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【映画】VOYAGER(ボイジャー) [映画評]

宇宙船を舞台にしたスリラーです。


ヴォイジャー [DVD]

ヴォイジャー [DVD]

  • 出版社/メーカー: アルバトロス
  • 発売日: 2022/07/06
  • メディア: DVD



地球温暖化により生活が困難になった地球から脱出するため、科学者が発見した居住可能な惑星まで探査機を派遣することになる。
期間は86年。30人の青年と1人の大人が乗り込み、目的地に到着するのは孫の世代。
限られた資源を有効に活用するために、子供たちは欲望を抑制する薬を飲まされている。
この薬の正体を知った青年は薬の服用を止め、さらにリーダーだった大人が事故で死亡(後で殺人だと判明する)したことで、微妙なバランスを保っていた船内に破綻が訪れる。
というストーリーです。
大人が死亡するまでが前半戦で、ここから物語が佳境に入ります。
薬を最初にやめたのは2名で、二人は親友でしたが、しかし一人が刹那の快楽に走り暴君のように船内の支配をもくろみ、もうひとりの主人公が秩序を維持しようとします。
しかし、弁舌で(かなり無理な内容ですが)暴君側が権力を握り、主人公たちは追い詰められていきます。
主人公が反撃を開始したところがミッドポイントです。
見ていて、いろいろつっこみたくなります。
宇宙なのに船内は普通に重力があります。コロニーでは遠心力を使うこともありますが、そういった様子もありません。
また電気をバンバンに使っていますが、そのエネルギー源は不明です。食料もかなり普通の野菜が使われており、うーん、船内設備で生産するにしても施設は貧弱です。
メンバーは仕事を割り当てられていますが、その仕事もナゾです。
立場と目的が異なる大人と子供の葛藤がメインテーマになると思ったら、大人は前半であっさり死んでしまいます。
ですが、映画が始まってすぐに宇宙に飛び立つなどテンポは良いです。船内の秩序が壊れていく様の描写は見事で、ドキドキしました。
ただ、暴君を倒すシーンは予想の範囲内で、どんでん返し不足かも。
もうひとひねりあれば、という気がしました。

SFスリラーが好みのひとのために!
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【掌編】齊藤想『落ちていた靴下』 [自作ショートショート]

第17回小説でもどうぞに応募した作品その2です。
テーマは「家」でした。

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『落ちていた靴下』 齊藤 想

 朝の会まで、少し時間があった。
 クラスのガキ大将である剛司が、教室に泥まみれの靴下を持ってきた。何の変哲も無い無地の白い子供用の靴下だ。用務員室の裏側で落ちていたらしい。
 同級生たちが、なにが珍しいんだろう、という目をしている。しかし、剛司は教室内で思いっきり声をはりあげる。
「これで、三足目だ。おかしくないか」
 剛司は靴下をぐるぐる振り回した。泥が飛んで、女子が嫌な顔をする。
「だってさあ、大人用靴下が落ちているならまだ分かる。だが、子供用だぜ。なんで、用務員室の裏に子供用の靴下が何回も落ちているんだよ。お前のか、お前のか」
 剛司は同級生たちの足下をのぞき込む。キャアキャア言いながら、女子たちが逃げる。
「ちょっと、いい加減にしなさいよ」
 学級委員長をしている玲子が剛司の前に立ちふさがる。いつもこぎれいな恰好をしているお嬢様的な女子だ。玲子は、腰に手を当てて、剛司を威圧するように胸をそらす。
「子供用の靴下が見つかったぐらいで、ギャーギャー騒がない。ここは小学校よ。誰かが落としたに決まっているじゃない」
 剛司は呆れたような顔をする。
「玲子は学校の勉強はできるかもしれないけど、それ以外は世間知らずのお嬢様だな。靴下は履くものだぜ。どうやったら、靴下を落とせるんだよ」
 剛司とクラスの笑い声に、玲子がますますムキになる。
「世間知らずは剛司よ。替えの靴下を持ってきたのかもしれないじゃない。剛司の常識で決めつけないほうがいいわよ」
「雨の日ならそうかもしれない。だけど、今日は晴れの日だぜ」
「風で飛んだのかもしれない」
「ここ一週間はおだやかだ。玲子も思い付きでしゃべらず、少しは頭を使えって」
 嘲笑するような剛司の声に、玲子はきつい視線を飛ばす。
「そこまで言うのなら、なぜ学校に靴下が落ちているのか説明してみなさいよ。納得する説明がなかったら許さないから」
「よしよし、そうこないと」
 剛司はイスに深く座りなおした。そして、名探偵のように両腕を深く組む。
「頭の固い玲子に、真実を教えてやろう。ズバリ、それは、この学校に住んでいる子どもがいるということだ。つまり、この靴下は学校で干していたものが落ちたのだ」
「ばっきゃじゃないの」
 玲子の声が裏返る。
「そんなことあるわけがない。もうちょっと常識的に考えてよ」
「玲子は知らないと思うけど、世の中にはいろいろなことがあるんだよ。親が育児放棄しているかもしれない。DVに苦しめられているのかもしれない。そうした一時的な避難場所として、小学校が使われているかもしれない。用務員室には泊まれる施設があるし」
「妄想もいい加減にしなさい」
「それに、この小学校に幽霊がでる噂を聞いたことはないか? その幽霊だって、小学校に住んでいる子どもだと思えば辻褄が合う」
「あきれた名探偵ね。だれが信じると言うのよ、そんなヨタ話を」
 玲子は剛司に背中を向けた。その背中に向かって、剛司は投げかける。
「否定するだけじゃなくて、確かめたらいいじゃないか。いまからみんなで用務員室に行ってみようぜ」
「バカねえ。用務員さんが、部屋に入れてくれるわけないでしょ。あのひとは、ああ見えて堅物なんだから」
「あっ、おい。余計なこと言わずに、とっとと行ってみようぜ」
 剛司にあおられるようにして、クラスの全員で用務員室に向かうことになった。他のクラスが奇異の目で不思議な集団を見ている。
 玲子は恥ずかしかった。ずっとうつむき、トボトボとクラスの最後尾を歩く。まさか、こんなことになるなんて。
 階段を下りている途中で、先頭を歩いていた剛司が戻ってきた。玲子の横に立つと、周りに注意しながら、耳元でそっと囁く。
「本当に玲子は世間知らずだなあ。下手に隠そうとするより、完全に否定させた方が早いって。悪いようにはしないから」
 玲子は驚いた。いつから剛司は気が付いていたのだろうか。ガサツに見えて、とてつもない観察眼の持ち主なのかもしれない。
 用務員室が近づいてくる。まるで子どもたちを待っていたかのように、用務員が顔をだした。
 少し困惑したような、まるで作ったかのような顔だ。
 玲子は、足取りが軽くなるのを感じた。

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