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【SS】齊藤想『不適切課』 [自作ショートショート]

本作は第33回小説でもどうぞに応募した作品です。
テーマは「不適切」でした。

アイデアとしては組み合わせ法で、いかにもふざけた感じの「不適切」という言葉に、真面目でなくはいけない職場の「課」を組わせました。
真逆のものを組み合わせるのは、有力なアイデア作成法です。

具体的な技法はこちらの無料ニュースレターで紹介します。次回は8/5発行です。



・基本的に月2回発行(5日、20日※こちらはバックナンバー)。
・新規登録の特典のアイデア発想のオリジナルシート(キーワード法、物語改造法)つき!

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 『不適切課』 齊藤 想

 自分は辞令を何度も見た。裏返し、蛍光灯に透かし、さらには眼鏡もかけた。だが、どんなに目を凝らしても”不適切課への異動を命ずる”と書かれている。
 自分は、おずおずと上司に尋ねた。
「この不適切課とは何ですか? 始めて目にしたのですが……」
 おほん、と上司は咳払いをした。
「不適切課は存在する。なにしろ、あまりにも不適切なので、門外不出の秘密部署とされているのである」
「秘密部署ですか……」
「そうだ!」となぜか上司は胸をそらした。
「君はまだ若いから知らないと思うが、ほとんどの大企業に不適切課は設置されておる。君も伝統ある不適切課の一員になることを誇りに思い、今後も職務に励んでくれたまえ」
 上司の目が金魚のように泳いでいる。
「お話は承りました。ですが、そもそも不適切課の場所が分からないのですが」
「このビルの地下三階だ。地下駐車場の一角にあるから、探してみるように」
 命令なので仕方なく地下三階に向かうと、本当に不適切課は存在した。駐車場の車椅子専用スペースに置かれたコンテナハウスに「不適切課」という紙が貼られている。
 場所からして不適切だ。
 その不適切なコンテナハウスに入ると、中年男性が待ち構えていた。キラキラしたステージ衣装を着て、もみあげが妙に長い。彼の机は、エルビス・プレスリーグッズで埋め尽くされている。
 彼は、手にしているマイクを突き上げた。
「何を隠そう、私が不適切課長である。不適切な課長ではなく、不適切課長だから、そこのところを間違えないように」
 見た目からして、社会人とは思えない。
「じゃあ、よろしく」
 用事は終わったらしい。課長はさも忙しそうに、もみあげの手入れを始めた。
 戸惑っている自分に、今度はバブル時代から飛び出してきたような妙齢の女性が近づいてきた。毛の生えた扇子を手にしている。
「これはジュリセンと言うの」
 聞いてもないのに、説明してくる。彼女の辛子明太子のような唇がうごめく。
「私こそ、誰もが憧れる不適切係長よ。ちょとそこの若いあなた、この課が何をするところか不思議に思っているでしょ」
 自分はうなずいた。不適切係長は「ジュリセン」で口元を隠す。
「この課はとても大切な仕事をしているの。それはね、社内にいる不適切な社員を常時監視することなの」
 監視するのではなく、監視される側ではないのか。それに、どうやって監視しているのだろうか。
 ぼくがその疑問を口にすると、不適切係長は、コンテナハウスの中を見渡した。中にいるメンバーを、一人ずつ指さし確認をする。
「どう? なかなか大変でしょ」
 いまのが仕事の全てらしい。どうやら、ここは不適切な社員を集めて閉じ込めておく部署らしい。ということは、自分も不適切社員の烙印を押されたのか。
 愕然とする自分に、今度はずんぐりむっくりした男性が近づいてきた。彼は不適切主任だと名乗った。
「まあまあ、ここは軽く一杯」
 彼の手には日本酒が握られている。なぜかコンテナハウス内に酒類の自動販売機があり、しかも課長と係長が楽しそうに一杯やっている。まだ午前10時だ。
 不適切主任は、自分の肩を軽くたたいた。
「まあ、いろいろと思うところもあるかもしれないけど、ここで楽しくやりましょうや。おれなんて、ここへきてもう十五年」
「十五年!」
「係長は二十年。課長は三十年。君もここで頑張れば、昇任も夢ではないぞ」
 自分は激しく首を横に振った
「絶対に嫌です。おれはここから必ず脱出する……いや、不適切課のメンバーで社内をあっと言わせる成果をあげてみせる」
 パチパチと拍手の音がした。課長だった。係長と主任も手を叩く。
「その心意気だ。ぼくはねえ、初めて見たときから君はモノが違うと思っていたよ」
「ここにいるのはだらしない中年ばかりだから、あなたの力で私を変えて欲しいわ」
「実は始めて見た時から、あなたは男が大きいと驚いていました」
 自分は辞令を見返した。不適切課への異動と同時に、部長を命ずると書いてある。自分は部長なのだ。課を変えるために、まずは上司である自分が変わらなくては。
 今日で裸族は引退し、明日から服を着て出社する。部長として力強く宣言したら、課員から一斉にブーイングが上がった。
 やっぱり、ここは不適切課だった。

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最近の金融・投資【令和6年7月第3週】 [金融・投資]

〔先週の株式市場〕
自分の持株は2日プラスで3日マイナスでトータルはけっこうなマイナス。
この間、日系平均は大幅プラスと大幅マイナスで激しく上下したのだが、自分の持株はプラスは連動せず、マイナスだけ連動という情けない結果に。
まあ、いままでがプラス過ぎたからと思えば、なんですが。

〔6月は配当金月間〕
3月決算、6月配当金振り込みの企業が多いので、6月はチョコチョコ入金される。
基本分散投資なので、1社あたり数千円から数万円程度。中には数百円という企業もある。
それでもチリツモとはいい得て妙で、トータルするとなんだかんだといい金額になる。
なので、これらの配当金は、いつもの通りに再投資に回します。
あとはタイミングを間違えないように、という感じではあるのですが。

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