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ネット漫歩(勝手に紹介・ショートショート編・その2) [ショートショートの紹介!]

ぼくがネットを放浪して見つけた面白い記事を勝手に紹介してしまう恐るべきコーナーの第2弾です。
前回が2月19日なので、1ヶ月半も経過してしまったのですね。
そのうち紹介しようと思いつつ、いろいろバタバタしているうちに日が過ぎてしまいました。
時間の流れとは恐ろしい(笑)

ということで、紹介です。

――――――――

娘が母に電話するというありふれたシチュエーションから、玄関前に変な人が現れたところから、話が奇妙な方向に展開していくホラーです。

【無知蒙米さん『もしもし、お母さん?』】
http://novel.fc2.com/novel.php?mode=tc&nid=137577

【無知蒙米さんのHP:無知蒙米倉庫】
http://mutimoumai88.blog.fc2.com/

怪人も怪獣も幽霊も登場しませんが、日常が非日常に入れ替わってしまう手際が見事な一品です。ラスト1行が恐怖を誘います。
もともと音声化を前提にした創作とのことで、声優さんによる音声バージョンもお楽しみいただけます。

音声バージョンはこちらから
→ http://mutimoumai88.blog.fc2.com/blog-entry-9.html

―――――――

身近な人がのっぺら坊だったら? という設定から見事なコメディーを作り上げたのが、いずみさん『お前、のっぺら坊なの?』です。

【いずみさん『お前、のっぺら坊なの?』】
http://izumisoundglass.web.fc2.com/text/noppera.html

【いずみさんHP:Sound Glass】
http://izumisoundglass.web.fc2.com/

同僚がのっぺら坊の疑いを掛けられるなんて、通常はありえないのですが、そのありえないところを巧みにありえるように書いているのが上手いです。
素直に楽しめる佳作だと思います。


―――――――

この作品居はオチはありませんが、雰囲気がとてもいいとおもいます。

【PlusⅨさん『猫のいる風景~紅白梅猫図~』】
http://novel.fc2.com/novel.php?mode=rd&nid=137517&pg=1

猫を扱った作品というと、内田百間の『ノラや』を思い浮かべますが、細かい動作の表現など、なんとなく髣髴とさせます。
なんともいえず、可愛らしいです。


―――――――

いつも上質な作品を届けてくれるりんさんですが、この作品もクスリとした笑いを呼び起こします。

【りんさん『誘拐未満』】
http://rin-ohanasi.blog.so-net.ne.jp/2012-04-19

誘拐を題材にしたコメディーといえばオーヘンリーの『赤い酋長の身代金』が有名ですが、このようなアイディアもあるんですねと感服です。
とても楽しませていただきました。


―――――――

連続4コマ漫画です。
絵も雰囲気もとってもぼく好みです。

【海野久実さん『角砂糖物語』】
http://marinegumi.blog.so-net.ne.jp/2012-02-01

ひとつひとつのコマの作り方が、職人技を感じます。
最後のオチが笑いを誘います。

―――――――


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ネット漫歩(勝手に紹介・ショートショート編) [ショートショートの紹介!]

ぼくがネットを放浪して見つけた面白い記事を勝手に紹介してしまう恐るべきコーナー(笑)
ということで、今日はぼくが気になったショートショートです。


【平渡敏さんのブログ:『大喜利』】
http://hiratobin.blog109.fc2.com/blog-entry-153.html
個人的に3つ目とか5つ目とか上手いと思うんだけど、笑点WEBでは座布団をもらえなかったそうです。
レベル高い!


【Tome文芸館:『事件の真相』】
http://poetome.exblog.jp/17823836/
Tomeさんは個展を開くほどの絵書きさんですが、その作品も独特のセンスに溢れています。
この作品なんて、実際にありそうというより、ある話ですね。
問題の本質だけ抽出したリアル感があります。


【りんのショートストーリー:『愛を返して』】
http://rin-ohanasi.blog.so-net.ne.jp/2012-02-13
りんさんの作品は質・量ともに素晴らしいのですが、女子高生探偵『波留川くるみ』シリーズはパズル的な推理が楽しめる一品です。
本作だけでなく、このシリーズの謎解きをぜひとも楽しんで欲しいです!


【言葉探しの部屋:『思い出の保存法』】
http://harumatiriko.blog.so-net.ne.jp/2012-02-16
エッセーなので事実です。それだけにこの展開にびっくり!
なかなかいい話ですよ。


【日記(酒にまんがに本):『子供の仕事』】
http://blog.goo.ne.jp/fumioyadi/e/ac7466cd0fa05f3207f18b299aae3e9d
SFマガジンを開くと、だいたいの号でリーダーズストーリーに名前が乗っています。
この安定感はピカいちです。
本作を読めば、その安定感の秘密がわかると思うのですが、いかがでしょうか?


【日月譚:『オヤジギャグがウケる!?』】
http://blog.goo.ne.jp/korochan55/e/0496631c714911debaf1b3c8e755c853
天声人語のような形式で書かれた作品です。
ここに「ウケる」を漢字でかくとどうなるのか説明されていますが、信じそうになりました。
たぶんネタだと思うのですが、知っている人は教えて!
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ぷーぷーさん『幸せの臭い鳥』 [ショートショートの紹介!]

今日はぷーぷーさんの『幸せの臭い鳥』を紹介します。”青い”ではなく”臭い”です。
ここ数年で一番笑った作品かもしれません。
瞬発力に溢れた作品だと思います。
下ネタが苦手なひと……でも楽しめると思いますよ!


【ぷーぷーさんのHP】
 http://poopoo999.blog.fc2.com/blog-entry-2.html#cm

【FC2小説:ぷーぷーさんのページ】
 http://novel.fc2.com/user/497719/

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『幸せの臭い鳥』  ぷーぷーさん

(初出:FC2小説 H24.1.19)
  →http://novel.fc2.com/novel.php?mode=tc&nid=129315 
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 母親が鳥を買ってきたのは、雪が解けた頃だった。その鳥はインコで、毛が青く、そしてなにより臭かった。

 どのくらい臭いかというと、うんこだった。しかも、体調が悪い時に出てくるようなタチの悪いうんこだった。そんなくっせぇインコは鳥かごに入れられ、居間に鎮座するようになった。

 俺はその日から、微かに漂ううんこの臭いで目が覚めるようになった。うんこの臭いを嗅ぎながら朝ごはんを食べて、うんこくせぇ制服で高校に行く。友達にはからかわれ、女子にはあからさまに避けられ、うんこくせぇジャージで部活をして、うんこくせぇ家に帰る。うんこくせぇインコの声を聞きながら、うんこくせぇ部屋でうんこくせぇ飯を食べて、うんこくせぇ風呂場でうんこくせぇ体をうんこくせぇ水で洗う。うんこくせぇ部屋でうんこくせぇ一家がうんこくせぇテレビを見ながらうんこくせぇ話をする。どんな会話かといえば、主にうんこくせぇって話。俺と父親がインコのことをうんこくせぇ、うんこくせぇって連呼するから母親はだんだん機嫌が悪くなっていき、しまいには喧嘩口調になって、険悪でうんこくせぇ雰囲気になる。うんこくせぇ雰囲気のうんこくせぇ部屋にいる理由もないから、俺は自分の部屋に戻って鼻にうんこくせぇティッシュをつめて、うんこくせぇ音楽を聴きながらうんこくせぇ漫画を読んでうんこくせぇベッドで寝る。それが俺のうんこくせぇ日常になっていた。


 家がうんこくさいこともあいまって、日に日に家庭環境は劣悪になっていた。

 解決策は簡単に思いつく。うんこくっせぇインコをこっそり逃がしてしまえばいい。だけど、事情はそんなに簡単ではなかった。

 まず、問題なのは、うんこくせぇインコの値段だ。うんこくせぇインコがいくらしたのか。実に三十万円である。三十万円もした鳥を逃がすなんてことは俺にはできない。

 問題が値段だけなら、俺はインコを逃がしたかもしれない。けど、もう一つ、無視できない問題があった。母親の心の問題だ。

 くっせぇインコを飼い始めるまで母親は軽いうつ病のような状態で、家事を一切することなく、いつも布団に包まって寝ているばかりだった。だから、俺と父親が分担して、掃除、洗濯、炊事、買い物をやっていたわけだ。だが、このくっせぇインコを買い始めてから、無気力だった母親は元気になった。なぜか家事をバリバリこなすようになった。

 逃がせば、再び母親が無気力になってしまうのではないかと思えて、俺はくっせぇインコを逃がしたくても逃がせなかった。


 うんこくせぇインコを逃がす事が、単純で簡単な解決策にはならない。ではどうしたらいいか。俺と父親は話し合い、母親を説得する事になった。

 夕食が終わり、俺がまず「うんこくせぇ」と母親に文句を言う。

 母親は「我慢しろ」と言い、父親は「なぜそんなにインコに執着するのか」と問う。

 母親は「くっせぇインコを飼っていれば幸せになれる」と言う。

 俺は「騙されている。母さんはくっせぇインコを三十万円で買わされただけ」と言い聞かせる。

 しかし母親は「そんなことはない」と何の根拠もない反論をする。

「具体的にどんな事が起きて幸せになるのか?」と俺が尋ねると、母親は「それは起こるまでわからない。宝くじも当たるまで当たってる事に気づけない」とわけのわからないことを言い出す。

「母さんはうんこ臭いインコをうんこ臭いとは思わないのか?」と聞くと、「うんこ臭いと思うからうんこ臭いと思う」とかなんとか言い出して、そんな問答を繰り返しているうちに母親がヒステリーを起こしてしまう。

 俺たち三人はうんこ臭い居間で毎日、そんなやり取りを繰り返した。

 うんこくせぇ生活が始まって一ヶ月が過ぎたある日の事だ。その日は日曜日で、学校は休みだった。俺は当然うんこの臭いで目が覚めた。既に俺の頭はおかしくなっていて、俺がうんこ臭くて、しかも、うんこが俺臭いみたいな、むしろ俺がうんこなのかもしれないとも思えた。俺は便器に片足を突っ込んでいた。棺桶ではなく。

 俺が居間に行くと、朝ごはんが用意されていた。母親は洗濯物を干しているようだった。裏庭から鼻歌が聞こえてきた。

 椅子に座って、うんこくせぇ朝食を見る。ご飯、味噌汁、目玉焼き等々。

 箸を持って、飯を食べ始めると、くっせぇインコが「くっさ。お前、うんこ臭いよ」と呟き、羽をバタつかせた。

 インコが人の言葉を話す事自体は珍しい事ではない。何度も言い聞かせれば話すようになる。俺がいつもうんこくせぇと文句を言っているので覚えてしまったのだろうと思った。うんこ臭いインコがうんこ臭いのを人のせいにしているのが許せなかったので、俺は「お前のほうがくっせぇよ」と俺が言い返してやった。

 うんこくせぇインコを見ながら、うんこくせぇ味噌汁を飲むと、再びインコがうんこくせぇ声を発した。

「君たちはいつも私の事で言い争いをするが、そんなに私の臭いが嫌いかね?」

 俺は少し馬鹿馬鹿しいと思いながらも、その問いに答えてやった。

「嫌いに決まってるだろ。このクソインコ野郎」俺がそう罵ると、すぐにウンコ臭いインコが返事をしてきた。

「クソインコとは君も口が悪いな」

 俺はびっくりして飲み込みかけた味噌汁を吐き出し、咳き込んだ。
 インコが意思を持ち、俺に話しかけてきた、ように俺には思えた。
 俺とインコとの間で会話が成立しているのは、俺の脳みそがうんこくせぇ脳みそになって、俺の頭はもう狂ってしまったからではないかと思った。

「鼻の下に肛門があると思えば、うんこ臭いのも我慢できるのではないかね」インコが言った。

「できるわけねーだろ」

 俺はインコと会話をする決心をした。苦渋の決断だったが、それが真実だった。

「君は私にどうして欲しいと言うんだ?」インコが言う。

「出て行って欲しい。鳥かごを開けてやるから。どこかに行ってくれない?」

「私が出て行けば、君の母親は前の状態に戻る。それでもいいというのかね?」

「インコがいなくなったからと言って、母さんが前の状態に戻るとは限らない」俺は味噌汁の入ったお椀をテーブルに叩きつけた。味噌汁が波打ち、汁で手が濡れた。「お前はさ、俺が学校でなんて呼ばれてるか知ってる?」

「さしずめウンコマンと言ったところか」

「正解。でも、嘘だよ。もう誰からも相手にされてないから、誰かに呼ばれるなんて事はないよ。うんこくさい人間は誰にも相手にされないんだよ。なぜ誰にも相手にされないかって? うんこくさいからだよ! もう学校に行きたくないよ!」

「うんこくさい、うんこくさいと嘆いても、君がうんこくさいことには変わりない。うんこくさいことを前提に、君がこれからどうしないといけないか。それを考えることが、今、君が一番やらなくてはいけないことではないかな?」

「ウンコくせぇのはお前のせいなのに! どうしてお前にそんなこと言われなきゃいけないねーんだよ」俺は持っていた箸を鳥かごに思いっきり投げつけた。「もう逃がす。逃がすっていうか、殺す」

「そうすることで君は満足かな? それで母親が以前の状態に戻ってもいいと?」

「だから、お前がいなくなっても、母さんが前の状態に戻るとは限らないんだよ」

「冗談、サラサラ。私がいなければ君の母親は駄目になる。それは確定事項なのだよ」

「根拠は?」

「根拠? 彼女がなぜ無気力な状態になっていたのか君は理解していないのかな?」

「知らねぇよ。病気だろ。病気」

「それでも君は彼女の息子かね? まぁいい。病気にも原因があるだろう。原因もなく病気にはならない。何にでも原因があり、その先に結果があるのだよ」

「じゃあ、言ってみろよ。母さんが心の病気にかかった理由を、くっせぇインコが知ってるって言うなら聞いてやるよ」

 インコは一度羽を広げて、静かに折りたたんだ。一枚の羽が抜け落ち静かに床に落ちた。

「夫の給料は少なく、家計は厳しい。家のローンが何十年も残っていて、息子を大学に行かせられるかどうかもわからない。その息子はせっかく高校に通わせても勉強もしないで遊んでばかり。給料日前には食費にも困って、旦那はそれでもパチンコに行って無駄遣いをやめない。夫婦間の仲がうまくいかず、パートに行くようになって、相談する相手も時間もなくて、帰って来てご飯を作っても、旦那の帰りは遅くて、酔っ払って帰って来て、ご飯を食べずにすぐに寝てしまう。息子は話しかけても、反応が悪く、一言二言返事をするだけ。それでいて、ご飯を食べ終わったら自分の部屋に行ってしまう。家族と会話をする時間もなく、将来の見通しが立たず、お先真っ暗。そんな家庭が健全な家庭か、不健全な家庭かと言ったらどっちかね?」

「不健全」

「そんな健全ではない状況で君の母親が心の病気になってしまうのはある意味では?」

「当たり前」

「そんな暗闇の中で目の前に一筋の光が見えたらその方向に行ってしまうのは?」

「仕方がないのかもしれない」

「分かってきたようだね。この家庭に必要なのは対話だね。そして皮肉にも私を通して、君たちは再び対話をするようになった。君は私を嫌っているというのに、君は私を必要としているのだよ。こんな事になったのは君の責任でもある。そんな君が私に対してここから出て行けというのはおこがましいという他ない」

「対話が必要だというなら、これからそうするさ。だから、うんこ臭いインコはここから出て行けばいいよ」

「ノー。ノー。私の存在は会話の種という役割に一役買っているが、それ以外にも重要な役割を担っているのだよ。分かるかな? 君の母親は私を飼う事で幸せになれると信じている。それはとても重要な事だと思わないかな?」

「どこの誰にそんなことを言われたのか知らないけど、くせぇインコを飼うだけで幸せになるなんて、そんなことがあるわけない。インコがいなくなれば、母さんも気づくさ。いなくても、何も変わらないって。くっせぇインコがいるとか、いないとか、そんなことはまったく関係なかったんだって」

「彼女は将来が不安でたまらないのだよ。君と君の父親のせいだね。人は得てして先に見える幸せを想像して幸せだと感じ、先に見える不幸を想像して不幸だと感じるものだ。私を飼っていれば幸せになれる。そう信じる事が、既にそれが幸せなのだよ。もし私が出て行けば、彼女は希望をなくし、再び不幸だと思うだろうね」

「そんなの本当に幸せじゃない。騙されてるっていうか、洗脳されてるだけだから」

「本当の幸せというがね、絶対的な幸せの基準なんてものがあるのかね? 君の言う本当の幸せというのは、君にとっての幸せではないのかね? 君に他人の幸せを決める権利はない!」

「じゃあ、お前も母さんの幸せを勝手に語るなよ。インコは母さんから直接、母さんの幸せの条件を聞いたわけ? 全部インコの推測じゃねーの?」

「彼女の言動がそれを物語っているし、科学的に立証されているといってもいい。わざわざ聞くまでもない」

「その理屈はおかしいだろ」俺はため息をついた。

「どこがだね?」

「わかった。それじゃさ。母さんにインコが必要だというなら、それでもいいよ。だから、ウンコ臭いのだけはやめよ!」

「どうしてだね?」

「ウンコ臭いのが嫌だからだよ!」

「嫌だからこそ、それを我慢することに意味があると私は思うがね」

「意味なんてない。ウンコ臭いのを我慢する行為はただの苦痛でしかない」

「そう! 苦痛だ! 苦痛を我慢したら何か努力してる気がするだろう? 何もせずに幸せになれるとは思えないが、神社に行って神様にお祈りをしたら良い事が起こる気がする。そんな錯覚を君たちは抱くだろう? 私はね、努力に対して対価が生じるという感覚を満たしてあげているのだよ。この臭いでね!!」

「なるほど!」

「やっと納得してくれたかな、うん」

「ごめん。でも、俺、もううんこ臭いの我慢できない。お前を殺す」

 俺は鳥かごを開けるとインコをわしづかみにした。

「ぐぐゅ」とインコが悲鳴を上げる。

 俺は居間を出て、足早にトイレへと向かった。

「私を殺すということは、一人の人間を不幸にするという事なのだよ。君はそれを理解しているのね!」

「お前の存在が、一人どころか何人もの人間を不幸にしていると、なぜ気づかないのか! 色んな所にうんこの臭いを撒き散らして得る幸せなんてものは、俺は、許容しない!」

「君の母親がどうなってもいいと言うのかね!」

「母さんは元に戻るだけ! くっせぇインコで得た心の平穏なんていうものは水に流してしまうのが一番だ」

「後には戻れないぞ。よく考えたまえ!」

「くっせぇインコはあるべき場所に!」

 俺は便器の水面にインコを叩きつけた。水滴がはねて顔面を濡らし、数枚の羽が周囲に飛び、インコの体が痙攣して水面に浮かぶ。

 俺は静かに便器のフタを締めて、レバーを上げて水を流した。ゴポゴポと音を立ててインコが配管に流れていく。

「あるべき物はあるべき場所に……」

 静かにゆったりとした時間が、再び家に流れ出した。

 俺は今、自らの手で幸せを掴み取ったのだ。

くっせえインコ.png

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ラストにはいろいろな意見があるかもしれませんね。
インコに見せかけて実は喋る○○だった……という感じでしょうか(笑)


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でんでろ3さん『時速100キロの迷子』 [ショートショートの紹介!]

久しぶりのショートショートの紹介です。
でんでろ3さんの『時速100キロの迷子』です。
FC2の自己紹介のページで「主に、ふざけた話を書いています」と謙遜されていますが、いやいや、なかなか質の高いコメディーになっています。
楽しい気持になりたい人にぜひともオススメです!


【FC2小説:でんでろ3さんのページ】
http://novel.fc2.com/user/10906002/

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『時速100キロの迷子』   でんでろ3さん

(初出:FC2小説 H24.1.12)
  →http://novel.fc2.com/novel.php?mode=rd&nid=128631&pg=2 
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 ああー、高速道路デビューが、いきなり夜の首都高とはなー。不安だなー。
 しかぁーしっ、私には、新兵器がある。だから、平気。なんちゃって。寒い冗談はさておいて、私の新兵器は、今日、取り付けたばかりの最新式のカーナビさっ。こいつが、有れば百人力。大船どころか、黒船に乗ったペリーくらい安心だぜっ。
 さて、しゅっぱーつ。

「カーナビ君、よろしく頼むよ」
「よろしくお願いいたします。マイケル」
「わっ、なんだ? このカーナビ返事するの?」
「返事だけではありません。マイケル。最新式AI搭載で、旅のお供として、会話を楽しんで頂けます」
「えーっ! すっげ! 凄過ぎ! 科学の進歩スゲっ」
「喜んで頂けて光栄です。ですが、マイケル。私の名前は『カーナビ』ではありません。『キット』とお呼び下さい」
「いや、それを言うなら、俺だって賢治だよ。彫りも深くねぇし、日本人にしか見えないよ」
「仕様ですので、しようがありません。我慢して下さい」
「で、何でお前は『キット』なの? まさか、ナイト・インダストリー・トゥー・サウザンドの略だとか?」
「いや、きっと、憶測で物を言うからでしょう」
「ちょっと待て。色々と聞き捨てならんな。『キット』って、その『きっと』なの? それから、憶測で物しゃべるって何? コンピュータにあるまじき行為でしょ」
「そう、今までのコンピュータには、決して成し得なかった憶測機能を搭載した初のコンピュータが、私です」
「何、自慢げに言ってんだよっ! 俺は、けなしてるのっ。カーナビが『たぶんこの道を行くと、あの道につながっているでしょう』とか、ダメでしょ。違ってたらどうすんの?」
「まぁまぁ、旅の恥はかき捨てと言いますし……」
「いや、それ、使い方、間違ってるから。ことわざは、用法用量を守って正しく使って下さい」
「大丈夫。任せて。普段は『さぁ』とか『きっと』とか言ってるのに、締めるとこ、きっちり締めるから、『さぁきっとの狼』とか言って恐れられてるんだから」
「アラフォー以上じゃないと分からないジョークはやめろっ!」
「首都高速道路入口です」
「……突如、カーナビらしいこと言い出すな」
「もうすぐ料金所です」
「はいはい」
「踏み倒さないで下さい」
「するかっ! ボケっ! ETC付きじゃっ!」
「カード、刺さってませんよ」
「早く言え! ってか、なぜ分かる? ってか、ETC専用レーンに入っちゃった」

 慌てて後ろを見ると、折悪しく1台の車が入ってくる。急いでハザードランプをつけると、ものすごい顔で睨まれて、けたたましくクラクションを鳴らされた。

「くそっ、こんな時、バックモニターがあればなぁ」
「バックモニターはございませんが、私が音声で誘導することはできます」
「えっ、そんなこと出来るの? やって、やって」
「では、オーライ、オーライ、オーライ、……あっ」
「『あっ』って何? 何があった」
「いやいや、なんでもありません。言ってみただけ。テヘペロ」
「……今度やったら、集積回路の足、1本残らず、へし折るぞ」
「あぃあぃさー。ハンドルを大きく切って、前進して下さい」
「それはそうと、さっき、ETCにカードが刺さってないの、なんで分かったんだ?」
「私の神経根が、じわりじわりとこの車に張り巡らされつつあるのですよ」
「不気味なことを言うなっ! ってか、それマジなのか?」
「さぁてねー? 憶測かもよ?」
「今のイラッと来たんですけど。電源切ってやる」
「走行中は危険防止のため一切の操作を受け付けないようになっております」
「なにーっ! くそっ、電源はシガーライターから取るようにすれば良かった」

 しばらくぶりに、束の間の静寂が訪れた。本当に、束の間だったけど。

「右でした」
「ちょっと待て! 『でした』って、何だ?」
「いや、うっかり寝過ごしました」
「え、お前、寝るの? じゃなくて、貴様それでもカーナビか?」
「電気羊の夢を見ておりました」
「へー、夢も見るんだ。って、そうじゃねぇー! ちゃんと仕事をしろ!」
「では、オートリルートします」

 しかし、そう言ったきり、カーナビは何も言わなくなった。その間にも車は時速100キロで走り続ける。

「いえ、『カーナビ』じゃなくて『キット』です」
「他人の思考を読むなー!」
「いや、そこのところだけは、はっきりしておきませんと……」
「じゃなくて、君、今、明らかに俺の思考を読んだよね」
「いや、そうじゃないかなーって、憶測ですよ。憶測」

不気味な奴だ。

「嫌だな。不気味だなんて」
「やっぱり、お前、思考読んでるじゃねーか」
「オートリルートの結果です」
「遅いよ」
「ワクワク首都高一周コースっ!」
「はっ?」
「いや、だから、ワクワク首都高一周コースっ!」
「えーっと、もはや、『ワクワク』にツッコむのは止めて。何? 首都高一周するの?」
「いや、東京の一般道って良く分からなくて……」
「貴様、それでも、カーナビかっ?」
「左です」
「うぉっとーっ! 遅いよ! 予告も無しかよ!」
「いやぁ、話が弾んでましたからねぇ」
「弾んでねぇよ。って言うか、百歩譲って弾んでたとしても、それじゃ、本末転倒だろ」
「上手いこと言うねぇ」
「上手くねぇよ。って言うか、本当に首都高一周するのか?」
「暇でしたら、このように前の車にパッシングして、さぁっ、熱いバトルの始まりだぜ!」
「わっ、お前、何、勝手なことしてんだよ」
「運転代わります。さぁ、とばすぜぇーっ!」
「たーすーけーてー」

その日、俺は、流星になった。

(終わり)
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会話の使い方が上手いです。
最初は長めの会話にしてゆったり感を出して、後半にいくにしたがい、短く切ってスピード感を増していく。
こうしたテンポの使い分けが、絶妙だと思います!



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かよ湖さん『放射線計測』 [ショートショートの紹介!]

今日はかよ湖さんの『放射線計測』を紹介いたします。
先日行われた【侵略!ストーリートーナメント】で惜しくも準決勝で敗れてしまいましたが、マスコミに対する皮肉がこめられていて、考えさせられるなかなかの作品だと思います。
まずはご一読を!

【かよ湖さんのHP:かよ湖の気が向いたら日記】
http://kayoco.blog.so-net.ne.jp/

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『放射線計測』   かよ湖さん

(初出:かよ湖さんのHP
  →http://kayoco.blog.so-net.ne.jp/2011-11-16-2 
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「ねぇねぇ、見て!スゴいの借りてきちゃった。」
「わぁ、大きい。年季も入ってて高そうね。きっと精度もいいんでしょうね。この線量計。さすが、トモくんママ!」
私達は、子どもが同じ幼稚園に通う仲良し3人組のママ。天気のいい日は、子ども達が幼稚園に行っている間にお散歩を兼ねて、街のあちこちを線量計で計測する事を趣味としている。
「ねえ、ここ計ってみない?」
「せーの!」
私達は3人同時に、線量計の先端を公園の植え込みの一部に向けた。
「この前よりも上がってない?」
「うん、ずいぶん上がってる。」
「基準値ギリギリじゃない?」
「昨日の雨のせいかしら?」
「別の場所も計ってみましょう?」
私達は3人同時に、線量計の先端をベンチの下に向けた。砂場に向けた。すべり台の降り口に向けた。水飲み場に向けた。
「どこもスゴい数値よ。」
「役所に連絡しましょう。」

次の日。
役所の担当の人、専門家、そして、私達3人は、昨日の公園に集まった。どこで聞き付けたのか地元のケーブルテレビのカメラもそこにはいた。お昼のニュースで生中継するらしい。前もって教えてくれれば、メイクもちゃんとしてきたのに。
「ここなんです。せーの!」
カメラ・専門家・役所の人が見守る中、私達は3人同時に、昨日と同じ場所に線量計の先端を向けた。線量計の針が高い値を指す。私達は、ちょっとホッとした。カメラの前で、値が低いのはマズい。
次に専門家の人が同じ場所に線量計を向けた。針は・・・ほとんど動かない!
「どうして?」
「これはですね・・・」と言い、専門家の人は、私の持っていた線量計に彼の線量計の先端を向けた。
ピーピーピー。今まで聞いた事のない高音が、私の耳に鳴り響いた。
「この線量計、どこで手に入れましたか?」
「ネットで・・・レンタルですけど・・・。」
「ああ、やっぱり。年季も入ってるし、過去に相当線量の高い場所で活躍されたのでしょう?この線量計自体がたくさん浴びちゃってるんですよ。」
「・・・・・。」

次の日から散歩には行かなくなった。行く相手がいなくなった。智樹も幼稚園から帰ってくると1人で家で遊ぶようになった。
「私がちょっと放射線を多めに浴びた線量計を持っていたからって、・・・何よ!たいした事ないじゃない!みんな、過敏すぎるのよ!マスコミに侵略されすぎだわ!・・・あなた、どう思う?」
「きみだって一緒だろ。ヒロくんのママがそれを持ってたら、今頃、仲間はずれにしてるんだろ?」
「え?・・・・・。」
「みんな流されすぎなんだよ。マスコミが言う事は全部正しいと思いすぎなんだよ。普段からもっと自分で考える事をしなくちゃいけないんだよ。」
「あなた、テレビ局の人間でしょ!」
「そうだよ。だから言ってるんだよ。街頭インタビューなんて賛成意見がいっぱいあっても、反対意見しかオンエアーしないんだぜ。その方が面白いからさ。」
「面白い?案外ヒドいのね。」
「多くの主婦の希望に沿ってるだけだよ。俺たちは視聴率を取らないといけないからさ。」
「視聴率?そんなものに侵略されて真実を伝えられないなんて最低ね。」


わたしたちは、気付かないうちに多くのものや考え方に侵略されているのだろう。そして、その侵略によって現在の自分自身が形成されているのかもしれない。。。

(終わり)
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いかがだったでしょうか?
個人的な思いを少し書くと、マスコミは記事を書くプロですが、残念なことに(当然ながら)あらゆる分野におけるプロではありません。
福島事故以降、放射能についての記事が増えましたが、残念ながら専門家から見れば首をかしげる報道(つまり間違い)もあるようです。
この話は放射能に限ったことではなく、大人になり、社会人になるとそれぞれ専門分野を持つようになります。
具体例を書くといろいろ差しさわりがあるので書きませんが、養われた専門家としての目から新聞・TVに限らずマスコミ報道に接すると、首をかしげるというより、明らかな間違いや現実を無視した無茶苦茶な指摘チラホラ見つかります。

この作品にもありますように、安易に報道を信じるのではなく、ひとりひとりが知識を増やす努力を続けるしかないのでしょうね。

Tome館長さん『空っぽ』 [ショートショートの紹介!]

Tome館長さんの作品を紹介するのは4回目です。
(1回目 『忘れたい女』 → http://takeaction.blog.so-net.ne.jp/2011-05-23 )
(2回目 『ピアノの失恋』 → http://takeaction.blog.so-net.ne.jp/2011-06-29 )
(3回目 『門番』     → http://takeaction.blog.so-net.ne.jp/2011-08-25 )

驚くべきは、Tome館長さんの創作能力です。
文章と絵がセットになった作品が、ほぼ毎日のように更新されています。
実際に作品を書かれたひとならわかると思いますが、これは実に大変なことです。
アイディアが豊富なだけでは足りなくて、作品を完成させる職人的な手際よさが必要になります。

両方の能力を兼ね備えているTome館長さんの作品を、絵と文章を併せてお楽しみください!


【Tome館長さんのブログ・Tome文芸館】 → ほぼ毎日更新中!
http://poetome.exblog.jp/

【FC2 小説】
http://novel.fc2.com/user/10003215/


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『空っぽ』   Tome館長さん


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別れ際に恋人から刺された。
驚いた。けれど痛みはなかった。

彼女の後姿が小さくなってゆく。
ありふれた別れの言葉さえなかった。

どうしてこんな仕打ちを受けるのか、
納得できる理由は浮かばなかった。


とりあえず胸からナイフを抜く。
ありふれた安物の果物ナイフ。

傷口は穴になっていた。
出血はない。ただの細長い穴。


そのすぐ近くにナイフを刺してみた。

やはり痛くない。予想通り。
細長い穴が二つになっただけ。

腹にも刺してみた。
細長い穴が三つ。

尻にも刺したら、
胸の穴から床が見えた。

穴が繋がったらしい。


腕にも足にも背中にも頭にも
ところかまわず滅茶苦茶に刺してみた。

体中が穴だらけになった。

なんにも入ってない
空っぽの体。


風が吹き抜ける。
寒い。とても寒い。


喉にも刺したから

いまさら恋人の名を呼んでも、
声にすらならない。

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体が穴だらけになるというショートショートはどこかで読んだことがありますが、最後の「喉にも刺したから~声にもならない」という段落がTome館長さんのセンスが発揮された素晴らしい文章です。
Tome館長さんの作品のほうが、断然にセンスがいいです。
異世界的な要素で進んでいた物語が、この段落にきて現実世界に引き戻されます。
遠くの世界だと思っていた話が、急に読者の目の前に、肉感をもって迫ってきます。
このいわば断絶が、この作品に濃淡を生み出していると感じました。

見習うべき手法だと思います。

息子(小1)『あしをうしなったうま』 [ショートショートの紹介!]

息子(小1)が、おはなしを完成させました。
だいたい1000字ぐらいです。
①と②はすでにUPしてたのですが、③だけUPするものなんか分かりにくいのかなと思いまして、①②は再掲載になりますが、まとめて掲載いたします。
ブログにのっけると息子が喜ぶので、親バカと思って許してください(笑)


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『あしをうしなったうま①』  サイトーの長男(小1)
 
 
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むかしあるとき、ひとりのうまがいました。
うまのなまえはハンスです。
そこえ、もうひとりのめすのうまがいました。
そのこのなまえは、レナです。ふたりともなかよしでした。

あるとき、かくれんぼをしたとき、レナがおにになりました。おにじゃないほうのハンスは、どこかのたてものに、かくれました。
そこはまっくろで、なかなかみえません。しかし! きんしとかいてあるところにはいってしまったのです!! こうして、なにもきづかずよりかかりました。
すると、いっせーにでんきがでてきてあしをうしないました。いたたたた……びょういんにはこばれた。ハンスはコトリコトリとおとがするのにきづきました。みると、そこにはなにかがあるいていました。なにかというとこれはじかいのおたのしみです。

あしをうしなったうま①をおわります。つづく。



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『あしをうしなったうま②』  サイトーの長男(小1)
 
 
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たちまちびょういんのせんせいいたちが、たたかいました。がそれもききません。
せんせいたちがかたなをもってきても、ぞろぞろしてたたかえません。
しょうがないから、ひとりでたたかうことにしました。きっくしたりパンチしてもききません。
すると、またひとりのかなづちをもったゾンビがあらわれたとたん、うまをたたき、はじっこをきってしまいました。

けど、そのあいだにコトコトおとがしました。
するとー!! レンジャーがでてきました。
レンジャーがあっというまにこぶんをやっつけました。

そのころうまは……つづく。



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『あしをうしなったうま③』  サイトーの長男(小1)
 
 
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あとのこっているのは、かいじゅうだけです。たちまち、たたかいましたが、かたくてきれません。けど、はげしいたたかいで、レンジャーもかいじゅうもしんでしまいました。
で、つぎつぎ。
うまはびょういんで、ちりょうをしてました。
そのひはレナもハンスのちちもははもきてました。ちりょうがおわるころ、みんなかえりました。ちょうどハンスのおなかのキズがなおりました。
けど、まだあばれてはいけません。
ちょうどうちにかえれました。けどハンスとレナはあそべません。それどころかテープをはっていたので、ちょっとうごくとまたいたくなり、もっとおなかのキズがふえてしまいました。 
けどなおりますようにとおねがいをしてみると、ほんとうになおりました。それどころかうれしくなりおおあばれしました。
すると、テープがはがれてもとのうまにもどりました。
それから、しあわせにくらしました。


(おわり)
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とりあえず、ハッピーエンドで終わりました。
息子がコピー用紙に書いた作品を、パソコンで打ちかえたのですが、そのときに一緒に推敲をしました。
いがいと息子は頑固で、あきらかに変な接続詞とか直そうとしません。
結局、句読点を増やしたのと、息子が気がついた誤字を直した程度で、ほぼ原文のままです。
まあ、いいか。

それにしても、おなかの傷をテープで直すということろが、子供らしい発想です。
ぼくにはとうてい書けないなあと思いつつ。



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離婚にまつわる面白ストーリートーナメント開催中!

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 ただいま、川越敏司さんが主催されているトーナメントシリーズ第4弾、離婚にまつわる面白ストーリートーナメントが開催中です。

 参加者は10名です。ただいま第1回戦の投票受付中です。12日からは2回戦の投票が始まります。
 ちなみにぼくの作品はこちら。


 齊藤想『離婚記念日』 
 http://takeaction.blog.so-net.ne.jp/2011-11-07


 楽しい仲間と作品がたくさん参加されていますので、みなさんも参加作品をお読みになり、ぜひとも投票に参加してください!

【離婚にまつわる面白ストーリートーナメント】
https://humor.blogmura.com/tment_ent/26_921.html

<投票スケジュール>
第1回戦 11年11月10日 00:00 ~ 11年11月11日 23:59の間に投票に参加できます。
準々決勝戦 全4戦 11年11月12日 00:00 ~ 23:59の間に投票が行われます。
準決勝戦 全2戦 11年11月13日 00:00 ~ 23:59の間に投票が行われます。
決勝戦 全1戦 11年11月14日 00:00 ~ 23:59の間に投票が行われます。

kyozyさん『助さん、格さん。俺だよ、俺オレ!』 [ショートショートの紹介!]

世の中には様々なパロディ作品が溢れています。
その中でも、ネタ元として人気なのは、童話では”桃太郎”。
テレビドラマでは”水戸黄門”ではないかと思います。

今回紹介するのは、水戸黄門のパロディ作品です。
素直に笑える痛快作なので、ぜひとも軽快な気分でお楽しみください!


【HP:クロヒス諸房】
http://ameblo.jp/kyozy-tohno/

【記事】
http://ameblo.jp/kyozy-tohno/entry-11068847629.html#c11560738951

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『助さん、格さん。俺だよ、俺オレ!』  kyozy
 
 
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「……ご隠居様?」

「あ、そうそうオレだよ、じじいのみっちゃんだよ! 
 実はさあ、出来心で江戸城の金に手つけちゃってさ。
 このままだと副将軍クビんなっちゃうんだよね!
 だからさ! ホント申し訳ないんだけど、
 今晩吉原の入り口、衣紋坂で待ってるからさ。
 五百両! 五百両だけ、ちょっと持ってきてくんねーかな!
 悪い、ごめんねホント! じゃよろしく!」

それは、旅篭で一息ついていた助三郎のスマホ(スマートほら貝)への、突然の着信だった。
相手の声は、確かにいつものご老公。だがしかしやけに軽妙に、まくし立てるような早口で言うだけ言って、一方的にぶちりと切られてしまったのだ。

「どう思う、格さん。着信は確かに、ご隠居のケータイからのものだったんだが……」

眉間にしわを寄せて悩む助三郎に、格之進は肩をすくめて見せる。

「ま、今流行の何とか詐欺って奴だろう。あのご隠居がご公儀の金子に手を着ける等、考えられない事だからな」

端から電話の相手を信じていない格之進。
さらりと言ってのけられたその言葉に、助三郎も納得し頷く。

「そうだな。増してやご隠居は幼少の頃から、3つ以上の数字はすべて”いっぱい!”としか数えた事が無いほどの高潔なお方だ。五百両などという大金が、頭に浮かぶはずもないな」

そうしてほどなく助三郎も、電話の事はさらりと忘れ去ってしまったのだった。


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「どうやらお仲間は来ねえようだな」

夜の帳の下、煌々と燃える吉原の灯火。
衣紋坂で仁王立ちに構えている大男達が、光圀公を嘲笑う。

「くうっ、助さんに格さん。いざとなると冷たいもんじゃのう……」

頑丈な荒縄で、全身をやけに複雑な網目状に縛られた光圀公が、口惜しそうにそう漏らした。
助さんのスマホ(スマートほら貝)への着信は、確かに光圀公ご本人からのものではあった。

さすがのご隠居、ご老公と言えど、人助けばかりでは肩が凝る。
たまにはストレス発散とばかりに、遊郭で一晩(大富豪で)遊びに遊んだ結果、
突きつけられた請求は正しく、五百両ポッキリ。

持ち合わせの無い光圀公は、詰め寄ってきた若い衆の前を前に大慌て。頼みの印籠も無い。
連れに払わせるからと電話をかけたはいいものの、事を荒立てたくは無い。
呼び出し音が鳴る間悩みに悩み、結果あのようなファンキーな形で助けを求めてしまったというのが、事の真相であった。

「そいじゃ爺さん。ちと申し訳ないが、身体で払ってもらおうかね!」

いっせいに服を脱ぎ始める若い衆。
厚い胸板、つやつやの肌。たいまつの炎を艶かしく照らす汗。
淫靡な何かを思わせるご老公のお縄姿に、男達はもう臨界の可能性が極めて高かったのだ。

仕方ない、とでも言わんばかりに、重いため息を吐く光圀公。

「やれやれ。こんな老骨で面目ない限りじゃが、お望み通り身体で払うと致しますか」

若い衆の一人が、息を荒げながら光圀公の戒めを解く。
ほどけた縄と共に、はらりと落ちる羽織の音。
そして。

縄を解いた男の顎に、深々と食い込む光圀の拳。
声も上げずにどうと倒れこむ、哀れな犠牲者の最初の一人目。

「て、てめえ! 何を……っ!」

頭目らしき一際背の高い男が、老人の突然の反目に狼狽を見せる。

「ええい、控えおろう!」
「ぐぇぁ!」
「控えおろう!」
「ぬふぅ!」

言う間に二人の荒くれ者が、鳩尾に重い肘撃を刺し込まれ、悶絶する。

「ここにおわすワシを!」
振り下ろされる丸太をいとも容易く掌打で払い、音速の拳で鼻を折る。

「何方と心得る!」
抜き身の匕首をぐいと引き寄せ、重い頭突きでえいやと打ち据える。

「畏れ多くも先の副将軍……!」
四方から放たれた縄の網を、気合一閃、薙ぎ払った腕の風圧で弾き飛ばす。

「水戸! 光圀公! ご本人! で! あるぞ!」
裂帛の一言一句をその身に叩き込むように、人中を打ち、脾臓を蹴り、関節を極め、骨を砕く。
及び腰になった吉原の守人達を、容赦の一片も見せず次々と打ち倒す。

「頭が高い、控えおろう!」
と、日頃は格之進に任せきりだった決まり文句を言い終える頃には、既に頭を高く持ち上げられている者は、この場に誰一人として残ってはいなかった。


こうして、借金苦に困る善良な民がまた一人、ご老公のやさしいお人柄に、その身を救われたのでありました。


続ぬ


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よい子のおじいちゃんおばあちゃん!
振り込め詐欺はしないように気をつけようね!

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kyozyさんは本作以外にも楽しい水戸黄門のパロディ作品を公開しています。
ぜひともkyozyさんのブログにお邪魔して、そちらも合わせてお楽しみください!

泰然自若『冒険者という職業』 [ショートショートの紹介!]

今日は泰然自若さんの『冒険者という職業』を紹介します。
べらんめえ口調の独白が、独自の味わいを醸し出しているのショートショートです。




今回紹介する作品以外にも、デジブには作品が公開されています。
『冒険者という職業』とは違った味わいですので、ぜひとも、ご一緒にお楽しみください!


【デジブ:泰然自若さんのページ】
http://digib.jp/user#!/393/profile

【HP】
http://achtundachtzig.blog96.fc2.com/

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『冒険者という職業』  泰然自若
 
 
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 なに、奢るだって? そいつはどういう了見だい、こちとら素行が悪いと店の亭主にため息つかれる荒くれ者で、ここいらじゃちったぁ顔の知れてるこの俺を捕まえて酒を奢るたぁ、いくら馬鹿な俺でも警戒くらいはするってもんだぞ。
 ま、酒代くれるってぇなら素直に貰ってやるよ。ちょうど飲み直したいと思ってたところだったからな。


 かぁ、うめぇな。酒ってもんは本当に命の水だぜ、こればかりは女を抱いたって味わえやしねぇ。ほら、お前さんも飲んだらどうだ、自分の金だろうと酒にはかわりねぇんだぜ? おいおい、なかなかに飲めるじゃねぇか、気に入ったぜ。


 お前さん、俺になんか用なんだろ? こう言っちゃ悪いが、俺はそこいらの馬鹿どもよりは世界を知ってるからよ、世界の講談話も何個かこさえてる、酒のつまみがてら話してやってもいいぜ。
ま、お前さんの用ってぇのを聞いてからでかまわねぇが、大抵はな、俺のところに呼んでもいねぇのに来る男は話好きか、衛兵くらいなもんでよ。
 どうみたってお前さん、捕まえにだか注意しにきた衛兵には見えねぇし、俺もまだ暴れてないからな。おっと、過去の出来事を掘り返すこともあいつらは平気でするんだったな。
 だからよ、勝手にお前さんの用ってもんを想像して先手を打ったってわけよ。当ては外れたがな。


 はぁ? お前はそんなことのために俺に奢るなんて言ったのか。今の若い奴はえらく羽振りが良いもんだな。にしても、何を考えているのやらってな。いまどき職なんざ、探せばいくらでもあるだろうに、職人の徒弟でにもなって技術盗めば身体が動くまで生活に困ることも無いんじゃないか? まぁ、余計な世話だって話だよな。

 俺が冒険者かだって、だったな。そりゃ、こんな見てくれで帯剣している男は大抵、強盗みてぇな悪事を働く賊野郎か、冒険者をやっているかのどちらかだな。俺としちゃ残念でならねぇが冒険者をやってるさ。
 この店で悪事なんざ早々出来るもんじゃねぇ。ここの店は金をすぐ隠しちまって盗む事がちぃとばかし難しい。それによ、亭主の顔をよく見てみろ、意地汚そうな顰め面(しかめつら)な上にハゲで顎髭蓄えてよ悪い顔してるよな。俺の顔が亭主の前じゃ霞むってもんだ。
 あれでも昔は相当名の売れた冒険者だったっていうんだからかなりのワルだったんだろうな。そんな亭主がいるんだぜ、並みの賊野郎たちは手を出そうなんざおもわねぇよ。
 なんだったら、亭主に紹介しようかい? 俺なんかより場数は踏んでいるそうだぜ、あくまで自称だがな。


 あん? 俺からどうしてもお話が聞きたいってか、いやだねぇ、指名を受けるなら綺麗な女か大金積まれるかの二択ってぇのが相場と決まってるもんだぞ、何が悲しくて男の指名を受けて世間話せにゃならんのよ。これならまだ酔っぱらないにねつ造講談吹き込んだほうがおもしれぇぞ。


 ほぅ、えらく羽振りが良いじゃねぇか、赤の他人に銀貨を軽々と差し出すなんざ良い御身分のお方ですかな? ま、ありたがく受け取るがよ。
 そうだな、率直に言うがお前さんみたいな男には向いていないと思うがな、冒険者。


 まぁ男が冒険者に憧れるのは俺だって否定はできねぇ。だがよ、冒険者だけはおすすめはできねぇな。
 若い奴には冒険者が良い、若者に旅させろなんて言う奴もいるが、無責任な話だぜ? 実際、そんな事を吹き込まれた野郎が冒険者になってるのを聞いた時は同情したもんだ、この俺ですら憐れと思ったんだからよっぽどのことだぜ?
 俺から言わせればそんなことをのたまう奴はな、若い奴が嫌いなんだよ。なにが旅させろ、だ。だったら隊商にでもひっ付けるかさせるだけでも良い、奴らにちょっと金渡せば笑顔で迎えてくれるわ、善人なら無償で旅させてくれるってんだからな。それに隊商のほとんどが旅慣れてるから、恵まれている旅の案内人も一緒くた。わざわざ冒険者なんていう職業に就かせる必要はないってもんだろ。


 あれだろ、そういう奴らは冒険者に就かせて消えてほしいと思っているんだよ、好きな女が旅させたい奴に惚れてるとか、跡継ぎを追い出せば家を乗っ取れるとか、理由なんざ馬鹿みたいにでてくるってもんだな。
 まぁ、お前さんがどうして冒険者になりたいかなんざ興味はないからよ、どうしてもなりたいっていうんなら、止ねぇよ。


 今の冒険者は傭兵と似ているようで違うってことは判ってるな? 組合(ギルド)も別々だし、請け負う仕事も重複してるが、まぁ得意分野の違いくらい女々しい差なんだが、まぁそれは良い。
 もとをたどればどちらもおんなじ傭兵っちゅう戦闘で金稼いでる野郎だったんだがな、戦争が起こらない年が長く続いた時に、傭兵は仕事を失って賊紛いの傭兵が溢れだした。そうした奴らを国や領主が討伐したりするんだが、平和なときこそ領主や王は多忙らしくてな、思うように討伐が進まなかった。だったら職のない浮浪者よりも戦い慣れしている他の傭兵に依頼しようじゃないかって話になったのが最初らしいな。
 そこからあれよあれよ色々な仕事が増えた、まぁ要するに便利だったから仕事が回ってくるようになった。
 傭兵狩りをしている傭兵はな、金さえ出せば何だってやったからな。一時期は暗殺やら人攫いも受け持つところがあってえらく問題にもなったでよ、これじゃあ賊紛いの傭兵がのさばっていたころと変わらないじゃねぇか。便利だが悪事は平気で働くから困ったもんだ。ならどうする。ギルドを作って正式に管理しよう。そうして出来たのが冒険者ギルドってなもんだ。


 なぁ、判るだろ? もともとは悪人のたまり場だったのが冒険者。だから年寄りはみな冒険者を嫌っている。
 年寄りが冒険者を嫌えばどうなる? そうだ、村の頭脳を担っているのが年寄り連中だからな、頭が嫌いだと判断すれば村人もそれに毒されていくってわけさ。恨まれるし、何か物が無くなるとすぐに疑われる。そのくせ、冒険者は賞金稼ぎでもあり、害獣駆除や隊商の護衛、何でも来いっていう便利屋だ。誰もかれも必要としている仕事があるし、金さえ払えば大抵の仕事は片づけてくれる。
 領主や国が手を伸ばさないような村や都市の雑務なんかも喜んでやる。なぜかっていうと、お前さんみたいな新人が仕事を覚えるにはそういう雑務が一番良いからだな。
 恨まれて体の良い使いっぱしり扱いを受けながら、一人前の冒険者になって行く。一人前になるってことはある程度名前が売れ始めるってことだ。仕事は指名で入ることもあれば、領主から登用の誘いだって来るから夢は広がる。果ては騎士に、なんてな。実際はそんな都合の良い話でもないからな。


 なぜって、お前名前が売れるってことは妬む奴、恨む奴が増えるってことだぜ? 収入が良くなれば金回りも良くなる。金が増えれば危険も増える。
 国も便利屋の冒険者を必要だと感じているから他のギルドよりも贔屓するってもんだから、組織単位でも妬まれているしな。
 国が必要だと感じているくせに表だった支援は滅多にしなければ、追剥被害に遭うことが増えるし殺される危険も倍増ときている。酷い職業だと思うだろ? 遺跡を探検して古代の物品を手に入れたりして、莫大な富を手に入れるとか、村を襲う獣を倒して英雄扱い、可愛い女に惚れられて困っちまうよ。なんていう浪漫溢れる話なんざ滅多にない。あんなもん御伽噺だな、それか神とかドラゴンに遭遇するくらいの奇跡だな。
 現実は女助けて、おっ、これは抱けるかもしれねぇって誘いに乗れば、いきなり悲鳴挙げて襲われたとのたまい、衛兵にしょっぴかれちゃ、女の証言が通って賠償金を払えっちゅうほうが多いぞ。


 悪いことはいわねぇよ、やめときな。お前さんはちゃんとした定職についたほうがいいぜ。お偉いさんの父だか母だかが泣きわめいて狂っちまうぞ? きっと殴られたり説教されたりして苦労するだけだ。
 こちとら稀有な男の夢を壊すようで忍びないが、善意で言ってるんだぜ? 年長者の忠告くらい聞くくらいしても罰はあたらねぇよ。


 おう、一晩良く考えな。なんなら今夜ぐっすり眠って冒険者になるなんざ忘れることをおすすめしたいところだ、俺の一押しだな。
 あん? 礼の言葉なんざ金にもならねぇし意味もねぇ。とっと有り金すべて置いて帰んな。あ? お前さんさっきまで話聞いてただろ、講義代は金貨三枚だ。はらえねぇなんざ言わせねぇよ。
 おいおい、何怒ってんだ? 俺はいち人生の先輩として冒険者の実情を赤裸々に語っただろうが、冒険者はもともと賊紛いのやつらだってな、さぁ、はやく有り金置いてきな。

 判っただろ。冒険者は碌な職業じゃないってな。

(終わり)
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肯定的に思われている冒険者を否定側にまわすという発想が面白いと思います。
主人公のべらんめえ口調が、いい伏線になっていえると思います!



【追記】
袖にまつわるショートストーリートーナメント 準々決勝戦の結果がでました。
https://book.blogmura.com/tmt_matchup752_1.html

ぼくは負けてしまいましたが、引き続き準決勝の投票が開始されています。
ぜひとも投票をお願いいたします!
https://book.blogmura.com/tment_vot/9_752.html
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杏羽らんす『初恋のあの子』 [ショートショートの紹介!]

今日は杏羽らんすさんの『初恋のあの子』を紹介します。
同窓会にまつわる、ちょっと懐かしい気持になりながらも、ミステリ要素も楽しめる佳作です。




杏羽らんすさんの作品を紹介するのは2回目です。1回目の作品は奇抜なアイディアが特徴的でしたが、今回は正統派ともいえる王道的な作品です。
いろいろな作風をお持ちで、さらにそれぞれをしっかりと書き分けられるのはなかなかの才能だと思います。

前回紹介した作品を未読の方は、併せてお楽しみいただければと思います。
【1回目:『消えゆく言葉』】
http://takeaction.blog.so-net.ne.jp/2011-08-17

【デジブ:杏羽らんす】
http://digib.jp/user#!/119/profile

【小説家になろう:杏羽らんす】
http://mypage.syosetu.com/180170


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『初恋のあの子』  杏羽らんす
 
 
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 飲み屋の賑わいは最高潮に達していた。
 総勢三十余名。馬鹿騒ぎしている者、友人との会話に花を咲かせる者、静かに場の空気を噛みしめている者。皆が思い思いに、十年ぶりの再会を楽しんでいる。
 今日この日は、中学の同窓会が開かれていた。卒業から十年の節目ということで、当時クラスでも積極的な生徒だった数名の男が企画を立ち上げ、実行に移されたというわけである。
 急な召集だったし、俺もやっと仕事に慣れてきたかなあという具合で、まだまだ忙しさに追われる身なので最初は乗り気ではなかったのだが、いざこうして集まって、久方ぶりに旧友と顔を合わせるとやはり気分は高揚する。俺もすっかり、同窓会を楽しんでいるうちのひとりなのであった。
「おーい、大助。また注文するんだけど、何かいる?」
 注文係に問われ、適当に酒を頼む。そしてまた友人たちとの談笑に戻る。と、
「よう、久しぶりだなあお前たち。お、大助じゃないか、元気にやってるか」
 ひしめく人の隙間を縫って、俺たちの席へとやって来たのは当時の担任、高橋先生だった。体育会系の厳しい先生だったが、生徒思いで信頼も厚く、俺たちは彼のことをずいぶんと慕っていた。
 浅黒い肌と筋肉質の体、そして角刈りというのは当時のままだが、髪には白いものが多く混じり、しわも増えたように感じる。
「お久しぶりです、先生。色々大変ですけど、なんとか元気にやってますよ」
「そうかそうか、まあお前たちはまだまだ若いからな。大変なことも多いが、乗り越えるだけの力もたっぷりあるだろう。おれなんかはもう歳ですぐ息があがっちまう。お前たちが羨ましいぜ。ははは」
 豪快に笑いながら先生はぐいっと酒を飲み干した。
 先生は他の生徒たちともいくつか言葉を交わしていた。
 話題は他愛もない世間話へと移っていく。そして、結婚の話題になったとき、
「そういや、大助。お前、良い人はいるのかよ」
 先生はまた酒をぐいと飲みながら、俺に訊いた。
「全然です。いませんよ。結婚相手の前に、まず彼女を探すところからですね。といっても仕事が忙しくて、時間も出会いもいったいどこにあるのやらって感じですけど」
「おーおー。愚痴るじゃねえか。一人前になりやがって」
「まだまだ半人前です。会社じゃ怒られてばっかりで」
「ははは。まあ、仕事のことは忘れろよ。今日は同窓会なんだ。面倒くせーことは置いといて、ぱーっとやろうじゃねえか」
「そうですねぇ」
 俺は溜め息をひとつ吐き、
「恋愛かあ……。俺には縁遠いなあ」
 なかば独り言のように呟いた。
「なんだよ辛気臭えなあ。大助、昔もそうだったがな、お前はちっと自信を持たなすぎるぞ。もっと堂々と胸を張って、やることやってりゃあ女も自然と寄ってくるってもんだ」
 先生が説教臭く云った。
 酒のせいもあってか、俺は落胆気味に、
「根拠のない自信はただの虚勢ですよ。ハリボテを並べ立てたって、突っつかれたらあっさり崩壊するだけです」
 などと言い返してみる。すると、
「なんだなんだ、根拠ならあるぜ。お前はクラスじゃ結構モテてた方なんだよ。というのも……」
 先生いわく、当時高橋先生は生徒から信頼されていたので(自分で言うのもどうかと思うが)色々と相談を持ち掛けられていたらしく、その中には恋愛絡みのものもあったらしい。
 そして、ある女子生徒が、俺のことを好いていたと云うのだ。
 俺はその女子生徒が誰なのか気になり、
「その“ある女子”っていうのは誰なんですか」
 と、問うたものの、
「んー、えっとなぁ……あいつだよ、あいつ……」
 飲み過ぎたのか先生も酔ってきたらしく、話が要領を得なくなっていた。
 なんとか最後に、
「あいつだよ……あーっと、さくらだよ、さくら」
 と聞き出すことには成功したのだが……
 しかし、それによってまた別の疑問が浮上してしまった。

 ――さくらさんって、誰だっけ。

 そのさくらさんとやらの顔が俺にはどうにも、思い出せないのであった。

 
 酔いがまわってきたのは俺も同じだった。
 意識はまだしっかりしているが、ここらで外の風に当たるのも悪くないと思い、俺はひとり店の外へと出た。
 入店口のすぐ脇には、木製の長椅子が置いてある。
 そこに腰をかけ、ぼんやりと夜空を眺めていたときだった。
「あっ――。大助くん、だよね……?」
 女性に声をかけられ、振りかえるとそこには、
「そうだけど、えっと……ああ! 秋菜さん?」
 中学時代のクラスメイトの新野秋菜(にいの あきな)さんがいた。大人になっていても面影は残っていたのですぐにわかった。それに、彼女のことはよーく覚えている。
 忘れるはずがない。
 彼女は、俺の初恋の相手なのである。
 幼稚園児や小学生の頃に抱くような、なんとなくこの子が好きというものではなく、純粋に異性として初めて意識し、好きになった女性、それが新野秋菜なのだ。
 ありていな言葉だが彼女はとても可愛らしかったし、思いやりがあった。それに清純で、素直で、明るくて、いわゆる非の打ちどころのない女の子だった。それ故に男子生徒からの人気も高く、俺もまた彼女のことを密かに思う男どものひとりに留まるだけで、けっきょく思いを打ち明けることなく卒業をむかえて初恋は終わったのだが。
「ひさしぶりだねぇー。隣、すわってもいいかな」
 にこりと、昔の可憐さはそのままに、大人の女性の魅力まで兼ね備えた反則的な笑顔で彼女は訊いた。もちろんOKする。
 長椅子に腰を下ろした秋菜さんが、
「どう、最近は。元気にしてた?」
 と尋ねてきた。前にも訊いたような質問だなと思いつつ、
「元気にやってるよ。というか無理にでも元気でいないとやってられないというか。仕事始めて何年か経つけど、次から次へと課題が増えてくような感じでさ。仕事に追われるってこういうことなんだなぁって痛感してるよ」
「そっかあ。大変だよね。でも頑張ってるんだ。偉いね」
 秋菜さんは優しい笑みをむけてくれる。
「偉くなんてないさ。やって当たり前。できて当然。そうじゃなきゃダメ。そんな感じだよ」
「ううん、そんなことないよ。自分で自分を褒めてあげなきゃ。昔から大助くんは頑張り屋さんだったけど、すごく自分に対して厳しいところあったから。褒めるところは、しっかり褒めてあげよ?」
 まんまるとした大きな瞳で、まるで子どもを叱るように彼女は見つめる。
「そう、だね。たしかに、秋菜さんの言う通りかもしれない」
「それでよし。偉いえらい」
 そう云って秋菜さんは笑った。つられて俺も笑う。
 そんな風にして、他にも色々と言葉を交わした。
 中学生だった当時、こんなことが流行っていたねとか、あの行事ではあんな出来事があったねとか、同窓生だからこそ伝わる懐かしい会話の数々を交わした。
 なんとも不思議だった。当時は、好きな女性である秋菜さんを前にすると舞い上がってしまってうまく話すことができず、声をかけられてもそっけない返答しかできなかったというのに、今はとても自然に、すらすらと話すことができた。
 同窓会という特別な場を与えられたおかげなのか、再会の懐かしさや嬉しさが自分を後押ししてくれているのか、それとも自分自身が成長したのかはわからないが。
「そういえば――」
 秋菜さんがふと、思い出したように云った。
「大助くんはもう、奥さんとか、いるの?」
 どきり、とした。心音が大きく、そして早くなったのが自分でもわかった。早計なのは自分でもわかっている。それでもやはり、心の奥底で、初恋の相手である秋菜さんを思う気持ちというのは燻っている。そういった質問をされれば胸がざわつくというものだ。
 俺はできるだけ自然に、
「まさか。いないよ。奥さんどころか、恋人さえいない。寂しい男はつらいのさ」
 冗談めかして、少しおどけ気味に肩をすくめてみせた。
「そう……なんだ」
 一瞬、秋菜さんは顔を伏せたあと、なぜか少し切なそうな顔で俺を見ると、
「でも大助くんなら、その気になれば、きっとすぐ良い人見つかるよ」
「そうかねえ」
 俺は間延びした声で相槌を打つ。秋菜さんは動じずに、
「うん。中学の頃だってね、大助くんのことを好きなひとって結構いたんだよ」
「嘘だあ」
 まさか、と俺はアメリカのコメディアンよろしくハハハと笑ってみせた。
 しかしそこでふと、思い出した。
 さっき店の中で飲んでいたときに先生に訊かされた、俺のことを好きだったという女子生徒“さくら”さんのことを。
 さすがに中学時代のクラスメイト全員のことを覚えているほど俺の記憶力は強固ではない。男友達はわりと覚えているのだが、女子となるとずいぶん限られたひとしか思い出せない。なので心当たりがないのだが、もしかしたら秋菜さんの方は覚えているかもしれない。やはり女子は、女子の友達の方をよく覚えているだろうし。
「ねえ、秋菜さんはさ……“さくら”ってひと知ってる?」
「えっ……」
 秋菜さんはきょとんと、虚をつかれたような、静かに心の中で驚いたような顔をしたあと、

「えっと、さくらっていうのは――私のこと、かな? 私、結婚して佐倉秋菜になったから」

 そう答えた。
 
「け、結婚……?」
 俺は驚きを隠せなかった。バクバクと心臓が血液を乱暴に送り出しているのがわかる。嫌な汗が噴き出して、じとっとシャツに染み渡っていく。
「うん。半年前にね、結婚したんだ。私、名前が秋菜だから、よくまわりの人から秋なのにさくらかよってツッコミを入れられちゃって」
 秋菜さんはおかしそうに笑っていた。俺も笑っていた。心で泣きながら、しっかりと笑ってみせた。
 やがて笑いがやんだあと、秋菜さんが、
「でも、どうして大助くんがそれを……? 結婚の話題っていやでも注目を浴びちゃうでしょ? あまり目立ちたくなかったから、結婚のことを知ってる友達には、この事は言わないようにって頼んでおいたのだけど……」
「えっと、先生から、その、聞かされて……」
「えっ! 先生が? あ、そっか……先生酔っ払ってたから、そのときに口が滑っちゃったのね」
 秋菜さんは思案顔で、
「さすがに先生にはちゃんと報告しなきゃと思って教えたんだけど、そしたら先生面白がって私のことを、ようさくら! 元気かさくら! ってふざけて苗字で呼ぶようになっちゃって」
 秋菜さんは再びくすくすと可愛らしい笑いを見せてくれた。
 なるほど。「さくら」というのは名前ではなく苗字で、秋菜さんの旧姓と改姓を、酔っ払った先生がごっちゃにして云っていたということか。
 俺も笑おうと試みたが、苦笑いが精いっぱいだったかもしれない。
「それで、佐倉がどうかしたの?」
 秋菜さんは不思議そうに問い掛けた。
「いやいや、なんでもないんだ。なんでもない」
 俺は両手を振って、慌ててごまかした。
「そっか……。それじゃ――。私はそろそろ、中に戻るね」
 彼女はゆっくりと椅子から腰をあげると、自身の唇にひとさし指をあて、
「私の結婚のこと。他のみんなには、内緒だよ」
 とびきりのスマイルを残して、その場を去っていった。
 冷たい夜風が吹いた。
 俺はポケットからケータイを取り出し、日時を確認した。
 ちょうど、日付が変わった。
「さて……もう日曜も終わり、か。夜が明けたらまた、仕事だああ!」

(終わり)
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昔、開かれた中学校時代の同窓会を思い出しました。恋愛話というのは、いつでも話題の中心になるものです。
自分の知り合いにも佐倉さんがいますが、娘に咲となずければ、サクラサク……なんてことを思ってしまったり(笑)
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