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【掌編】齊藤想『モナリザの微笑』 [自作ショートショート]

本作のアイデアは知識系です。
モナリザの微笑は、「デュシュサン・スマイル」と呼ばれているタイプだそうです。この笑みは不随意筋(自分の意識では動かせない筋肉)が関係しているため、意図的に作ることができず、人間が本当に嬉しい、本当に楽しいときにだけでるそうです。つまり、演技で作れない微笑だそうです。
具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は11/5発行です。



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!

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 『モナリザの微笑』 齊藤 想

 蟻川劇団に採用されたとき、陽菜は天にも昇る気持ちだった。
 主催者の蟻川天鵬は、採用する劇団員を有名人に例える癖がある。「原節子」や「サラ・ベルナール」といった、往年の名女優の名前を挙げることが多い。
 それなのに、なぜか陽菜には「モナ・リザのようね」と絵に例えてきた。しかも「女優としては、現代では評価されませんが」という余計なひとことつきで。
 けど自分で選んだ道だ。頑張るしかない。
 新人女優の陽菜は、セリフのない端役からスタートした。会社の従業員、美容院のスタッフ、役柄はいろいろだが、要するにその他大勢のひとり。
 少しでも自分を輝かせようと、大ぶりな演技でアピールするのだが、その度に蟻川天鵬に注意される。
「貴方はモナ・リザでいいの」
 陽菜は混乱した。モナ・リザのように、ミステリアスな笑みを浮かべればよいのか。
 陽菜は、先輩たちのアドバイスを聞き続けた。それも蟻川天鵬は気に入らないようだ。
「次回の舞台は休んだ方がいいわね」
 ついに陽菜は配役から外された。女優志望なのに、蟻川天鵬から命じられたのはチケット掛かりだった。
 蟻川劇団の看板女優は「クレオパトラ」に例えられたベテラン女優だった。彼女はまるでギリシャ彫刻のように目鼻立ちがハッキリしており、身長も高い。化粧をするとさらに舞台映えがする。
 彼女なら蟻川天鵬の考えが理解できるかもしれない。そう思って、陽菜は出演のために準備中の控室まで彼女を訪れた。
 劇団のエースは、舞台用のマスカラを盛りながら、そっけなく答える。
「そんなの分からないわよ。なにしろ天鵬先生は変人だからね」
 確かに蟻川天鵬は舞台界の異端児と言われている。次から次へと奇抜な舞台を用意しては評論家の度肝を抜き、呆れさせている。
 いまの舞台だって、背景は全てAIに描かせ、しかも背景がランダムで入れ替わる脚本無視の代物だ。
 落ち込む陽菜を、ベテラン女優が優しく包み込む。
「悩んでいても仕方がないわ。私だって、天鵬先生が私のことをクレオパトラに例えた意味が分かったのは最近なんだから」
「先輩の場合は、まさに美貌が……」
「違うわよ。クレオパトラは、美貌より知性で幾多の男性を魅了してきたの。だから、私もクレオパトラのように知性を磨きなさいという天鵬先生の教えだったの」
 それなら、陽菜が例えられたモナ・リザにも意味があるのだろうか。彼女はメイクの手を止めて、鏡の中の陽菜と向き合う。
「大丈夫。天鵬先生は見どころのないひとは採用しない。きっとチケット掛かりも陽菜さんのためを思ってよ」
 ベテラン女優の心づかいが、陽菜の胸に沁みる。ふっと、彼女の表情が緩んだ。
「陽菜さん。いまの笑顔、とても素敵よ。その笑顔を忘れないで」
 数か月後、陽菜はチケット掛かりを卒業して舞台に復帰した。なんと、次の舞台で陽菜は主役に抜擢された。
 新しい舞台の下見をしている蟻川天鵬に、陽菜はそっと近づいた。
「天鵬先生。モナ・リザの意味が少し分かった気がします」
 蟻川天鵬の目は舞台から動かない。
「モナリザの微笑みの秘密は、人間が本当に嬉しいときにだけ現れるデュシュサン・スマイル。この表情は不随意筋が作り出すので、演技では生み出せない。天鵬先生が私に求めているのは、このモナ・リザのスマイルだったのですね」
 蟻川天鵬が無言なのは、同意の証拠。
「ただ、現代では人工的な笑顔が氾濫しすぎて、逆に本物の笑顔であるモナ・リザがミステリアスと見なされている。だから、天鵬先生は、私は現代では評価されないかもしれない、と言ったのですね」
 蟻川天鵬は沈黙を続けている。彼の頭の中では理想の舞台が広がっている。それは現代劇か、前衛劇か。
「チケット掛かりにしてくれたのは、観客たちの自然な笑顔をたくさん見せるため。自分らしさを取り戻させるため」
「今度の舞台はねえ」
 ようやく、蟻川天鵬が口を開いた。
「人工的なものを排除したいの。舞台は人間が作り上げるという前提を打破したい。前衛中の前衛劇。その非常識な舞台に、陽菜はついてこれるのかしら」
「もちろんです」
 陽菜は笑顔で答えた。きっと、最高のデュシュサン・スマイルになっている。

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第14期加古川清流戦第2局(岡部玲央四段VS上野裕寿四段) [将棋]

上野四段の先勝で迎えた第2局です。

〔主催者サイト〕
http://live.shogi.or.jp/seiryu/

岡部玲央四段はabemaTVトーナメントで指名されるぐらいなので、その実力は高く評価されていると思います。
5年間の三段生活での苦労を爆発させたかのように、第64期王位戦ではB級1組の棋士を2名、A級棋士を1名破って王位戦リーグ入りを果たしています。
リーグ残留こそ果たせなかったものの、岡部玲央四段の強さを十分にアピールしたと思います。
いま将棋界に玲央は3人います。
岡部玲央四段、黒沢玲央六段、小山玲央四段の3人です。
いまは岡部玲央四段と黒沢玲央六段がC級2組、小山四段が来季からC級2組となりまだまだクラスは下ですが、それぞれ才能のある棋士なので、玲央が同時昇級という可能性もあると思います。
さあ、岡部玲央四段は、棋戦初優勝に向けた白星を挙げることはできたでしょうか!

〔棋譜〕
http://live.shogi.or.jp/seiryu/kifu/14/seiryu202410140101.html

ということで、将棋です。
先手上野四段の選択は矢倉です。矢倉は組みあがるまで時間がかかるため、後手の急戦策により駆逐されましたが、最近はときおり採用する棋士が見られます。
とはいえ、昔のような矢倉に組み合ってという将棋ではありません。後手岡部四段は中住まいですし、先手上野四段は矢倉は組んでも8八に入城しません。
後手の玉頭である中央で戦いが始まりますが、大駒の働きの差で後手が押し気味になります。そこから両取りが決まり後手優勢に。
上野四段は苦しい局面ですが、ただ、マジックというか、実戦的に混戦に導く逆転術が光ります。
5六角の王手飛車取りに、6七銀と弾くのが罠でした。
お互いに秒読みですし、思わず角を切って飛車を成りこんで優勢と思いたくなります。
しかし、評価値的にはこの手で後手のリードが無くなります。
一間龍の形でいかにも寄りそうですが、飛車で成り銀を取られると、思ったより寄りません。むしろ先手に駒をたくさん与えたため、急に後手玉がピンチになりました。
まさに将棋は逆転のゲームです。
苦戦の将棋をひっくり返すことに成功した上野四段は、145手まで押しきり、見事2連勝で加古川清流戦初優勝を決めました。

上野四段おめでとうございます!
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最近の金融・投資【令和6年10月第2週】 [金融・投資]

〔先週の株式市場〕
先週は3日プラスで2日マイナスでちょいプラス。
月火と値動きが激しかったが、それから3日は比較的落ち着いた感じ。
総選挙が終わるまで様子見でしょうか。
8月9月と連続して大きなマイナスなので、10月はこのペースでプラスだと少し安心するかも。
まあ、どうなるかは分かりませんが。

〔ヒューリックの第95期中間報告書が届いた話〕
毎年のように過去最高益を更新している会社ですが、今期もいまのところ順調らしい。
配当も毎年上昇して、今年も増配予定とか。
ヒューリックは基本的には首都圏を中心に商業・オフィス用不動産投資をしていますが、それ以外にもデーターセンター、研究施設、物流施設にも投資している模様。
JEFホールディングの跡地再開発にもパートナーとして選定されたようです。
なかなか凄いですね。
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