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【SS】齊藤想『ヒーローの流儀』 [自作ショートショート]

第16回小説でもどうぞに応募した作品その2です。
テーマは「遊び」でした。

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『ヒーローの流儀』 齊藤 想

 日曜日の朝9時。我らがレッドが、公園の滑り台のてっぺんで、こぶしを青空に向かって突き上げた。
「ヒーローは遊びじゃないんだ」
 公園にいるのは、メンバーであるブルー、グリーン、イエロー、ピンクと、たまたま遊びに来ていた幼児と母親。幼児はすべり台のてっぺんにいるレッドを指さそうとして、母親にたしなめられる。
「ヒーローたるもの、地域の平和と安全を守るだけではなく、市民の模範となり、だれからも愛される存在ではなくてはならない。ではパトロールに出発するぞ!」
「アイアイサー」
 ブルー、グリーン、イエロー、ピンクが敬礼と同時に踵をならした。少し遅れて幼児が真似をしようとして、母親に止められる。
 メンバーはそれぞれの愛機、チャリ1号から5号に乗り込んだ。もちろん、それぞれのシンボルカラーにデコレーションされている。
 ヒーローたるもの交通ルールは遵守。ヘルメットを被り、歩道ではなく車道の端をゆっくりと走る。自転車は軽車両なのだ。
 登り坂は無理をせず、下車して愛機を押して歩く。
 少し太めのグリーンがへばり始めたころ、少女の叫び声が聞こえた。
 2人の少女がボールを奪い合っている。争っている二人の手からボールが離れ、車道へと転がる。
「危ない!」
 レッドが全力で愛機を走らせる。車道に飛び出す寸前でボールを拾い上げる。
 駆け寄る二人の少女に、レッドが愛の雷を下ろす。
「道路で遊んだら危ないじゃないか。近くの公園か、学校で遊びなさい」
 しかられた二人の少女は涙目になる。こういうときは、ピンクの出番だ。膝を折り、落ち込んでいる少女たちに目線を合わせて、優しく諭す。
「二人がケガをしたら、パパやママが悲しむでしょ。親というものはね、子供が痛い思いをすると、それ以上に心が痛むものなの」
 二人が素直に首を縦に振る。ここで盛り上げるのはイエローの役目だ。
「さてさて、お兄さんも一緒に遊ぼうかな。こう見えてもバスケットがうまいんだぞ」
 イエローが自信満々にドリブルを始めようとするが、なぜかボールが体と反対の方向に飛んでいく。
「イエローは口だけだなあ」
 と突っ込みをいれる役目はグリーン。場が和んだころに、ブルーが冷静に告げる。
「あそこにシャドウ団がいる」
 メンバーが一斉に車道を見る。そこに、黒いコスチュームに身を包んだシャドウ団がいる。もちろん悪役だ。領袖であるMrシャドウを中心に、四人の手下が控えている。
 Mrシャドウが勝ち誇ったような高笑いをあげる。
「ハハハ、このボールはいただいた」
 いつのまにかに、Mrシャドウの手にボールがある。
「車道にシャドウ団が」とイエローがどうでもいいことを口にする。ボールを奪われた 少女が涙目になる。
 ここで負けたらヒーローではない。レッドがメンバーに声をかける。
「いいか、全力でボールを、いや少女の笑顔を取り戻すのだ」
 シャドウ団は瞬く間にヒーローたちに駆逐され、Mrシャドウと手下たちは逃げ出した。
「はい、どうぞ」
 ピンクが少女にボールを渡すと、少女ははにかんだ。
 こうして、町の平和と少女の笑顔は取り戻された。

 家に帰ると、レッドは長年連れ添った妻にこっぴどく怒られた。いい加減、ヒーローごっこはやめてくれ。年齢を考えてくれ。
 レッドはコスチュームを脱ぎ、体中に湿布を貼る。おそらく他のメンバーも、シャドウ団も同じだろう。
「これは遊びじゃないんだ」
 そう言っても、妻は信じない。
 最初は他愛のない街おこしだった。ご当地ヒーローを作りキャンペーンを続けているうちに、実際に活動することとなり、さらに妙な人気が出たあげくに、マニアが撮影して動画としてUPするようになった。
 空想のヒーローが本物になり、いつしか生きがいになった。
 ヒーローも悪役も体力を使うので健康にもよい。地域との触れ合いもできる。なりより、インターネットを通じて、世界のどこかで楽しんでくれるひとがいる。
 来週の日曜日も、ヒーローとシャドウ団は
、遊びではない戦いを繰り広げている。

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