 [自作ショートショート]

これは人気シリーズ「ラストで君は「まさか」と言う」に応募した作品です。

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『ゴリゴリ、ゴリゴリ』 齊藤想

 ぼくは鉛筆。不思議な機械で頭をゴリゴリされるたびに、頭が悪くなる。
 ぼくたちは六人兄弟。全員が始めて並んだときは、とても誇らしく感じた。身長も服装も髪型も全部同じ。優等生らしくシャツは胸元までボタンを止めて、髪型は七三分けにセット。完全無欠の存在。
 それが、不思議な機械で頭をゴリゴリされるたびに、崩されていく。
 最初にゴリゴリされたのは、長男だった。
 兄弟の中でも、一番いい場所に座っていたから目をつけられたのだろう。手に取りやすかったこともあるかもしれない。
 長男はいつも凛としていた。女に手を伸ばされたときも、動揺したそぶりを見せなかった。
「先に行くぜ」
 長男はそう言って、弟たちに目くばせをした。ぼくたちは長男を最敬礼で見送った。長男の表情は、とても勇ましかった。
 女は長男の頭をゴリゴリした。長男の髪型と制服が乱れ、身長が少し短くなった。
 長男が席に戻ってきた。
「どうだった?」
 ぼくたちが長男に質問する。長男は少し疲れた表情で「まあ、たいしたことないよ」と強がった。
 けど、長男は髪型を整えなかったし、制服の乱れも直さなかった。しばらくぼんやりしていたが、突然、長男は何事もなかったかのようにぼくたちのことを振り返った。
「お前たち身長が伸びたなあ。いつの間にかにお兄さんを追い越して嬉しいぞ」
 ぼくたちは驚いて、みんなでささやきあった。お兄さんは少し頭が悪くなっている。ぼくたちは不安になった。
 長男は女に狙われたのか、執拗にゴリゴリされた。身長がどんどん短くなり、同時に頭がさらに悪くなった。
 身長が半分になるころには、会話が困難になり、何を聞かれても「あー」とか「ぐぅー」とか、意味不明な音を発するだけになってしまった。
 女は長男をゴリゴリすることに飽きたのか、今度は次男を手にかけ始めた。
「あばよ、兄弟たち」
 次男は悲壮な決意をもって、女の手に取られていった。
 ゴリゴリという音が響く。いくら耳をふさいでも、不気味な音が鼓膜を震わせる。
 毎日のように次男の身長が縮んでいく。頭がどんどん悪くなる。
 次男が終われば三男、そして四男、五男。
 兄たちは全滅し、ついにぼくの番が回ってきた。
 もう、兄たちの姿は見る影もない。まるで赤ん坊のように丸まり、言葉も忘れて、ただ寝転がっているだけだ。
 もうすぐ、ぼくも兄たちと同じようになる。
 頭からどんどん削られ、身長が短くなり、そして話すことも考えることもできなくなる。
 女がぼくに手を伸ばす。こめかみに堅いなにかが押し付けられる。ぼくを締めつけたまま、堅い何かが回転を始める。
 悪夢のような音がする。 
 ゴリゴリ、ゴリゴリ。

 先生は居眠りばかりする六人兄弟を見て、困り果てていた。何度起こしてもすぐに寝てしまうし、むしろ注意すれば注意するほど居眠りの回数が増えていく。
 おまけに、心なしか身長まで縮んでいる気がする。栄養不足だろうか。給食は食べているはずなのだが。
 今日も長男から六男までそろって寝ている。
 先生は仕方なく六男に近づいた。こぶしを軽く握ると、六男のこめかみに軽く添えた。
「はーい、起きてくださーい」
 先生はうでを軽く動かした。
 ゴリゴリ、ゴリゴリ。

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Buy Essay lnv

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by Buy Essay lnv (2023-10-17 16:36) 

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