【SS】齊藤想『たすけあい』 [自作ショートショート]
yomeba第18回ショートショート公募に応募した作品です。
テーマは「ともだち」です。
―――――
『たすけあい』 齊藤 想
中学校からの帰り道。突如として涼真の首筋に太い腕が巻きつけられた。涼真の体は、そのまま人気のない裏路地に引きずり込まれる。
涼真が振り返ると、そこに同級生のケンジの顔があった。
あごにはうっすらとひげが生えており、胸元には中学生らしくない金色のネックレスがぶら下がっている。胸ポケットが不自然に膨らんでいる。たばこだろう。
ケンジは、涼真の鼻先にたばこ臭い息を吹きかけてきた。
「おれは思うんだけどさ、困ったときに助け合うのが、本当の友だよな。涼馬もそう思うだろ。だから、ちょっとだけコレを貸してくれよ。すぐに返すからさ」
ケンジは指先でわっかを作った。貸してと言って、返さない。カツアゲの常套手段だ。
涼真が黙っていると、ケンジは勝手に話を進めた。
「おれさあ、マジで困っているんだよ。こないだ財布を落としちまったみたいで、探しているんだけどちっともでてこない。まったくもって、ついてないよなあ」
先月も同じことを言っていた気がする。ケンジはいつも中学生らしくない大金を持ち歩いている。カツアゲで稼いでいるのだろう。
「ケンジのお父さんって、工務店の社長だろ。お父さんから借りられないのかなぁ」
「それがさあ」ケンジは小声になった。
「どうも経営がうまくいってないみたいで、とてもお小遣いをせびれる雰囲気じゃないんだよ。財布がでてきてたら、必ず返すからさあ。オレとお前の仲じゃないか」
ケンジの腕に力が入る。まるで万力で締め付けられているかのようだ。
「それはうちも同じなんだよ。金欠で、ぼくこそお金を借りたいぐらいだ。だから助けてくれないかなあ」
「なんだよ。おれがこれだけ頼んでも、貸さないというのか」
急にケンジが凄んだ。そろそろ限界のようだ。しかたがない。涼真は観念して、ケンジに体を寄せた。こうすれば、誰にも見られない。小声でケンジにささやく。
「じゃあ、いくら借りたいの?」
「そうそう、そう来なくっちゃ」
ケンジは涼真から財布を奪うと、札を残らず抜き取った。
「助かったぜ、恩に着るよ。必ず返すから安心しろ。それれはそうと、うん、あれ?」
「どうしたの?」
「いいや、なんでもない。じゃあな、あばよ」
ケンジは札を尻ポケットにしまうと、足早にいま来た道を戻り始めた。ケンジの姿が見えなくなると、涼真はため息をついた。
困ったときに助け合うのが真の友。だから仕方ないことなのだ。
涼真は手にいれたばかりの財布の中身を確かめると、足早に家路についた。
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『たすけあい』 齊藤 想
中学校からの帰り道。突如として涼真の首筋に太い腕が巻きつけられた。涼真の体は、そのまま人気のない裏路地に引きずり込まれる。
涼真が振り返ると、そこに同級生のケンジの顔があった。
あごにはうっすらとひげが生えており、胸元には中学生らしくない金色のネックレスがぶら下がっている。胸ポケットが不自然に膨らんでいる。たばこだろう。
ケンジは、涼真の鼻先にたばこ臭い息を吹きかけてきた。
「おれは思うんだけどさ、困ったときに助け合うのが、本当の友だよな。涼馬もそう思うだろ。だから、ちょっとだけコレを貸してくれよ。すぐに返すからさ」
ケンジは指先でわっかを作った。貸してと言って、返さない。カツアゲの常套手段だ。
涼真が黙っていると、ケンジは勝手に話を進めた。
「おれさあ、マジで困っているんだよ。こないだ財布を落としちまったみたいで、探しているんだけどちっともでてこない。まったくもって、ついてないよなあ」
先月も同じことを言っていた気がする。ケンジはいつも中学生らしくない大金を持ち歩いている。カツアゲで稼いでいるのだろう。
「ケンジのお父さんって、工務店の社長だろ。お父さんから借りられないのかなぁ」
「それがさあ」ケンジは小声になった。
「どうも経営がうまくいってないみたいで、とてもお小遣いをせびれる雰囲気じゃないんだよ。財布がでてきてたら、必ず返すからさあ。オレとお前の仲じゃないか」
ケンジの腕に力が入る。まるで万力で締め付けられているかのようだ。
「それはうちも同じなんだよ。金欠で、ぼくこそお金を借りたいぐらいだ。だから助けてくれないかなあ」
「なんだよ。おれがこれだけ頼んでも、貸さないというのか」
急にケンジが凄んだ。そろそろ限界のようだ。しかたがない。涼真は観念して、ケンジに体を寄せた。こうすれば、誰にも見られない。小声でケンジにささやく。
「じゃあ、いくら借りたいの?」
「そうそう、そう来なくっちゃ」
ケンジは涼真から財布を奪うと、札を残らず抜き取った。
「助かったぜ、恩に着るよ。必ず返すから安心しろ。それれはそうと、うん、あれ?」
「どうしたの?」
「いいや、なんでもない。じゃあな、あばよ」
ケンジは札を尻ポケットにしまうと、足早にいま来た道を戻り始めた。ケンジの姿が見えなくなると、涼真はため息をついた。
困ったときに助け合うのが真の友。だから仕方ないことなのだ。
涼真は手にいれたばかりの財布の中身を確かめると、足早に家路についた。
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