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『遙かなる邂逅』 羽場秋都 [ショートショートの紹介!]

今日は羽場秋都さんの『遥かなる邂逅』という作品を紹介します。
羽場さんは2000字のショートショートにこだわりをお持ちです。
原稿用紙5~6枚という枚数は、書き込もうとすれば濃密に詰め込めるし、雰囲気を感じさせようとすれば膨らますことも可能です。
なにより、気軽に読める分量なので、ネット上で発表するにはベストの枚数だと思っています。

本作の内容についてですが、タイトルといい雰囲気といい、SFマガジン・リーダーズストーリーにぴったりです。
ここまで雄大な作品はなかなかないかと思いますので、ぜひともお楽しみください。
本作の掲載許可をいただきました、羽場さんには感謝です。
ありがとうございます!


羽場秋都さんのブログ

【2000字劇場】
http://chutohampa.blog.eonet.jp/2000/

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『遥かなる邂逅』  羽場秋都


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 それはレーダーを見るまでもなかった。この辺境惑星の基地にしつらえられた貧弱な設備など使わなくても、すでに観測室の窓越しの肉眼で円盤状に見えていたからだ。
 数日前に見つかった、この惑星との衝突コースに乗った小天体だ。

 光学望遠鏡だとちょうど球状星団のような感じにぼやけて見える。しかしいま私たちがいるこの惑星は、火星ほどの大きさで大気がなく、光が滲む事はない。
 小惑星衝突と言えば、摩天楼も海も陸も根こそぎ蒸発して逝くパニック映画の光景を思い出す。それこそ墜ちたら一巻の終わりだ。

 終わりだが、一発で済む。

 ところが今この惑星めがけてまっすぐ近づいて来るのは“群れ”だった。ここの貧弱な観測装置では正確に数まで分からないが、数百か数千か。ひとつひとつはバスケットボール程度の大きさという事くらいしか判らない。
 上等な装備はすべて宇宙空間に配備されていた。この星はそれらの遠隔制御と地球へ向けてのデータリレーの拠点だったが、そしてそれらの“目と耳”が真っ先に隕石群の“先触れ”によって破壊されてしまったのだ。
 地球のように大気が厚ければその程度の隕石など燃え尽きてしまうだろうが、ここではすべて直撃だ。さながら雨のように降り注ぐことだろう。

 不思議な現象も起きていた。
 無数の隕石が密集隊形で一直線に飛んで来るのも不可解だが、奇妙な事に“隕石群”は加速していた。原因は不明だ。この星の微弱な引力では計算が合わない。しかも個々の速度にバラツキがあり、そのためここへ近づくに従って隊形が崩れ、いくらか前後に伸び始めている事も判ったが、だからといって、ほぼ全部がここに命中することには変わりはない。

 残念だが我々の脱出は叶わない。
 宇宙船の椅子は足りているが準備が間に合わない。加速している事を考慮に入れると我々には一時間も残されていないだろう。
 しかし何かしていないと正気を保てない。私がこうして最後の……最後の口述記録を録っているのも同じ理由だ。
 お…地震だ。勿論まだ衝突には早い。隕石群が見つかった前後からこの地震は起きはじめたのだが、実はこの星は基地建設の下地調査の時から、中心核が冷え切った死んだ星である事は判っていたし、隕石群もいくら数が多いと言っても接近だけで地殻変動させるほどの質量はない。

 ここは最初から実に変な星で、まるで碇を下ろした船のように、ぴたりとこの三次元座標に固定された状態で存在していた。勿論そんな事は不自然だ。弧空の観測点としては好都合だが、無重量空間でモノを制止させるには神懸かり的なコントロールを必要とする。まして惑星である以上、太古は生みの親であるどこかの恒星を巡っていた筈だ。
 人工物ではという説もあったが、それを確認するだけの科学力はいまだ人類にない。それから四半世紀、何事もなかったので基地は建設され、私はそれをつきとめたくてここへやって来たが、それももうお仕舞いだ。

 基地にいても死ぬ事には変わらないので、宇宙服で外に出た。空を見ると、いつのまにかアレが空いっぱいに拡がっている。予想以上に早い。どれが最初の一個目になるのかは見分けられないが、誰かがレーダーを見ながらカウントダウンをはじめた。
 5・4・3・2…反射的に首をひっこめる。お笑いぐさだ。…地響き。ついに一個目が落ちた。基地直撃はまぬがれたようだが、様子が変だ。
 視界一面がうす桃色に光っている。何かが燃えているのか?空気もないのに?いや、違う。
 信じられない光景だった。最初の隕石が地表に達した直後、光の膜のようなものが惑星ごと地表を覆ったのだ。まさに一瞬の出来事で、続いて飛来した無数の隕石は、凄まじい勢いで次々とその光の膜にぶちあたって消滅、あるいは弾かれてゆく。幻想的でさえあり、一度は死を覚悟した私には既に冥土でこれを見ているのではないかとさえ思えた。
 次の瞬間、大地が割れた。もう終わりだ、と思ったが、意外な事に地面の下で起こっているそれが半透明と化した大地の下に透けて見え、さらにそれがまたスッと二つに割れた。そしてそれは頭上で隕石群が弾かれ続けている間、どんどん繰り返されていた。
 卵割だ───と、直感した。
 ああ、そうだったのか。たったひとつの卵子に群がる無数の精子の光景。しかし最初に到達したひとつのみが勝者であり、卵子と共に身体を作ってこの世に生まれ出る権利を得られる。

 何が生まれてくるのか見届けられないのは残念だが、生命と引き換えにするだけの値打ちはあった。あとはこの通信がいつか他の基地にキャッチされるのを祈るだけだ。

“そこには人類の知らない新しい文明・新しい生命が待ち受けているに違いない”か。
 あなたの言った通りだったよ、カーク船長。


(終わり)
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初期のSFをなんとなく連想しました。
とんでもなく雄大で、ある意味ばかばかしい話を生み出すパワーというのは大事だと思うのです。
澄ましていると、どんどんワンパターンに陥るというか、袋小路に迷い込んでしまう気がするのです。
この作品から、力強い作品を生み出すパワーを頂きました。
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羽場秋都

サイトーさん、過分なお褒めのお言葉と掲載、誠に光栄です。
ブログ開始時は週イチで…を鉄の掟として描いてきましたが、諸処の事情で今は完全不定期になってしまいました。
そんな中での今回のご縁、オモロイものが描けたらこれからもよろしくおねがいします。
by 羽場秋都 (2011-01-20 02:00) 

サイトー

>羽場秋都さん
わざわざぼくのブログに訪れていただきありがとうございます。
ぼくこそ、この縁を大事にしていきたいと思います。
2000字というと、それなりに腰をすえて書く感じになりますので、ブログにあれだけUPされているのは凄いと思います。

お互いに面白いものを書けるように頑張りましょう!
by サイトー (2011-01-20 06:18) 

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