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【書評】潮谷験『時空犯』 [書評]

SF+ミステリかつ文体がラノベという新感覚の小説です。


時空犯 (講談社文庫)

時空犯 (講談社文庫)

  • 作者: 潮谷験
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/01/17
  • メディア: Kindle版



メフィスト賞受賞者の第2作です。
メフィスト賞というと蘇部健一『六枚のとんかつ』を連想するのですが、独自基準での選考で、尖った作品が受賞するイメージがあります。
本作は2作目ですが、様々な要素を詰め込んだ意欲作だと思います。
基本となるアイデアは、タイムリープです。
時間が遡るとまったく同じ状況に戻るのが普通ですが、本作では毎回微妙に異なる点が新しいです。
しかも特殊な薬(後半で薬ではないことが明かされますが)を飲むことで、ある実験のために呼ばれた9人だけ遡る前の記憶が残ります。
こうした設定の元で、殺人事件が発生します。
時間が戻って死者は生き返る(正確には死ぬ前にもどる)のですが、この殺人事件を実験に参加したこと探偵が解きます。
SFミステリの場合、SF上の設定が殺人事件を解くカギになる(Aアシモフ『鉄鋼都市』他)のがパターンですが、本作ではSF設定を生かしつつ、かつ鉄道ミステリ要素の強い解答が、著者の工夫を伺わせます。
文体はライトノベル風で、しがない探偵がアイドルに一途な恋心をもたれる設定など、この手の話が好きなひとはたまらないと思います。
別解を防ぐためにラスト手前で知性体を登場させて探偵と会話させるなど、ところどころ、苦しい点も見られます。
ただ、突飛な設定で、ここまでまとめ上げたのは、作者の力量だと思います。
ソフトSFのファンや、ライトなミステリファン向けかなと感じました。

新感覚のSFミステリを楽しみたいひとのために!
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